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ステージ19-21 帰還

 ──“ルークス王国・王宮”。


 ライト達とソラヒメ達の招待スカウトが順調に進む中、拠点である“ルークス王国”に残ったシャイン、ダークネス、フラッシュ。そしてミハクの四人は王宮に居た。

 そんな中、シャインとミハクのみが誰も居ない貴賓室におり、椅子に座るミハクへ向けてシャインが話し掛けた。


「悪いね。わざわざ呼び出して。別に何をしようという気はない……ハハ、君にこの手の冗談は通じないよね」


「………」


 まずは軽く、どうでもいい事を話す。

 警戒されているなら場を和ませる為にも必要だが、ミハクにはそれも必要無い様子。なので改めて言葉を続けた。


「さて、本題に入ろう。君があの時話した……声は聞いていないけど、話したかのような言葉。それがどういう事だったのか教えてくれないかな?」


「………」


 訊ねたのはミハクが言っていた? 言葉の意味。

 まだ口を閉ざしたままのミハクに向け、更に続ける。


「“彼らの邪魔をしないで”。あれ以降君からの接触は無いけど、僕は結局何の邪魔もしていなかったって事なのかな?」


「………」


 邪魔の有無。シャイン達がミハクにとって何の邪魔になる可能性があったのか。

 ミハクは口をパクパクとさせ、言葉を発さずシャインへ教えた。


「……。成る程ね。この世界を元に戻すという行為についての“邪魔”……か。つまり、一昨日の試合の時、僕達が勝っていたら僕達には明日は無かったという事かな?」


「………」


「フム……それをすると彼らに怨まれてしまうけど、僕達はこの世界から……そういう事か」


 ライト達が世界を戻すという行為。それの邪魔をしていればミハクが直々に手を下していたらしい。あの時観戦していたのはそれも踏まえての事のようだ。

 ライト達に敗れた事はシャイン達にとっても、“いい事”……だったのかもしれない。そして当然、“邪魔”と判断された時のシャイン達の命運についてライト達が何も知らない事は理解している。


「……何故そんな事を? いや、質問を変えよう。君は何が目的なんだい? ライト達に何をしようと?」


「………」


 訊ねられ、ミハクはまたパクパクと口のみを動かし、シャインはそれを読み取った。というより脳内で理解した。


「……。そうか。確かに現実の世界とゲームの世界が融合したままなのは問題かもしれないね。……それじゃ、これが最後の質問にしよう。ライト達は、どうやってこの世界を戻すつもりなんだい? 彼らの……厳密に言えば彼と彼女の表情。本人達に詳しく聞く事は出来ないけど、彼の仲間達にも教えられない世界の戻し方。それについて教えてくれ」


「………」


 最後の質問に対し、さっきまで声には出さなかったが、応えてくれていたミハクが今度は完全に口を噤んだ。

 しばらくの沈黙が続き、シャインは言葉を続ける。


「……いや、正直で色々と話してくれた彼らが隠したがっている事。それを僕が君から聞くのはフェアじゃないね。君も言いたくなさそうな雰囲気だし、僕の質問は終わりにしよう」


「………」


「フフ、“ありがとう”なんて大袈裟だな。取り敢えずもう僕達への脅威が無いんだ。それを聞けただけで良しとするよ。君こそありがとう。いつもはライト達に付いているのにわざわざこの国に残ってくれて。手間を取らせたね」


 これにて話は終わる。すると、“ルークス王国”の入り口に何人かの人だかりが出来ていて少し賑やかだった。

 シャインは窓の外に目を向け、フッと小さく笑う。


「……おや? 彼らも帰ったみたいだ。それじゃ僕達も迎えに──って、もう居ないか」


 窓からミハクの方へ視線を向けたシャインだったが、既にミハクの姿がそこにはなかった。一足早くにライト達の迎えに行ったのだろう。

 シャインは一息吐き、そのまま窓から空を見上げる。


「本当に僕へは言えない事なんだな……それ程の事を彼らは背負っている。それならもう少し力になりたいものだね」


 ライト達が何をするつもりなのか。深くは訊ねないが、やはり気にはなる。日は浅いがかれこれ一ヶ月は共に過ごしており、今現在は仲間となった。仲間の心配をするのは当然だろう。

 肩を落とし、自分の出来る事をしようと考えるシャインだった。



*****



「……ん? あれ、ソラヒメ達か?」

「その様ですね」


 ──俺達が“ルークス王国”に戻る頃合い、ソラヒメ達も戻ってきていた。

 無事招待(スカウト)に成功したんだな。それは良かった。うん、“あれ”を見れば分かる。何故ならソラヒメ達は──


「……。何か大勢引き連れているけど」

「あれ全部世界ランカーかしら?」

「いや、そんな訳無いだろ……」


 世界ランカーのスカウトに行った筈なのだが、何故か何十人もの人が居たからだ。

 多分世界ランカーの仲間か何かだよな。確かにスカウト成功の証明にはなる人数だけど、すごい数だな。俺達はテンジンさん一人だけだぞ……。

 あれもソラヒメのカリスマ性が成せる技か。


「あ、やっほー! ライトー! ユメちゃーん! マイちゃーん! リリィちゃーん! 謎のおじいちゃーん! 四人とは久し振りー! おじいちゃんは初めましてー!」


「ハハ、まだ二日くらいしか離れていないだろ」


 ソラヒメ達も俺達を見つけ、相変わらず明るい素振りで手を振って言葉を交わす。

 ここには初対面のテンジンさんも居るが、ソラヒメは初対面の人相手でも問題無く話せるコミュニケーション能力が備わっているので問題無さそうだった。


「ホッホッ。少年のお仲間か。ワシはテンジン。よろしくの」


「私はソラヒメでーす!」


 テンジンさんの手を取り、自己紹介を行う。そんなソラヒメ達を横に、俺達はセイヤ達の方へと視線を向けた。


「えーとそれで、目的の世界ランカーは……」


「俺達だ」

「よろしく」


 本題である世界ランカーについて聞いたが、返したのはセイヤ、マリン、シャドウのいずれでもない二人。一先ず挨拶はするか。


「あ、よろしく……えーと……どちらが世界ランカーで?」


「言っただろ。俺“達”だってな。俺はユーザーネームキング。世界ランキング9位」

「私はユーザーネームクイーン。世界ランキング10位よ」


「あ、成る程。二人居たのか。……っと、ソラヒメ達に概要は聞いていると思うから、少しは分かっているんだろうけど、名乗るよ。俺はユーザーネーム、ライトだ」


 世界ランキングの9位と10位。どうやら二人居たみたいだな。

 俺の世界ランキングや職業を言うか迷ったので、取り敢えず名前だけ教えておいた。

 随分と仲が良さそうな様子。キング女王クイーンってユーザーネームからして、カップルで非公式の世界ランキングに入っているって感じか?


「ふぅん? アナタ達がソラヒメさんの仲間……何とも冴えない顔付きね」


「はぁ……」


 初対面でいきなり言われてしまった。

 確かに今の俺は困惑と色々な感情が入り交じって冴えない顔になっているかもな。

 そしてこの二人……何となく俺の苦手なタイプだ。不良っぽい感じが。ピアスしてるし……いや、耳ピアスならソフィアも装備としてしていたな。

 この二人はソフィアと違って舌ピアスとかまぶたのメイクとか目尻のピアスとか。それっぽい感じを醸し出しているから苦手なイメージが付いているんだな。日本人はする人も比較的少ないから慣れていないだけだけど。


「やれやれ。ライトは少し苦手意識がある感じかな。ソラ姉とシャドウは割とすぐに慣れたけど」


「へえ、そうなんだ。何だか悲しいな。見た目で判断されるなんて」


「ハハ……」


 セイヤが俺を分析し、泣くフリをするクイーンには苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

 けど、ソラヒメとシャドウは割と馴染んだようだが、今の言い方的にセイヤとマリンはあまり慣れていないのかもしれない。

 確かに性格的にもソラヒメとシャドウには近しいものがあるかもな。明るいとか、そう言った解釈の褒め言葉として。


「ソラヒメ姐さん。ここが目的の街ッスか」

「大きな街ですね!」

「姐さん。俺達はどうすれば!」

「ソラヒメさんの言うことに従います!」

「ウチも!」


「うーん、取り敢えず街に入ろっか。アナタ達は柄が悪いから街の人達を驚かさないようにね! それと、犯罪紛いの事も駄目だよ!」


「「「「「はい! ソラヒメ姐さん!!」」」」」


「よろしい!」


 本当に何があったんだよ……。

 まるで手下や従者のようにソラヒメを慕う柄の悪い者達。当のソラヒメもノリノリだ。

 カリスマ性というか何と言うか、リーダーや人を纏める資質があり過ぎるだろ……。

 将来的に成功して上に立つ人物ってこういう人なんだろうなと改めて思った。


「ふんむ。主らが残りの世界ランカーとやらか」


「爺さんもそれか。……クハッ、初対面で言うのもあれだが、老人は苦手だ。基本的に俺達を見るや否や、説教説法お叱り……そう言うのはうんざりしてるってだけ教えとくぜ」


「そうだね。元の世界でも私達は全員はみ出し者。国によっては私達も大人って言える年齢だけど、自分を正しい大人って思い込んでいるだけの、他人の気持ちが何も分からないお偉いさんに何度も叱られたからね。だから大人は嫌い。アレをするなコレをするな……私達も犯罪とか最低限の範囲は守っているけど、全て縛られていた。そんな人達を数多く見てきたから貴方は信用出来ないよ」


「ああ。少なくとも一般人パンピーやカタギにゃ迷惑は掛けていねェ。ちゃんと防音のアジトや人が居ねェ場所で騒いでいたからな。ダチと遊ぶのをやめ、つまらねェ世界で生きるのが“大人”なら、俺達ゃずっとガキのままで良いって思っている口だ」


 テンジンさんに会うや否や、キングとクイーンは自分は大人が嫌いという事を告げ、敵意剥き出しで話した。

 まあ、この様な外見と性格。世間一般で言うところの不良に値する存在なのでその分色々と嫌な事もあったのだろう。

 一応一般人などには迷惑を掛けていないらしいが、確かに法律を守っていても見た目だけで注意される事はあるからな。

 それに、よく仲間達とつるんでいたと考えれば、何をされた訳でもない者が友人に向かって見た目が悪いってだけで警察などに訴える事もあり得ない事じゃない。

 比較的真面目に生きていた俺には分からない世界だな。海外じゃ髪の色とか目の色とかも様々だろうし、それを注意されたんじゃ堪ったものではないだろう。

 さて、となると今の話を聞いたテンジンさんの対応だけど……。


「ホッホッホ! 血気盛んなのも別に悪くなかろう。ワシも若い頃は色々あったからの。最低限のルールを守っておっただけワシよりマシやもしれぬ!」


「「……は?」」


 明るく笑って返し、キングとクイーンの肩を叩いた。

 当の二人は思わぬ反応に呆気に取られ、テンジンさんは更に続ける。


「なに。主らの年齢的に考えて、この世の全てに疑問をぶつけるのも不思議ではない。それもまた一つの段階を踏んでおる訳じゃからの。社会に貢献するのは大事じゃが、己を見失わぬ事がもっと大事じゃ。……盗みや犯罪などはせず、自分達が生きるのに必要最低限の事を成しておれば後は自由じゃからな。仲間や友を大切にする方が生きていくのには必要じゃろうて。……ホッホッ、それは自由とは言わんかもしれんがの」


「「…………」」


 テンジンさんの言葉に返す言葉が見つからないのか、二人は口を噤む。

 まあ、大人から肯定される事は滅多に無かっただろうからな。若いうちから抑制し過ぎると将来的にマズイ方向に走ったりするって言うし、まだ戻れる範囲内ならたまには発散するのも一つの世渡り術って訳だ。俺も人生経験は乏しいけど!


「そんじゃ、そろそろ行こうかの。主らの話も聞いてみたいものじゃ。現代の若者が何を思って生きておるのか。それを知る事もまた大事。ホッホッ。年老いてもまだまだ学べる事は多いの」


 それだけ言い、テンジンさんは“ルークス王国”へと入って行く。


「ハッ、言うじゃねェか。あのじいさん! それじゃ俺達もシャインに報告してくるぜ。テメェらは街の見学でもしてろよ!」


「待ってくださいッス! シャドウさん!」

「兄貴! 俺もお供しやすぜ!」

「待ってよー! シャドウくーん!」

「シャドウ様ぁ~!」


 それの後にシャドウと何人か続き、この場には俺とユメ、ソラヒメ、セイヤ、マイとリリィ。マリン。そしてキングとクイーン、シャドウへ付いて行かなかった仲間達が残った。


「へえ。あのおじいちゃん。凄くイイ人だね!」

「そうだね。お年寄りにして非公式の世界ランキング5位に入っているだけはある。楽しむ心を忘れていないって訳だからね」

「ふぅん。あんなお年寄りも居るんだ……」


 先程のやり取りを見、初対面のソラヒメ、セイヤ、マリンの三人はテンジンさんに感心していた。

 何となく俺も嬉しいな。キングとクイーンを見て思ったけど、やっぱり元々ゲーム内での非公式世界ランキングだった故に、全体的な年齢層は若い。そんな中どうなるかと考えていたけど、テンジンさんも馴染めそうだ。むしろ俺の方が馴染めていないかもな。


「……大人があんな奴ばかりだったら良かったんだけどな」

「そうだね。お兄ちゃん……」


 去り行くテンジンさんを見、キングとクイーンは呟くように話す。……が、ちょっと待て。“お兄ちゃん”? そう言うプレイとかじゃなく、もしかしてキングとクイーンって兄妹だったのか!?

 ソラヒメとセイヤにシャインとマリン。そしてキングとクイーン……俺達のパーティには姉弟や兄妹が多いんだな……。


「……。一先ず、俺達も行こうか」

「テメェ何仕切ってんだ!?」

「キングさんかクイーンさんかソラヒメ姐さんが仕切るべきだろ!?」

「教育が必要なのかしら? フフ、お姉さんと一緒の部屋で楽しまない? ボク」


 取り敢えずここに居ても何も始まらないので行こうと訊ねた瞬間、キングの仲間達に攻められた。

 てか、ソラヒメの立場ってその中でもかなり上になっているのかよ。その方が驚きだ。本当に何があったんだよ……。


「コラ! ライトは私の大切な仲間だよ! そんな風に話しちゃダメ!」


「すんませんした! ソラヒメ姐さん!」

「ごめんなさい……」

「ライトの兄貴! よろしくッス!」


 そして俺も兄貴に昇格した。スピード出世だな。てかなんだよこの体育会系のノリ。いや、体育会系ですらもう少しマシか。

 上下関係ってあっさり築けるんだな……と苦笑を浮かべながら思った。


「お詫びにお姉さんを好きにして良いわよ……私、攻めるのも攻められるのも好きなの……」


「駄目です!」


「ハハ……改めて行こうか」


「「「ウッス! 一生付いて行きまっす!」」」


 どうにも慣れない雰囲気。一人は俺を誘惑してくるし、ユメが抑え込んだけど。

 何はともあれ、これにて“ルークス王国”に世界ランキングトップ10の面々が揃った。これから待っていたシャイン達と今後についての話し合いだな。

 指定された場所から帰って来た俺達は“ルークス王国”に入るのだった。

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