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ステージ2-10 ギルドの誓い

 ──“レコードの街、ワイスの屋敷”。


「そんな……領主が……」

「何で急に……」

「これも全て……魔王軍のせいか……!」


 エーデルさんの屋敷に戻った俺達は使用人達に見て起こった事を説明した。

 反応は様々。悲しむ者、嘆く者、怒る者。様々な表情はあったが、喜びなどはない。全員が悲しみやそれと同義の感情を浮かべていた。

 この様子を見るに、やはり“NPC”達にも感情や思考と言ったモノが存在している事が分かった。いや、今こんな事を考えるのは不謹慎か。信頼されていた存在の死。中々受け入れる事は出来ないだろう。


「何でだよ……何でギルドのメンバーが居て街の領主を護れなかったんだ!」


「……っ」


 ぐうの音もでない。この者の言っている事は正しいからだ。

 魔王軍の支配下にある事を知り、その軍を迎え撃つ事にした俺達。そして得られた戦果は蜘蛛の軍勢と幹部一体の打破。対する犠牲は領主と使用人が一人。その他、操られていたどこかの人々。

 領主の存在はかなり重要。魔王軍にとっての幹部の存在もそうだろう。一度人の心を消して今回の戦闘を“対価”として見れば相手に与えられた損害は大きいが、そんな訳にもいかないのが現状だ。


「お前達が来たせいで……!」

「お止めなさい!」

「……!」


 その者が言葉を続けようとした瞬間、アイビーさんが声を荒げて制止させる。

 普段は出さないような声量に辺りが静まり返り、更に言葉を続けた。


「犠牲者がどうあれ、彼らが居てくれたから魔王軍の幹部を一匹沈められたのです。そうでなくては今以上の犠牲者が出て、最悪この街が世界の歴史と共に消滅していた可能性もあります。私達がエーデル様と彼らに守られていた事実は変わりません!」


「……っ」


 アイビーさんの言葉に口を噤む。誰よりもエーデルさんを信頼していた様子のアイビーさんが庇ってくれた。それでは何も言えないのだろう。

 本来ならこの者の言うように罵倒されても仕方のない行為。ギルドのメンバーというこの世界の秩序を守る存在が居て尊い犠牲が出てしまった。俺達も相応の罵倒は覚悟していたが、何も言われないなら言われないでかなり罪悪感がある。


「失礼をお許しください。ソラヒメ様。ライト様。ユメ様。セイヤ様。領主が命をし、本当に死してしまった今……皆様の精神が持たないのです……」


「いや、別に構わないさ。俺達が居て犠牲者が出た事は変わらないからな。……。逃げるようだけど、もうこの街には居られないな。ギルドに帰るとするよ」


「……。そうですか……本当にすみません」


 謝る必要は無いのだが、アイビーさんが俺達に向けて謝罪する。

 何にせよ、領主の死の切っ掛けとなった俺達がこの街に長く居座るというのは不平不満がある事だろう。なので“レコード”の街を離れる事にした。それも無責任で思うところはあるけどな。


「けど、ギルドとして“レコード”の街みたいに知らず知らずのうちに魔王軍や良からぬ組織に支配されている事が無いよう、より一層警戒はするよ。もう少し早くに気付いてやれれば良かったんだけどな」


 と言っても、この世界が作られたのはほんの数日前なので今まで警戒のしようがなかった。これも言い訳に近いかもしれないな。どちらにせよ、護る事が出来た命なんだ。

 しかしこの世界の住人達にもしかと思考や意思はある。今までのように、“NPC”だから仕方ないと割り切る訳にはいかないだろう。


「取り敢えず、ギルドに戻るよ」


「……。お待ち下さい。ライト様方。一つ、お話が……」


「……?」


 ワイス家の屋敷から外に行こうとした時、アイビーさんが俺達を止めた。

 神妙な面持ちでの制止。話を聞いた方が良さそうだな。ゲームとして割り切るのをなるべくしないように考えたばかりだが、この場での制止は何らかのイベントの前兆と考えてしまう。

 しかしイベントでもなんでも、詳しく聞くとするか。


「此処では話しにくいですね。先程の大広間に来て下さい。いえ、このまま行きましょうか。着いて来て下さい」


「ああ、図書館の所にあった大広間だな。分かったよ」


 アイビーさんが先に行き、俺達はその後を追うように歩み出す。流石に一昔前のゲームのように目的地に瞬間移動はしないようだ。

 それから数分後、俺達は今一度先程スパイダー・エンペラーと戦闘を行った図書館の大広間へとやって来た。



*****



 ──“レコード・図書館の地下、大広間”。


 上に出てきた文字を他所に、アイビーさんの案内で大広間へとやって来る。

 戦闘によって生じた壁の傷は残っており、ユメの怒りによって空けられたトンネルも健在。

 流石にもうドロドロに溶けていた外壁は固まっているが、こうも傷が残っていると色々と悪く思っちゃうな。後で修復係として修復に適した職業の仲間でも呼ぶか。……アイツらの中に誰か居たっけな……。


「あちらになります」


「ん? ああ、あれは……スパイダー・エンペラーが狙っていた箱か。中に武器関係の何かが入っていて、中身も含めて完全な人間じゃなきゃ開けられないって言う」


「はい」


 考えているうちにアイビーさんが目的の品を示し、俺はそれを視界に入れる。

 薄々は感じていたけど、やっぱりスパイダー・エンペラーが狙っていた物が何らかの代物のようだ。……自分で思っていてあれだけど、全部が曖昧だな、俺。


「それで、あの箱が何かあるの?」


 次いで訊ねたのはソラヒメ。

 あの箱は本当に謎に包まれている。しかし魔王軍が欲する程の代物という事は確かだろう。

 スパイダー・エンペラーは武器と言っていたが、その武器が何なのか。それか、魔王軍が勝手に武器と思い込んでいるだけで、武器とはまた違う何かが入っているのかもしれない。

 アイビーさんは言葉を返した。


「あの箱をアナタ方に受け取って欲しいのです」


「「……!」」

「「……!」」


 その言葉に俺達四人は同時に反応を示す。

 受け取って欲しい。その言葉が意味する事は一つ、俺達に授けるという事だろう。


「……。良いのか? だって貴重な代物なんだろ? いくら俺達がギルドの者だからと言っても、そう簡単に秘宝的な何かをあげるってのは……」


「いいえ、恩人に対する先程の失礼な態度。魔王軍の幹部討伐の実績。この街を救ってくれた御礼として受け取って欲しいのです」


 つまるところ報酬という事だろう。

 見るからに大事そうな物だが、アイビーさんはそれでもこれを俺達に授ける事で詫びと礼をしたいらしい。

 しかし、詫びるも何も俺達のせいでエーデルさんが死んでしまったのは変わらぬ事実。そう簡単に受け取る訳には……。


「それに、俺達は死なせてしまった。既に農地の守衛としての前金は貰っているんだ。それなのに護れなかった俺達にそんなもの……」


「構いません。そして、ギルドメンバーだからではなく、アナタ方だからこそ授けたいのです。昔エーデル様に聞いた事ですが、その箱の中身は開ける存在によって変わると云われているそうです。もしそれが本当にそうなら、寧ろアナタ方に授けるのが正解。きっと力になれる筈です」


「……」


 アイビーさんの熱意は本物。この様子を前にし、主の死を理由に受け取らないのは逆に失礼かもしれない。

 俺はユメ達と視線を合わせ、アイコンタクトで話を済ませた。


「ああ、分かったよ。そこまで言うなら受け取っておく。エーデル=ワイスさんの事は本当に悪かった」


「大丈夫です。あの方の最期は満足そうでしたから。……しかし今後、私達のような大切な存在を失ってしまった者を生み出さぬ為にも……それを活用してください」


「ああ、誓うよ。世界の秩序を守護するギルドの名の元に。この世界を救う」


 アイビーさんが俺の言葉に頷いて返す。その目にはうっすらと滴が零れていた。


「ギルドの名の元に……か。ちょっと臭いセリフだったかもしれないな」


「ううん、そんな事ないよ。ライト。この街みたいな街は他にもある筈だし、他のプレイヤーも苦戦している筈だからね。私達、ギルドのメンバーが何とかしなくちゃ」


「ああ、事の発端の存在は元・管理者。僕達が他のプレイヤーの為に動かなくちゃね」


「そうですよライトさん! いっその事、有言実行しちゃいましょう!」


「……。ああ、そうだな!」

「……?」


 その通りだ。臭いセリフを吐いたならそれを遂行してこそだ。今回のような被害者を見るのはいたたまれない気分になる。

 “ギルド”については知っているが、“管理者”については知らない様子のアイビーさんが小首を傾げる。セイヤは敢えて管理者という言葉をもちいたみたいだな。確かにこの世界にした首謀者の名を出し、それについて話すとなると更なる混乱を招くのは明白。賢明な判断だ。


 それから箱を受け取り、俺達四人は“レコード”の街の外に出る。見送りに来てくれたのはアイビーさんを始めとして何人かの使用人。集まった者達は全員、悲しみを覆い隠すような笑顔を向けてくれていた。主を護れなかった俺達も笑顔で見送ってくれるのか。心が広い人達だな。

 そして俺を含め、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人は“レコード”の街から離れ、街が見えなくなった辺りで管理者専用能力の“転移ワープ”を使い、ギルドに戻るのだった。



*****



 ──“ギルド”。


 “転移ワープ”して戻ってきた俺達は早速ギルドメンバー専用の部屋に入る。今回の出来事を報告。まとめ、その他諸々の役割を果たすのが目的だ。

 入ったら早速ギルドマスターのサイレンが居たので概要を話した。


「──って事で、“NPC”の街があって魔王軍とやらとも相対した。そして“NPC”はちゃんと意思を持っている」


「にわかには信じがたいな。魔王軍についてじゃなく、“NPC”について。AIが自分の意思で行動出来るみたいなのと同じ原理か? 人の感情や意思をラーニングしてデータ内にインプット。結果、どこまでも人間に近いノンプレイヤーキャラクターが生み出される……」


「俺達もそう考えている。まあ、俺達自身が今までの記憶を使って行動している存在だからな。存在が違くても、“NPC”はちゃんとした“ヒト”になったのかもしれない」


 概要を話終え、怪訝そうな表情をするサイレン。

 サイレンも俺達と同じように魔王軍自体はあまり気にしておらず、“NPC”。ノンプレイヤーキャラクターが意思を持った事に対して疑問に思っている様子だった。

 まあ当然か。今までの“NPC”は、人間らしい動きはするが本当にデータをかき集めてグラフィック化され、生まれた存在。会話の内容は様々だが、基本的に定型文のようなものだ。それが意思を持って行動した。

 それらを踏まえると、おそらくこのギルドに居る者達は全員そんな反応をするんだろうな。


「ロボットやデータの存在は生物学上ヒトには成り得ない。それがヒトに成った……か。よし、分かった。ライト達の約束、俺達も守るとしよう。他にも“NPC”の街はあるだろうからな。未だこの世界については何も分からないが、ギルドがかなりの権力を握っている存在という事は分かった。だったらそれを果たすまでだ。ギルドとしての誓い、しかと承った」


「ああ、頼むよ。俺達は少し全国を回ってみようと思う。Lv1時点の素の身体能力で車の法定速度並みの速さがあったんだ。今の俺達ならもっと速く進める筈だからな。世界各地を、な」


「ああ、だが、お前達の推測。この世界が倍の大きさになっているかもしれないという事。速く動けても時間は掛かるだろうから気を付けてくれ」


「ああ」


 この世界の大きさについて。それは最初に管理所。現ギルドに着いた時は思い付いていなかったので話していないが、今ついでにそれも話した。

 強化された俺達の身体能力は車並みの速度で動けた。それはLv1の時の話。今ではもっと速く動ける事だろう。なのでゲームになったこの世界を巡る事も容易くはないにせよ、元の世界で全国を巡るよりは楽な筈だ。


「問題はどこにボスが居るかだな。ライムスレックス、ドン・スネーク、スパイダー・エンペラー。今までのボスモンスターはこの近辺にしか出現していなかった。日本全国から世界各国を巡ってボスを倒していけば首謀者に迫れるかもしれないけど、ボスの出現地を絞りたいところだ」


「その辺は俺達も精力を注いでいる。だが、多分功績なら今のお前達が一番あるからな。独自の判断に任せた」


「ああ、任せてくれ。特殊スキルも管理者専用……いや、ギルドメンバー専用アビリティもあるからな。早いところ世界を戻すか」


 世界を戻す。自分で言ってあれだが、本当に戻せるかは分からない。しかし何かの目的がある事で人は先に進める。その為に精進は出来るからだ。

 “NPC”達の街、“レコード”にて魔王軍幹部を倒した俺達はギルドの誓いを守る為、首謀者の手掛かりを少しでも掴む為にこの世界を巡る事にした。

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