ステージ3-5 その日の終わり
大輪華樹を撃破した俺達は、改めてビル群が建ち並んでいる街を進んでいた。
いくつかのビルは大輪華樹によって破壊され、俺達の攻撃の余波で消え去ったが奥にはまだまだビル群が見える。改めて眺めてみれば、多くの人が居たんだろうなと思わされる。
「そう言えば、他の人達はどこに行ったんだろうな。結構な都会だけど、大華樹の群れがあったから近付けなかったのか?」
「さあ、どうでしょう。けど、確かにあの群れの相手は厳しいと思います。私達は運良く……運悪く? 何体かのボスモンスターと戦ったので十分なレベルがありましたけど、低レベルのモンスターしか出てこない管理所付近でレベル上げは難しいでしょうから……この辺りに出てくる平均Lv15のモンスターを相手にするのは大変そうです」
「確かにな。レベルを上げる途中で“GAME OVER”になったら元も子もない。思った以上にレベリングは大変なのかもな」
レベルを上げるにせよクエストを受けるにせよ、立ちはだかる壁はそのレベルその物。
自身のレベルが低ければ貰える“EXP”の多い、レベルの高い敵モンスターは倒せず、だからと言ってずっと低級モンスターと戦っている訳にもいかないだろう。
俺達はボスモンスターとのエンカウントが多くて運があまり良くないながらも、その戦闘を生き残り、それに伴ってレベルも上がっているので運が良いとも言えるのかもしれない。
「まあ、何故か俺に専用スキルが残っていた事が大きく作用しているな。確実に。これがなけれりゃ序盤での詰みポイントはそこそこあった」
「そうですね。いざという時は“転移”で逃げられますけど、そうなった場合レベル上げが大変ですもんね」
「ああ。バグか何かは分からないけど、特殊スキルが残ってくれていた事自体には感謝しなくちゃな。首謀者がこんな世界にしなけりゃいつも通り安全な日常があったんだけど」
俺の使える“星の光の剣”。それは今回の旅にて大いに貢献してくれている。
扱える理由が不明なのは思うところもあるが、今はそれを有効活用した方が良いだろう。
「あ、そろそろ日が暮れるね。本当に今日は色々あったよ」
「……! そうだな。夕焼けか」
その会話の途中、ふとソラヒメが空を見上げてビルの影から山の影に隠れ行く夕日を眺めて言葉を発した。
確かに今日は色々あった。
昨晩にスパイダー・エンペラーの脱け殻を倒し、今朝案内された図書館にて、尊い犠牲の元に本体を倒した。
護れなかったにも関わらず礼を譲り受け、新たな装備を新調。まだ使ってはいないが。
そして行動範囲を広げる為にも街の探索を行い、大華樹の群れと大輪華樹を倒し、今に至る。一日とは思えない程の事が多くあった。あの夕日が労いの言葉を掛けてくれているようにも思える。
「それじゃ、どうする? 各々の自宅に帰るか、夜も探索をするか。夜のモンスターはまだ分からない事が多いからな」
「夜のモンスターですか。確か、農地の守衛の為に倒したモンスター達も居ましたけど、基本的に動物型が多かったですね。その後はスパイダー・エンペラーの部下達としか戦っていませんが」
「そうだったね。昨日一昨日の事なのに随分経ったように感じるなぁ……今夜はどうしよっか」
「僕的には少し休みたい気分だね。この世界になってから睡眠は必要としていないけど、今日だけで色々あったから情報を整理したい。“レコード”での出来事には思うところもあるからね」
「俺もそうかな。正直言ってまだエーデルさんの事は気にしている。“レコード”の街についてもだ。闇雲に行動して気を紛らわせるんじゃなく、ちゃんと向き合いたい。自分のせいで死してしまった人。それをスルーは出来ない」
「私もそうかな。肉体的にはまだ動けるけど、精神的に疲れちゃったよ」
「私もです……」
満場一致。全員の利害が一致した。
やはり責任は感じているらしく、少し落ち着く時間も必要なのだろう。俺だってそうだ。
話しているうちに俺達四人の視線は自然と沈み行く夕日に向けられていた。
自然は良い。心のモヤモヤが洗われるような感覚になる。
柑子色の日がゆっくり、少しずつ沈み、それに伴って俺達の影が伸びる。草木に侵食されたビル群。確かな土の感覚がある大地。湧き水。小川。雲も含めて夕日に照らされ、辺りが次第に影掛かる。それによって今日という日の終わりが告げられる感覚が訪れた。
空には昼と夜の境界線が引かれ、藍色の闇が静かに伸びる。奥からは小さな月が静かに顔を覗かせた。
俺達四人の一日が終わり、俺達は廃墟のようになった自然に覆われたビル群の街から“転移”を用いて拠点に戻った。
*****
──夜。拠点となる自宅に戻った俺は一人、崖の上の自宅の屋根の上で外の様子を眺めていた。
特に理由はない。なんとなくボーッとしたい気分なだけだ。中二病的な要素も少し入っているかもしれない。
「ライトさん。何をしているのですか?」
「ユメか。特に何もしていないな。強いて言えば空を眺めている。……ハハ、何か臭い言葉吐いちゃったな」
そんな時、ユメが隣に座って話しかけてきた。
そう、現在拠点の自宅には俺のみならず、ユメやソラヒメ、セイヤ達の三人も居る。
各々の自宅に帰る案もあったが、この世界では一人だと何かと危険なので同じパーティという事もあり、一緒に過ごしているのだ。
「そうですか。それにしても、本当に星がよく見えますね……普段は夜も明るいのに、星と月以外の全ての明かりが消えています……」
「そうだな……この世界がゲームの世界になったなら松明とか置いていても良さそうだけど、そう言った物もないから星とかがよく見えるんだろうな」
星と月がよく見える空。それはこの世界の賜物……とでも言うのだろうか。その辺は俺には分からない。
ともあれ、確かに綺麗ではあるが、人の気配を感じないので寂しさも感じられた。
「この世界はゲームのようになってしまいましたけど、宇宙はどうなんでしょうね。流石に人間の力で宇宙全域をゲームにするのは不可能でしょうけど、月辺りまでなら何らかの影響が及んでいてもおかしくありません」
「宇宙か。確かに星の外の世界がどうなっているのかは分からないな。けど、もし宇宙に何かの力を届かせる事が出来るなら宇宙に首謀者が居るって言う可能性もあるな」
「成る程。ゲームでも月や火星に拠点がある物は存在しますからね。その線もありそうです」
どこまでも広大な宇宙。ユメの言う、そこまで“AOSO”の範囲を広げられないだろうという意見には同意だ。
だが、月までならどうだろう。月までの距離は約38万㎞。地球を覆うような形で世界を融合させたなら、月くらいまでになら届いている可能性もある。
「けどまあ、あくまでただの可能性でしかないからな。やっぱりこの地球上のどこかに居るかもしれないし、首謀者の行動は不明のままだ」
「そうですよね……。本当に、どこで何をしているのでしょう。こんな大変な世界にしてしまって」
「ハハ、言えてる。危険が多くて自宅もこの様だ。苦労も多くなるし、早く元に戻してやらなきゃな」
首謀者の動向は不明だが、見つけ出して元の世界に戻すという気概は変わらない。
その場合にも色々と気になるところはあるが、今はまだ置いておいてもいいだろう。
「私は……結構良い事もありましたよ。多分、これからもあると思います。ライトさん達と一緒ですから!」
「そうか? そう言われると嬉しいな。こんな世界だ。楽しみも見つけた方が良いだろうな」
「はい」
……っ。なんか恥ずかしいな。純粋に話してくれているんだろうけど、髪をいじる仕草や笑い掛けてくれる顔。滅茶苦茶照れる。
何だか良い雰囲気な気もするが、早まっちゃダメだ。ちょっと優しくされて勘違いするのはよくある失敗談。俺はその辺冷静だ。
まあ、そんな事より今は管理者として人を護らなくちゃな。“NPC”とは言え、既に何人かを見殺しにしてしまったんだ。浮かれている暇はない。
「それで、今日ユメはどうするんだ? 寝るのか?」
「どうしましょうね。する事もありませんし、拠点からの外出も危険ですし。しばらくライトさんと一緒に話していましょうか。この世界になる前の、管理所の時のように!」
「……! ハハ、そうだな」
ニッコリと屈託のない顔で笑う。
ヤバいな。落ち着け、落ち着け俺。こんな笑顔を向けられたらトキメク他に選択肢が無いが、ユメは純粋な善意で話してくれているんだ。下心を見せるの男として……いや、漢として恥ずべき行為だ。
ここは場の雰囲気に合わせるとしよう。
「それにしても、星だけじゃなくて月も綺麗な空だな」
……。なんか今、壮大に言葉を間違えた気がする。
いや、無意識下だったんだが、確か月が綺麗って文には他の意味があったような……ヤバい。
俺は恐る恐るユメの方に視線を向けた。
「本当ですね。月って不気味な表現とかで使われる事も多いですけど、やっぱり綺麗ですよね」
「あ、ああ。そうだな。まあ、夜の象徴だからそっち方面の解釈があるのは分かるな」
「ふふ、そうですね。定番ですものね」
セーフ。何とか誤魔化せたようだ。ただ純粋に百年以上前の言葉についての意味を知らなかったのか? 何はともあれ、勘違いされないで良かった。
いや、厳密に言えば勘違いでもないんだが。
「そう言えば、アンデッド系のモンスターはこの世界に出てくるのか気になるな。ゲームなら定番の存在だし」
「うう……出てきたら怖いですね。私、聖魔法とかのスキルはまだ使えませんし……」
「俺も聖剣は持っていないからな。火属性に弱いのも共通の設定だし、もしアンデッド系モンスターが現れたらユメ頼りになりそうだな。セイヤ辺りなら何か特効のスキル覚えても良さそうだけどな。というか既に火属性の矢を使ってたか」
「もしもの時はライトさんの特殊スキルもありますし、私だけじゃないと思いますよ? 私も頼りにしています!」
「お互い様って事か。じゃ、互いに助け合っていくか」
「はい!」
互いに助け合っていく。これも時と場合なら口説き文句的なあれになりそうだが、今の状況なら特に意味深長な事は無いだろう。うん、ないない。
何はともあれ、案外話は弾むもの。俺とユメは月と星を眺め、簡単な雑談を続けるのだった。
*****
──翌日、俺は自室で休んでおり、ユメ達にも使っていない部屋を貸して休んで貰っていた。
昨日は色々と緊張したな。けど、何とか乗り切った。それで良いだろう。……もう朝か。
「おっはよー! ライトー! 起きてるー!?」
「……。ああいや、昨日は寝ていないな。一応見張りをしていたから。……と言うかソラヒメ。別に自宅のように寛ぐのは構わないけど、せめてノックして入ってくれよ。弟のセイヤならまだしも、俺とソラヒメは年頃の男女なんだから」
部屋に、ソラヒメが勢いよく入ってきた。もし睡眠を取っていたら確実に目覚める声量だな。これ。と言うか俺にもプライベートはあるんだから少しは気を使って欲しい気もする。
そんな指摘にソラヒメは笑って返す。
「アハハ! 大丈夫大丈夫! ライトは間違った事をしないだろうからね! それに、本命も居るんでしょ!」
「……っ。さあな。取り敢えず、さっさとリビングに行っていてくれ。俺も行くから」
「はいはーい!」
朝から元気だな。昨晩ソラヒメは寝たのか分からないが、取り敢えず平常時で深夜テンション並みなのであまり気にはならなかった。
しかしソラヒメが来たという事は既に全員がリビングに集まっているという事。俺もさっさと向かうか。
「おはよう、みんな」
「おはようございます、ライトさん」
「おはよう、ライト」
「おっはよー!」
リビングにて挨拶を交わし、取り敢えずキッチンに向かう。まずは朝食の準備だな。
俺は手際よく料理を作り、三人に提供した。
「……と言うかライト。君、普通に僕達に料理を振る舞ってくれるんだね」
「凄い手際の良さでした……」
「やるじゃん! ライト!」
「……あ、つい癖で」
基本的に一人暮らしなのでいつもは自分の料理だけを作っているが、俺自身でも驚く程に違和感なく料理を作っちゃったな。まあ別に俺はいいけど。
「ま、取り敢えず食べようか。睡眠は必要無いけど、食事は必要みたいだからな。この世界でも」
「そうだね。いっただっきまーす!」
「じゃあ、有り難く頂くとするよ。ライト」
「いただきます。ライトさん」
「俺も食うか」
俺達四人は簡単な雑談をしながら朝食を摂る。静かな食事が本来のマナーだが、みんなでワイワイ食べるのも悪くないな。
その後食事を終え、俺はさっさと食器を洗って片付けた。そして丁度その時、
「……? 情報共有端末に連絡が来ているな」
「あ、本当だ」
「本当だね。サイレンからか」
「一体何でしょう?」
俺達は特に疑問も持たず、その情報共有端末を開く。画面をタップすれば自動的に空中に映し出され、見たい項目を示してくれるので楽なものだ。
そしてサイレンの声が聞こえてきた。
「おお、居るか! ライト達! 話がある! 今すぐギルドに来てくれ!」
「え? 話って──」
皆まで言う暇もなく情報共有端末の情報共有が終わった。
何だか慌てている様子だったな。ギルドで話した方が早いという事でのギルドへの呼び出しって事か?
「まあ、今日もやる事は探索くらいだし、行ってみるか?」
「それが良さそうですね。サイレンさん、何やら慌てていましたし」
「そうだねー。話ってなんだろう?」
「ただ事じゃないのだけは確かみたいだったね」
一応ユメ達に確認を取る。当然乗ってくれた。
なので俺達は、取り敢えずサイレンからの呼び出しがあったギルドに向かうのだった。




