ステージ3-1 箱の中身
「……それで、どこに行く? 全国を巡ると言っても場所は様々だよね?」
「そうだな……日本だけでも北海道から沖縄までそれなりの……2500㎞前後の距離がある。それが倍以上になっているなら5000㎞近く……北海道を通って沖縄方面に行くルートか、沖縄を通って北海道方面に行くルートかの選択だな。……まあ、そこに行くまでもなく何らかの手掛かりが掴めるのが一番だけど」
ギルドを後にし、俺達は近くの公園にあったベンチに座ってこれからの行動について考えていた。
それならあのままギルドで話していても良かったかもしれないが、ギルドもギルドで忙しそうなので特にギルド内での仕事はしていない俺達は一先ず離れたという訳だ。
しかしながら、どこに行こうか。それが悩みだった。
「それにしても、ギルドへの人の出入りは結構多いんだな。ギルドメンバー以外の姿が結構見えるよ」
「そうですね。やはりクエストなどを受けられるので何をしようか悩んでいる人達にとってはありがたいのでしょうか」
「確かにな。どこからクエストを仕入れているのかはサイレン達も知らないらしいけど、自動的にやる事が増えていく。便利なものだよ」
このまま悩んでいても先に進まない。なので気を紛らわせる為にもギルドに入っていく人達について話した。
あそこは本当にゲームなどによくある“ギルド”という形を織り成しており、重宝される存在となっているようだ。
クエストの受注に酒場のような食事を味わえる場所。いつの間にか、管理所が完全にゲームの世界に取り込まれていた。
「まあとにかく、日本全国を巡るのも良いけどこの辺の地の利を知っておく必要もあるか。ゲームの世界と融合して本来は存在しない筈の建物や場所が生まれたからな。コンクリートの道路もレンガの歩廊になっているし、完全なゲームの世界になってる」
どこから行くかは分からないまま。しかし近辺も知らぬままこの世界を知る事も出来ないだろう。
なので俺達はまずこの辺りの地形を知る事にした。
「建物や樹は増えたけど、逆に減ったものもあるね。コンクリートの道路とかがその一つだけど、なんか“レコード”の街に行く前より侵食されているような……」
「確かにそうだな……ちょくちょく小さなアップデートもされているって事か?」
「可能性はあるね。もしかしたら“NPC”の意思とかもそれで追加されたのかもしれない」
「なんだか全て首謀者の手の平の上って感じがあって嫌ですね……」
「ああ……俺達の行動全てが首謀者の思惑通りって気がしてならない……」
ユメの言葉は、薄々俺も感じている事だった。
建物や“NPC”のアップデートがされている可能性もしかり、それらによって行動を先導されているかもしれないという気もしていた。
「まあ、手の平で踊らされているってならそのまま躍り続けて手の平に風穴を空けてやるつもりで行動を起こすか」
「うん、それが良いよ! 首謀者の目的は未だに分からないけど、何かを目論んでいるなら思いっきり手の平を砕いちゃおっか!」
「そうだね。首謀者にも何人かの味方が居る可能性もあるけど、大半の人類を敵に回したんだ。何かの目的があったとしても、首謀者は何れ蹴落とされるさ」
「はい。その役目は私達も担いましょうか!」
首謀者の目的。本人は楽しませる為と言っていたが、信じ切れる訳もない。
なので何かの考えがあるならその考えを消し去る気概で俺達はこの世界を攻略するだけだ。
「ああ、それが一先ずの目標だ。……そう言えば、サイレン達にこれを見せるのを忘れていたな。“レコード”の街で貰った箱。どうする?」
「あー、そう言えば貰ったねぇ。何なら開けちゃう?」
「今回はソラ姉の意見に賛成かな。スパイダー・エンペラーやアイビーさんの口振りからして武器になる何かが入っているのかもしれない。僕達はライトの家で装備を揃えたけど、まだ心許ないからね。新しい武器が手に入るならそれが良さそうだ」
「私からも異議はありません。敵は例外みたいな存在ですけど、今の武器でスパイダー・エンペラーにあまりダメージは与えられませんでしたからね」
「あ、ああ。そうだな。その通りだ」
他の意見はともかく、スパイダー・エンペラーにあまりダメージを与えられなかったとユメから聞くと……何だかな、まあいいか。
何はともあれ、貰った箱を開けるのは全員が賛成。俺も気になる。なので早速開けてみる事にした。
「じゃあ、開けるぞ」
「「「…………」」」
俺の言葉に三人は頷いて返す。特に怪しい物でもないので、特に警戒もせず普通に開けた。
「これは……武器だな。本当に武器だ」
「ですね。えーと……剣に手袋……でしょうか。そして弓矢に杖。間違いなく武器です」
「うん、そうみたい。この手袋? は多分ナックル的な役割かな? メリケンサックみたいな」
「メリケンサックとは少し違う気がするけど、ナックルみたいな物というのは合っているかもね。……けど、偶然かな。全部が僕達の職業に合った武器だ」
その中に入っていた物は、剣にナックル、弓矢に杖という、剣士の俺や魔法使いのユメ。格闘家のソラヒメに弓使いのセイヤに合った物。
その事からしても、中身は俺達の職業に合わせた武器という事は明白だ。
「確かに開ける人によって中身が変わるとは言っていたな。そう言う事か」
「開けた瞬間に武器が生成されるという事でしょうか。ゲームなら別に不思議ではないですね」
「確かにゲームなら何故か自分に合った武器が貰えるのはよくあるからねぇ。どういう原理かは分からないけど」
「僕達の身体からデータを解析。それによって適性の武器が形成される……ってところかな。その材料は何処から来るのか分からないけどね」
内部に、特に違和感はなかった。
そりゃあ確かに謎はあるが、開ける人によって中身が変わる入れ物と事前に伝えられていたならこんな事もあるのだろうと受け入れる事は出来る。
この国の娯楽の歴史は深いからな。その娯楽のような世界になったここなら何が起こってもおかしくない。
「まあ、これがお礼と言うのは確かなようだな。ありがたく使わせて貰おうか」
「そうしよっか! そう言えば私、ずっと腕には装備を着けていなかったからねぇ」
「はい。私も力不足は感じていましたから、助かります」
「僕としても助かる。あくまで玩具の弓矢を使っていたからね。それでようやく装備って感じだ」
全員が受け取り、それを装備する。俺達の脳内には全員分の声が流れてきた。
【ライトは“光剣影狩”を装備した】
【ユメは“夢望杖”を装備した】
【ソラヒメは“空裂爪”を装備した】
【セイヤは“音弓”を装備した】
「“光剣影狩”に、“夢望杖”。“空裂爪”に“音弓”……全部が全部、また随分と大層な名前だな。けど、確かに能力は上がっているみたいだ」
「うーん……空を裂く爪かぁ。何だか私が裂かれているみたいで嫌だなぁ……」
「夢望杖……私は何かを望んでいるのでしょうか……」
「あくまで武器の名前だから二人は関係ないと思うよ。僕は割とシンプルな名前で良いね。まあ、武器の名を呼ぶ機会なんてそうそうないから、あまり気にしなくても良いかな」
「俺の場合は光の剣で影を狩るって感じか。光に照らされると逆に影が生まれると思うんだけどな。まあいいか」
各々で装備した武器を見やり、各々で感想を述べる。
純粋に武器の性能を示しているような名から持ち主の存在について触れているような名前まで様々。けどまあ、悪い感じではなかった。
「取り敢えず、強くはなったみたいだな。攻撃力がプラスされている」
「そうだねぇ。まあ、私の場合は元々なんの補正も掛けていなかったんだけどね!」
「それであの破壊力か……。普通の格闘家で物理攻撃力中心に割り振ってもあんな風にならないと思うが……」
「まあ、現実世界がゲームのようになったなら生まれついての素質が加算される可能性はあるからね。能力に成長力。ゲームバランス的にそこまで大きな差は無いんだろうけど、ソラ姉は天才肌だったのかもしれないね」
「生まれついての素質ですか。それならもしかして、ライトさんの特殊スキルもそれに関係しているのかもしれませんね」
「成る程。そう言う考え方も出来るか。けど、俺のステータス自体は平均的な剣士とあまり変わらない気もするけどな……」
生まれ持った素質が能力や成長力に関係している。それはあるかもしれないが、俺の特殊スキルはそれとはまた根本的に違う気がするな。
ここからは俺の勘だが、この世界が融合する前日に“AOSO”に強制ログインした事が関係しているような気もする。唯一かどうかは分からないが、俺とユメだけしか体験しなかった“AOSO”への強制ログイン。それによって何らかの作用が起こり、俺の必殺スキルだけが残った可能性もある。
まあ、それならユメにも何かが残っていてもおかしくないから推測の範囲を抜けられないんだけどな。
「俺のスキルについては今後の行動で分かるかもしれないしな。開発段階や発売したばかりのゲームには小さなバグがいくつかあって、それの修正パッチも後々配布される事もあった。今回この世界にした首謀者も色々と手を加えているみたいだし、首謀者を見つければ分かる可能性もある」
「全ては首謀者次第……という事ですね。あの様子なら会う事さえ出来れば色々聞けそうです……!」
「ああ。快楽主義者って感じはあったからな。面白いと判断されれば色々教えてくれるかもな」
「秘密を握られているのは気に食わないけど、どちらにせよ一泡吹かせるつもりだからね。それについても首謀者を見つける事が大事かな」
「そうだね。首謀者の手の平に穴を空けるのも目的だから、早く行動しよっか!」
新たな武器を新調する事は出来た。装備は相変わらず普通の服だが、そのうち装備も一新しなくちゃならないな。
全ては首謀者を捕らえ、ゲーム攻略と同時に色々聞き出すのが先決だ。
「だな。取り敢えず近辺を見て回って地形を覚えるか。マップ的な物は無いんだな、そう言えば」
「あるとしても旧世界の地図くらいですかね。融合してからのマップはあるのでしょうか」
「確かに気になるね。マップがないゲームもあるけど、基本的にあった方が効率的だ。……まあ、“転移”を使える僕達の場合は迷う事は無いけど……他のプレイヤーにとっては不適切だね」
「もしかして旧世界の地図もアップデートされていたりしてね~」
「……!」
「……!」
「……!」
ソラヒメの言葉に俺達は反応を示した。
「成る程。それはあり得る。この世界が変化し、木の枝や木刀が装備になるんだ。地図もついでに追加されているかもしれない……!」
「うん、可能性はある。さっきから可能性の話しかしていないけど、今回はその可能性が高い……!」
「それなら一先ず誰かの家に行き、マップの確認ですね!」
「あ、私の意見なんかの役に立ったんだねぇ。良かった良かった~」
わざわざ地形を覚える必要もない。そりゃまあ時と場合によっちゃ必要だが、マップがあれば多少の手間は省ける事だろう。
武器を新調した俺達は、今度はこの世界のマップを探しに俺達のうちの誰かの家に向かうのだった。




