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ステージ20-4 最後の休日・昼

「遊園地的なやつまであるな。メリーゴーランドとか観覧車とか。しかもちゃんと動いている。マリンの理論なら構造を完全に把握した上で光の粒子を触媒にすれば動かす事も可能だけど……本当によく作ったよ」


「材料はどこから切り出したのでしょうか……」


「この世界には領地とか無いからねぇ。あるにはあるけど、並み居るモンスター達を相手にしなきゃだし、それでも構わないなら持ってこれるんじゃないかな?」


「そうだね。物を運ぶ手間や持ち上げる腕力。元の世界じゃ重機を使わなくちゃ出来なかった事もこの世界なら問題無く行える」


 遊び始めて数時間後、太陽も真上に昇った辺りで俺達は遊園地に来ていた。

 遊園地があるのは何も不思議な事ではない。この世界でならな。ただ単に、その分野についての専門家並みの知識があれば再現は可能だ。……兄妹揃って天才か。


「流石に完全再現って訳じゃないけど、この世界でそれを作れる時点でヤバイな」


「ふふ、けど楽しいじゃないですか。私達、遊園地デートしてませんし!」


「ハハ……確かによく居るカップルみたいなデートはしていないな。強いて言えば回復やバフのアイテムを買いにショップに寄ったくらいだ」


 取り敢えずとことん楽しむつもり。なので早速メリーゴーランドに乗り込み、クルクル回る。俺とユメは馬車。引く馬にはソラヒメとセイヤが乗っている。二人とも気を使ってくれたのか。

 けど、この世界じゃ基本的に自分の足で進んでいたし、こんな風な乗り物? に乗るって言う行為も久し振りだ。割と最初の方に馬車に乗せて貰った時以来か。


「観覧車を動かすって言うのもそれなりのエネルギーが必要だけど、全部を光の粒子で補えるってのは改めて可能性の塊だな」


「全宇宙の物質やエネルギーが集っていますもんね。もう何でもありですよ」


 メリーゴーランドから乗り換え、観覧車にて外の景色を眺める。

 普通に乗っているけど、元の世界から変わり果てたこの世界で動くのは驚き……と同時に懐かしさまで感じる。半年。たった半年だけど、こんなに世界が変わるなんてな。元々遊園地とか、元の世界じゃ家族と行ったっきり行った事がないけど。


「観覧車って何となくカップルのイメージがあるけど……何をするんだろうな。ただ景色を眺めるのも良いけど、よく分からないや」


「そうですよね。よくあるシチュエーションではキスとかプロポーズですけど……私達ってもう似たような事はしておりますもんね」


「まあ、綺麗な景色を好きな人と見れたらそれだけで満足なのかもな」


「ふふ、ですね♪」


 観覧車は凡そ数十から数百メートル。これくらいの高さなら俺達は軽く跳躍するだけで飛び越えられる。なのでもう珍しい事でもないが、共にのんびりと景色を見る。そうするだけで満たされるのかもしれない。

 まだ昼だからシチュエーション的にはそんな良くないけどな。昼の光景も悪くないけど。


「あ、マリンちゃん!」

「げっ……ソラヒメ……」

「げって酷くな~い?」


 観覧車も終え、遊園地から再び“ルークス王国”の探索に出ると、すぐ近くにてマリンと出会った。

 そのマリンにいち早く反応を示したソラヒメだが、当のマリンはかなり嫌そうな表情をする。……まあ、大凡おおよその理由は分かっている。マリン自身、ソラヒメの事は好いている方ではあるのだろうが、ペースに乗せられるので若干の苦手意識があるのだろう。マリンが元々自分のペースで動く人間なのでそれを狂わされるのはどうも苦手なようだ。


「一人で何してるの~? 暇なら遊ぼう!」


「暇じゃないわよ……貴女も分かっているでしょう。宇宙に行くんだから準備してるのよ。ロケットを造るのにも手っ取り早く材料を集める為にSPを消費しているから結構疲れるし……まあ、ロケット自体は一回で造れるんだけど、食料調達とか……他にも色々。ちょっとした事の準備だね」


「そんな事なら私達に頼めば良いのに。私達は結構暇してんだからさ!」


「いいよ、別に。ちなみに今の“いい”は“良い”じゃなくて、やらなくて“いい”の方だからね」


 どうやらマリンはロケット製作に当たって色々と準備をしているらしい。

 それについて指摘するソラヒメだが、元々他者に頼る性格ではないマリン。自分一人で何とかしようという考えは変わらないのだろう。


「もう、マリンちゃんったら。独り善がりなのはダメだよ。最終的に苦労するのは自分なんだから」


「やめてよ。もう……」


「ソラ姉がそれを言うんだね。いや、ソラ姉だからこそかな」


 ソラヒメは肩を落としてマリンの頭を撫で、撫でられるマリンは身を竦める。

 ま、やめて欲しいという態度は取っているが、力尽くで振りほどかないのを見るに別に嫌という訳ではないのだろう。


「しっかし……見れば見る程マリンって本当に大学生なのか気になるな。見た目は中学生……性格もどこか幼いし」


「むっ? 失礼な事言ってくれるね。日本人のアナタ達には馴染み無いと思うけど、私は飛び級なの。確かに年齢はそうだけど、歴とした大学生だよ」


「あー、そう言うことだったのね」


 ソラヒメの目測による年齢審査は間違っていなかった。大学生は大学生でも、マリンは飛び級による10代前半の大学生らしい。

 フィクションの世界には見た目年齢と実年齢が全くつり合っていない存在が割と居るし、マリン自体がフィクションに居るような典型的なツンデレだから忘れていた。そもそも魔法とかが存在してもここは現実だ。フィクションに変えられた世界とも言えるけど。


「別にそれについてはどうでもいいけどね。私は私で他とは違うから。同学年はバカな奴等しか居なかったし、大学でも年下の私に負けて離れていく人が多かった……もう関係無いもの」


「……そうか」


 少し、マリンの表情が暗くなった。

 成る程な。マリンの性格を表に出さない部分や一人で全てをこなそうとする部分は学校生活で生まれてしまったようだ。

 同学年よりも頭が良いからこそ小学校か中学校では浮いてしまい、飛び級によって大学で出来た友人達も、抜きん出たマリンの才能に引け目を感じて距離を置かれた……差し詰めこんな感じだろう。

 俺も一人になって周りの目を伺いながら生きてきたからな。人心掌握にはけているのかもしれない。嫌な才能だ。


「苦労したんだな。マリン」

「ちょ、ちょっと何で貴方まで私の頭を……!」


 気付いたら俺もマリンの頭を撫でていた。

 手が勝手に動いちゃったな。同情なんかされたくないからこそ、敢えて濁すように言ったんだろう。だから俺の行為は逆に迷惑か。


「もしかして……貴方も“SORAHIME”に感染したの……!?」


「いや、別にそう言う訳じゃないんだけどな。何となくマリンが気になるんだ」


「何それ? 告白? そうだね……貴方自体はそんなに好みのタイプじゃないけど、人生経験は必要だからね。付き合ってもいいかな」


「違う違う。そうじゃなくて……シンパシー的なアレだよ」


「ふぅん?」


「ちょっとちょっとー。然り気無く話進めてるけど、人をウイルスみたいに扱わないでよー。しかもゾンビパニック映画みたいな感じの反応ー!」


 俺とマリンのやり取りを見、腰に手を当てて口を尖らせるソラヒメが指摘した。

 何はともあれ、マリンにはやっぱり近しいモノを感じる。孤独な気配というか何というか……あまり共感出来て良い事じゃないけどな。


「取り敢えず、私はいいからアナタ達で楽しんでいて。此処はお兄……兄貴の国だからね。アナタ達自体がこの国に慣れているし、まだまだ楽しめると思うよ」


「そうか。それなら気が向いたら一緒に遊ぼうな」


「準備が終わったらね……って、別に遊ぶつもりはないよ!」


 その様なやり取りを経てマリンとは別れた。

 マリンもマリンでロケットを作ったり準備する事自体は楽しそうだしな。元々一人で何かをするのは好きなのだろう。俺も一人で居る行為自体は嫌いじゃないしな。そもそも一人の方が気が楽な時もある。

 そんなマリンの心境を理解し、ソラヒメもしつこくは誘わず俺達五人はその場を離れた。


「お、ライト達じゃねェか」

「やあ、奇遇だね。何をしているんだい?」


「それはこっちにも言える事だな……シャドウとフラッシュ」


 少し進むと、アイスクリームを片手に持つフラッシュと典型的なマンガ肉を片手に持つシャドウと出会った。

 そんな二人の第一声。その全てをそっくりそのまま返したい気分だ。


「……? うーん、なんだろうか……僕達は別に怪しい事をしている訳じゃないんだけどね……。今現在(おこな)っている事も一目見るだけで分かる事柄。僕達と君達、どちらが何をしているのか当てろと言われたら僕達の方が分かりやすいだろうし……分からないな。不備があったなら教えてくれ。何とか直してみるよ。君達の為ならね」


「いや、そう言う理屈や理論じゃなくてだな……意外というか何というか……シャドウは妙にしっくりくるけど、食べ掛けのアイスクリームを持つフラッシュという光景が、本来のフラッシュのイメージから掛け離れていて脳の処理が追い付かない状態だ」


「あー、成る程。そう言うことか。確かに僕はあまり人前じゃ食べ歩くという行為はしないかな。けど、アイスクリームというのは持ちやすいように設計されている。ここは従来の用途に従っているんだ」


「へえ……」


 との事。

 確かに何も間違っちゃいない。何が間違っているかと問われたら俺の質問の方が間違っているレベルには間違っていない。けど、しかし、だが、この光景は色々と混乱が起こる。本人の性格上、そう言う事をする風には見えないからな。

 そんな俺の混乱を余所に、ソラヒメが切り出した。


「ちなみに私達は遊んでいる途中だよぉ。最終決戦が目前だからね! 最後の骨休めかな!」


「僕達もそんなところかな。休息は大切だからね。この世界じゃ関係無いけど、合間合間に休みを入れながら仕事を続けるのと不眠不休で仕事を続けるのだったら前者の方が最終的に早く片付く。この世界でもそれが適用される筈だからね」


「だよねぇ。あ、折角だし一緒に行動しない?」


 休憩中のフラッシュ達に向け、ソラヒメはマリンの時と同じように誘った。

 マリンはやる事があったけど、フラッシュ達は本当にただブラブラしているだけ。俺達と同じでな。だから共に行動出来ると判断したのだろう。


「そうだね……ありがたい申し出だけど、遠慮しておくよ。これからシャドウが闘技大会でゲストとして乱入参戦するんだ……本人の意思でね。僕らは言わば大臣みたいなものだからその辺も自由。だから、君達の思い描く休息とは変わってしまうよ」


 曰く、キングが参加している大会にシャドウが飛び入り参加するらしい。なのでこれから仕事みたいなものなのでと断った。

 大会を見学するのも良いけど、大会の参加や見学は最初にやめた事。ソラヒメは少し考え、言葉を続けた。


「そっか。じゃあ仕方無いね。私達はみんなで楽しみたいけど、仕事の邪魔になりそうだし、ここは引き下がるよ」


「ああ。誘ってくれて嬉しかったよ。君達も良い休日を」


「フラッシュ達もねぇ~!」


 ソラヒメが手を振り、フラッシュ達とも別れる。

 決勝だけ見るって人も居るし、事情あってそうなる事もあるんだろうけど、それは健闘した他のプレイヤー達に失礼だからな。取り止めた事を実行するのは礼儀に反する。その事をソラヒメも分かっているらしい。

 なので俺達は再び五人で“ルークス王国”を散策する。


「あら、ライト君達。アナタ達も街をブラついていたの?」

「……」

「そうね。奇遇じゃない。ライト、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ミハクちゃん」


「お、マイにリリィとダークネス。よっ。俺達も現在のんびり中だ。しかし今日は主力メンバーとよく出会うな」


 散策して数十分後、今度はマイとリリィ、そして珍しく二人と共に行動しているダークネスと出会った。

 この三人もアイスクリームや食べ物を片手にブラついており、割と充実した休日を送っているようだ。

 しかし、うん。フラッシュが持つと違和感があったけどこの三人は違和感が無いな。やっぱりフラッシュの、普段の落ち着いた冷静な性格を見ているから何とも言えない違和感が生まれたのか。


「あら、そうなの。まあ、今日は誰も遠征していないものね。一人や二人と出会うでしょう」


「ああ。マリン、フラッシュ、シャドウと会ってるよ。何ならキングとクイーンの居場所も分かっているし、それでマイ達三人だ」


「そう。ふふ、もう少しで主力コンプリートじゃない。後はテンジンさんとシャインだけね」


「ハハ、そうだな」


 今日一日だけで大半の主力と出会った。

 マイが言っていたように、今日主力達は首謀者捜索に出ていないので会うのは別に珍しくないのだが、驚異のエンカウント率だ。ゲームで言うところのレーティング戦とかなら世界ランカーと当たるって言う絶望のラインナップだな。


「それで、ライト君達はのんびりと何をしているのかしら?」


「ま、見ての通り……というかマイの指摘通りブラブラしているんだ。決戦が近いから今のうちに満喫して置いた方が良いしな」


「ふふ、私達と同じ理由ね。常に動いているのもあれだけれど、いざ休日となると何もする事が無くてね。元の世界程暇潰しが多い訳じゃないし……というか暇潰しの大手であるゲームの世界だからこの世界に居るだけで常に動いていなきゃならないもの」


 マイ、リリィ、ダークネスの三人も暇を持て余しているらしく、俺達と同じように“ルークス王国”の散策メインなようだ。

 この国はこの世界の中じゃ健全な娯楽施設も揃っているし、数日くらいは時間を潰せるだろう。


「じゃあさ、マイちゃん達が良ければ一緒に行動しない? 他のみんなには断られちゃったけど、なるべくみんなと居たいからねぇ」


「良いわね。私は構わないわ。もちろん、リリィとダークネスが良ければだけれど」


「私もマイが良いなら良いよ」

「ええ、私も構わないよ。人数は多い方が楽しいもの。当然、気を許せるアナタ達だからこそだけどね」


 そのままソラヒメが三人を誘い、マイ達は快諾する。俺的にも気の許せる人なら共に行動するのは楽しい。悪くないな。

 俺達四人とミハク。マイ達三人を誘い、最後の休日は続く。

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