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ステージ17-13 感情の暴走

「アナタ達なんかに私の悩みは分からないわ! 知ったような事を言わないで! 勘違いしないでよね!」


「なんだよその言い回し……」


 怖い方の本気になった時と同じ言葉だが、羞恥と照れの狭間で彷徨さまよい、顔を赤くしながら仕掛けるドミネの姿は先程までと全くの別物に見えた。

 しかし破壊力は相変わらず。衝撃波が押し付けられ、この砂漠の広範囲が数メートル地下に沈んだ。


 これは俗に言うツンデレってやつか? 一昔前は暴力系ヒロインとかが出てくる作品もあったしな。ドミネが暴力系ヒロインならその世界は一瞬で崩壊の危機に瀕するだろうけど。“ツン”が山河崩壊クラスの攻撃だし。

 レベルが1000って事も踏まえると、大陸破壊規模のツンが襲う事になるな。


「お黙りなさい! 私は暇なの! アナタ達も、暇潰しの為のおもちゃに過ぎないんだから!」


 更なる強大な衝撃波を放ち、沈んだ砂漠を更に沈める。そのままパンゲア大陸が揺れ、この場を中心に数十キロ以上にも及ぶ巨大クレーターが形成された。


「おもちゃなら大切にした方が良いよ。僕の初期装備もおもちゃの弓矢だったからね。それでも結構愛着が湧いているんだ」


「……!」


 冷静さを欠いているドミネに向け、セイヤが上級装備の“光弓”ではなく、初期に身に付けていた先端が吸盤の矢を放った。

 ドミネにそれが直撃し、一瞬の怯みを見せる。

 おもちゃの矢もこの世界じゃ立派な武器。Lv600以上のセイヤが放つおもちゃの矢は元の世界でのロケットランチャーやバズーカ砲に匹敵する破壊力だろう。

 まあ、それでも初期の初期装備。ドミネの強さ的にも大したダメージは負っていないみたいだな。


「こんなもの……!」

「“ショックウェーブ”!」

「……っ。邪魔立てを……!」


 セイヤの矢によって逆撫でられたドミネに向け、ユメが魔法としての衝撃波を放った。

 対するドミネは衝撃波の壁を作り出して防ぎ、二つの衝撃波が衝突した事によって空間が歪んだ。


「“ブリザード”!」

「効かないわ!」


 後続から放たれた氷魔術を衝撃波で防ぎ、そのまま今仕掛けたユメ、セイヤ、リリィの三人に狙いを定める。その隙を突き、俺とソラヒメが攻め入った。


「はあ!」

「……っ!」


 ソラヒメの拳によって殴り飛ばされ、


「悪いな……!」

「……!」


 上から落下するように俺が白神剣を突き立て、それによって粉塵が舞い上がる。


「──……っ。何のつもりかしら……同情でもしているの……?」


「さあ、どうだろうな。少なくとも、今のアンタには前程の敵意を感じないなって思っただけだ」


「そう、優しいのね」


 突き立てたが、剣尖はドミネの頬の横に突き刺さる。つまり砂の上だな。

 直撃させても耐えられるんだろうけど、何となく当てる気にはなれなかった。

 俺とドミネは互いに見つめ合い、俺がドミネへ股がる態勢でたたずむ。傍から見たら勘違いされそうな絵面だな。


「いいのよ。別に好きにしても。自分で言うのもなんだけど、私って結構魅力的でしょう?」


「……。そうだな。確かに魅力的だけど、そう言う事じゃない。今ドミネを刺さなかったのは、ただ単に刺したくなかった感情論だ」


「生意気ね。敵に情けを掛けるなんて甘過ぎるわ」


「ハハ、女性は甘い物が好きだろ? いや、甘味は基本的に男女問わず好まれているな。俺も甘い物は嫌いじゃないし」


そっちの話? もしそっちなら貴方の甘さは胸焼けしそうなものよ」


 それだけ言い、ドミネは俺の身体を衝撃波にて吹き飛ばした。

 しかし大したダメージが及ぶものではない。吹き飛ばされた俺は少し離れて着地する。軽く押し退けたような衝撃波だな。


「アンタも結構甘いじゃないか。今のタイミングならマインドコントロールを使えたんじゃないか?」


「そうね。使えたかもしれないけど、貴方が仕掛けなかったから私も使わなかっただけよ」


「義理堅いな」

「そうでもないわよ……」


 ゆっくりと起き上がり、身体についた砂を払って俺へと視線を向ける。

 今のタイミングでも操ろうとしないか。本当に心境に変化が訪れているな。その性格上、多少分かり合ったところで相容れる事は無い。そう思っていたけど、どうやらまた話が変わってきそうだ。

 もしも俺達と協定を結べれば心強い戦力になる。それだけじゃなく、普通に友人として接する事も出来るかもな。

 だが、話をするに当たって選択次第じゃ地雷を踏む事にもなり兼ねない。まあ、俺は孤独だった事もあるから少し攻めた発言でもドミネは聞いてくれるからな。シンパシーは確かに感じてくれているのだろう。


「そんな義理堅いアンタに訊ねるけど、俺達が魔王軍に入るんじゃなく、ドミネが俺達と協力するってのはどうだ? 操るような間柄じゃなくてさ。純粋に仲間として迎え入れる事は出来ないか?」


「……。何を?」


 唐突な俺の申し出に対し、ドミネはピクリと反応を示して疑問符を返す。

 前の話しと今の申し出は繋がっていないからな。その様な反応も頷ける。

 けど、今のドミネなら大丈夫かもしれない。勘以外の根拠はないけどな。


「アンタを逆撫でするのを承知で言うよ。ドミネはやっぱり仲間が欲しいんだよな? 単純な関係。規約も契約も何もない、ただ笑い合えるような関係を望んでいるように思えてならない。さっきまでのドミネじゃなく、今のドミネがな」


「…………」


 何を思っているのかは分からないが、何とも言えない表情で俺の言葉を静聴する。

 さっきまでなら孤独を指摘した時点で激昂していたが、今はそれが無い。さて、どう出るか。そんな事を思いつつ、俺は言葉を続けた。


「だから、俺達と共に──」

「──それは無理よ」


 俺が続けようとした瞬間、少し遠い目をしたドミネは首を横に振って断った。

 難しい事だとは思っていたけど、断り方は少し想定外だな。もっと激しく言われるかと思ったけど、かなり静かに断った。


「悪くない申し出ね。けど、それは魔王様を裏切るような事。そんな事をしたら私が魔王様に消されちゃうわ。あの人はとても怖くて危険な人。恩も忠義も特に無いけど、その強さ故に私は忠誠を誓っている。そんな御方よ」


「忠義が無いのに忠誠は誓っているのか。矛盾しているな」


「この世界はそんなもんよ。矛盾した感情を持ちながら従うしかない。それが唯一の生き残る道。……まあ、別に死んでも構わないんだけどね。前は満足して逝けたんだし」


 忠義などもない魔王に従うドミネ。死しても構わないと思いつつ、生きようと裏切りなどにも出ない。

 言っている事とやっている事が違うのはそれこそ人間っぽいな。種族的には魔族だけど、感情を得た事で思考回路が本物の人間らしくなったみたいだ。


「お話は終わり。何だかセンチメンタルな気分になっちゃったわね。前まではこんな事も無かったのに。ゴチャゴチャして嫌な気分。……アナタ達を私の物にして沈めるわ」


「……そうか」


 俺達をコレクションにする。その言葉は変わらないが、何となく俺達と戦う理由が欲しいだけにも思える。

 そうする事で感情特有の物事が混ざり合った、よく分からない感覚を取り消そうとしているのだろう。


「行くわよ……!」


 踏み込み、足元に衝撃波を発し、その勢いで加速して正面の俺の眼前へと迫り来る。同時に衝撃波を纏ったてのひらを打ち付けた。

 俺は白神剣と黒魔剣を交差させて二本の剣の腹でその掌を防ぎ、掌の重みと衝撃波によって砂漠を一気に吹き飛ばされる。


「やるしかないみたいだね!」

「ええ、そうして頂戴。アナタ達は好きよ。だからこそ本気で相手して」


 俺が離れた瞬間にソラヒメが歯を噛み締めながらも拳を放ち、それが衝撃波の掌で防がれる。砂漠の砂が舞い上がり、ソラヒメの拳をそのまま握ったドミネは一回転と同時にソラヒメの身体を放り投げた。


「……っと……!」

「あ、ありがとう! ライト!」


 飛ばされた方向は俺が押し離された場所。そのままソラヒメを受け止め、衝突ダメージは緩和させた。人は柔らかいからな。岩とかにぶつかるよりはダメージも少ない。


「本当に……これしかないんですか……! ──“ファイア”!」


「そうよ。私とアナタ達は種族も所属も違う。仲良くなる事なんて絶対にあり得ない!」


 ユメが螺旋状の炎魔法を放出し、ドミネは衝撃波の壁でそれを防ぐ。

 壁にぶつかった炎はそのまま反り、一瞬だけドミネを包み込んで揺らぎ、巻かれるように炎が消滅した。


「確かにこの世界には不可能な事も多いね。何処ぞの主人公のように不可能なんか無いって口で言うのは簡単だけど、どうしても無理な事は必ずある。……だけど君の場合、自分の意思次第。その事はあり得ない事でも無いんじゃないかな?」


「……っ。五月蝿うるさいわね! このメガネ!」


「……たまに眼鏡が悪口っぽくなる事あるけど、立派な視力保護アイテムだよ。この世界じゃ兜っぽい役割も担っているし」


 セイヤは仕掛けず、ドミネへ告げる。それを指摘されたドミネは叫ぶように衝撃波を放ち、セイヤは飛び退くように距離を置いてかわした。


「私も貴女に似てるかも……。だって孤独って辛いもんね。口では独りが好きみたいに言えるけど、本当は誰かと一緒に居たいよ」


「……私も貴女に……? 魔術師の貴女もこの感覚が分かるって言うの? フン、ただ便乗しただけではないかしら……!」


「違うよ。私もずっと独りだった。人間社会でも異形は弾かれる。私の眼は適していなかったみたい」


「…………」


 取り乱すドミネへ向け、リリィが構えずに話し掛けた。

 と言うか、それは初耳だぞ……眼が原因で弾かれていたってオッドアイが理由で何かあったのか。いや、今は亡きソフィアと話していた時、そんな会話が聞こえたような……よくは聞こえなかったけど、ソフィアとはその事を話していたのか。


「だから同じ境遇だったソフィアとも仲良くなれそうだったのに……」


「ソフィア? 誰かしら?」


「お友達。けどもう居ないの。戦いで死んじゃったから……」


「……そう。アナタ達は私と分かり合えそうな人が多いのね。ライトとリリィだっけ。……アナタ達は、私の一番お気に入りのコレクションにしてあげる!」


「きゃ……!」

「大丈夫? リリィ」

「あ、ありがとう。マイ……」


 自身を無理矢理奮い立たせ、正面のリリィを吹き飛ばす。

 リリィはマイがお姫様抱っこで受け止め、ドミネから離れ、ドミネは俺達を改めて睨み付けた。


「つまらない。薄ら寒い説得と同情はもう懲り懲りよ! もういいの! どうでもいいの! 再び受けてしまった生、それなら私は私の道を独りで突き進む! アナタ達を私のコレクションにして、自由気ままに生きていくわ!」


「少なくとも、俺にはアンタが自由には思えないな。常に意思と反する行動を起こしている」


「五月蝿い! 操っても感覚と温もりは感じるもの! それなら独りじゃない……! 毎日毎晩、アナタ達と共に私は愉悦に浸れるわ! アナタ達は慰み者。ただの愛玩具よ! 私の欲求はアナタ達で満たす!」


 衝撃波とマインドコントロールを周囲へ放ち、見境無く俺達を包み込む。

 まあ、見境無くてもここに居るのは俺達だけだからな。数撃ちゃ当たる戦法も効率的だ。

 けど、仮に俺達全員をコレクションにして常に一緒に居ても結局虚しいだけなんだけどな。


「そうか。それならやってみると良いさ。今のアンタが果たして本当にそれで満足出来るのか。俺達で試してみると良い。まあ、抵抗はするけどな」


「言われなくても! アナタ達を私の物にする!」


 元々設定されていた支配欲が感情によって暴走した存在。それが今のドミネ。

 敵対NPCが他のAIのように感情を得るといびつな方向に行ってしまうみたいだな。フィクションでよくある、敵キャラの悲しい過去がその場で形成された状態になる訳だ。

 けど、それなら止める。救う事が出来る。他の者を守るのが俺達ギルド。肉体的な強さは問題無いが、今の精神的に崩壊し掛けているドミネも守って見せるさ。

 この戦闘。それは最終局面へと踏み込まれた。

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