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ステージ3-3 大きな花畑

「さて、花摘みを始めるか。これだけあれば全人類の分の花冠が作れそうだな」

「ねえ、ライト。花摘みには暗喩あんゆがあるって知ってた?」

「聞きたくないな」


 ソラヒメの言葉を無視し、花を毟り取る為に駆け出す。同時に迫り行き、木刀を振り回して茎から花を刈り取った。


「弱点の位置は分かったんだ。後は弱点部分と茎を切り離せばおのずと出てくるだろうしな」

「そうだね。茎があったから攻撃による花への衝撃が吸収された。それを離しちゃえば後は自分から見せてくれるだろうからね」

「成る程ね。確かにその通りかな」

「ああ。それと、ユメへの負担も減るのが良い」

「そんな……別に気にしなくても良いですのに……」

「そんな訳にもいかないさ。大事な仲間だ」

「ライトさん……」


 木刀で茎を切り裂いて花を引き離し、ソラヒメが物理的に引き千切る。セイヤの矢も射抜いて離し、大華樹の群れのいくつかが弱点を剥き出しにした。


「後はそこを突く!」

「オーケー!」

「了解!」

「はい! “アロー”!」


 次の瞬間に木刀で目を貫き、ソラヒメが拳で潰す。セイヤが矢で射抜き、ユメが魔力消費の少ない魔法で貫いた。


「魔法って便利だな。他の力も具現化出来るのか」


「はい。……というより、ライトさん達が居てくれるので影響されて剣や物理的な力。弓矢に変換されるみたいです」


「そうか。確かにスキルはプレイスタイルや割り振りで変わる。それがゲームのシステムだとするなら、現実世界のスキルは周りに居る存在に影響されてもおかしくないな」


 魔法もスキル。炎魔法などのような初期スキルは共通しているが、周りに居る俺達の影響を受ければ魔力をそれらに変換させて新たなスキルを確立する事も出来るらしい。

 それなら俺もそのうち魔法剣を使えるようになったり斬撃を飛ばす事が出来るようになるかもしれないな。


「互いに学ぶ事は多いみたいだ。頼りにしてるぞ、ユメ」


「はい!」


 色々と覚えるスキルは多くなりそうだ。まあ、ソロプレイでも様々なスキルは覚えられるんだけどな。俺の“星の光の剣スター・ライト・セイバー”もソロプレイの賜物だし。

 取り敢えず勝手は分かった。大華樹たいかじゅを次々と討ち仕留め、Lv20前後の群れモンスターを片付ける。

 大華樹の基本的な攻撃がツタを鞭のように操るか花粉で動きを鈍らせるくらい。俺達の相手ではない。


「後一匹……一個? いや、一本? 取り敢えず残り一つだ。終わらせるか」


 最後の一体を切り裂き、花から眼が出る。そこを突き、最後の一体も特に苦労せず打ち倒した。


【ライト、ソラヒメ、セイヤ、ユメはモンスターを倒した】


 それによって脳内に声が響き、今までの分の“EXP”を入手する。


【ライトはレベルが上がった】

【ユメはレベルが上がった】

【ソラヒメはレベルが上がった】

【セイヤはレベルが上がった】


 そしてレベルも上がり、悪くない結果に終わった。──倒した瞬間までは。


【倒したモンスター達が進化しました。次いで、エクストラバトルに移行します】


「……まさか……!」


 倒した植物型モンスターの残骸が集まり、目映い光が放たれた。

 エクストラバトル。エクストラステージじゃなくてバトルか。まあ、現実世界にステージって概念はないからな。

 ゲーム内でも俺達が勝手にステージ呼びしていただけだけど、それらはまあいい。コイツが“進化モンスター”って事だけは分かった。


「ドン・スネークとは違う、この世界になって初めての、倒された事で進化する進化モンスターか……体力にはまだ余裕はあるけど、少し疲れているからその辺が心配だな」


「問題はどれくらい強くなっているのかって事だね。植物だけあって初動は遅いから今のうちに調べておこうか」


 進化モンスターを前にソラヒメの言うように敵モンスターの情報を確認。全員がステータスを表示し、そのモンスターを解析した。


「“大輪華樹たいりんかじゅ”。レベルは35……スパイダー・エンペラーの脱け殻と同じくらいか。ボスモンスターではないみたいだけど、厄介な相手だな」


「少なくもボスモンスターだったライムスレックスやドン・スネークよりは強い訳ですもんね……」


「純粋なレベル差ならライムスレックス、ドン・スネーク、スパイダー・エンペラーの時と違って私達と同じくらいだけど、あの巨体が厄介かもしれないね」


「弱点は変わらないみたいだからその辺を上手く突きたいものだね」


 俺達のレベルは二度目のスパイダー・エンペラー戦と今さっきの群れモンスターを経て、俺が【Lv31→Lv35】ソラヒメが【Lv32→Lv36】ユメが【Lv28→Lv32】でセイヤが【Lv29→Lv33】と4レベルずつ上がっている。

 なので相手のレベルが35だとしてもあまり大きな差はないが、さっきの今なので対処法が分かっているとしてもまだ難しさはあった。

 一先ず相手が動かないうちに俺達はステータスに“EXP”を割り振り、大輪華樹に向き合う。


『……』

「いきなりか……!」


 向き合ったその瞬間、極大なツタが放たれ、先程まで俺達が居た大地が粉砕された。

 おそらくだが、大輪華樹は俺達の様子をうかがっていたのだろう。ステータスの確認や割り振りなどで俺達が動かなかったからこそ、今がチャンスと判断して放出したようだ。


「攻撃の機会を窺うなんてな。植物にも思考出来るのか?」


「まあ、本来の植物にもほんの少しなら知能があるらしいし、ゲームになったこの世界ならそれがあってもおかしくない」


「成る程な。となると花に現れる眼がその役割を果たしているのかもしれないな。基本的に眼を隠しているし、視力とかの活用じゃないっぽい」


「その線が一番可能性は高いね。多分生き物を殺す事で養分にしているんだろう」


 花に現れる、自身のピンチの時のみ開く眼。その事からして視界を確認する為ではなく脳のような器官に近いのではないかと推測する。

 ところ構わず仕掛けてくるのは生き物の死骸を肥料にしているから。元々水源は豊富で日の光もあるので、生き物を誘い出して栄養にしているのかもしれない。


「後はピンチになると眼を開く理由だけど、位置から考えればそこから日の光を吸収して自分の体力を回復しているって感じか」


「そうかもしれないね。その辺を踏まえて上手く立ち回るとしようか」


 大輪華樹についての分析は大方終わった。

 ゲームの世界なら生態など気にしなくても良いのだが、確実に自生している様子からしても生き物としてこの世界で生きていけるだけの能力は備わっているようだ。


『……』

「攻撃方法はツタを鞭のように振り回す。今のところこれしかしていないけど、他にもありそうだな」

「なら、援護は任せてくれ。“風の矢”!」


 今一度ツタが叩き付けられて辺りを揺らす。俺はそのツタの上を駆けて大輪華樹の花に向かい、セイヤは距離をおいて狙撃。俺に降り掛かる花粉を吹き飛ばしてくれた。


「風の矢か。新しいスキルを覚えていたんだな」


「ああ。本来は風の力で加速して威力を上げるモノだけど、それ程の風力があれば花粉も吹き飛ばせるからね」


「ハハ、頼もしい限りだ!」


 俺とセイヤが正面から攻め、ユメとソラヒメは後方からけしかける。

 おそらく感覚で動いている大輪華樹は全方位の攻撃に対応出来るのだろうが、数が多ければそれにも若干のズレが生じる筈。固定された巨体なので小回りは利かないと考えればこの様なやり方が一番だろう。


「取り敢えず、花と茎を引き裂くか!」

『……』


 そのままツタを駆け登って跳躍。勢いよく茎に木刀を叩き込んだ。

 それによって大輪華樹は揺らぐが、切り裂く事は出来ない。本来なら打撃武器の木刀もこの世界なら真剣に匹敵する代物になるが、大輪華樹は純粋に相応の強度を誇っているから切り裂けなかったようだ。


「はあ!」


 そして後方ではソラヒメが拳を叩き込んでおり、その一撃でまた大きく揺らいだ。だが倒れる気配はない。


「硬い、というよりは柔軟で衝撃が吸収されるみたいだね。……何か最近私達の攻撃効きにくい敵多くない? ライトぉ?」


「そう言われてもな。けど、確かに多いな。硬過ぎて効きにくかったスパイダー・エンペラーに今回の大輪華樹。ドン・スネークやライムスレックスも肉質からして物理的な耐久はあったし、いずれもボスモンスタークラスだけど俺達近接メインの職業に逆風が吹いている感じはあるな」


 実際、手応えのない相手は多い気がする。

 弱過ぎて手応えがないのではなく、攻撃が通っている感じがしない相手が多く感じるのだ。

 無論の事攻撃自体は通じているが、ダメージが少ないという事は厄介な事に変わりない。


「まあでも、今回の場合は弱点じゃなけりゃ炎以外通じにくい相手だし、問題無いんじゃないか?」


「ま、そうだね」


 それだけ交わして大輪華樹の身体を駆け抜け、ツタや花粉を避けながら茎にダメージを与える。

 一撃で粉砕しなくとも地道にダメージを与え続ければいずれは弱点を見せるだろう。体力の多い相手は慣れているので問題無く仕掛ける事は出来ていた。


「“ファイア”!」

「はっ!」


『……!』


 遠方からはユメとセイヤの援護もある。大華樹程に炎へ大きな反応はないが、弱点属性である炎を受ければ与えられる影響は大きい。俺達が仕掛けるに当たって今現在は順調と言えるだろう。

 確かな効果はあったらしく、大輪華樹は藻掻くように身体を震わせてツタや葉を振るって暴れ回る。砂塵と花粉が混ざり合って体に悪そうな煙が辺りを覆い尽くした。


「……っ。なんか目と鼻に違和感があるな……!」


「どこからどう考えても花粉の影響だね……! 涙と鼻水が出ちゃう……!」


「ックシュン! ふあ……ゲームの世界でも影響が出るんですね……」


「僕の眼鏡を貫通する花粉なんてね……まあ、確かに眼鏡は完全防備じゃないけど……」


 大輪華樹の放つ花粉の影響は大きなもの。見れば俺達のステータスに【花粉】という文字が出ていた。

 成る程。花粉は状態異常の一つか。効果で言えば命中率の低下に行動の制限。持続的な損傷(スリップダメージ)系の効果は無いようだが、状態異常を体感するとこんなにやりにくいのか。確かに蜘蛛達の群れと戦った時に生じた毒もツラかったな。今回の花粉は普通の花粉症より症状が大きく出るみたいだ。


「ウ、“ウィンド”!」


 その花粉の嵐に向け、ユメが風魔法を放出した。

 それに花粉と砂塵が巻き込まれて吹き飛び、一瞬晴れる。しかしすぐに埋め尽くされてしまい、花粉を撒き散らす大輪華樹の厄介な能力という事はよく分かった。


「ダメみたいです……一瞬は晴れるんですけどね……」


「いや、一瞬だけでも晴らす事が出来るのは良い。そのうち花粉が濃くなって目標を見失う可能性もあるからな。こんな視界だけど、花付近の茎の位置は分かった」


 しかしユメの風魔法は役に立った。上も下も分からない程の花粉だったが大凡おおよその位置を把握。同時に踏み込み、花粉を突き抜けて今一度茎に木刀を叩き込んだ。


『……』

「まあ、効かないよな。当然……!」


 それを受けた大輪華樹だったが大きな反応はなく、養分吸収の為に俺達を狙う。

 茎の位置に居るのは危険か。接近している俺とソラヒメは一度距離を置き、大輪華樹の根元付近を駆け回る。


「さて、どうする? 新しい武器を試してみるか?」


「それも良さそうだね。花粉で視界は悪いけど、ある程度の位置は分かるし早く終らせた……クシュン!」


 会話もままならないな。これ程の花粉だ。即効性なのかもしれない。

 だが一先ず動き回っていれば捉えられる事は無いだろう。感覚で動いている大輪華樹は自分の花粉で視界が無くなるという事は無さそうだが、今の身体能力と動体視力ならツタを避ける事も容易。まあ、今は花粉のせいで容易でもないけどな。


『……』

「……? 何かしている?」


 その時、大輪華樹は葉と葉を擦り付けた。遠目なのでよく分からないが、何かを企んでいるのか?

 そんな疑問の答えは、次の瞬間に明らかになる。


『……!』

「なっ……!」


 発火した。

 その火が粉塵と花粉に引火し、次の瞬間に連鎖するように燃え広がる。


「粉塵爆発か……!」


 直後、連鎖するように燃え広がった炎が立ち上ぼり、爆発と見紛う程の炎上を引き起こした。

 粉塵爆発。衝撃で物を破壊する従来の爆発とは違う、炎の連鎖によって炎の領域が広がるモノ。

 どうやって発火させたのかは不明。葉と葉を擦り付けるだけで火種が生まれる訳がないからだ。……って、マズイ……!


「離れろ!」

「もう離れてるよ!」


 炎の脅威からは何とか逃れられた。

 まさか自然発火するとはな。ユーカリの葉なら気温が上がる事で発火する事もあるらしいが、大輪華樹の葉にもユーカリの葉と、少し違うが近い成分があって発火する仕組みなのか?


「取り敢えず、建物の影は安心か。ここがビル群の並ぶ場所で良かったよ……」


「本当にね……。お陰で花粉は散り散りになったけど、まだ少し残っているや……」


 その場しのぎとしてビルの影に隠れる俺とソラヒメ。ユメとセイヤも心配だが、衝撃波とは少し違う爆発なので体力が少なくなければ問題無いだろう。

 大華樹の群れを倒した後に現れた大輪華樹との戦闘。それは思ったより大変な戦いになりそうだ。

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