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「……ぅん……」


 ──朝日が昇り、七姫空は自宅のベッドにて目が覚めた。

 ボヤける目を擦り、ゆっくりと起き上がる。


「あれ……涙? 悲しい夢でも見たのかな……」


 その目には何故か涙が流れており、困惑する。

 寝起きの涙というものは今までも無い事は無かったが、割と珍しい体験だ。


「ふあ~」


 欠伸をし、パジャマを脱ぎ捨て、ブラをする。

 どうやら空は寝る時はノーブラ派らしい……。ともかく、着替えを終えた空は階段を降り、リビングに向かった。


「おっはよー!」

「おはよう。空姉」


「おっはよー! 我が愛しき娘!」

「ハッハッハ! よくぞ今日も目覚めてくれたね!」


 そして、そんな空へ弟の七姫静夜と七姫夫妻が出迎える。

 朝から賑やかな家庭であり、七姫夫妻は踊っていた。


「さて、可愛い子供達! そろそろ弟か妹が欲しくないかい!?」

「朝から生々しい事を言わないでくれ」

「流石静夜! いつでも冷静な態度だ!」


 朝っぱらから子供が聞きたくない事を言い、静夜が冷静にツッコミを入れる。これが七姫家では普通らしい。


「ごちそうさま。僕はもう出掛けるよ」

「あ、待ってよ静夜! 一緒に行こう!」


「頑張れよ! 我が愛しの子供達!」

「パパも仕事頑張ってね!」

「ママも頑張って家を守ってくれ!」

「任せなさい! 警察仕込みの護身術と黒帯としての実力で守るよ!」


 先に食事を終えた静夜が“アナザーワン・スペース・オンライン”のバイトに向かい、姉の空が慌てて後を追う。

 二人の両親も各々(おのおの)で行動を起こし、仕事と家事に向かった。


「待ってよー! 静夜ー!」

「やれやれ……なんで毎回一緒に行こうとするのか……」


「あら、空ちゃん。静夜ちゃん。これからお仕事? 頑張ってね」


「はい」

「はーい!」


 近所のお婆さんに話し掛けられ、返事をした二人は軽く交わし、そのまま管理所へと向かう。


「もっと一緒に居てくれても良いじゃん。家族なんだから!」


「家族なんだからたまには離れたいと言うのも一つの心境だと思うんだけどね」


 空が静夜に構って欲しいオーラを出し、静夜は軽く流す。この辺も変わらない。

 そんな他愛ない会話を行いながら進む二人だが、歩道に出た所で事件が起きた。


「そんな事言わないでよ、静夜ぁ」

「そんな事って……。……! 空姉!」

「……え……?」


 丁度ガードレールの切れた部分に差し掛かった空に向け、車線を逸れた車が迫っていた。

 見た限り運転手は意識を失っており、運転の制御が効かないらしい。

 気付いた時既に遅し。静夜と周囲の通行人が空の方を見、


「わっ!」

「……え?」


 ──空が跳躍して車を飛び越えた。

 軽く五メートルは跳んだ。そのまま車の上に乗り、車はそのガードレールに激突。車の上、ルーフ部分に乗った空は自分の身体を見て小首を傾げる。


「あれ……私……覚醒した?」

「空姉……今の跳躍力……」


「なんだ? 事故か?」

「いや……そんな事より……」

「ああ……今のあの子……」

「スゲー跳んだな……」

「スゲー美人……」

「彼氏居んのかな……」

「なんつー身体能力だ……」

「あ、空ちゃん……なのかな?」

「えーと……そうだろうけど……なにあの跳躍力……凄い」

「空ちゃんは学校でも運動神経凄いけど……あんな事も出来たんだ」

「空ちゃんなら出来るかもね……」


 有り得ない現象が起こったが、空は呑気な事を言う。

 静夜は困惑し、通行人達からもざわめきが立つ。そして空のクラスメイトも話していた。どうやら空は学校でも評判の身体能力を有しているらしい。


「何だったんだろう……今の……」


 呑気な事は言ったが、やはり気にはなる様子。

 しかし遅刻するのもあれなので、空と静夜は管理所に向かおうとする。が、


「あー君、今何が起こったのか教えてくれないか?」

「あ、はい」


 通報によってやって来た警察からの事情聴取があり、結構時間が掛かりそうだ。

 ──なら、別の場所を見てみるか。



*****



「ねぇ……舞……本当に大丈夫なの……? 私達だけで海外旅行って……すごく不安なんだけど……」


「大丈夫よ。花。会話も自動翻訳されるし、暴漢と防寒対策の道具もバッチリ揃えているからね!」


 不安そうな白井しらいはなかなでマイに話、舞は胸を張って問題無いと告げた。

 自信あり気な舞だが、引っ込み思案の花はかなり不安なようである。


「よりによっていきなりロシアって……確かに色々と見る所はあるけど……初めての海外旅行でハードル高くないかな……?」


「でもねぇ。韓国や中国は目新しさがないし、ヨーロッパは在り来たり過ぎるもの。沖縄は普通に日本だし、だったらアジアとヨーロッパの中間にあるロシアが良いじゃないかしら?」


「うーん……その理屈は分からないかな……」


 舞曰く、何となく手頃な旅行地がロシアだからそこに行ったとの事。

 舞を信用し切っている花も流石に困惑の色が隠せず、どんどん先に行く舞の後を追っていた。


「あ、待ってよ。舞……!」

「大丈夫? この辺り人通りが多いから……少し行った先で待ってるわよ」

「えー……」


 観光スポット近辺という事もあり、人通りは他の場所よりも多い。

 なので少し離れてしまった二人は目印になりそうな街灯で落ち会う事にし、舞は先に行く。花は慌てるように後を追い、人にぶつかってしまった。


「あ……すみ(прошу)ません(прощения)……」

「ああいや、こちらこそすまない……余所見をしていた……って、自動翻訳……観光客か……どうしよう……」


 ぶつかった事に対して謝罪し、その人。女性も謝るように返す。そして自動翻訳された言葉を見、花が観光客という事を理解した。

 だが、女性も人見知りするタイプらしく、逆に困っているようだ。


「あ、花ー!」

「あ、舞……戻って来てくれたんだ……」


「フフ、そうね。考えてみたら花を一人にして先に行く事は出来ないもの。誘ったのは私なんだからね!」


「ありがとう。舞」


 そこで舞と合流。浮き足立っていたが、やはり舞は花が心配だったらしい。

 そして舞も女性の方を見やり、言葉を交わす。


「悪かったわね。その荷物……大丈夫かしら?」

「え? ああ、だ、大丈夫……君達は観光客なら楽しんでいってくれ……」

「あら、それって……」

「……っ」


 ぶつかった衝撃で女性は荷物を落としたらしく、舞に指摘されてギクッと肩を竦ませる。どうやら人見知り以前に、人自体にあまり慣れていないみたいだな。

 舞はニコッと笑い、言葉を続けた。


「“アナザーワン・スペース・オンライン”ね。それの追加パック。ダウンロード版じゃなくてパッケージも売っているんだ。コード入力で直接打ち込むタイプね」


「え? 君もこのゲームを知っているのか? あ、そりゃ名前くらいは知っているか……」


「名前だけじゃないわ。私達もやっているのよ」


「ほ、本当!?」

「ええ。そこそこやり込んでいるけど……やっぱり二人だけじゃ少し難しいわね」


 女性が落としたのは“アナザーワン・スペース・オンライン”の追加パック。それのパッケージ版。

 今時はパッケージの方が珍しいが、パッケージもその商品のコレクションになる為、一定の層にはまだまだ需要があるのだ。


「そうなのか……私は基本的にソロプレイなんだが……結構やり込んでいて……えーと……非公式だけどランキングにも入ってて……」


「そうなの? なら、今度一緒にどうかしら? あ、私達は日本人なんだけど、世界中と繋がっているから国が違くてもやれるものね」


「日本人? 通りで丁寧な態度だ。しかし、私なんかが君達の邪魔をして良いのだろうか……?」


「問題無いわ。ね、花」

「うん。何となくだけど、貴女なら良いかも」


「そ、そうか……!」


 舞と花の言葉に女性は嬉しそうな表情をする。が、ここは多くの人が通る場所。邪魔になっていると判断し、女性は一つ提案した。


「立ち話もなんだし……良ければ近くのお店にでも寄らないか?」


「お店……うん、良いわね。丁度どこに行こうか考えていたの。地元の人が案内してくれるなら心強いわ!」


「あ、えーと……その……案内は……私、基本的に引きこもりだから……」


「そう? じゃ、私達と一緒にどうかしら? 遠出はあれだけど、近場を行くとか」


「い、良いのか? せっかくの旅行なのに……」


「ええ、勿論。あ、けど……貴女は買い物の途中みたいだし……」


「だ、大丈夫だ! この程度なら荷物にはならない……から……」


「そう? じゃ、よろしくね。……えーと……」


 舞は女性に手を差し伸べ、その名を言い淀む。女性は食い気味に返した。


「わ、私の名前はソフィア=イリネーエヴナ=レスキナだ。えーと……“アナザーワン・スペース・オンライン”ではユーザーネーム、ソフィアでプレイしている。よろしく!」


「そうなの? なら、改めてよろしく。ソフィアさん。私は奏舞。ユーザーネームはそのままマイよ」


「白井花……ユーザーネームはリリィ。……よろしくね」


「ああ、よろしく。マイ、リリィ……じゃなくてハナ!」


「良いよ。リリィで。なんかしっくり来る。それに、貴女とは緊張しない。初めてじゃないみたいな感覚……」


「奇遇だな……私も何故か君達と初対面の気がしないんだ。ゲームの世界で会っていたのかもしれないな!」


「ふふ、そうだね。ソフィア」


 互いに名を名乗り、デジャブにも近い感覚であの世界の事が過る。が、三人は特に気にしない。

 舞と花とソフィア。ここにまた一つ、国境を越えた友情が生まれた。


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