ステージ3-7 山のボスモンスター
──“国境・山岳地帯”。
成る程。県境は国境扱いか。まあ、確かに日本も戦国時代は一つの県がまとまって国呼びされていたんだっけか。別におかしくはないな。
「この中から見つけ出すのか。山が多いな、この国は」
「だからこそ台風の威力も弱まるし四季折々の景観も楽しめるんだ。悪い事ばかりじゃない。古来より神様が座る場所とされていたからこの国には神様が多いって云われているからね。……まあ、今回に限っては大変そうだけど」
「上手い事簡単に見つけられないかな? この中から一つの山に触れる可能性とボスモンスターの山に触れる可能性は一緒だし」
「そう上手くいきますかね……」
パッと見だけでもかなり多いと分かる山の数。ソラヒメは相変わらず気楽な様子だが、正直に言えば気が滅入る。
セイヤの言うように山の存在には意義がある。山がなければ風が弱まわらず、風速数百メートルの風が常に吹き続けてしまうからな。木星辺りは音に近い速度で風が吹き荒れているとも言われている。
だけどまあ、山に擬態するボスモンスターの捜査は一筋縄じゃいかなそうだな。
「じゃ、手始めにこの山から調べよっか!」
『“マウンテン・クロコダイル”──Lv65』
「……あれっ?」
どこから何を以てして山の領域になるのかは分からないが、取り敢えずソラヒメが空中に映し出された画面を操作して土を調べた、その瞬間。モンスターらしき名とレベルが表示された。……って、おいおい、マジかよ……。
『グギャアアアアッ!!』
「……っ。なんて声だ……てか、Lv65って……規格外過ぎるだろ……!」
【モンスターが現れた】
Lv65のマウンテン・クロコダイル。まさか、俺達が立っていた大地は既にボスモンスターだったって事か……!
口。というより顔が見えないが、それでも耳を劈く程の絶叫を上げた。
「取り敢えず、他の皆も報告するまでもなく今の声で分かったよな。きっと……!」
「多分ね……! どうする? 臨戦態勢には入っているけど、多分私達の存在なんか気にしていないよ……!」
「それなら……増援を待って少し粘りましょうか?」
「そうするしか無さそうだね。Lv65のボスモンスター。まともに仕掛けても大したダメージを与えられ無いだろうし、持久戦になりそうだ」
高レベルのモンスター。既に他のギルドメンバーも気付いている事を前提とした場合、俺達に出来る事はなるべく粘り続ける事くらいだ。
幸いかどうかは分からないが、マウンテン・クロコダイル。長いから山鰐。山鰐が俺達の存在に気付いているとしても、その巨体故にあまり気にしていない筈。なので相手の様子を窺い、仕掛けてきたら迎撃するという方向で良いだろう。
『グギャア!』
「……! 岩が……!」
そう思っていた矢先、俺達の立っている地面が突起し、鋭利な岩が形成されて飛び出した。
俺達はそれを見切って躱し、近くの木に飛び移って様子を確認。その後文字が下方に映し出された。
【スキル“岩肌”】
「……成る程。マウンテン・クロコダイルがスキルを使用したって事か。ドン・スネークやライムスレックスの時は自動的に相手のスキルが表示される事は無かったけど、その辺も小さな修正が入ったのか?」
「可能性はありますね。岩肌……文字通りって事でしょうか。この山全体がワニの肌って事ですからね……!」
「大きいなー。私達の存在は気にしていないんだろうけど、何か感触があるから払おうって感じかな」
「そうだろうね。身体が痒いから掻いたみたいな感じだろうさ」
小手調べのスキルでかなりの迫力。威力もお墨付きだろうな。レベル差から考えても今の岩肌に触れただけで致命的だ。
『ピュギャア!』
「……!」
次の瞬間、山鰐とはまた違った別種の鳥型モンスターが俺達に向かって襲い掛かって来た。
俺達はそれを避け、木の枝を掴んで山鰐の身体に着地。そのまま地表を駆け、木々を避けながらフリーランニングのような動きで距離を取りつつそのモンスターを確認する。
『“山岳千鳥”──Lv30』
「山岳千鳥……ワニの口とかを掃除する小鳥って事か……!」
「小鳥にしては大き過ぎますよー!」
「私達よりも大きいねー。やっぱり山並みの大きさを掃除するからかな?」
「千鳥って事はこの辺に水辺があるのか……そこがマウンテン・クロコダイルの巣かな」
山岳千鳥。推察だがおそらく、ワニの歯を掃除したり身体にまとわる虫を食してくれる、ワニと共生する鳥だろう。
大きさはざっと三メートル程。かなり巨大な鳥だが、そのレベルも相まって一匹一匹がかなりの力を有しているんだろうな。
『ピギャッ!』
「……!」
次の瞬間、羽を畳んだ山岳千鳥が加速。そのまま直進して通り過ぎた。いや、運良く当たらなかっただけか。
【スキル“加速ドリル”】
「まんまのスキル名だな。けど、威力は確かなものだ」
「当たったら一溜まりもないよねぇ。レベル的に私達は耐えられるけど、サイレン達は危ないかな」
「そう言えばまだ来ないね。まあ、ワニの絶叫があったのは数分前。全長は分からないけど、もう既に別の場所で仕掛けているのかも」
「それなら、どうします?」
「んじゃ、そろそろ仕掛けるか。マウンテン・クロコダイルはともかく、山岳千鳥は逃げ回る相手じゃない」
俺の言葉を筆頭に俺達四人は別の方向へ向かい、まずは山鰐を護衛する山岳千鳥を撃退する事にした。
レベル的に見ても数撃与えれば勝てる筈。なら問題無い。
「行くか!」
次の瞬間に跳躍。木を踏みつけて加速し、そのままの勢いで木刀を叩き込んだ。
それによって敵の体力が減り、手応えはあった。着地と同時に振り返って横に薙ぎ、叩き付ける。三メートルの巨体を吹き飛ばして木にぶつけ、また跳躍して上から木刀を突き刺した。
【ライトはモンスターを倒した】
「よし、山岳千鳥は倒せるな。ユメ達も問題無さそうだ」
山岳千鳥が光の粒子になって消え去るのを見届け、ユメ達の様子も確認する。どうやら問題無いらしく、ソラヒメは腕力で粉砕。ユメは魔法。セイヤは貫き、全員が難なく倒せていた。
『グギャアアアアッ!!』
「……ッ!? この声……サイレン達がどこかで戦闘を開始したか……!」
山鰐が大きく吠える。どうやらサイレン達他のギルドメンバーが戦闘を開始したようだ。
その証拠に体力ゲージが、極僅かではあるが減少している。それなら俺達も仕掛けるとするか。
「的は広い! 足元を攻撃すれば良いだけだからな! ユメ達は覚悟を決めたか!」
「決めました! 応戦します!」
「モチのロンだよ! 私も仕掛ける!」
「同じく! 武運を祈る!」
山鰐。マウンテン・クロコダイルの身体は巨大。体長一五〇〇メートルはあるかもしれないな。そうなると重さは何千万tから何億t。規格外だ。Lv65が逆に大した事無いんじゃないかと錯覚してしまう。
当然レベルは高いが、大きさからしてもレベル三桁並みのモンスターを相手にするくらいの苦労はしそうだな。
そんな存在だからこそ、俺達は分断して戦う事にした。スキルはまだ“岩肌”しか使っていないが、この巨体。山岳千鳥に気を付ければ攻撃を受ける事は少ないかもしれない。
「取り敢えず……小手調べだ。──伝家の宝刀・“滝裂き”!」
小手調べとして、必殺スキルである“滝裂き”を放った。
まだまだ使っていないスキルは多い。この機会に使い心地を試すのは良いだろう。
“滝裂き”はその名が示すように、滝を裂くように縦に勢いよく突き刺すモノ。ただの刺突と違ってスキル故の攻撃力があり、水属性も付与される。並大抵のモンスターなら一撃で倒せるだろう。……まあ、このワニにはあまり効かなかったみたいだけど。
「山みたいな大きさで木も土もある身体だけど、水辺に棲むワニに水属性の技は悪手だったか。まあ、“SP”は自動回復。問題無いか」
あまり効かなかったなら効かなかったで別の行動を取れば良いだけ。効かないからこそ俺の存在を意に介しておらず、しばらくは動じず攻撃を受けてくれる事だろう。
ユメ達のみならずサイレン達の攻撃も効いていないみたいだな。その証拠に吠えないし体力ゲージも全く減っていない。
これは長期戦がほぼ確定か……。
「取り敢えず、無闇矢鱈に攻めるのは良くないな。これ程の身体にも弱点はある筈だし、それっぽい所を探すか」
独り言を呟き、駆け抜けて辺りを調べる。
立ち止まっているとまた仕掛けて来るかもしれない。なので常に動きを意識し、地道にダメージを与えていくべきだろう。
「スキルは使わず、攻撃は加えるか」
木を軸に踏み込み、そのまま大地を木刀で叩く。
かなり力を込めて叩き付けたが、五十センチ程の小さなクレーターが造られるだけで大した手応えはなかった。そしてそのクレーターも即座に消え去る。やっぱりここは山鰐の身体その物か。
「弱点を見つけ出したいところだな……」
それっぽい場所を見つけたら叩く。それを繰り返しながら山鰐の……多分背中。背中を駆け抜ける。
基本的に狙いを付けるのは突起のある場所から崖のような場所など。何となくゲームならそう言った出っ張りが弱点の事が多いと判断したんだが……今のところ全部不発だ。
前言を撤回するような行動だけど、もはや無闇矢鱈に仕掛けた方が良いのかもしれない。
「……。向こうも頑張っているみたいだな……」
ふと遠方を見れば、炎や粉塵が舞い上がっているのが視界に映り、ソラヒメやユメも弱点になりそうな場所を探していると窺えた。
セイヤの武器は弓矢なので影響は少なく見えるが、しかと攻撃を加えている事だろう。それならやはりデタラメだとしても仕掛けた方が良さそうだな。
「そうと決まれば……!」
瞬間的に加速し、そのまま大地に木刀を突き刺して直進。木刀によって裂かれた道が形成されるが、これでも堪えないらしい。
思った以上に頑丈かもしれないな。マウンテン・クロコダイル。体力ゲージは一向に減る気配がない。一応減っているには減っているが、先程と変わらず微々たるモノだ。
「“サイコキネシス”!」
『ヴァン!』
「……!」
ダメージを与える道中、フレアが超能力を用いていくつかの岩を山鰐の肉体に叩き落としていた。ペットのエンも炎で攻撃をしている。
超能力者なのでやり方はこの様な手法となっているのだろう。おそらく相手がこれ程大きくなければそのまま敵を持ち上げたり捻り潰す事も可能かもしれないな。
『ピュギャア!』
「……!」
「危ない!」
そんなフレアの元に山岳千鳥が攻め入り、それを俺が跳躍して木刀で叩き落とした。
攻撃の途中で仕掛けられると大変そうだな。魔法使い並みに色々な事が出来る超能力者だが、遠距離や中距離が得意な職業は割と隙があるからな。一対一ならまだしも、乱戦には向かなそうだ。
逆に広範囲も狙えるという事から必ずしも向かないって訳じゃないけど。
「あ、ありがとう! ライトさん!」
『ワン!』
「気にすんな。俺達剣士はよく動くからな。運が良かった。じゃ、まだ色々と仕掛けるから気を付けてくれ!」
「ライトさんも!」
フレアとはここで別れる。周りに人は居なかったが、広範囲を狙える超能力者なので敢えて孤立し、周りの邪魔にならないように仕掛けているのだろう。
なので俺も邪魔にならないよう、迅速に行動に移ったという事だ。
『ピュギャア……ピギャア……』
『ピーピピ……』
『ピキュ?』
「……っと……」
ここでは山岳千鳥が群れを成しているな……。
この数を相手にするのもあれだけど、向こうにフレアが居たからな。片付けるか。
そう考えて木刀を構えた。
「ウッキャー♪」
『『ピギッ……!?』』
「……!」
その瞬間、スノーが機敏な動きで木々を飛び交い、二匹の山岳千鳥の首を掴み、そのまま落下して三メートルもの巨体をモノともせず地面に頭を叩き付けた。
その背後から別の山岳千鳥が現れ、突進を仕掛けるがその山岳千鳥は一瞬で氷漬けになる。
『ヒュシャー!』
「お、やるじゃん。ヒョウー!」
ペットのヒョウの力によって。
スノーはヒョウとハイタッチ。厳密に言えば頭と手のタッチだが、まあそれはいいだろう。
『ビギャア!』
「あ……!」
「なんか、皆少し油断しているな……」
そんな一人と一匹に向けて三匹の山岳千鳥が攻め込み、後始末として俺が薙ぎ払った。同時に連撃を仕掛け、三匹の山岳千鳥を打ち沈める。
「お、助かるー! ライトー!」
『ヒュッシャー♪』
「気楽だな……スノーは主に邪魔になるモンスターの処理をしているのか」
「うん! 私、広範囲技は持っていないからね! 職業的にこれが一番適しているって思った!」
「成る程な。確かに狩人はそう言った事柄に向いているかもな」
スノーの職業、ギルドメンバーの事ではなく、ゲーム内の職業が“狩人”。
狩人は様々な武器を操れる職業で、格闘家程ではないが素手を使っても戦える。
罠中心のスキルが発達したり素手、弓矢、小太刀、銃と様々な武器を使えるのであまりに巨大過ぎる今回のマウンテン・クロコダイル程じゃなければ臨機応変に対応出来るのだ。
「ライトはー?」
「俺は見ての通り、山岳千鳥を倒したりマウンテン・クロコダイルにちょくちょくダメージを与えたりだな。ユメ達とは別行動だ」
「そっか!」
「んじゃ、あまり無理はするなよ」
「うん! けど、素早さと回避力には自信があるからへーき! じゃあねー!」
「さっき食らい掛けてたけどな……まあいいか」
そしてスノーとも別れる。やはり皆、他のギルドメンバーも奮闘してくれているようだ。フレアにスノー。二人はダメージも負っていなかったし全員が順調なのかもしれない。
何はともあれ、ボスモンスターである山鰐。マウンテン・クロコダイルを討伐する為に俺はその背を駆ける。




