ステージ20-23 最後の仲間
「──伝家の宝刀・“星の光の剣”!」
「──奥の手・“星の衝突の拳”!」
向き合った瞬間に互いが専用スキルを使い、光の速度で数千回斬り付け、星その物の衝撃波が散る。
今度は互いに体力は尽きず、体力ゲージも変化無し。完全に相殺し合ったか。
「──奥の手・“暗黒竜神拳”!」
「上級職の上乗せスキルか。悪くないね」
「……! 必殺スキルが……!」
ソラヒメがシャドウと共に行動した事で得たであろう必殺スキルを使ったが、それは通常攻撃の拳にて受け止められてしまった。
成る程な。ステータスもLv9999相応に戻った訳か。専用スキル同士の衝突も、一撃だけで数千回分を相殺した訳だ……!
「今の君達じゃ……私には勝てないよ」
「……ッ!」
受け止めると同時にソラヒメの拳を握り潰し、そのまま自分の元へ身体を引き付けて頬を殴り飛ばした。
その拳の破壊力は凄まじく、ソラヒメの頭と上半身が拳の衝撃だけで消し飛び、その体力が一撃で0となる。
【GAME OVER】
「ソラ姉!」
「ソラヒメ!」
「ソラヒメさん!」
【CONTINUE】
【RE START】
「大丈夫……残機が一つ減っただけ……!」
復活を果たし、身体も再生して立ち上がる。
今は大丈夫だとしても、通常攻撃が一撃必殺な首謀者。俺達の中でも物理防御力の高いソラヒメでこれだからな……。Lv9999。一撃で大陸規模は容易く粉砕出来る力だ。
「遠距離から仕掛けるのが妥当かな……──リーサルウェポン・“光の矢”!」
「今の私の瞬間最大速度は……亜光速に匹敵するよ?」
「……!」
【GAME OVER】
セイヤが光速の矢を放った瞬間、首謀者がその眼前に迫っていた。同時にその身体を蹴り抜き、胴体を貫通させて粉砕する。
光速の矢を避けた訳ではなく、放つ前に移動を開始して亜光速で追い付いたという訳か……。
別に特別な技を使わない存在が光に近い速度で迫って一撃必殺の攻撃を打ち込んで来る。とんだクソゲーだな……。
ターン制のゲームや、あくまで設定内だったりならまだしも、体感型のゲームでこの存在はバランスブレイカーも良いところだ。
それと同時にはっきりと理解する。本当にミハクは凄かったんだな……今よりも遥かに強い状態の首謀者を手玉に取っていたんだから。
「──奥の手・“光速拳”!」
「懲りないね。諦めな」
「……ッ!」
【GAME OVER】
ソラヒメが再び迫り、首謀者の通常速度を越える光速の拳を打ち付けた。
その攻撃は確かに当たったが、首謀者自身の防御力がある。なのであまりダメージは通らず、ソラヒメの残機が減らされた。
【CONTINUE】
【RE START】
「……! またやられちゃった……!」
「……っ。一時的なものだけど……少しは回復した。“全能上昇の書”」
「貴重なSPをもう使ってしまうのか」
SPは時間経過で回復する。だから使うなら今。そう判断した瞬間、俺は首謀者に消されるのを前提としてバフスキルを使用した。
一時的にでも仕掛けられるのならそれで良い。スキルの効果を消される前に俺自身が飛び出せば首謀者側も簡単にはやれない筈だからな。
「そらっ!」
「考えたね。確かに専用スキルを要する君は簡単に倒す訳にはいかない。まだ専用スキルを無効化出来るまでの回復はしていないからね。したらしたで、アレが復活するから困るんだけど」
白神剣と黒魔剣を振るい、連続して剣戟を仕掛ける。
それを首謀者は光の粒子からなる簡易的な剣で防ぎ、その背後からユメとセイヤ、頭上からソラヒメが嗾けた。
「──究極魔法・“轟炎乱火”!」
「──リーサルウェポン・“三連操矢”!」
「──奥の手・“メテオインパクト”!」
「単純な力押しと巧みな矢……厄介だね」
「俺も忘れるな!」
炎が飲み込み、矢が突き刺さり、頭を殴り大地に沈め、剣がその頭を刎ねた。
この世界での斬首はちょっとしたダメージにしかならない。身体が再生する瞬間にまた仕掛ける……!
「まあ、君達の攻撃も無意味さ」
「……! 自らの頭を……!?」
頭が無くなり、地面に埋まった首謀者の身体は首謀者の頭を放り投げた。
傍から見たらギャグみたいな光景だが、今の俺達にとってはとてつもなくヤバい状況だ。
「二人撃破」
「「……ッ!」」
【【GAME OVER】】
「……っ。バフスキルで防御力が上がっても一撃か……!」
ユメとセイヤの近くにて再生し、二人の身体を両拳で打ち抜き、その残機を減らした。
素で亜光速を出せる首謀者。基本的に投擲は自身の速度を越えるからな……亜光速以上で投げられた頭。そこから再生する肉体はもはや一種の瞬間移動だ。
「──奥の手・“光速拳”!」
「またかい。本当に懲りない。性懲りもない。飽きない。バカなのかな? まあ、私からしたら私以外の全人類はバカなんだけどね」
「……っ。アハハ……確かなダメージにはなっているからね……! バカみたいに突撃しまくるよ……!」
「命は大事にするものなんだけどね。常人の考えは分からないや」
【GAME OVER】
ソラヒメはソラヒメで、確かに一撃は与えられる必殺スキルを用いて仕掛け続ける。
そしてまた一撃か……。上級職のバフスキルは通常のそれを越えるんだけど、プレイヤー同士のレベル差はそう簡単には埋まらないのか。……いや、ゲームシステムを完全に把握している首謀者。的確にダメージの通る急所に当てているのかもな。
【【【CONTINUE】】】
【【【RE START】】】
「復活したら……すぐに!」
「復活時の無敵時間を利用するか。考えたね」
復活した瞬間に回し蹴りを放ち、やる事が無い首謀者は飛び退いて距離を置く。そこに炎と矢が打ち込まれて爆発を起こし、その爆炎の中に俺が飛び込んだ。
「そこォ!」
「面倒な連携だ……!」
「ハハ、月では連携を褒めてくれていたのにな。そこまで余裕が無くなったか」
「私は安い挑発なんかには乗らないよ。けどね……黙れ!」
俺の腕を強く掴み、そのまま数百メートル投げ飛ばされる。
本当に挑発には乗っていないな。冷静さは失わず、わざわざ俺の体力が残る範囲で吹き飛ばしたか。
「──奥の手・“光速拳”!」
「──究極魔法・“落雷”!」
「──リーサルウェポン・“霆の矢”!」
「鬱陶しいな……!」
【【【GAME OVER】】】
俺を投げ飛ばした瞬間にソラヒメの拳が突き刺さり、雷魔法と雷撃の矢がその全身を破壊する。
流石の首謀者も苛立ちがより一層際立ち、即座に三人をゲームオーバーにした。
【【【CONTINUE】】】
【【【RE START】】】
「アハハ! 効いてるね! ダメージは少ないのに、確かに効いてるよ!」
「やかましい……日本の漢字で姦しいと言う言葉があるけど、君は一人でもかなり五月蝿いね……!」
ソラヒメ笑ってが挑発し、首謀者は煩わしそうに返す。
ここからじゃ容姿は見えるけど会話がよく聞こえないな。さっさとソラヒメの元に行くか。
「けど、君もそろそろ余裕が無くなってきたんじゃないかな。今日のみならず、今までに何回GAME OVERになったかな? もう後一つか二つってところじゃないかな」
「アハハ~。さあ、どうだろうね。って、濁すのは答えを言っているようなものか。ライトもユメちゃんもセイヤにも聞こえない距離だから良いけど……──残り0かな?」
「そうか。ならば消えるが良い」
「私の、大好きな仲間達が邪魔するから難しいかなぁ」
「……!」
「オラァ!」
何かを話していたソラヒメと首謀者だが、その隙を突いて二刀流で首謀者を斬り伏せた。
同時に魔法と矢も打ち込まれ、辺り一帯に粉塵が舞い上がる。
「ソラヒメ。大丈夫か? もうそろそろ残機の方も……」
「大丈夫! まだ残機はあるからね!」
「そうか……」
一先ずまだ残機はある……具体的な数は分からないけど、大丈夫みたいだな。
まあ、もし大丈夫じゃなくてもソラヒメなら残機数を誤魔化したりしそうだけど……それについては俺とユメが今後どうなるのかを黙っていた罪があるからな。どんな事になろうと、俺はソラヒメに深く言及はしない。それがソラヒメの想いを尊重する上で絶対にやるべき事だ。
「良い事を教えてあげようか? 彼女の残機は」
「いや、いい。ソラヒメが言いたくないなら俺が聞くのは礼儀に反するからな」
「……。そうか。くだらない友情だね」
それについて話そうとした首謀者だが、文字通り聞く耳を持たずに斬り掛かる。
首謀者はつまらなそうに吐き捨て、再び俺の身体を吹き飛ばした。……本当に地味なダメージしか与えて来ないな。なんだかんだ言って専用スキルは本当に怖いみたいだな。
「……。ライト。ありがとう」
ソラヒメが小さく言い、俺を吹き飛ばした瞬間の首謀者へ仕掛ける。首謀者はそれを受け止め、拳を握り、
「“光の矢”」
「……! 遠距離は本当に邪魔だね……」
カウンターを放とうとした瞬間にセイヤの矢で気が逸れた。その隙を突き、ソラヒメは態勢を低くして蹴り上げるように顎へ長い足を叩き込む。
「苛立たせるのが本当に上手いようだ。君達姉弟は……!」
「……!」
「“身代わりの矢”。僕の目が黒いうちは、ソラ姉には触らせないよ」
【GAME OVER】
「セイヤ……!」
「チィ……!」
苛立ちを見せる首謀者がソラヒメを狙い、既に放たれたいた矢とセイヤが入れ替わってソラヒメの守護に回る。
首謀者は舌打ちをし、改めてソラヒメを狙うが、俺とユメがそれをさせない。
「そらっ!」
「“ライトニング”!」
「あー……イライラする……!」
剣を弾き、魔法を消し去り、イラつく首謀者が広範囲に衝撃波を放ってまとわる俺達を弾き飛ばす。
表面上のダメージは無いけど、精神面では結構削れているな。
【CONTINUE】
【RE START】
「……! おっと……。成る程ね……。さて、僕も復活したよ。首謀者?」
「次から次へと……邪魔だね……本当に……!」
「そんな大振りじゃ……僕にすら当たらないよ」
「……っ!」
セイヤも復活し、首謀者が隙だらけの拳を振るう。それをセイヤはスライディングの要領で避け、首謀者の背後からその頭に矢を突き刺した。そのままそこから離脱する。
遠距離職のセイヤ。引き際もちゃんと弁えているな。
一方で首謀者は頭を貫く落武者のような矢を引き抜き、俺達を睨み付けて言葉を続けた。
「やれやれ……君達は本当に面倒な存在だ。今から本当に全力で君達を屠るよ……!」
より一層怒りにも近い感情を見せ、亜光速で駆け出す。
余裕ならまだあるんだろうけど、不自然な程の苛立ち。推測するなら、地球と一体化する事で失われつつあった感情が分離する事で一気に戻り、混乱にも近い状態になったみたいだな。
冷静さは欠いているが、素の実力が凄まじいのもあって意表は突けても決定打にはならないか。
「まずは……厄介な遠距離……!」
「厄介と思って貰えて嬉しいよ」
亜光速で狙ったのはセイヤ。迫る首謀者を何とか紙一重で躱し、身を翻して矢を得物のように扱い鏃で斬り伏せる。
躱したセイヤには裏拳が叩き込まれるが、ソラヒメがそこのカバーに入った。
「ソラ姉」
「大事な弟に暴力は振るわせないよ!」
「面倒な姉弟だ……!」
ソラヒメが裏拳を受け止め、そのまま拳を掴むように握って軸とし、空中回し蹴りを首謀者の頭に叩き込む。同時にセイヤは一定の距離を置き、複数の矢を首謀者に刺し込んだ。
「……っ」
「──奥の手・“暗黒龍神・刃弾拳術”!」
「──リーサルウェポン・“漆黒魔導・サイエンスアロー”!」
シャドウ達と共に行動した事によって使えるようになった必殺スキルをゼロ距離で放ち、その体力を削る。そう、まだ首謀者はさっきの俺のバフスキルを解除していない。継続中だ。
少なくとも、今なら一気に仕掛けられる。
「──究極魔法・“魔戦神呪”!」
「くっ……!」
ユメもシャイン達と共に行動する事で身に付けたスキルを使い、更に体力を削る。俺のSPもまた少しは回復した。一つくらいなら必殺スキルを放てる……!
「──伝家の宝刀・“氷舞・武人斬”!」
「次から次へと……!」
マイとリリィ。テンジンさんと共に行動した事で身に付いたスキル。ちょっと強い縦斬り。上級職の力が入っているので今のSPじゃ使えないスキルだったが、何故か使えた。
本当に何でだ? 別にSP軽減のスキルを使っている訳でもないのに。けど、考えるのは後だ。今は首謀者に集中する。
「──奥の手・“剣聖拳”!」
「──リーサルウェポン・“マジックアロー”!」
「……ッ!」
そしてソラヒメとセイヤが畳み掛け、俺とユメと共に行動した事によって身に付けた必殺スキルを使用。怒濤の連続攻撃によって首謀者の体力が一気に減り、
【GAME OVER】
その残機をようやく一つ減らす事が出来た。
「ソラヒメ! セイヤ! すぐに離れるんだ! 今の首謀者は復活した瞬間に専用スキルを使ってくる!」
「「…………」」
残機は減らせたが、ソラヒメ達の残機は増えない。その効果も健在。そして首謀者のSPは今の時点で全快する。
俺は二人に注意を促したが、ソラヒメとセイヤは小さく笑い、俺達の方を向いた。
「どちらにせよ、専用スキルからは逃げられないよ。だから、最後の最期まで食い付いて見せるよ。ライト! ユメちゃん!」
「ああ、後の事は任せたよ。君達が全世界の希望だからね」
「……え……?」
何言っているんだ二人は……と、そう思いたくなったが、俺はそれが何を意味するのか理解していた。
ソラヒメとセイヤの態度。そして俺は聞いてもいないのにずっと二人の残機を気に掛けていた。もう、何が起こるのかは感付いているんだ。
「だったら……! “転移”で月にでも行けば……!」
「アハハ~。ライトとユメちゃんを置いて? 有り得ないね。それに、首謀者も“転移”は使えるよ。“千里眼”も使えるだろうし、世界中どこに逃げても無駄かな。最終的には私達が二人を置いて行く事になっちゃうけど……今は二人を見ていたいんだよねぇ。あーけど、ライトとユメちゃんに文句を言えないのが心残りかも」
「ああ。僕達は次の一撃の準備をするよ。だって、ライトとユメの残機も別にもう多い訳じゃないんだろう?」
「そんな……ソラヒメさん……セイヤさん……」
「今は感情論を優先している場合じゃない……二人だけでも助かってくれ……! 俺達は、少なくとも二人よりはまだ残機があるんだ……」
ソラヒメとセイヤは首謀者の散った場所に力を込め、そこへ光の粒子が集まる。──その時が来た。
【CONTINUE】
【RE START】
「──奥の手」
「無敵時間はあっても──奥の手」
「威力を弱める事は出来る──リーサルウェポン」
「──“星の衝突の拳”……!」
「──“剣聖魔法拳”!」
「──“剣聖魔法弓”!」
専用スキルとバフによって威力の上がった必殺スキルがぶつかり合い、周囲を一気に飲み込む。
同時に目映い光が辺りを包み込み、巨大な爆発が巻き起こった。その中にて、光の粒子となるソラヒメとセイヤの姿が映った。
「──ねえねえ! セイヤも残機一つだったのに何で言わなかったの!」
「それはこっちの台詞だよ。ソラ姉も一つだったんじゃないか」
「私は良いの! だってお姉ちゃんだからね!」
「やれやれ……どんな理由なのか……」
最期にいつものような軽いノリで話し合い、俺達の方を一瞥し、二人は笑った。
「じゃあね」
「二人とも! 二人が消えて世界が戻るんじゃなくて、二人が残った上で世界を戻してよね! あんなのさっさとやっつけちゃってさ!」
【【GAME OVER】】
「ソラヒメ……! セイヤ……!」
「二人とも……!」
目映い光は周囲を飲み込み、確かに専用スキルを相殺した。それのみならず、セイヤ辺りだろうか。いつの間にか俺とユメの近くには専用アビリティからなる地形が生み出されており、直撃は避ける事が出来る。
そんな未来……誰も望まなかったのに……。
「やれやれ……バカな真似をしたね。君がGAME OVERになればまた一回分の専用スキルが使えたと言うのに……」
「……バカ野郎……俺に自己犠牲どうとか説教していたのに……自分達が消えるなんて」
「ソラヒメさん……セイヤさん……」
首謀者の話など耳には入らず、ソラヒメとセイヤの消えた場所にて佇む。
光の粒子はまだ残っている。けどそれは、風が吹き抜けると同時に天空へと消え去った。
シャイン達もそうだ。何ならソフィアにサイレン。他のギルドマスター。全員が光の粒子になった。キラキラとした輝き。現実世界より消滅後の光景が綺麗なのがまたムカつく。
「やるぞ……ユメ……!」
「……はい。ライトさん!」
だが、落ち込んでいる場合じゃない。落ち込む時間は消えていったみんなにとって失礼に当たる。事は簡単だ。首謀者を倒し、世界が戻ればそれで完結する事。
俺とユメは立ち上がり、ムカつく程に涼しい面持ちで佇む首謀者に向き合った。




