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ステージ3-2 植物型モンスター

 あれから一瞬後、俺達はソラヒメとセイヤの家に来ていた。

 道中のモンスターを倒してもあまり“EXP”は手に入らない。ただ疲れが溜まるだけ。なので“転移ワープ”を使って移動したのだ。

 俺達は初日に俺、ユメ、ソラヒメとセイヤとパーティ四人の家には寄っている。ギルドメンバー専用アビリティは便利なものだな。


「あったよ! セイヤの机の上に!」


「そうか、それは良かったよ。……何でソラ姉が僕よりも先に僕の机を調べていたのかは兎も角、見つかったなら良かった」


【ソラヒメはマップを手に入れた】


 そして目的の品が見つかり、俺達は早速それを確認した。


「うん。変わっているな。この辺の地理を記していた地図だったけど、見たことのない部分が映し出されたマップになっている」


「その様ですね。ちゃんと“レコード”の街とかもありますよ」


「ちゃんと私達の現在位置も示してくれているみたいだね。その辺はゲーム仕様かな」


「GPSも無しに場所を映せるのか。便利だけど、ますますこの世界の変化を実感出来てしまうね」


 入手したマップはソラヒメが自身の情報共有端末にインプットし、それを空中に映し出して確認する。

 そこには俺達の現在位置も記されており、“レコード”の街を始めとして近辺にある変化した街が存在していた。


「ゲームなら良いんだけどな。なんか、現実世界で俺達の位置を記されているマップだと監視されているみたいで嫌だな……」


「それもそうだねぇ。監視は基本的に私達の仕事だったんだけど、今の状況だと逆の立場に感じちゃうね」


「首謀者がどこで何をしているのか分からない以上、あながち監視されているって認識で間違いないかもしれないね。鮮明に姿が分かるという事はないと思いたいけど、居場所くらいは特定されているかも」


「嫌ですね。私達は相手の場所が分からないのに相手は一方的に分かるというのは……」


「あくまで推測だけどな。ま、確実にいい気分じゃないな」


 マップ一つでここまで疑心暗鬼になってしまうとはな。言い出したのは俺だけど、実際警戒はしてしまうだろう。

 睡眠が必要無いから寝込みを襲われる心配が無いにしても、いつどこから刺客が来るのか本人が来るのか。考え過ぎかもしれないが、やっぱり気になるものだ。


「何はともあれ、目的のアイテムは入手したんだ。ソラヒメ。俺達の端末にもマップデータを送ってくれ」


「了解ー!」


 データを転送。それが俺達の情報共有端末にも送られる。

 これでいつでもマップの確認を出来るようになった。まあ、つい確認をおろそかにしてしまう事もあるから気休めに近い感覚になるかもしれない。


「じゃ、今度こそ本格的に進むか。取り敢えず“レコード”の街まで行って、そこから調べよう。魔王軍が接触していたって事は何か手懸かりがあるかもしれないからな」


「あ、そう言えばそうですね。スパイダー・エンペラーが狙った“レコード”の街。魔王軍に近い可能性があります」


「そう言う事だ。それに、そもそも“レコード”の街が本来の世界になかった場所。そこから本来の世界の街とは違う場所に繋がるかもしれない」


 目的地は決まっていなかったが、魔王軍と何かしらの繋がりがあった“レコード”の街へと行く事にした。

 無論、街に入るつもりはない。昨日今日の話どころか、たった数時間前の出来事。数時間前に離れた街に、どんな顔をして入れと言うのか。英雄的な扱いなら問題ないが、残念ながら領主を護れなかった事実があるからな。ただ敵を倒してクリアするだけのゲームと違い、人を護らなくちゃならないこの世界はゲームとは別の存在だ。


「という事で、早速“レコード”の街に向かうか。今やれる事はある程度終わったからな」


「はい! では行きましょう!」

「オッケー!」

「ああ」


 決めると同時に俺達は“転移ワープ”をもちいて“レコード”近くの森へとやって来た。

 ここはビルや都会の名残がある森。変わらず自然に覆い尽くされた街並みが視界に映り込む。


「相変わらず景色は綺麗なんだけどな。時間があるからのんびりしたい場所だ」


「そうだね……人が居なくなった世界。もちろん他のプレイヤーや“NPC”は居るんだけど……ここに来るとそんな世界かと思っちゃうよ」


 車も走っていない。信号も動いていない。看板などにも光が点っていない。ビルからも人の気配がない。それだけなら深夜帯に似たような光景を拝めるが、それらに絡み付くようなツタに根。道路だった場所に伝わる土の感覚。川に流れる透き通った水。それに反射する日の光が温かい。虚無感にも似た感覚が襲い、人が居なくなったと彷彿させる街。

 自然だけの場所は確かに綺麗。だが、相応の心細さもある不思議な感覚だった。


「さて、ノスタルジーな気分に浸っている場合じゃないな。時間なら今も動き続けているんだ。元の世界を取り戻さなくちゃな」


「ああ、そうだね。落ち着く雰囲気の場所だけど、ここは無理矢理作り出された世界だ。戻した方が良い」


「うん。綺麗だけど元の世界より危険だもんね! 元に戻さなくちゃ!」


 この世界を元に戻す。即ち取り返す。

 その為にもこの光景を記憶に映し出すより行動に移り、俺達はそこから“レコード”とは別方向の場所へ歩き出した。


「……。元に戻す……ですか。……けど、もしかしたらこれが本来の地球の姿なんじゃないでしょうか……」


「……うん? どうした、ユメ?」


 ボソリと、ユメが小声で何かを呟いた。

 歩み出したので俺達の距離は数メートル離れている。なのでよく聞こえなかったな。それもあって俺は聞き返したのだが、


「ふふ。いいえ、何でもありませんよ。ただ、本当に綺麗だなぁ……って思っただけです」


「……? そうか。はぐれるなよ」


「はい!」


 屈託のない笑顔で返された。

 何か違和感もあるが、その笑顔と言葉に嘘偽りは感じない。本心だろう。

 なので特に気にせず、俺達は広大な世界の探索に向かうのだった。



*****



『ブギャア!』

「よっと!」

『フゴッ……!』


【ライトはモンスターを倒した】


 大きな牙の生えたイノシシ型のモンスターが突進し、それを俺は木刀で打ち倒した。それによってまた“EXP”が貰える。まあ、レベルは上がらないけどな。

 それにしてもイノシシか。農地の守衛で同じ系統のモンスターと戦ったけど、この街並みにも似合っているな。見た目が廃墟になった街だから野山から降りてきたって感じがする。


「この辺のモンスターはまだ木刀でも戦えるな。まあ、この辺どころか今までのモンスター全てが木刀で倒せるけど」


「僕達のレベルがかなり上がったという事もあるけど、純粋にモンスターのレベルが低いってのもあるね。まあ、この辺は平均レベルで15はある。人が居ないのも相まってギルド付近から僕達の家の範囲内より高いみたいだ」


「さっきのイノシシ型のモンスターでLv16だったな。この辺りの平均はライムスレックスと同じくらいだ。レベルで言えばかなり高い方かもしれないな」


 敵の出現レベルが1~3のギルド付近に比べ、この辺りの平均レベルは15。どうやら進行につれてレベルも高くなると考えても良さそうだ。

 そうなるとこの辺で今回の出来事に巻き込まれた人々がどうなるのか気になるところだな。敵モンスターのレベルがプレイヤーに合わせられている可能性もある。


「新たなエリアだけあって新しいモンスターの姿も見えてきた。取り敢えずこのまま進むか」


「そうですね。モンスターのレベル以外にも新たな発見が出来そうな場所です」


「それが良さそうだね。行動範囲を広げていればクエストを受けた時とかにも移動が楽になるし、利点は多いよ!」


「その言い方からするに、今日から数日である程度回って後々のクエストを受けていくって感じか、ソラ姉」


「まあね~。今回の件からしても、クエストを受ける事が一番何かを掴みやすいみたいだからね。リーダーの権限として、その事を肝に命じてね♪」


「一理あるな。俺は良いよ」

「私も大丈夫です!」

「僕も反論はないね」


 ソラヒメはこの様子だが、実は案外考えている。テキトーに言っているようで、大凡おおよその事が理に適っているのだ。テキトーではなく適当な判断を下しているのもリーダーらしさがある。

 純粋なステータスだけじゃなく、判断力や推察力とかもリーダーに相応しいな。


「それじゃあ、早速行くか」


 そう言って一歩踏み出したその瞬間、俺達の足元が大きく揺れ、地面から何かが生えてきた。

 ……って、え?


「な、なんだ!?」

「地震……な訳無いよね。何か生えてきてるし」

「なんでしょう……緑色の太い……茎?」

「確かに自然は沢山ある場所だけど……こんな風に生えてくるなんてね……」


 生えてきたものは高さ十メートルはある巨大な茎。確かにここの植物は自生している。それなら普通に生えてくる事も……無いよな。流石に。

 そもそもこの大きさの“茎”。樹ならこれくらいの大きさのものもあるが、今目の前にあるのはあくまで花の茎。世界一高い花でもこんな高さはないだろう。

 人為的に育てようとすればひまわり辺りならこれくらいの高さになる事もあるんだろうけど、自然に生える訳がない程の高さ。

 その事からしても、十中八九世界の融合によって生まれた植物型の何かという事がうかがえた。


【モンスターが現れた】


「……ま、そう言う事だよな。植物型のモンスターか」


 取り敢えず今回は早めにモンスターの情報を確認しておくか。


「“大華樹たいかじゅ”。レベルは23。この辺りじゃかなり高い方だな」


「レベルだけなら私達の相手じゃないけど、この大きさは厄介かもしれないね。本来のゲームなら大きさはあまり関係無いんだけど、現実世界じゃ攻撃範囲とか狙いとか色々とねぇ」


 大華樹。レベル自体は大した事ないが、その大きさからして面倒臭そうな雰囲気が漂っていた。

 ソラヒメの言うように本来のゲームなら大きさは設定だけであまり苦じゃないが、現実世界。つまり元の世界と同じ感覚ではその大きさがかなり面倒になる。


『……』

「こう言う事だよな……!」


 次の瞬間、大華樹からツタが放たれ、まだ何もしていない俺達に仕掛けてきた。

 俺達はそれをかわすが放たれたツタによって大地が割れ、辺りに粉塵が舞い上がる。

 面倒な理由はこれだ。大きな身体という事は相応の範囲に攻撃を仕掛けられるという事。一撃一撃の威力が低くとも、食らい続けたら響く事だろう。

 まあ、見た感じ威力もそこそこありそうだけどな。どちらにせよ、食らわないのが吉だ。


「木刀で通じるか。確かめてみるか」

『……』


 かわした瞬間に近くの木を蹴り、加速と同時に跳躍して大華樹の頭。つまり花の部分を狙う。

 跳躍した勢いのまま木刀で貫き、そのまま貫通させた。


『……』

「効果は薄いか」


 それによって怯む事もなく、ツタが俺を弾こうと振り払った。

 俺は空中で体勢を立て直してツタの上に乗り、駆けながら大華樹を観察する。

 弱点になりそうな場所も見つからないし、ただひたすら攻撃する感じか?

 因みに大華樹。このモンスターは“AOSO”には居なかったので弱点も分からない。それどころか、居なかったモンスターの方が増えている気もするな。本当に現実世界の存在がゲームキャラに置き換わったって感じか。


「物理的な攻撃は効きにくいのかな。このモンスター!」


 俺が観察する中、ソラヒメが拳を打ち付けて大華樹を押し退ける。それによって倒れるが即座にツタが放たれ、やはり物理的な攻撃は効きにくいという事が分かった。


「矢で射抜いているけど、これも効かないみたいだね」


「そうか。まあ、見た目からしてユメの炎魔法が一番効果的かもしれないな」


「はい。やってみます! “ファイア”!」


 大半の物理的な力は効かない。なのでその見た目に従い、ユメが炎魔法を放出した。


『……!』

「あ、効いてます」


 その炎魔法によってツタや葉が燃え盛り、大華樹は苦しむように藻掻く。

 どこまでも見た目通りか。これなら苦戦はしなさそうだな。


「ユメ。この場はユメに頼りっ切りになるけど良いか?」

「はい! 構いません! このまま焼き尽くしちゃいましょう!」

「アハハ……可愛い顔で物騒な事言っているね……」

「まあ、実力はスパイダー・エンペラーで立証済みだからね……」


 この敵相手じゃユメの苦労が多くなる。なので俺達はせめてツタを防ぐ事くらいはしていた。


『……!』


「あ! ライトさん! 花の中から眼が!」

「芽? 発芽でもしたのか?」

「違います! 眼球です!」

「あ、本当だ」


 大華樹から眼が現れた。

 となると、あそこが弱点だな。あからさまな弱点に向け、俺は木刀を突き刺した。


『…………!』


 それによって体力ゲージが一気に減り、空になって大華樹は絶命した。

 貰える“EXP”はレベル相応。まずまずの相手だった。


「……。けど、妙だな。【モンスターを倒した】……の表記が出ない」


「という事は、そう言う事だよねぇ」

「そうだね。あまり考えたくないけど、これはそのタイプのモンスターだ」

「みたいだな。となるとこの自然全てがそうか」

「その様ですね……」


 その瞬間、周りに顕在する全ての植物が動き出し、至るところからツタが生えて天まで届く。

 巨大植物型モンスターの群れという事だ。


「さしずめ花畑ってところか」

「グロテスクな花畑だけどねぇ」


『『『…………』』』


 無数の花が咲いた。

 もう少し進みたいところだったけど、もうしばらく時間を取られそうだな。こんなに迫力のある花畑は生まれて初めて見たよ。

 行動範囲を広げる為の散策。その第一歩は、無数の花畑によって歓迎されるのだった。

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