ステージ2-8 魔王軍の幹部
「許せない!」
『おっと、小娘の攻撃を直撃するのはマズイな』
俺に続き、ソラヒメも床を踏み砕いて加速。その攻撃からは距離を置き、そこに目掛けてユメとセイヤが嗾けた。
「“ウォーター”!」
「はっ!」
『フム……』
放たれた水魔法と矢。スパイダー・エンペラーはそれらを壁を見た目通り蜘蛛のように伝って躱し、口から糸を吐いて牽制した。
それに対して俺は木刀で切り捨て、そのまま壁に向かって薙ぎ払う。
「オラァ!」
『やれやれ。貴重な資料館を破壊するでない。この世界の貴重な財産が眠るのだぞ』
「何でそれをアンタが知ってんだよ!」
『なに、ただ単に記憶を共有したに過ぎん。スキル“存在模倣”。それを使えば魂亡き存在のデータを全て我の物に出来る。手間は掛かるが、その容姿も含めてな』
「本当に蜘蛛かよ……蜘蛛がそんな事出来るのか……?」
『出来る。脳以外の内部を処理すれば可能だ』
「……っ。そう言う事かよ……!」
存在のコピー。そんな事、いくらこの世界でも出来る筈がない。……普通の人間ならば。
おそらくこの蜘蛛野郎は、蜘蛛だからこそ、それを遂行出来たのだろう。
蜘蛛は食事の時、糸を用いて餌を包み、内部に消化液を放出して肉体を溶かし、その液体を啜る。
つまり、その要領で肉体の内側に糸を張り巡らせ、首から上を糸で防いで脳に届く消化液を塞き止め、内臓や骨のみを溶かして食し、その残りの空間に収まったという事。
考えたくない事だが、それが遂行されたのは変わらないみたいだ。多分、脚でエーデルさんの身体を貫いて即死させ、俺達と脱け殻を戦わせている時に糸と消化液を使って内部を掃除したのだろう。
脳が残っていたからこの脳から情報を得て図書館について色々と知り、事を起こして今に至るって訳か。“存在模倣”……嫌なスキルだな……!
「吐き気がするやり方だ……!」
『フム……あの会話のみで概要を全て理解するか。頭に血が上っていなければ考えるようだな』
「アンタの……テメェのせいで頭に血が上ってんだろうが! ──伝家の宝刀、“星の光の剣”!!」
『……!』
やっぱりエーデルさんが“NPC”とは言え、許せないものは許せない。俺は全身に光を巡らせ、力を込める。現在は質量のある光。本来の世界に近い感覚なら光の速度で移動しただけで星が崩壊し兼ねないが、今の世界が世界なので上手いこと出来ているのだろう。
同時に踏み込み、俺は光の領域に到達した。
『……!』
刹那に通り過ぎ、百回叩き付ける。エーデルさんの身体をボロボロにはしたくないが、死してなおいいように使われるのを見過ごす訳にはいかない。せめて肉体に引導を渡してやる!
「終わらせる……!」
また刹那に過ぎ行き、今一度百回。百発分の打撃を叩き付けた。
レベルが上がったとは言え、まだ五百回以上の攻撃は出来なさそうなところ。純粋にステータスの素早さなどが足りないからだ。だからと言って攻撃力にも割り振らなければ威力が落ちる。手数と破壊力。両立させてこそ真の“星の光の剣”だ。
「まだまだ……!」
『これは……マズイな』
連続して仕掛ける態勢に入った瞬間、天井に糸を吐き付けて移動。どうやら避けようという魂胆らしい。無駄だけどな。
「で、アンタはどこに向かっているんだ?」
『……!? 既に天井に……!』
俺の跳躍力の方が圧倒的に上だからだ。
この天井は高いが、高さ自体は精々十メートル程。秒速30万キロメートルの跳躍力なら……まあ、何秒で到達するのかは分からないけど一瞬だ。
今の瞬間にも五十発分は叩き込んだ。すれ違い様にたった五十発か。まだまだ足りないな。俺の速度も。
『ならば……“鉄糸繭”!』
「繭? 蜘蛛だろ。アンタ。いや、まあ繭を張る蜘蛛もいるか。毒蜘蛛のような猛毒にハエトリグモのような機敏性。速度もそれなり。色んな蜘蛛のハイブリッドって訳か。そう言えば前のドン・スネークも色んな蛇の能力を掛け合わせたみたいな力だったな」
鉄の強度を誇る糸にて自身を守護する蜘蛛。基本的に動物モチーフのモンスターはその動物の種類による利点を色々持ち合わせているらしい。
しかし、まあ閉じ籠られちゃ通常攻撃はあまり通らないか。今の使用スキルには防御貫通の効果もあるから問題無いけど、どちらにせよ最初の百発で勝負は決まっている。消費“SP”を抑える為にも今回は切るか。
俺の“星の光の剣”は継続型の必殺スキル。能力を使っている最中に“SP”が減り、“SP”が空になったら途切れる仕様。だからこそ消費“SP”が多くなる他の必殺スキルと掛け合わせなかったという事だ。レベルが四桁後半あった時も本当に大事な時にしか“光速連鎖”は使っていない。
そんな事を考えているうちに繭の中にてカウントが始まり、ヒット数が表示される。合計値は二五〇。今出せる最大ヒット数の半分か。まあまあだな。
それから少し経ち、繭が割れて中から細長い脚が現れた。
『“蜘蛛の糸”……耐えたぞ……!』
「本当に耐えてるな。“蜘蛛の糸”。必ず一回は耐えられるタイプのスキルか。虫としての蜘蛛の糸じゃなく、一つの話をモチーフにした能力。本来の話は地獄に堕ちた者を救う糸。……一命を取り止めるって方向のスキルみたいだ。後一撃で倒せると思うけど、面倒だな」
『フフ……後一撃で倒せると思うか? “脱皮成長”……!』
「……!」
“蜘蛛の糸”。耐久スキルの一つみたいだが、それとは別に“脱皮成長”とやらを使用した。
エーデルさんの身体から抜け出し、自身の肉体を脱いだ。そのまま巨大化し、脱け殻が置かれてスパイダー・エンペラーは俺達を見下ろす。
「成る程な。昨日の脱け殻はそれか」
『フフフ……無論だ……。レベルも上がり、体力も少し戻った』
「へえ?」
そう言われ、視線は外さず慎重に相手のレベルを確認。Lv45……昨日の脱け殻より10レベも高いな。だが、この感覚。
「そのレベル……一時的なものだな? 実際にレベルが上がってはいるけど、しばらくすると戻る感じか」
『フッ、そうだな。だが、一定時間この状態を維持出来ればレベルが固定される。昨日の脱け殻は昨日の時点でのレベル。そして先程までの我がレベルを固定した40だった』
「成る程な。昨日は確かにLv35だったが、今使った“脱皮成長”を使ってLv40になり、手を出さない事でレベルを固定させた。そして今は一時的な成長でのLv45って事か」
『フフフ……』
ただ笑っているだけだが、どうやらその様子。しかし、体力が後少しなのも変わらない。
本来は一気に5レベル上がればほぼ満タンになるが、スキルによる強制的なレベルアップなので半分しか回復していないのだろう。それなら話は早い。
「ケリを付ける!」
駆け出し、木刀を大きく差し込む。そのまま振り上げるように振るい、その身体に叩き込んだ。
「……っ。なんつー硬さだ……!」
『フン、効かぬわ!』
が、その瞬間に俺が弾き飛ばされる。見れば体力は全く減っておらず、横から脚が放たれた。
「……ッ!」
脚は何とか咄嗟に防いだ。しかし重い衝撃という事は変わらず、そのまま大広間の壁に激突。粉砕して埃を舞い上げる。
本当に痛いな……身体自体は無傷だけど、ただ傷が残らないだけ。勢いよく壁に叩き付けられた事は人生で一度もないが、その痛みが直に来るのはかなりキツイ……!
「折れてないよな……いや、折れる訳無いか。どんなに攻撃を受けても体力が無くなるか気絶状態に入るまでは意識も失わないしな」
俺は自分の肉体を確認。表面的な傷は付かないが、それでも気になるのが本来の世界を生きていた名残だ。
しかし体力も半分近く削られた。Lv45の攻撃。咄嗟にガードしてもかなり厳しいな。
「はあ!」
『フッ、今の我なら主の拳も受け止められるぞ……!』
「硬い……!」
俺が弾き飛ばされた瞬間にソラヒメが迫って拳を打ち付けたが、ソラヒメの攻撃でもビクともせずに脚で払う。
それをギリギリで躱したソラヒメは距離を置き、痛む拳を見つめていた。
「なんて硬さなの……鋼鉄どころじゃない……」
『当然だ。今の我の強度は金剛石に匹敵する。その程度の力で砕ける訳なかろう』
「金剛石……ダイヤモンドか。けど妙だな。ダイヤモンドってのは斬撃には強いけど衝撃や熱には弱い筈だ。ソラヒメの拳はどちらかと言えば衝撃なんだけどな」
『それは普通の金剛石の場合であろう。これはあくまで我の肉体。強度に加えて柔軟性も備わり、無敵の防御を手に入れた』
「ハッ、そうかよ」
あくまで生き物としての強度がダイヤモンド並み。それなら硬さのみならず輝き以外の全てはダイヤモンド以上の存在という事だろう。炭素が様々な条件によって変化し、生み出されたダイヤモンドと鉄の強度を誇る生き物でしかないスパイダー・エンペラーの肉体がどの様な経緯で変化したのかは不明だが、ゲームの世界であるこの場からするに首謀者がデータをいじって作り出されたモノと考えるのが妥当か。
ゲームの種類では坪や箱を破壊出来るモノがあり、モンスターの硬度などを調整しているモノもある。謂わばこの世界になった時、武器の強度や肉体的な強さを設定したのだろう。ゲームに関してはプレイヤー側なので詳しくは分からないが、制作者なら大抵の事は出来る筈だ。この世界の辻褄や常識。物理学に合わない事柄は全て、“ここがゲームと融合した世界だから”。で説明出来るっぽいな。
「そうなってくると……いざ首謀者ともう一度戦う時が大変そうだな。」
『余所見をするな! “金剛糸”!』
「してねえよ! てか、地味に糸の硬度も上がっているんだな」
設定を自在に操れる首謀者。それとの戦闘は今後行うと考えると少し気が引けるが、今優先する事は目の前のスパイダー・エンペラーだろう。
硬度が高まった糸が射出されて俺の背後の壁を貫き粉砕。先程までそこに居た俺は取り敢えず動き回る事にした。動けば多少は精度も下がるだろう。狙いを定めているうちは。闇雲に放たれたら困るから相手の動きに合わせて回避行動をしなくちゃならないな。
「生き物なら……炎は効くよね! 室内だからあまり使いたくないけど……“ファイア”!」
『フン、確かにアイツらの攻撃よりは効くな。だが、魔法防御も上がっているぞ!』
どうやら比較的効果的なのはユメの魔法みたいだ。だが、それに対する防御も上がっているらしく脚で払われて掻き消されてしまう。
そこにセイヤが矢を放つがそれも肉体に弾き飛ばされ、スパイダー・エンペラー。蜘蛛皇帝は縦横無尽に糸を吐き付けた。
『“蜘蛛の巣”。もう此処は我の領域だ。出口も塞いだ。主らを食し力を得るとしよう』
「“蜘蛛の巣”……ねえ? スキルでも何でもないな。ただ本当に巣を張っただけだ。そして食して力を得る……か。モンスターがモンスターを食してレベルが上がったのは見たことがあるけど、それは俺達にも適用されるのか」
柔らかく、硬い。蜘蛛の巣。下手に動けばたちまち絡め取られてジワジワと食されてしまう事だろう。
強度も強度なのでそう簡単には断ち切れない筈。面倒極まりないな。やっぱり防御貫通の“星の光の剣”じゃなきゃ方法は無いか、それとも何かあるか……。
「まあ、考えていても仕方ないか。ユメ、ソラヒメ、セイヤ。敵は魔王軍の幹部だけあって強力。気を引き絞めておけよ……!」
「はい! 少なくとも魔法はそこそこ通るみたいなのでその辺を攻めていきます!」
「言われなくても! って、そう言う台詞は本来リーダーの私が言う筈なのに!」
「ハハ、確かにソラ姉のリーダー感は薄いかな。まあ、僕達の中でスキルを除いて一番なんだから頼りにしているよ」
「そう言われちゃお姉ちゃんも頑張らなくちゃね!」
俺が言うまでもなかったか。みんな、当然それなりの覚悟は決めている様子。アイビーさんはユメとセイヤに護られているし、一先ず早いところあの蜘蛛を片付けなくちゃな。
俺達とスパイダー・エンペラーの戦闘は、スパイダー・エンペラーがスキルによって一時的にレベルを上げる事で継続する事になった。




