ステージ3-8 山鰐
『ピギャッ!』
『ピギュッ!』
『ピギョッ!』
「それにしても、本当に多いな。山岳千鳥。このサイズのワニと共生するとなると、やっぱりこれくらいの数が必要なのか」
まだマウンテン・クロコダイルのご尊顔も拝めていない。にも関わらず山岳千鳥が現れ、妨害をするので倒しているが、疲労が募るばかりだ。
俺は闇雲に攻撃する方向に変えたが、別に闇雲に探している訳ではない。一応弱点がありそうな顔の方に向かっているのだ。
その道標は声。時折耳を劈く絶叫が響き渡るのでその声の方に向かっている。まあ、これ程の大きさとなると全方位から絶叫が聞こえるんだけどな。何となく声質が鮮明な方に向かっているという事だ。
「体力ゲージは……相変わらずか。少しは減ったかもしれないけど」
計二十人のギルドメンバーを相手に、どれ程体力を削ったか確認するが、どうやらほんの少しは削れたらしい。
それでも微動だにしていないのを見ると、マウンテン・クロコダイル。山鰐にとっては蚊に刺された程度。いや、俺達人類視点だと蚊は全力で殺そうとするな。蚊以上に相手にされていないみたいだ。
「仕方無い……道中で色々と見落とす可能性も高いけど、取り敢えず頭まで早めに行くか」
道中に弱点があるかもしれない。だがこのままだと先に進めない。
そう思い、俺はギルド専用アビリティを使用した。
「“地形生成”!」
足元に大地を造り、盛り上げてそのまま上昇。そこから空中へとすぐに崩れる橋を架け、駆け抜けて頭の方向に向かう。
高さは先程の地点から十数メートル程上。ビルの五階並みだ。この場所からなら遠方も見渡せる。霞み掛かって見えるが、二つの丸みを帯びた小さな山が映った。おそらくあれが山鰐の目だろう。となると俺が向かっていた方角は頭の方で合っていたようだ。それは良かった。
「一気に行くか……!」
小さく呟き、橋の長さを一気に伸ばした。どれくらい離れているのかは分からないが、俺の身体能力なら目安で数分。十分少し前くらいの時間に到達出来そうだ。
邪魔にならぬようにすぐに崩れる橋だが、“地形生成”によって生み出された土地は持続させようとしない限り崩れた瞬間に粒子になって消え去る。なのであらゆる意味で邪魔にならないだろう。
そのまま駆け抜け、時折山岳千鳥の邪魔も入ったが予定通りの時間でワニの頭に到達した。
*****
「さて、どうするか。着地して気付かれたら厄介だよな。爬虫類は蛇以外視野が狭いらしいけど、頭の上にこの高さから落ちたら流石に気付かれるよな。多分」
最低限の俺の足場を残した地形を空に固定し、山鰐を上から観察する。
爬虫類の視野は狭く、頭を動かして獲物を確認すると言われているのでこの位置なら気付かれないだろうが、どうやって攻めるべきか悩みどころだ。
ゆっくりと着地したとしても即座に降り立ったとしても俺の存在には気付かれる。そうなると……。
「着地と同時に脳天に必殺スキルを叩き込んで様子見かな」
不意討ち。“SA”を仕掛けるのが一番良さそうだ。
爬虫類の脳は小さいので脳震盪を起こしにくいが、逆にこのワニは、ワニからしたら小さい脳も俺達人間にとっては巨大。目か鼻か脳か内臓か金的。基本的に生き物の弱点は限られているので一番それっぽい頭に叩き込むか。
そう考えた俺は足場の地形を消し去り、十数メートル上から落下した。この世界の肉体的強度ならこれ程の高さから落ちても大丈夫みたいだから無問題だ。
「──伝家の宝刀・“稲妻刺突”!」
雷のように落ち、雷属性を付与したスキル。“稲妻刺突”。
本来の雷は空気中の分子との衝突によってジグザグに落ちるが、今の俺は急転直下。本来は高く跳躍して上から仕掛けるスキルなので隙も多いが、今の状態なら隙も少なく仕掛けられるだろう。正に“SA”向きのスキルだ。
避けられたら地面に落下するスキルでも、この巨体のワニ。動きは鈍い。
「オラァ!」
『……!?』
次の刹那、山鰐の眉間に俺の木刀が突き刺さり、付与された電撃が迸る。
身体は土に覆われているが、生物である以上、肉体に水分はある筈。加えて眉間には雷を受け流す土が少ない。狭くとも視界が必要なので擬態する為の土が少なくなっているようだ。それなら土に雷が吸収される事なく、確実な一撃を与えられる。その証拠に初めてマウンテン・クロコダイルが身震いをして怯みを見せた。
「弱点は……やっぱり頭か……!」
考えてみたら当たり前かもしれないな。身体は土に覆われている。“土”という鎧に覆われているんだ。
元々爬虫類全般の身体が鎧みたいなものだが、それに土の防御力が合わさっている。身体に攻撃が通りにくい筈だよ。
それでも鎧のような肉体は厄介だが、雷。電気はその鎧を貫通する性質を持ち合わせている。外部にもそれなりのダメージは与えるが、主に内部を破壊するからな。
レベル差もあって体力が一気に減った訳ではないが、先程の攻撃よりは効いている。減った具合からするに先程までの全員の攻撃の合計値が今の眉間への雷属性を付与した刺突一撃分だ。
お陰で完全に敵対されるだろうけど、鎧にヒビを入れられたな。
「──皆! マウンテン・クロコダイルの弱点が分かった! 土がない、素の肉体が見えている部分全体が弱点だ! 持ち前の耐久力でダメージは少ないけど確かな攻撃が通る! 何なら肉体の土を剥がすのも得策だ!」
弱点が分かった。それは仲間達へ迅速に報告すべき事柄。
俺は情報共有端末を開き、全員に強制一斉送信。緊急事態の時にのみ使うような機能っぽいが、今の状況なら緊急事態としても良いだろう。
こちらからの強制送信なので返事は来ないが、これで伝わった筈。ここからが本番だろう。
「あ、俺が頭に居るって伝え忘れたな。……ま、いいか。俺が囮になれば他の皆への注意が引ける筈だからな」
弱点は土のない肉体。頭もその一つだが、俺の居場所を伝えそびれた。
だが、それによって敵の注意が引けるなら上々だろう。特に気にせず、改めてマウンテン・クロコダイルに──
【スキル“岩肌”】
「……!」
──構えようとした瞬間、俺の足元から無数の岩が生えた。
俺は跳躍して躱し、空中に大地を造って制止する。
土のないところで放たれた“岩肌”。となるとこれはワニの肉体その物からなるモノらしい。人間で言うところの鳥肌を自在に形成出来るようだ。
本来のワニの武器は噛む力が世界最大の口だが、この巨体だと必ずしも獲物を仕留められる訳じゃない。大き過ぎるからこそ空振るという事だ。つまりこの肉体変化の能力は独自に獲物を仕留められるよう進化したって事か。
「そうなると、本来の口は当然として、全身が武器になるって感じか。ここがゲームの世界だからこそ突起物を自在に生やせるって訳かな」
能力の推察。本来の“AOSO”内に居なかったマウンテン・クロコダイル。なので戦法を含めて色々と知る必要がある。
まあ、この巨体だからやれる事は限られている。不意の一撃に注意しつつ仕掛けるのが正攻法かな。
「ま、割と親切だな。使用スキルを直前に教えてくれるし、気を付ければ問題無さそうだ。逆に、一撃でも受けたら即死の可能性が高い……それに、さっきはスキルを使用した後に吹き出しが出たし、出現がランダムならどちらにせよ挙動に注意しなくちゃな」
戦い方はある程度纏まってきた。後はそれを実践に移すだけ。考えるだけじゃ倒せないからな。
【スキル“岩山”】
「……!」
足場が崩されたか……!
突起物をより高くしたであろうスキル“岩山”。マウンテン・クロコダイルは土属性なのか?
名前の響きからしてそれっぽくも思えるが、雷があんなに効いた事からしても不思議に感じる。あくまで何らかの力を用いて土や岩を盛り上げているような、そんな感覚だ。
「……!」
【スキル“岩礫”】
後ろから礫が……! 少し掠った……!
今度は通り過ぎた後にスキル名が表示されたな。……。成る程。俺に危害を加えるつもりのスキルを使った場合は後から表記され、別に避ける必要がない場合のみ最初に表示されるのか。
最初の“岩肌”はともかく、さっきの“岩肌”はよく見れば俺の居た場所から少しずれている。“岩山”も足場を破壊しただけ。スキルの基準は分かったが、コイツの属性が気になるな。
「何をどうやって仕掛けているのか……じっくりと見極めるか……!」
おそらく雷属性は効果的。それを中心に戦略を組み立てていきたいが、生憎雷属性のスキルはあまり持ち合わせていない。
あまりというか、今のレベルじゃ“稲妻刺突”のみだ。
そうなると確実な隙を突いていきたいが、難しいところだな。この巨体相手じゃ“停止”でも止め切れないだろうし。脳だけを止めるのもいいけど、精密な動きは出来ない。
「そろそろ……次の攻撃が来そうだ……」
攻撃の間隔は短くなっている。なので一先ず動き回り、狙いは定めにくくさせる。
本当の属性を見極めるとしたら、攻撃の時が一番重要だ。
「……来たか……!」
次の瞬間、俺の背後にて大地が盛り上がり、射出されるように岩石が飛んできた。
先程の礫よりも遥かに巨大。岩石は避けられるとして、その射出部分に目を凝らす。
「……水を噴出してその圧力で射出しているな……って、ああ。考えてみたら簡単だ。雷属性が効いたし、皮膚を貫いて全身にダメージがいった……コイツ、普通のワニより比率多く水を蓄えているのか……」
少し考えたら分かる事だった。
今まで火属性のレッドスライム以外に属性モンスターと会わなかったので本当にそうなのかは分からないが、多分マウンテン・クロコダイルは水属性としての性質を多く持っている。
身体に蓄えた水を圧縮して放出し、その圧力で肉体を誇大化させたり岩石などを飛ばしたりしているようだ。
本来のワニの肉体にその様な機能は無いが、前述したようにゲームと融合した世界なので独自の進化をしている。それによって今のような攻撃を可能としているみたいだ。
「ま、雷属性の攻撃もあまり使えないし、今までみたいに攻めた方が良さそうだな」
属性が分かったところでユメみたいな魔法やフレアみたいな超能力は使えない。属性付与の攻撃スキルもほんの少ししか使えない今、土の無い部分を執拗に叩き続けるしか攻略法は無い。
そうなると、このレベル差だしそろそろ使ってみるか。
「“光剣影狩”……! せっかくの新しい武器だしな」
要領無限の空間から“レコード”の街にて入手した武器、“光剣影狩”を取り出す。そしてそのままそれを装備した。
【ライトは“光剣影狩”を装備した】
それによって脳内に響き渡る声。この装備する感じも久々だな。……木刀を使い始めて二、三日しか経っていないけど。
まあそれは置いておく。“光剣影狩”。その切れ味、試してやるか!
そのまま白い鞘から剣を抜き、銀色の輝きを放つ剣尖が現れた。
全体的に光っているように見えるのは日の光に刃が反射しているからか。それにしてもかなり輝いている。それでも透明感を覚えるという何となく不思議な剣だ。
ともかく、この世界になってから始めての剣。日常生活で本物の刃を携えた剣を握る機会なんて滅多にないからな。というか一度もない。
「さて、やろうか。マウンテン・クロコダイル!」
何か燃えてきた。やっぱりまだまだ子供っぽいな。俺も。年甲斐もなく新しい武器を手に入れてそれを使う感覚が楽しい。まだ未成年ではあるけど。
何はともあれ、俺達ギルドメンバーとボスモンスターであるマウンテン・クロコダイルの戦闘。弱点は分かったが、まだまだ始まったばかりだ……!




