ステージ2-5 敵の軍勢
「さて、そろそろ来るかな。ユメ達は大丈夫か?」
「はい。大丈夫です!」
「右に同じく!」
「僕も問題無い」
時が経ち、すっかり日も暮れて今は明確に夜と言える時間帯になっていた。
俺達は四人で横に並び、さながら徒競走のレーンのような体制を作り出していた。それが今回の作戦だ。徒競走ではなく、その体制に意味がある。
「……! 見えた。敵の軍勢だ!」
「お出ましか……!」
少し離れた場所にて、エーデルさんが報告する。本人が手伝いたいと言うので安全な場所で見張りを任せたのだ。
今回の騒動を知っているのは俺達とエーデルさんを含めて何人かの使用人のみ。街の住民からすればいつもより少し騒がしいだけの夜という認識だろう。しかしそれで良い。騒ぎが起こるよりは行動もしやすいからだ。
「それじゃ、作戦の決行だ!」
「はい!」
「うん!」
「ああ!」
軍勢はおそらく農地目掛けて真っ直ぐ進んで来る。これはあくまで推測だが、昨日のモンスターからするに軍勢の平均レベルは多分20くらい。その相手と乱戦になればこちらが不利なのは明白。なので俺達は管理者。もとい、ギルドメンバーとしての特権を使わせて貰おう。
「「「「“地形生成”!」」」」
次の瞬間、俺達は自分達の前に地形を生み出し、農地を底とした谷を形成した。
その谷は俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤを分かつように形成され、俺達の前には一本道が作り出される。今回の作戦はここから始まる。
『『『…………』』』
『『『…………』』』
『『『…………』』』
『『『…………』』』
それによってモンスターの軍勢は自然と四つに分断され、俺達によって生み出された袋小路に誘い込まれる。その先に居るのは当然俺達四人。
既にユメとセイヤは矢や魔法を用いて牽制しており、俺とソラヒメもモンスターの群れを引き寄せた。
「……今だ! ──伝家の宝刀・“居合い斬り”!」
「──奥の手・“貫通拳”!」
「──リーサルウェポン・“貫通弓”!」
「──究極魔法・“圧縮火球”!」
『『『…………!?』』』
──その刹那、俺達は必殺スキルを放った。
俺とソラヒメが先に放ち、続くようにユメとセイヤが仕掛ける。正面の敵のみと相対しているので順に仕掛けるのは無意味に思えるかもしれないが、それも作戦だ。結果的にモンスターの群れが殲滅した。
後続にはまだまだ居るが、一気に大多数を減らす事が出来ただろう。
【ライトはレベルが上がった】
【ユメはレベルが上がった】
【ソラヒメはレベルが上がった】
【セイヤはレベルが上がった】
一気に高レベルの多くのモンスターを打ち倒した事で何段階かレベルが上がる。これで俺達はより戦いやすくなった。
「作戦通りだ! 見たか、この野郎!」
「凄いです……けど、何で私達の必殺スキルで一撃で倒せたのでしょうか?」
「確かに気になるな。ライトやソラ姉の強さなら分からない事もないけど、僕やユメのレベルじゃそれは無理そうだけど」
「そう言えばそうだね。何でだろう?」
モンスターを一気に減らせたは良い。だが、それについてユメ達は疑問に思っている様子。まあ当然か。レベル的に有り得ないという事はないが、平均Lv20のモンスターを一撃で倒すのは難しいからだ。
しかし、俺には何となく思い当たる事がある。なので説明するとしようか。
「それは俺とソラヒメが居たからだ」
「「……?」」
「ライトと私が?」
「ああ。と言ってもここからは仮定も含んだ話。確信がある訳じゃない。けど、多分そうだろうと考えている」
俺の言葉に三人は反応を示し、次の言葉を待つ。後続のモンスターはまだ来そうにないが、手短に概要だけを話すか。
「まず、今回の動きは俺とソラヒメの方が少し先に敵のモンスターを倒した。その後にユメとセイヤが仕掛けた。って流れだな。実はその時点で作戦の流れに入っているんだ。……と言っても簡単。俺とソラヒメが先に倒した事で“EXP”が入り、全員のレベルが上がる。まだステータスに経験値は割り振っていないけど、レベルアップボーナスで割り振りとはまた別の能力は高まる。それによって純粋にスキルの威力が上がったって事だな」
「成る程。先にライトとソラ姉が敵を倒したからこそ、僕達のレベルも上昇。必殺スキルで敵のモンスターを一撃で倒せるレベルにまで成長したって事か」
「ああ。まあ、ほとんど賭けだったけどな。数秒の差でレベルアップボーナスが入るかは未知の領域だった。結果的に上手くいったって訳だ」
「な、成る程。凄いですね。ライトさん……このゲームをやり込んでいるだけあります」
「バグ……じゃなくてちょっとした小技みたいなものかな? 確かにあのモンスター達、レベルの割に耐久力は低かったね」
「ああ、お陰で作戦を成功させる事が出来たよ」
昨日幹部の部下である蜘蛛型のモンスターを倒したが、その存在は案外手応えがなかった。それによって軍勢は体力と物理防御と魔法防御が低いって分かった。
なので初めから必殺スキルを使えば一撃で倒せるかもしれないと思っての行動。まだまだ初期レベルな必殺スキルだが、その予想が上手くはまってくれたみたいだ。
「さて、まだまだ軍勢は居るな。“SP”は使っちゃったし、今度は個別で撃破していくしかないぞ」
「ああ、分かっているさ。けど、地形生成の能力があるからね。狙撃手の僕は安全地帯から狙える」
「私もそうですね。逃げ道を塞いでしまえばこちらのものです!」
「アハハ。恐ろしいね。お二方。けど、私は持久戦には自信があるよ!」
大多数を撃破し、一気にレベルも上がったが軍勢自体は残っている。セイヤとユメは地形生成の専用能力を用いて高台に移動し、後方の逃げ道を絶って安全に処理する態勢へと入った。
俺とソラヒメは正面から戦わなくてはならないが、あのモンスター達はレベルの割にそこまで強くないのでそう苦戦はしないだろう。
『『『…………!』』』
「来た……!」
「うっ、全員蜘蛛ですね……高所から蜘蛛の群れを見るとなんかこう、ゾワゾワします……」
「確かにね……精神的にキツイものがあるよ……」
「二人はいいじゃん……私なんか素手であの蜘蛛を倒すんだよ……体液とかついたらどうしよう……」
やって来たモンスターの群れは全てが蜘蛛。さっきは遠目でさっさと必殺スキルを使ったけど、近くで見ると確かに気持ち悪いな……割とガチで……。
けどまあ、弱音は吐いていられない。“EXP”の宝庫って考えれば無数に顕在する蜘蛛の目も宝石の輝きに……見えないか。
「取り敢えず、倒すか!」
踏み込み、蜘蛛の群れに突き進む。正面の蜘蛛の眉間? を木刀で貫き、そのまま横に薙いで切り捨てる。同時に木刀を振り回し、周りの蜘蛛を薙ぎ払った。
「やあ!」
その一方で、壁の向こう側からソラヒメの声が聞こえる。おそらく蜘蛛に拳を打ち付けたのだろう。それによって砂塵が舞い上がり、蜘蛛の群れが空を舞った。
「“ファイア”!」
そしてユメの動きはこちらからも分かる。炎の初期魔法を放って焼き払い、黒煙が浮かぶのが見えた。
「こう言う時、範囲技が無いのが弓使いの辛いところだね」
セイヤの動きも分かり、素早く矢を引いてはそれを射出していた。ソラヒメやユメのような派手さはないが、的確に狙っているのだろうという事は窺えられる。
「そらよ!」
『……!』
俺も負けていられない。もう一度木刀を大きく振り回し、蜘蛛の群れを薙ぎ払う。それによって吹き飛び、体力ゲージが空となり光の粒子になって消え去る蜘蛛達。
まるで無双ゲームをやっているかのような爽快感だ。レベルは高いけど、攻撃力が高く耐久面が低い存在をまとめて倒すとこんな感じか。
【ライトはレベルが上がった】
【ユメはレベルが上がった】
【ソラヒメはレベルが上がった】
【セイヤはレベルが上がった】
それに伴い、急速にレベルも上がる。
平均レベル20のモンスターを×4で倒しているんだ。それも当然の事だろう。だが、次第にレベルアップの速度は遅くなる筈。もう既に若干遅い。
相手も攻撃はしてくるのでいくつか掠ったりもするが、感覚で言えば少しヒリヒリするだけなので大したダメージではない。
「大分数も減ってきたかな。ネズミ返し式にしたから乗り越えられる事もなかったし、これなら……。……ッ!?」
「うぅっ……何だろう……これ……」
「ライトさん!?」
「ソラ姉!」
一瞬、目眩のような感覚が生まれた。セイヤの言葉からしてソラヒメもその様な感覚に陥っているらしい。
「一体何が……。……っ!? これは……毒……!」
「あ……そうみたい……毒状態だね……これ……」
確認してみると、俺のステータスに毒の表記があった。意識が朦朧とし……声がよく聞こえないがソラヒメも同じ状態異常になっているようだ……。
リアルな毒って……こんな感じか……あ……駄目だ……これ……意識が遠退く……。
「ライトさん!」
「ソラ姉!」
「──君達! これを使うんだ!」
「「……!」」
次の瞬間、見張りの場所からエーデルさんが何かを放り投げた。
フラつきながらも俺はそれを受け取り、霞む視界の中で意味も分からずそれを使い、それについての言葉が脳内に響き渡る。
【ライトは解毒剤を使用した】
(……! 解毒剤……)
それは解毒剤。文字通り毒の状態異常を治す薬だ。
ゲームの世界特有と言うべきか、恐るべき即効性。俺の視界は見る見るうちに本来の景色を映し出し、残りのモンスターを捉えた。
『『『…………!』』』
「糸か……!」
その瞬間に糸が吐き出されており、毒で弱っていた俺を拘束しようと絡み付く。しかし即座に木刀で切り裂き、蜘蛛のモンスターに数撃加えて打ち倒した。
「すまない! エーデルさん! お陰で助かった!」
「私も治ったよ! ありがとう!」
「ああ、気にするな! こんな状況を作ってしまったせめてもの詫びだ!」
毒は解けた。本当に助かった。やっぱりエーデルさんは人が良いんだな。
取り敢えず残りのモンスターを──
「……。え……?」
「……! エーデル……さん……!」
──倒そうと動き出したその瞬間、エーデルさんの肉体を鋭利な何かが貫いた。俺の頭上から血飛沫が降り注ぎ、俺の髪が赤く染まる。
『余計な真似をしてくれたな。エーデル=ワイス。主はもう必要無い』
「……」
鋭利な何かが引き抜かれ、エーデルさんが力無く倒れ伏せる。そしてその背後に、一匹のモンスターを確認した。
【モンスターが現れた】
『今回の食事は上質なようだ。我が部下を数多く殺した存在。フフ、美味そうだ』
「……!」
そこに居た存在は、おそらくという推測の範囲内でしかないが、分かった気がする。その“おそらく”にはほぼ確実な確信があった。
「お前が……魔王軍の幹部だな……!」
『ご名答。我が名はスパイダー・エンペラー。魔王軍を統べる王の一つだ』
俺の言葉に対して丁寧に返してくれる幹部。スパイダー・エンペラー。直訳で蜘蛛の皇帝。
しかし魔王軍を統べる王の“一つ”か。つまり、魔王軍の幹部は何れも何らかの王という事。ライムスレックスとはまた違った王だな。
蜘蛛の群れと交戦する中、俺達は魔王軍の幹部と相対した。




