ステージ20-10 最強の存在
「まあ、攻撃を通す事くらいは可能だ。上手く立ち回ろうか」
「………」
それだけ告げ、空中の首謀者は宇宙を飛来する隕石を引き寄せ、ミハクと俺達に向けて降下させた。
一応俺達も標的に入っているみたいだな。当たり前か。敵意はある。
「取り敢えず、迎撃するか……!」
「はい!」
「うん!」
「ああ」
その隕石に向けて俺達が構え、
「………」
「「……!」」
「「……!」」
「……。フム、やはりこうなるか」
次の瞬間にはミハクによって消滅させられていた。
殺意剥き出しの隕石。その全てが恐竜時代に終焉を齎したとされる隕石程の大きさだったが、ミハクが片手を振るうだけで塵となった。
月には空気も何も無いんだけど、どうやって消し去ったのだろうか。いや、腕を振るうと同時に少量の風を生み出してそのまま凪ぎ払ったのか。
塵になった隕石の粒子が風に巻かれて消えるように宇宙へ飛んで行くのが見えた。……超絶ヤバいな。分かっていた事だけど、ミハクだけ別世界の住人じゃないか? いや、まあ別世界と言えばAOSOの住人なのには変わらないんだけど、インフレが進みまくった末期のバトル漫画みたいな世界からやって来た存在って意味で。
完全にミハクだけ異質な存在だ。
「さて、どうするか」
『『『…………』』』
「………」
悩みつつ、複数体のゴーレムを召喚する。
一応首謀者の職業は“格闘家”なんだけど、隕石落としたりゴーレムを生み出したり魔術師的なやり方で戦っているな。
俺達の出る幕は本当に無い。せめて露払い役してもゴーレムくらいは片付けたいが、
「………」
『『『…………!?』』』
ミハクが通り過ぎると同時に全滅した。
ミハクが強過ぎて俺達は何もしていないな……。ただ観戦しているだけだ。
まあ、仕掛けたとしても首謀者にダメージを通す事が出来ないから見ているしかないんだけど。
「これなら……」
「………」
「ダメみたいだね」
次いで巨大な火球が放たれ、ミハクの吐息によって消滅した。
しかしまだ首謀者は諦めず、複数の属性を生み出して嗾けた。大概諦めが悪いな。
「どうかな?」
「………」
放ったのは火球、落雷、水の塊。隕石。大木の槍に氷塊。後はエネルギーの集合体。
その全ての大きさは何れも火星や金星、旧地球と同等くらい。当然破壊力も凄まじく、密集するだけで宇宙空間が歪んでいる。直撃すれば月。それのみならず地球に落ちて多大な被害を及ぼすくらいだろうな。──が、ミハクはデコピンのような素振りを見せ、指を弾くだけでその全てが完全消失した。
……もはや何も言えないな。惑星サイズ、惑星破壊クラスの攻撃すらミハクの前じゃ埃も同然か。まさしく最強の存在って感じだ。
「様々な属性も無効。こうなったら……」
「………」
まだまだ策はある様子。首謀者も首謀者で多様性に長けているな。
首謀者が力を込める。一体何をするつもりなのか……。
「カハッ……!」
【GAME OVER】
「………」
「……。は……?」
気付いた時、首謀者は吹き飛ばされていた。
ミハクが蹴りを入れた形跡があり、そのままゲームオーバーになる。今の一瞬で一体何があったんだよ……。
【CONTINUE】
【RE START】
「まさか……時空の壁すら砕くとはね……末恐ろしいNPCだ……」
復活した首謀者曰く、“時空の壁を砕いた”。
それが意味する事はつまり、時間関連の何か。この世界で思い付く時間関連のスキルは……推測するなら大魔王が使ったモノか。
時間を止め、仕掛けようとしたら止まった時間という概念を粉砕してそのまま首謀者を吹き飛ばした……と。
馬鹿げているその力。時間停止とは言わば重力操作。重くし、時間の流れをゆっくりにしている。つまりミハクはその重力の壁を容易く砕き、攻撃を与えたという事。
簡単に言えば、ミハクはブラックホールすら破壊出来るって訳か。ミハクに対してこんな事思いたくないけど……もはや化け物だな。いや、化け物の方がまだ温情かもしれない。
「ここは素直に……ゲームシステムで攻めようか。──“星の爆発の魔導”」
「あれは……私の……!」
ミハクをこのまま相手にするのは分が悪いと判断した首謀者は、俺達しか使えない筈の専用スキルにて迎撃した。
まず放ったのは魔導師の専用スキル。当のダークネスが反応を示し、巨大な爆発はミハクの身体を飲み込んだ。
「………」
「ミハク!」
「フフ……流石にこれは効くかな」
爆発に飲まれ、少し焦げ、ダメージを負ったミハクが爆炎の中から姿を現す。
あのミハクがダメージを負う程のスキル。同じような惑星破壊規模の攻撃と言っても、やっぱり専用スキルだけは別物って感じか。……いや、レベルが高ければ通常攻撃でミハクと戦り合う事も可能になるだろう。ただ純粋に今のミハクは首謀者を含めた全世界の誰よりもレベルが高いだけだ。
そして、レベルの高さがリアルへの反映になり、宇宙規模の破壊を生み出せるって事だな。
「さて、次だ。この距離なら詰め寄られるよりも前に片が付く。──“星の生誕の魔法”」
「次は僕のスキルか……」
次いで放れたのはシャインの、魔法戦士の専用スキル。
爆発ともまた違った光のエネルギーが集い、ミハクの身体を飲み込むように広がった。
「………」
「フム、これもまた少しだけか」
光が晴れ、またもや多少の傷を負ったミハクが姿を現す。
今現在の首謀者のレベルはおそらく、四桁中盤だった“AOSO”内での俺以上はある筈。そんな首謀者の繰り出す専用スキルを、“ある程度”で終わらせるミハク。Lv10000の万龍の時の姿で俺の専用スキルを受けた時は半分以上持っていけたけど、もはやその次元を超越しているみたいだな。けど、気になる事もある。
「なあ、首謀者。さっきから使っているアンタの専用スキルだけど、本来の職業じゃないのに威力を保証出来るのか?」
それは専用スキルの、首謀者が使った場合の威力。
剣士や剣聖の俺は剣の専用スキルを使い、魔法戦士ではあるが基盤が魔法使いのシャインは魔法の専用スキルになっている。他の世界ランカーも同上。
つまり、本来の職業とは違う首謀者がそれを使っても効果が薄いんじゃないかという事。
俺は更に指摘する。
「全宇宙の力を扱えると言っても、あくまで人工衛星を通しての“AOSO”基準。アンタが操っているのは光の粒子……強化粒子だけだ。その原理は変えられない筈なんじゃないか?」
さて、どう出るか。ミハクも空気を読んで待ってくれている。
首謀者は称賛するように返した。
「良い質問だね。君も優れている。それに答えるなら“YES”だ。今現在の私はLv9999。アレのレベルは分からないけど、仮にLv100000だとしても本来なら半分は削れるだろう。Lv10000程度なら一撃でも倒せる。けど、君が言うようにあくまで“ANOTHER-ONE・SPACE・ONLINE”の設定に則ったスキル。一応今の私も“格闘家”だからね。威力は控えめさ」
「成る程な」
予想通り、首謀者の専用スキルは不完全な専用スキルだったらしい。
首謀者の力なら設定を変えて通す事も可能に出来るだろうが、大ピンチの現在。温存する理由はないし、それをしないってのには理由があるのかもしれないな。
単純にミハクの速度が速過ぎて設定する時間が無いのか、もしくは首謀者に不利益が生じるのか。
俺は首謀者本人じゃないから確証を得る事は出来ないけど、推測する事は出来る。
「おや? 私へのデメリットに気付いたみたいな表情をしているね」
「……さあ、どうだろうな?」
顔に出していたつもりはないんだが、それについて指摘された。ブラフの可能性もあるから平静を保ったけど、かなり焦っている。
考えてみたら、この世界全てのスキルを扱えるらしいし“テレパシー”を使えても不思議じゃないからな……。
「フフ、隠す事はない。私はエンターテイナーだからね。何かデメリットかを教えておこう。ゲームが面白くなるなら惜しまないさ」
「今の状態で言われても説得力がないな」
「これは手痛い指摘だ。さて、本題に入ろう。私の力をアレに届かせる為には色々と準備が必要でね。それについての設定をする必要がある。設定するだけなら簡単なんだけど、スキルその物を書き換えなくちゃいけない訳だから君達の攻撃が私に当たるようになってしまうんだよ。一度遂行した設定を初期化する事になる訳だからね。君達が来るのが後一週間でも遅かったら途中保存の機能も付けられたけど、半年じゃやれる事に限りがあってね。この世界を改めて知り、アップデートを繰り返して現在の形になった。保存機能を実行するには時間が足りなかったんだ」
曰く、現在の設定を今の状態で保存する事は出来ないとの事。
ミハクに対して、様々な職業と適合し、本来の威力の専用スキルを設定するには時間が無かったようだ。どうやらそれを実行したらその間だけは首謀者に俺達のスキルや攻撃が当たるようになるらしい。
俺達からしたら願ってもない事だけど、ミハクに加えて専用スキルの使える俺達を相手にするのはいくらLv9999の首謀者でもツラいみたいだな。
首謀者のレベルは初耳だけど富士山で会った時点の、レベルが半分以下になっている分身でLv1000だったからな。首謀者だけは“AOSO”のレベルを引き継いでそこから更に上昇したみたいだ。
そんな首謀者は言葉を続けた。
「……しかし、今はそうも言っていられないかもしれないね。君達全員の邪魔が入るのとこのままアレの相手をするの……どちらが厄介かを天秤に掛ければ圧倒的に後者の方がマズイからね」
「……!」
その瞬間、首謀者はステータス画面を開き、設定機能を操作した。
当然それをミハクは阻止しようとするがその辺は抜かりなく、複数人の分身を生み出して相手をさせている。
“停止”とか“バグ・システム”を使った方が確実なのだろうが、それらのアビリティは標的へ向ける必要があり、レベルに差があり過ぎると当たらない可能性の方が高い。なので純粋に数で押してきたのだろう。
「……分身には攻撃が通るんだな……!」
「やれやれ。その辺もまだ調整が必要かな」
その分身達は俺達にも対処出来る。即席だからこそ詳細設定が存在せず戦えるのだろう。実際、人工衛星に居た首謀者達は倒せたしな。
「何も出来なくてストレス溜まっていたから、好都合かな!」
「分身の数が増えれば増える程分身のレベルは下がる。Lv9999の分身だとしても対処は楽だね」
「そうですね。“ファイアランス”!」
ソラヒメが分身を殴り飛ばし、セイヤが矢で射抜き、ユメが炎魔法で貫く。
ミハクだけに任せるのは俺達にも思うところがあるからな。俺達は十四人居る。一人一人で相手をすればミハクの負荷を減らせるだろう。
「元世界ランキング1位が戦力にならないなんてね。やっぱり最終的にランキングが機能しなくなるのは定石なのかな」
「そんな事言い出したら僕達全員が戦力外だよ。彼女の負担を減らすのは必要な事さ」
「ハッ、分身如きじゃストレス発散くらいしかならねェな!」
「と言っても本体が相手だと勝てないでしょうに。“フレイムスピア”!」
「んな訳ねェだろ! 多分な!」
シャインが魔力を込めた拳で殴り抜き、フラッシュが銃で撃ち抜き剣で切り裂く。
シャドウは槍を用いて貫き、ダークネスは魔導にて粉砕した。
「ムカつく! あの首謀者もだけど、戦えない自分がー!」
「フフ、マリンちゃんも燃えてるわね」
「私も少し燃えてる……氷だけど。“氷柱”」
マリンが分身を溶かし、マイが物理的に仕留め、リリィが氷柱にて貫き消し去る。
「クハッ、気に入らねェな。何より俺様を差し置いて神っぽい立ち位置に居る事が気に入らねェし気に食わねェ!」
「本当にそう。呪ってやりたいくらい」
キングとクイーンが白と黒のエネルギーを撃ち出し、分身を消滅させた。
「やれやれ。血気盛んじゃのう。ワシも言えぬか」
テンジンさんも拳を用いて殴り抜き、首謀者の分身を消し去る。
実際はミハク一人でも何の問題も無いんだろうけど、やっぱり全員牴牾しさは感じていたみたいだな。ミハク一人に任せる訳にはいかないという気概。それと、俺達自身のストレスを発散させるには分身が丁度良い塩梅って訳だ。
「相手にならないか。やっぱり一人一人がかなりの実力者だ。設定を終えても、少し苦労するかもしれないね」
「……。て事は、準備完了したのか?」
「そんなところかな。今からは君達にも私へ攻撃を通す事が出来る。今の状態で当たり判定を消し去るのはまた時間が掛かるからね。少なくとも今日一日の私は無防備だ。しかし、私もアレへ先程よりはマシなダメージを与えられるようになった。全スキルを全ての職業の最上級の力で放てるようにしたからね」
俺達が首謀者の分身を全て消滅させた時、準備を終えた首謀者が最後の設定を入力した。
これで俺達への当たり判定も復活。首謀者曰く、少なくとも今日一日はその効果が継続するらしい。妥当な線だな。
「それじゃ、その間……今から24時間以内に決着を付けるか……!」
「今日一日はあくまで目安なんだけど、まあいいか。6時間や12時間でも決着は付くからね」
ミハクに圧倒されていた首謀者だが、諸々の準備を終える。そして俺達もやっと戦える。
俺達と首謀者の戦闘。それはようやく同じ土俵で相対する事が出来るようになった。




