ステージ20-20 戻る力
【光栄に思うと良いよ。土人形で始末出来るのをわざわざ私が戦ってあげるんだからね】
「そうじゃな。ならば感謝するとしよう。主ではなく、主の両親にの」
【フン、戯れ言を】
──一閃、テンジンさんと首謀者の拳がぶつかった……いや、テンジンさんの拳は首謀者の顔を打ち抜いているが首謀者の拳は逸らされていた。完全に受け流したみたいだ。
「一撃目はワシのモノじゃの。分身のような存在じゃからイマイチ手応えはないがの」
【やはり純粋な経験の差は君の方が上か。地球になって実年齢は億を超えたけど、それは数分前の出来事だからね】
首謀者は拳を引っ込め、大地を操作。そのままテンジンさんの背後から大地の拳を打ち付けるが、その全てをテンジンさんは見切って躱していた。
「純粋な生身じゃないにせよ、狙い先を読むのは簡単じゃ。ワシを狙っているんじゃからの。攻撃の瞬間にワシがそこに居なければ良いだけじゃ」
【老獪な戦い方だね。私の師匠や先生を名乗るのは烏滸がましいけど、今の私になるよりも前に出会っていたら参考になる動きだ】
互いに鬩ぎ合いを織り成し、互いに打ち合う。
テンジンさんが首謀者の拳を見切って避け、首元に回し蹴りを打ち付ける。蹴られた首謀者は倒れつつも片手を支えに跳躍し、踵落としを放つがそれも避け、着弾地点が砕け散る。
それによって生じた粉塵をものともせずに潜り抜け、首謀者の顎を蹴り上げ、そのまま流れるような動きで腹部に足を突き刺してその身体を吹き飛ばした。
今のところテンジンさんが優勢だな。流石の熟練の技だ……と、土人形を複数体斬り倒して俺が思う。
「チッ、爺さんばっかに任せとくかよ! 元々俺達が狙いみてェだからな! “神魔破弾”!」
「そうだね! お兄ちゃん! “呪経”!」
【近距離の老人に中距離の君達……少し大変かな】
「ホッホ、良いコンビじゃ」
そんなテンジンさんに感化され、キングとクイーンがSPを使わぬ神官と呪術師としての力を放出した。
天から弾丸が降り注ぎ、クイーンの言葉が首謀者を蝕む。
「はっ!」
【……!】
呪経、俗に言う呪言によって動きを止めた首謀者にテンジンさんの拳が突き刺さる。
その一撃で首謀者の身体が吹き飛び、大地を抉りながらその肉体が消滅した。
「やはり分身。主自身が無事であっても即座に消え去るようじゃな」
【そうだね。もう少し強度を上げようか。その方が戦いっぽくなるからね。彼に言われてエンターテイナーとしての在り方を少し思い出した……ような気がする】
「そうかの」
新たな分身を造り、首謀者は話す。
自分に絶対の自信を持っているからこそ、今までの自分の在り方を否定したくない様子の首謀者。感情は無くなりつつ、読んで字の如く人間離れしても、本人の意識はある。
まだ首謀者としての存在は残っているみたいだな。
【けどまあ、容赦する気持ちは薄れている。遠慮無くGAME OVERにさせて貰う】
それだけ告げ、首謀者はテンジンさんへ大地を突き出した。
流石に肉弾戦はやめたか。それでも攻撃は当たっていないけど。
「遠慮しない割には随分と生温い攻撃じゃな……」
【そうかな? それなりの速度と威力はあるんだ。君じゃなければほぼ即死なんだけどね。……だからこそ君も避けるしか出来ないんだろう?】
「フム、そうじゃな」
スルリと大地の進撃を躱し、首謀者の眼前へと迫る。同時に首謀者は空を操り、周囲の天候を暴風雨に変えた。
これ程の雨なら土人形は脆くなると思うけど……。
『『『…………』』』
「駄目だな。泥人形になって逆に厄介だ」
泥と化し、斬撃が流動されるようになってしまった。
まあ、泥なら乾かせば良い。火属性とか風属性とか使えばまだ対処は出来る。
早いところ全滅させてテンジンさん達の手助けに向かいたいな。冷静に見えるけど、俺はかなり焦っている。
「“神罰”!」
「“呪弾”!」
【効かないよ】
神の力と呪いの力。それらを無効化し、大地を操り無数の突起物が出来る。それが変化し、火山の噴火を引き起こした。
地形なんて簡単に変わる。本当に厄介な力を手に入れたな、首謀者は……!
「この距離なら……“シャイニングランス”!」
【無意味だ】
「……!」
遠距離も使えるユメが手助けに魔法を放ち、それが片手で掻き消される。……って、それは何の力だよ。もはや何でもありだな。いや、今更か。
【フム……少しは力が戻ったかな。スキル等を無効化する事が出来るようになった。アレの復活もその分縮まったけど、何とかなりそうな範囲内だ】
「成る程の……」
スキルや魔法の無効化。首謀者が最初に使っていた術。
ミハクを封印するのに多くの光の粒子を失った首謀者だが、ミハクが元に戻りつつあると同時に力も戻っているらしい。
本当に諸刃の剣って訳だな。ミハクが復活するまで持ち堪えられたら良いけど──
【……。ほら、こんな芸当も出来るようになった】
「……ッ!」
「……! テンジンさん!」
一瞬で移動し、テンジンさんの腹部を貫いた。
──そう、力が戻るという事は、首謀者自身のステータスも向上するという事。今まではLv9999の半分程の力だったのだから当然だ。
その差を埋めるマイのバフスキルもあるけど……。
【さっきより自分の動きが遅くなっているって思わないかな? お爺さん】
「……ふっ、その様じゃの……」
スキル無効化の力が戻った今、その様なバフスキルも既に意味を成していない。
半分以上はテンジンさん自身の動きだったが、その動きに付いて来れる肉体は限られている。首謀者自身のステータスは上がり、俺達のステータスは下がる。考えるまでもなく最悪に近い状況だ。
『……!』
「……っ!」
そして当然、それはvs泥人形にも作用する。
素早く、重く、強い攻撃と動き。バフスキルのお陰で対等以上に渡り合えていたが、それが切れた今、余裕も一気に無くなる。
そもそも、土人形の時点で“転移”を使う余裕が無い程の強さを誇っていたんだ。バフスキル込みでそれ。つまり今は……ヤバイな。
【アッハッハ、若者を消すなと言っていたね。君の体力はまだ残っている。敢えて残した。まず始めに、その若者を消そうか】
「……!」
「「……!」」
その瞬間、首謀者の視線がキングとクイーンの元に向いた。同時に一歩で距離を詰め、片手に力を込める。
【これでGAME OVERだ】
「……っ“神の”……!」
「……“呪”……!」
一瞬で迫った首謀者の行動に二人は反応が遅れた。スキルの準備をするが、スキルを放つよりも前に首謀者の技が放たれる。
マズイ。俺が行けばまだ……けど、ここで“転移”を使えば使うよりも前に泥人形にやられる……! そうなるとゲームオーバー……コンティニューまでの時間で全てが終わってしまう……! 思考は走馬灯的に一瞬で出来るんだ。どうすれば三人が助かるか、超速で思考を回さなければ……!
「消えるのは……ワシのような老人で十分じゃ」
【……おや? 確かに二人を狙ったんだけどね……】
「「……!?」」
そして首謀者の攻撃は、テンジンさんに突き刺さっていた。
当の首謀者も疑問に浮かべており、そんな首謀者に神と力と呪いの力が遅れて発動する。
【おっと、攻撃スキルは継続していたか】
それらの力によって首謀者は弾き飛ばされ、テンジンさん、キング、クイーンの元から引き離される。
テンジンさんは地に伏せ、キングとクイーンが駆け寄った。
「オイ! 爺さん……!」
「何で私達を……!」
「ホッホ。ワシの座右の銘が若者の道を切り開く事じゃからな。その道を阻む障害を消したに過ぎん。一時的かもしれんが、それで主らに少しは道を教えられたなら十分じゃ」
【GAME OVER】
「「……っ」」
「テンジンさん……!」
体力が無くなり、光の粒子となって消え去る。
テンジンさんの座右の銘。俺も最初に出会った時、似たような事を聞いていた。だからこそテンジンさんは……。
【成る程ね。武術家。挑発スキルか。私が攻撃を放つ直前に挑発のスキルを使い、私の意思に反して攻撃の方向を逸らした。魔法とかのスキルと違って、あくまで自分自身に干渉させるスキルだからこそ無効化出来なかったと言う訳か。厄介な存在だったよ。けど、消滅したなら何よりだ】
「……っ。テメェ……!」
「許せない……!」
基本スキルである挑発。それを使い、攻撃の標的を自分に定めた。
それのお陰でキングとクイーンは無事だった。最期まで偉大な人だった。必ず世界を戻して孫と再会させるから一時的に休んでいてくれ……テンジンさん
「お前らは……邪魔なんだよ! ──伝家の宝刀・“轟炎剣”!」
『『『……!』』』
火属性の必殺スキルにて俺を囲んでいた泥人形共を消滅させた。
後一秒。一秒でも早くあの雑魚共を一掃出来るだけのSPが溜まっていたら誰も犠牲にならなかったのに……! 決して遅くはないSPの回復速度だが、こう言う大事な時に限って遅く感じる。他の専用アビリティでも間に合わなかった。テンジンさんの消滅はどう足掻いても変えられない未来だったのかよ……!
「首謀者ァーッ!」
【おや、全員集合だね】
他のみんなも自身の相手に始末を付け、首謀者へと飛び掛かる。
当の首謀者は分身を消し去り、少し距離の離れた場所にて俺達を見回した。
【あの人形達じゃレベル足らずだったかな……まあ、力が戻るよりも前に造り出した存在。所詮はその程度という事だね。私も少しは力が戻ったんだ。ここから更に本気を出して行くよ。エンターテイナーとして思うところはあるけど、私の力に何処まで耐えられるか。それを見るのも悪くない】
「ハッ、何か色々言ってるけど……総まとめにすると自分にそれっぽい理由を付けて言い訳してるだけだろ! 地球と一体化する前のアンタの言葉にはまだ同意出来る部分も全体の0.01割くらいはあったけど……今のアンタにはもう何も同意出来ない……!」
【同意は求めていない。求める必要が無い。何故なら私の生み出すモノは全てが世界から肯定されるのだからね。だって私が世界その物だから。……もっと簡単に言おうか? 私の生み出す全ては完全無欠の存在。他者がいくら足掻いても到底及ばない存在。私以外の生み出す作品はヒトも芸術もエンターテイメントも、全部が私にとって埃同然なのさ。埃は吹けば飛ぶ程度の存在なのにヒトや生き物によってはアレルギーを起こすだろう? 要するに邪魔なんだよ】
「本当に性格が変わったな。急激なキャラ変はゲームをプレイするプレイヤーが付いて来れないぞ? 漫画やアニメ、その他の作品物でも同じだ。テコ入れの為にたまにキャラ崩壊するだけならまだしも、アンタの変わり様はもはや別人だな」
【さっきまでの私とは違うからね。小さなヒトだった私に比べ、今の私は大きな存在だ。何分前かに言ったように、何れは宇宙にも及ぶ程のね?】
言動が大きく変わった首謀者。地球と一体化するだけでこんな風になるのか。地球と一体化するのは初心者にはオススメ出来ないな。
そして、こんな首謀者の存在はもはやどうでもいい。全人類とテンジンさん。その他にも様々な人達がコイツの下らないゲームによって消滅したんだ。俺は他のプレイヤー達に変わり、その遺恨を晴らす。
テンジンさんが消滅し、力を取り戻しつつある首謀者。俺達は十三人にてこの首謀者を打ち沈める……!




