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ステージ3-4 ガーデニング

『……』


「……。動かないな……俺達を探しているのか?」

「そうかもね……感覚で行動しているなら粉塵爆発で生じた熱で位置も見失うかも……」


 ビルの物陰に隠れ、大輪華樹の様子を窺う。

 今の衝撃で俺達を見失っているみたいだが、それは良いとしてこれからどうするかが問題だ。


「何の感覚で反応しているのかは分からないけど、どうやら“音”ではないみたいだな。植物に音楽を聞かせると成長が変わるって聞いた事があるから不安だったけど、少なくも会話するくらいなら平気みたいだ」


「そうなると触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚のうち視覚と聴覚は消えるとして、残りで何の感覚だろう……」


 この植物、大輪華樹に感覚はある。主に連想するのは五感だが、何覚によって反応しているのかは不明。

 消去法で選ぶなら触覚か嗅覚か味覚の三つだが、触覚の線が一番ありそうだな。


「やっぱり空気の流れの変化を読み取っていると考えて、触覚が妥当か? 嗅覚も捨てがたいけど、それなら俺達の居場所は分かる筈だからな。匂いで」


「そうかもしれないね。じゃ、慎重に、空気の流れに合わせて動いた方が良いのかな」


「そうだな。どちらにせよ仕掛けたらバレるんだろうけど、それまではバレないように隙を突くか」


 俺とソラヒメの判断では、触覚を基本とした感覚で反応していると考えた。

 色々な線を考えた結果、それが一番妥当そうだからだ。


「……っ。そうなると、この辺にある根やツタにも触れないようにしなくちゃな……」


「そうだね……触った瞬間に気付かれそう……」


 俺達は慎重に動く。何はともあれ、動かなくては始まらないからだ。

 細心の注意は払っているので、余程の事が無ければ気付かれる心配は──


『……!』

「……!? なっ、まさか……!」

「嘘ォ!?」


 ──次の瞬間、ツタが俺達の隠れていたビルに巻き付いた。

 まさか少し動くだけで駄目なのか!? 超感覚だな。オイ!


「離れるぞ!」

「もちろん!」


 巻き付かれたビルは巻き付かれた箇所から締め付けられ、ヒビが入って粉砕される。それによって瓦礫が降り注ぎ、俺とソラヒメはいち早く避難した。


『……!』

「え!? 私!?」

「ソラヒメ!」


 避難する途中、既に張り巡らされていたツタを踏んでしまったソラヒメが宙吊りになる。

 足にツタが巻き付いているらしく、その一方では別のツタが俺を探して放たれた。


「……! いや、俺の位置には気付いていないのか?」


 だが、俺の場所を探している雰囲気のツタ。無数に放ったうちの一つにソラヒメがたまたま引っ掛かってしまっただけなのか、完全に居場所を特定した訳ではないらしい。

 それなら好都合だ。おそらく俺達が四人居る事は気付いている。だからこそ、大輪華樹のどこかにある感覚では残り三人と判断している事だろう。

 触覚が俺達を探る感覚なら、残り三つ。代わりの何かを使って巻き付かせれば大きな隙が生まれる筈だ。


「今の俺の力なら……剣士でも人一人分の重さは軽く持てる!」


 近くにあった先程倒した大華樹の残骸を複数手に取り、ツタの位置に放り投げた。同時に駆け出し、まずはソラヒメの救出に向かう。


「仲間の残骸でも巻き付けてろ!」


『……』


 投げられた人間一人並みの重さの残骸が三つ。それは同時に落下し、確かに大輪華樹のツタの上に落ちた。


「貰った!」


 そして更に加速し、木刀を携えてソラヒメの絡まっているツタへ──


『……!』

「……!? なっ……!?」


 向かった瞬間、先程投げた残骸には一抹の興味も持たれず、真っ直ぐに俺の身体を捕縛した。始めに木刀を持った腕が拘束され、腰に巻き付く。うっ……結構苦しい……。

 てか、そんな馬鹿な!? 詳しい体重は分からないけど、大体こんな感じって残骸を投げたんだぞ!? 確かに大輪華樹のツタにも触れた。植物である事には変わらない大輪華樹。ある程度の知能があっても感覚だけで気付かれる筈が……一体何故──いや、まさか!?

 今の行動によって、俺の思考に一つの可能性が浮かんだ。


「大輪華樹は触覚でも嗅覚でも、勿論視覚でも聴覚でもなく……──“味覚”で俺達の位置を判断しているのか!?」 


 ──大輪華樹の判断基準……“味覚”。

 それなら全ての行動に合点がいく。確かに味で俺達の存在を把握しているなら、近い重さの物を使っても見抜けるからだ。

 とんだ誤算だったな……。


「……! これを使うか!」


 そして俺は一つの案を思い付き、容量無限の入れ物から俺の家から持ってきた物──ナイフをもちいてまだ使える片手に持ち、そのまま利き腕のツタを切り裂いた。

 身動きが取りにくい今の状態で木刀や光剣影狩を使える訳もないが、俺の家から持ってきていたナイフ、カッター、ハサミのいずれかは使える。ほんの少しだけ傷付け、俺の片腕を解放。そのまま木刀を握り締め、俺とソラヒメの拘束を解く。


「ありがとう。ライト!」

「いや、相手の感覚を間違えたからこうなったんだ。俺こそ悪かった!」

「ううん、私も同じように考えていたし、お互い様だよ! それに、助けてくれたのは事実だからね!」


 逆さまに落下した俺達は空中で体勢を立て直して着地。獲物がツタから逃げた事によって大輪華樹は再び俺達を探し、縦横無尽にツタを振るう。


「きゃあ!?」

「くっ……!」


「……! ユメ!」

「セイヤ!」


 俺達と同じような感じで捕縛されてしまったのか、そのツタの中に揺さぶられるユメとセイヤが混ざっていた。

 ユメはスカートを抑えて赤面しており、セイヤは眼鏡が飛ばされないように抑えてこらえる。……案外大丈夫そう……じゃないよな。


「二人を助けて体勢を整えるか!」

「賛成!」


 剣士と格闘家ファイターの強靭な脚力をもちいて踏み込み、ツタを潜り抜けるように加速。一瞬にして二人の元に迫り、俺がツタを切り裂きソラヒメがツタを引き千切って二人を解放した。


「大丈夫か、ユメ!」

「ライトさん! はい!」


「大丈夫? セイヤ?」

「まあね……行動に大きく左右する眼鏡は死守したよ……」


 どうやら問題無い様子。俺はユメを、ソラヒメはセイヤをお姫様抱っこして──え?


「ラ、ライトさん……やっぱり恥ずかしいです……」

「わ、悪い! つい……」


「やれやれ……普通は逆の立場なんだけどね……」

「アハハ……両手がフリーだったからね」


 慌てて降ろし、ソラヒメは名残惜しそうに降ろし、四人で大輪華樹に構える。ここまで来たらやる事は一つだ。


「よし、一旦逃げるか」

「え?」

「は?」

「賛成ー!」


 そのまま俺達はユメとセイヤの手を引き、数あるビル群の中の一つに逃げ込んだ。

 勿論ただの敵前逃亡じゃない。ちゃんと理由はある。


「大輪華樹は味覚で俺達の位置を判別している。茎や根。ツタにその感覚があるみたいだ。で、逃げればそれを縦横無尽に伸ばす。そこを突く!」


「な、成る程。確かに隙は生まれますね」

「そしてこのビルの中なら伸ばされたツタに触れるのは壁やガラスにさえぎられて一瞬遅れる。うん、合理的だ」

「そう言う事。体勢を整えたら一気に仕掛けるよ!」


 大輪華樹の隙を突く為の避難を兼ねた逃走。これなら俺達四人で一気に仕掛ける事が出来、確実に弱点を突ける。

 それを目的とし、俺達はビルの中を四人で駆けていた。勿論俺とソラヒメはユメとセイヤの速度に合わせている。“廊下を走るな”の文字も見えるが、人がおらず既に廃墟となっているので問題無いだろう。


「……! 来る……!」

「……!」


 そして感覚が鋭い弓使い(アーチャー)であるセイヤが大輪華樹の気配に気付き、それを聞いた俺達が行動を起こした瞬間に窓が割れて無数のツタが侵入してきた。

 お陰で直撃は避けられた。後は大輪華樹の様子を窺うだけだ。


「……って、嘘だろ?」

「はい? ……!」

「ありゃりゃ。あれは避けようが無いねぇ」

「言っている場合か! ……どうする? ライト?」


 ふと外を見れば、複数のビルを引き抜き、そのまま持ち上げた大輪華樹が映り込み、それが今にも投擲とうてきされそうな気配が漂っていた。

 セイヤは苦笑を浮かべながら俺を一瞥する。それについての答えはもう決まってる。


「そんなの、決まっているさ。あれが投げられた瞬間だな」


「じゃあ今だね!」

「そう言う事だ!」

「本気ですか!?」

「全く、滅茶苦茶な二人だ……!」


 刹那に無数のビルが放り出され、俺達の居るビルに直撃する。何階か上の階に当たったので影響は遅れているが、次の瞬間にビルが倒壊。連続してビルが投げられ、俺達は割れている窓の縁に足を乗せた。


「あのビルの上を走って行くぞ!」

「オーケー!」

「ひいい!」

「しょうがないか……!」


 同時にそこから跳躍。この世界になった事で強化された身体能力をもちいて投げられたビルの上を駆け抜け、一気に大輪華樹の花に近い茎を狙う。


『……!』


 そんな俺達の存在を確認した大輪華樹はツタを一気に放つが、もう遅い。


「縦横無尽に広げたツタ。一つでも仕掛けるにはラグがあるだろ!」

「一気に決めるよ!」

「はい……!」

「分かった……!」


 そのままビルを駆け抜けて横になった屋上から跳躍。まずユメとセイヤが力を込めた。


「──究極魔法・“直射火炎”!」

「──リーサルウェポン・“炎上弓”!」

『……!』


 遠距離、中距離を得意とする二人の必殺スキル。それがツタを焼き消し飛ばして直撃し、それによって大輪華樹の花から眼が現れた。


「トドメだ! ──伝家の宝刀・“居合い斬り”!」

「──奥の手・“集中拳”!」


 一直線に必殺スキルを打ち付け、その眼を粉砕。そのまま中心部分を貫き、大輪華樹を打ち倒してビル群を消し飛ばした。

 その一撃で大きな粉塵と花粉が舞い上がり、俺達の脳内に声が響く。


【ライト、ソラヒメ、ユメ、セイヤはモンスターを倒した】


【アイテム獲得。万能草×1。治療花×5。大輪の芽×1】


「流石にレベルはまだ上がらないか。色々とアイテムは入手したみたいだけどな」

「そうだね。結構疲れちゃったよ……」


 完全に倒したという事の表れ。それに関する声。また色々なアイテムを入手したけど、万能草はありがたいな。治療花は花弁の枚数分手に入ったようだ。大輪の芽は……どんな用途だ?

 何はともあれ、この瞬間俺達は大華樹の群れ(花畑)と大輪華樹を倒し終えたのだった。

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