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ステージ17-7 魂の存在

『…………』

「はあ!」


 存在の拳が振り下ろされ、防御力と攻撃力にバフが掛かっているソラヒメが拳で迎撃する。

 それによって大広間が消し飛び、星降る月夜が天井に映し出された。


「うん! 私から攻撃すれば相殺出来る! すごいよマイちゃん! ライト!」


『…………』


 存在の拳を押し返し、そのままカポエィラの要領で回し蹴りを放ち、距離を置く。その間に上からユメとリリィが魔法と魔術を放った。


「“サンダー”!」

「“ブリザード”!」


 落雷と氷雪が頭上から被され、目映い閃光を放ちながら凍結。その瞬間に俺は──


『…………』

「……っ。使おうとする事すら許されないのか……!」


 ──専用スキルを放とうとしたが阻止された。

 言葉で告げるだけで発動するなら良いんだけどな。言った後に光の粒子が全身を巡る必要があるから、一瞬にも満たないラグが生まれてそのラグの間に阻止される。

 普通は反応出来ない速度でのスキルなのに。この存在は本当に異質というか常軌を逸しているというか何というか。色々と厄介だ。

 俺は存在から距離を置き、後方へと下がった。


「やっぱり難しいみたいね……」


「マイ。ああ、そうだな。……あ、そう言えばマイ。あの存在、必殺スキルとかも使わせないように反応を示すんだけど、何故かマイの必殺スキルには反応しないんだ。何でか分かるか?」


 サポート役として前線にはあまり出ないマイと話す。俺も今は様子を窺いながら後方で待機しているからな。

 それはともかく、気になった疑問をぶつけた。

 マイだけは何故か必殺スキルに昇格させたスキルを扱う事が出来る。それを利用すれば打開策が思い付くのではないかと考えたのだ。


「私だけが? ……うーん、ごめんなさい。分からないわ」


「そうか……」


 しかし何故かは分からない様子。当然か。そもそもマイにとってはこの存在が初めての相手だからな。……何か語弊がある言い方になっちゃったな。

 だがマイは、「けど……」と言葉を続ける。


「考えられる線なら、私がサポート型だからじゃないかしら? アナタ達が与えたのが攻撃スキルだけだと考えれば、サポートスキルは問題無く使えるとか」


「……。確かに。それは盲点だったな。さっきも必殺スキルじゃないにせよ俺の剣聖スキルを使えたし。今までの傾向から考えて短いスキル名じゃなけりゃ阻止される筈なのに……」


 俺達はこの存在を相手にサポートスキルは使っていない。強いて言えば“分裂ディビジョン”だが、もし仮にマイの分析が正しければそれは専用スキルの分類なのでカウントされていないのだろう。

 つまり、そこを突けば打開策が見つかるかもしれない。


「そうなると支援にも長けている狩人ハンターのスノーか超能力者エスパーのフレアだけど、場所が遠いな……」


「あの存在も言葉を理解しているみたいだから大声で呼ぶ事も出来ないわね……」


 魔法使いや魔術師にもサポートスキルはあるが、狩人ハンター超能力者エスパーのそれとはベクトルが違う。

 なのでスノーとフレアの力が必要だが、どうにも呼べなさそうで参った。


「だったら、私が囮役になろうか?」

「……! ソラヒ……メ?」


 次の瞬間、ソラヒメの頭だけが俺達の元に飛ばされ、足元に転がった。

 切り離された肉体とも連動しているから頭だけでも会話は可能だけど、何かシュールだな。てか、頭が取れるってかなりの激痛の筈なのに……。


「大丈夫なのか……それ。頼めるなら頼みたいけど」

「平気平気! オッケー! そろそろ再生するから呼んでおくよ!」


 そう告げ、ソラヒメの肉体が再生して存在に再び相対する。

 マイと話している時も俺は存在の隙を窺っていたが相変わらず何もなし。何とかスノーとフレアの力を借りたいところだ。

 それから数秒後、前線を離れたスノーとフレアが俺とマイの元にやって来た。



*****



「それで、なになにー?」

「何か思い付いたの?」

「ああ、まあな。マイのアドバイスのお陰だ」

「ふふ、もっと褒めてくれて構わないわよ」


 スノーとフレアが俺達の元に駆け寄り、俺は概要と作戦を説明する。

 この間にもソラヒメ達が苦戦しているんだ。早いところ手助けをしたい。何ならあの存在を倒したいな。


「……って事で、その存在が反応を示した時にフレアが俺を──」

「了解。それなら上手く行きそう」

「いいね! 狩人わたしの本領発揮だよ!」

「分かったわ」


 説明は迅速に終わらせる。それ程までに切羽が詰まっているからな。

 後はもうなるようになるのを祈るだけだ。


「──伝家の……」

『…………』


 決まった瞬間にマイ、スノー、フレアが安全と作戦遂行を兼ねて俺の元から離れる。同時に俺は力を込めて専用スキルを使う素振りを見せ、存在が身をひるがえすように俺の眼前へと迫った。

 剣聖の防御力とマイと俺のバフスキルの影響で三撃は耐えられる。一度コンティニューしてもバフは継続みたいだからな。


『……』

「……ッ! けどやっぱ、痛いは痛いな……!」


 痛いのは仕方無い。勝てる可能性を考えれば、それくらい何て事もない。


「──ハンティングスキル・“トラバサミ”!」

『…………』


 次の瞬間にスノーが動物の動きを止める罠であるトラバサミを生み出し、存在の動きを一瞬止めた。

 これだけではまだ専用スキルの隙にはならない。俺は力を込めつつ、次の機会を待つ。


「──最終舞踏・“高速の舞”!」


 そのタイミングでマイが速度バフの必殺スキルを使用。俺達は全員の素早さが上昇し、攻撃速度やその他にも素早い動きとなった。


「──伝家の……」

『…………』


 俺が再び使おうとした瞬間、トラバサミによって動きが鈍くなった存在が手を伸ばす。

 しかもこれが連続攻撃での二撃目。つまり、速度は初撃よりも遅くなっている。更に極めつけは──


「“アポート”!」

『…………』

「宝刀……!」


 フレアによる瞬間移動。

 アポートの条件になる“他の物質”なら、周囲には瓦礫が大量に転がっている。存在は自分の手で生み出した瓦礫を砕き、俺は更に続けた。


「──“星の光の剣スター・ライト・セイバー”!」


『…………』


 目映い光が放出され、俺の速度と存在が光になる。

 そんな俺の眼前に迫るものは、既に次の行動を開始していた存在の手。とてつもない反応速度だな。瞬間移動は予想外の筈。しかし瞬時に判断してその先に向けた攻撃を放った……か。

 本当にコイツも強敵だった。


「今はもう、遅い……!」

『…………』


 俺が横切ると同時に存在の手は空を斬り、そのまま空間を切断して真空を生み出す。同時に風が巻き起こり、周囲は吸い込まれる風に飲まれた。

 存在の前に立つ俺も背後で風が渦巻くのを感じる。

 腕を振るうだけで空間が斬れるって、本当にどんな化け物だよ、コイツ。しかも三等分した魂の一つ。いや、本物が居るから四等分している事になるか。

 どれくらいの力を分けたのかは分からないけど、実質四分の一の力でこのレベルって事だもんな。


 ……っと、俺は存在を上から見上げ、そう考えた。存在を横切って前に立ったのも、もう遥か昔の出来事。今ならいくらでもイキリ放題だけど、カッコ悪いから止めよう。

 さっきまでガチのマジで大ピンチだったし、強くなった途端にイキったところで説得力が皆無だ。……と、攻撃を終えて光を消した俺は思う。所詮は強スキルのお陰。俺自身が個人でこの存在を倒せた訳でもないからな。


『…………!!』


 次の刹那、先程の一連の動きで与えたダメージが存在に入り、ヒット数がカウントされる。

 念には念を入れて五〇〇回は切り裂いた。オーバーキルかもしれないけど、存在が存在なので即死攻撃無効の付属スキルくらいあるだろうしな。

 まあ、アトランティス大陸での存在は即死技みたいな“星の軌跡の弓矢スター・ロード・アーチャー”で倒したけど。それを踏まえると即死無効か即死以外は受け付けないって感じだな。

 そのどちらにせよ、最初の一撃で即死レベルの攻撃を放ち、その後で調整して四百九十九回斬り付けた。つまり、即死攻撃と即死ではない連続攻撃の併用だな。これだけやれば流石に倒せると思う。


『…………』


 瞬時にカウントが終わり、計五〇〇ヒットが記録される。体力もレベルも見えないがその存在は光の粒子に包み込まれ、その中から影が飛び出した。

 これで飛び出した影は三つ。魔王の日記にあった、試練みたいなものはこれで攻略完了だろう。


「や、やったんですね! ライトさん!」

「ああ。ユメ達とマイ達のお陰だよ。ありがとう」


 存在の消滅と影を確認し、前線のユメ達が俺達の元に駆け寄る。

 本当に大変だった。誰一人欠けても成功しなかっただろうな。


「これで魔王への道が開かれる筈だけど……ライト。何か変化は感じるかい?」


「いや、特に何もないな。倒した俺に影響するのか、世界その物に影響するのか……皆目検討も付かない」


「ふむ……」


 セイヤに訪ねられ、自分の感覚を研ぎ澄ませてみるが何も起こらない。倒した俺に変化がないなら別のモノに変化があるのかもな。……と思ったその時、


「「……!」」

「地震!?」

「いや……!」

「わわ……!」

「きゃあ!」

「……っ」

「うひゃあ!」


 ──この塔が大きく揺れた。

 地震のような感覚ではない。けど、一体なんだ?

 俺達は全員のバランスが崩れて倒れ込み、振動に耐えながら吹き抜けになった壁の外へと視線を向ける。


「──……まさか……! ムー大陸が……海を(・・)走ってる(・・・・)……!?」

「嘘ぉ!?」

「ほ、本当です……!」

「一体……」


「このムー大陸は船だったのかしら……!」

「分からない……」

「て、あれ? この位置って……」

「あ! 日本に向かってるね!」


「マジかよ!?」


 震動の正体。それはムー大陸その物が動き出していたから。

 外では空の雲が高速で移動しているように見え、凄まじい風圧がこの部屋に入ってくる。

 フレアとスノーの言うように月明かりに照らされたムー大陸は真っ直ぐ旧日本列島へと向かっており、大陸が移動する衝撃によって大波が起きていた。


「このままだと日本に激突する!」

「いや、この勢い……アジア全体にぶつかるかもね……!」

「……っ」


 存在を倒した後、突如として高速で移動を開始したムー大陸。大陸がソニックブームを纏うって……この大波はそのまま大津波になりそうだし、これだけで世界中への被害は甚大だぞ……!

 そんな思考をする事しか出来ず、俺達は成す術無く、ムー大陸に乗って日本方面へと向かう事になった。……本当、ムー大陸に乗って向かうってどんな状況だよ。

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