ステージ18-17 消滅
「……ハッハ、まさか……我らも消え去る時が来ようとはな。消滅の瞬間と言うものは何とも呆気ないものだ」
「そうだね。けど、どうやら消滅までラグがある様子。この人数の消滅……世界の処理が追い付いていないみたいだ」
「ハッハ、ホンマに一瞬やったな! 俺なんか何もしてへんで!」
自身の肉体から漏れる光の粒子。それを見やり、ラディン、シリウス、クラウンの三人は笑っていた。
何で笑えるんだよ……。消える方は気が楽なのかもしれないけど……また置いて行かれる俺達の身にもなってくれよ。
「わあ! フレアの身体がキラキラしてて綺麗だよ!」
「スノーこそ。いつもより可愛いかも」
「え? それって、いつも可愛いって思ってくれたの!?」
「ふふ、うん。そうだよ♪」
『バウワン!』
『ヒュシャー!』
「ありがとう! エンもヒョウもキラキラしているね!」
「ええ、そうだね♪」
こちらも明るく消え去るスノーとフレア。エンとヒョウも当然狙われたらしく、漏れる事無く消滅の一途を辿っていた。
「あらあら。ウチも消えてまうみたいやなぁ。ホンマ呆気ないわぁ」
「私も消え去ってしまうようですね。どちらかと言えば巫女として消え去ってしまった皆さんを追悼する側ですのに……」
「フッ、これが……死……か。思ったより怖くはないかもしれないね。ただ私は闇に還るだけ……そう、同胞と共に……」
先程の面々を含め、消え行くみんなは、存外気楽だった。
確かに痛みはないだろう。本当に一瞬の攻撃だったからな。
「み、皆さん……」
「みんな……」
「……っ」
「……。消えて……しまうのね……」
「みんな居なくなっちゃうの……? そんなの嫌だよ……」
消え行く者達は明るいが、残されるユメ達は気が気でなかった。ユメ、ソラヒメ、セイヤとマイとリリィは順に反応を示す。
俺だってそうだ。みんなと別れたくない。……けど、運命が俺達を分け隔てようとしている。
もう取り返しは付かない。それも分かっている。先程のように、気が変わったから。つまらないからと言う理由で大魔王がラディン達を復活させる可能性もあるが、今さっきの様子……その事から考えてもそれは無いなと断言出来そうだ。……本当、嫌になるよ。みんなを護る為に剣聖になった。実際に護れていた……途中経過では。その最終的な結果がこれか……結果なんて、全部悪い方向にしか向かわないな。そんなものが居るのか分からないが、もし神や仏が居るなら少しは思い通りの方向に進んでくれよ……。居ないんだろうな……。
「私もいよいよかな……次に復活したらもう残り残機は0。まだ今回は生きられるけど、次の瞬間にも消えいってしまいそう」
「馬鹿なことを言うんじゃねェ! ダークネス! そん時ゃ俺の残機をやる!」
「そしたら貴方が消えちゃうじゃない。シャドウ。それは駄目よ」
「テメェがそれを言うな!」
まだ復活は出来るが、“大魔王”が“魔王”だった時、既にやられていたダークネスも残機は一つ。それについて半ば命を諦めている様子だが、そんなダークネスへシャドウが叱咤する。
確かにまだ生きており、これから先も生き残れるチャンスのある仲間が命を諦めたら怒る。俺に対するユメみたいなものだな。
大魔王のように仲間すら大した存在と思っていない者はともかく、仲間が大事なら相応の行動に移るのが人間って種族だ。
「すまないな。ライトよ。我らはここまで。これ以上力になる事は出来ないようだ」
「……ハハ……十分やってくれたよ。ラディン」
「悪いね。行き先は分からないけど、先に行くよ。もしかしたらそこでサイレン達とまた出会えるかもしれないからね」
「ああ……その時はよろしくな」
「ほな! さいなら!」
「……アンタは相変わらず軽いノリだな……」
ラグが消え、ラディン、シリウス、クラウンの三人が光の粒子となって空へと舞い上がった。キラキラと輝き、日が暮れてきた魔王城跡地を静かに照らす。
「じゃあね! ライト! みんな! 私達も先に行くよー! 天国かな? 地獄かな? あるのかな? 分かんないけど!」
「またね。ライト達」
『バウワン!』
『ヒュシャー!』
「ああ……サヨナラだ」
次いでスノーとフレア、エンとヒョウが消え去る。
何だかんだ、俺達と一番付き合いが長い二人だ。同じギルドの主力。別れの言葉を返しても、また明日会える訳じゃないよな。
「ほな、おおきに。ライトはん。みんな」
「消え去る仲間達の言葉は悲しかったですけれど、この時間……仕様のお陰で最期の言葉が返せるのは良いかもしれないですわね」
「そうだな……本当にその通りだ……」
モミジとエビネも消え去る。ギルドマスターを除いて南西ギルドと北側ギルドで共に行動した二人。やっぱり慣れないな。もう二度と、みんなと話す事は出来ないんだ。
「フフ、先に逝く。しかし私は何度でも闇の底から蘇る。その時はまたよろしく頼む……と、そう言っておこう」
「悲しいな。もう会えないか。それじゃあな。生き残った皆」
「……またな……」
あまり話していないが、何となく印象に残っているケヤキとギルドで一度会っているミティア。そして他のギルドメンバー達も言葉を残して次々と消え去った。
確かに最期の言葉を聞けるのは残酷だけど親切な仕様だ。残された側はやり場の無い感情に苛まれるけどな……いつも気が利いた言葉を返す事は出来ない。
天を見上げ、天の川のように連なる光の粒子を見やり、言葉を知らない自分自身を呪った。だが、だからこそ冷静であるべきなのかもな。
「俺達も、一時的には消滅するか」
【CONTINUE】
【RE START】
仲間達を最期まで見届け、残機が残っている俺とユメ、ソラヒメ、セイヤの四人。
マイとリリィの二人。
シャイン、フラッシュ、ダークネス、シャドウの四人は復活した。
そのまま冷静に、クールさをキープしながら大魔王へと視線を向ける。
【フム、復活出来るのはこの十人だけか。いや、確か俺の攻撃すら受けなかった白髪の子供も居たな。あの中で動けたみたいだ。それは面白そうだけど、あの子供に戦う気は無い。それはつまらない。あーそれと、この十人以外にも何人かは蘇ったが……つまらなそうな奴らだから既に始末した】
「……っ」
確かに変だった。
残機が残っていたプレイヤーはまだ居た筈。そいつらは連続してやられたのか……つまらなそうだからという理由で、あの一瞬で……!
流石にシャイン達は全国民と共に来た訳じゃないし、ギルドにも主力以外は残っているけど、少なくともこの場で残りは俺達だけか。
【だからこそ後はアンタらだけ。何回殺せば消滅する? 今までの奴らは3回殺した後にトドメで完全消滅だったが……】
「さあな。自分でも分からない。けど、アンタを逆に討伐する。大魔王!」
【怒ってはいるが我を忘れた訳ではなく冷静沈着を保っているな。肉体的にも精神的にも落ち着いている。やはりまだ楽しませてくれる力はあるか。生かして正解だった】
「もうアンタの遊び相手になんかならないさ……! 次の瞬間の俺からな!」
怒りと悲しみは宿している。だが、俺は妙に落ち着いていた。これも今まで消え去った仲間達のお陰かもな。精神面を一気に鍛えられた。
いや、一気に何百人が一斉消滅したからこそ、脳の処理と感情が追い付いていないだけかもな。
【ならば見せてみろ。その力をな?】
「言われなくても……! ──伝家の宝刀」
【しかし、そのスキルは危険だな。他の四人とお前だけは要注意だ】
「……ッ!」
黒い槍に貫かれ、俺の体力が再び0になった。
流石に、1.5割のダメージを負っている今は専用スキルを警戒するか。
「今度はまとめて葬らないのか?」
【ああ。この人数なら一人ずつ相手にしても良いだろうからな。たったの十人だ】
「逆に助かるよ……」
【GAME OVER】
【CONTINUE】
【RE START】
そして復活。
どうやら大魔王は数が多かったからまとめて消しただけらしく、十人なら相手に出来るらしい。
そう、そんな理由如きでラディン達は、スノー達は、みんなは消された。……ふざけるな。穏やかではある。冷静でもある。だが、許せない。その感情はそのままだ……!
「許せません! ──究極魔法・“憤慨炎”!」
【怒りは良い。人は怒りでリミッターが外れて力が出るらしいからな】
「……っ」
【GAME OVER】
【CONTINUE】
【RE START】
怒りを顕現させた噴火のような炎をユメが放つが、大魔王にはダメージを与えられず残機を減らされてしまった。
だが、俺やユメは構わず仕掛ける。シャイン達の残機は僅か。マイとリリィもライフの時以降増えていないと考えれば少なくなっている筈。だからこそ俺達が大魔王に仕掛ける必要がある。
「──暗黒騎士道……」
【だから、それは使わせないって】
「……ッ!」
「……! シャドウ!」
【GAME OVER】
【CONTINUE】
【RE START】
専用スキルを二回当てれば勝てる。だが、大魔王は流石にそれを警戒していた。
シャドウが隙を見て使おうとした瞬間、一瞬にして俺とユメの近くから移動した大魔王がシャドウを拳で貫き、その体力が0になる。
マズイ状況だな。ダークネスだけじゃなく、シャドウまで残機が一つになってしまった。
俺達が同時に専用スキルを放つのもありだが、大魔王の速度は同時に俺達全員を消せる程のもの。これを止める事は……いや、流石に速過ぎないか? 大魔王のレベルは不明だが、レベルを選定するなら4000~6000くらいの筈。俺の“星の光の剣”を目視する事は出来たが、反応は出来ていなかった。
仮に俺達全員が一瞬で消されるとしたら、光の速度は無いなら亜光速くらいは必要だ。
当然、性格的にわざと反応しなかった可能性もあるが、先程消滅させた全プレイヤーとはかなり距離があった。そんなプレイヤー達を誰一人として見逃す事もなく、同時に全滅させる事など不可能に近い。
仮に光の速度で動いたとしても探し出すまで時間が掛かるのは間違いないだろう。割と光の速度で動いている俺が言うんだ。信憑性は高い。
「まさかそれが大魔王のスキルなのか……?」
「ライトさん……?」
「どうしたの? ライト」
「何かに気付いたのかもしれないね……」
俺の思考が口に漏れ、ユメ、ソラヒメ、セイヤの三人が反応を示す。
今までの大魔王特有のスキル。宝石化や魔術は純粋な魔力からなるものだとして、今考えたスキルは再生術や瞬間移動にも等しい速度で動く事などに辻褄が合ってしまった。
もし本当にそうだとしたら、俺達はコイツに勝てるのか……?
俺はユメ達を一瞥し、大魔王の方へ視線を向けて言葉を紡ぐ。
「大魔王。アンタの能力……固有スキルとでも言うのかな。アンタのスキルって……“時間”って概念その物を操る事か?」
【……。へえ?】
大魔王は小さく笑い、ピクリと反応を示す。
その様子を見、俺は更に続けた。
「少し考えたらピンと来てな。俺、こういう時の発想力は割かしあるんだ。漫画とかを読み込んでいるってのも一つの要因かな。作者からしたらラスボスは強くしたいのが当然。だからこそ、最終的にラスボスは全能系とか純粋に力が強かったりとか不死身だったりとか、概念操作系とかだったりと、一定の範囲を流転してパターン化するんだ。まあ、色々な可能性を引っ括めてパターンって言うのもあれだけど、取り敢えず古くから伝わる伝統みたいなものだから受けとる側も入りやすいしな。……つまり、アンタは昔の漫画から使われてきた時間の操作が固有スキルなんじゃないかって思ったんだけど……合ってるか?」
俺が予想した大魔王の能力。それは時間その物を自在に操る事。
時間を止めれば全員を同時に消し去る事も可能。時間を巻き戻せば復活させる事も可能。自分自身を早送りにすれば高速移動も可能。それらを含め、結論に至った大魔王の能力。それが時間操作。ラスボス感はある。合っているかは分からないから本人に聞いてみたけどな。
【ハハ、それを答える必要はない。俺の手の内を相手に明かすのは愚行でしか無いからな。答えはノーコメントだ】
「大体の場合、答える必要が無い時は合っているんだよな。それじゃ、俺はアンタのスキルが時間操作って仮定して事を運ぶとするよ」
【構わないさ。思うだけなら自由だからな。表面と内側が違うのが人間さ。外面が良くても内面では常に他者を見下している。もっと単純に言おう。良い人間なんて存在しない】
「関係無い部分からいちいちトゲのある言い方をしてくるな。しかも偏見しかない。人間は愚かだから滅んだ方が良い理論を持つタイプのラスボスか」
【違うな。ラスボスってのが何を示すのかは分からないけど、おそらく俺の事を言っているんだろうな。それに返すなら、人間なんかどうでもいいタイプの存在だ。言うなれば……お前達人間は虫や家畜と同じだ。殺めても何も思わない】
「虫や家畜……割と思う人も居ると思うけどな」
【ああ。体液で手が汚れるとかな?】
「別の感情だよ」
結局、大魔王の能力が何なのかは答えを得られなかったな。九割くらいは合っているんだろうけど、教えてはくれないらしい。
そして大魔王の持論。まあ、それはラスボスキャラによくある設定だから問題無いか。悲しい過去とかは無いタイプのラスボスっぽいから倒しやすくて助かる。
「取り敢えず……ラディン達の仇は討つ!」
【やってみな。ここからは俺も本気モードだ……!】
向き合う俺達十人と大魔王。既に大魔王の部下だったモンスター達も居ない。自由に復活させられるからついでに消したんだろう。そんな事はどうでもいいか。
俺達十人と大魔王の戦闘。この場に集ったギルドマスターと全プレイヤーが消滅し、終盤へと差し掛かるのだった。




