ステージ17-5 ムー大陸
──“ムー大陸”。
「ここがムー大陸か。景観は……今までみたいに割と自然が豊かな場所だな」
「似たり寄ったりな部分が多いねぇ。まあ、景観に対する文献が少ないから首謀者は“滅びた文明”って所に着目したのかもしれないけど」
ギルドを発ち、数時間後。俺達は日本の近くにある“ムー大陸”へとやって来ていた。
見た感じアトランティス大陸やレムリア大陸とあまり大きな違いがない。強いて言えばアトランティス大陸が森。レムリア大陸が草原。そしてこのムー大陸はその両方が合わさっている感覚だ。
当然人の姿は無く、所々に建物のような瓦礫も見られる。文明があった痕跡って感じだな。
「ムー大陸なんて本当にあったんだー!」
「他にもアトランティス大陸やレムリア大陸があったなんて……」
「本当、不思議な世界ね」
「うん、本当にそうだね」
『バウワン!』
『ヒュシャー!』
──そして今回、俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ミハク、コクアの、いつものパーティ以外にスノー、フレア、マイ、リリィの四人と使い魔のエンとヒョウが加わっていた。
本人達曰く、「せっかくだから行ってみたい」との事。
四人の実力は確かにある。職業的にもマイがサポートの踊り子。リリィが中距離・遠距離の魔術師。近距離の狩人であるスノーに、バランス型の超能力者であるフレア。……と全体的なバランスも良い。
このメンバーは頼もしい事他に無いのだが、相手があの存在。不安要素もかなりある。
いざという時にマイとリリィはまだコンティニューが出来ると思うが、スノーとフレアは残機が一つの筈。その辺が気になるな。残機があるとしても、マイとリリィが心配なのも変わらない。
「あっ! ライト! 私達の事不安に思っているでしょー!」
「……!」
そんな事を考えているとスノーが俺の思考を的中させた。
超能力者のフレアならまだしも、そんなに分かりやすく顔に出ていたか。
「大丈夫! 私達は足手纏いにならないから!」
「そうだよ、ライト。ライト達の方がずっと強いのは知っているけど、私達はただの興味だけで来た訳じゃない。危険なのは承知の上」
「そうね。……私、勝手に着いてきて周りへ迷惑を掛けるような、見せ場を作る引き立て役にはならないわよ」
「マイの言う通りだよ。もしかして私達への信頼は無くなったのかな?」
「いや、そう言う事じゃないんだ。頼もしいけど……いや、俺の方が問題だったな。四人は頼もしい。信頼は寧ろ天元突破している」
マイ達の言葉を聞き、遊び半分で来ている訳じゃないという事を理解した。
本来ゲームはワイワイ楽しむようなモノなんだけど、この世界は命どころか元の世界の命運が掛かっているからな。楽しそうだからという理由で来るのは序盤のうちに終わらせたのだろう。
「任せた。四人とも」
「フフ、ええ」
「うん……」
「うん!」
「任せてね」
俺の言葉にマイ、リリィ、スノー、フレアが順に返す。実際、あの存在に対しての攻略法は気を引き、確実な隙を突く事。
人数が多いに越した事はない。それに、文献じゃ日本からハワイ辺りまでの広さを誇るムー大陸は多人数で探した方が存在の拠点も見つけやすいだろう。今までの傾向からすれば中心付近の建物。俺達のやる事も変わらないな。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ミハクにコクアのパーティにマイ、リリィ、スノー、フレアが加わり、俺達はムー大陸の攻略へと乗り出した。
*****
「あったな。やっぱり目立つから早めに見つかるみたいだ」
「それでもかなりの距離は探しましたね」
「ハハ、まあな。感覚が麻痺しているのかも」
捜索を開始してから数時間後、既に月明かりが大陸を照らす時間帯。俺達八人+ミハクとコクアにエンとヒョウのパーティはムー大陸の中心付近にて荘厳な建物を見つけた。
見た目的に言えば塔。しかしレムリア大陸にあった塔とは違い、日本の五重の塔やその辺りに近い見た目をしていた。
今が夜というのもあって何か出てきそうな雰囲気だな。いや、まあ何かは確実に出て来るんだけど。
「んじゃ、早速入るか」
「はい……!」
「オッケー!」
「ああ」
「随分手慣れてるわね」
「既に二つの大陸は攻略しているみたいだからね」
「さっすがー!」
「私達も負けてられないね」
俺達いつもの四人が先に入り、マイ、リリィ、スノーとフレアがそれに続く。当然ミハク、コクア、エンとヒョウも俺達の後に続いており、今回もミハクは行方不明になっていない。
「……。暗いな」
「夜だからねぇ」
「夜ですしね」
「夜だからね」
俺の言葉に返すユメ達三人。夜なので暗い塔の内部はよく分からないが、それなりの広さを誇っており、上は天井なので地形を作り出して直進という事も難しいだろう。
多分天井は壊せないタイプのオブジェクトだろうし、今回は正統派な攻略になりそうだ。
「何と言うか殺風景ね。何もないわ」
「基本的にこんな形だったからなー。まあ、アトランティス大陸は近未来的。レムリア大陸は遺跡的だったけど、ここは何て形容しようか」
「外観は和風だけど、内装は別に和風でも無いわね」
ムー大陸の塔内はただただ殺風景。何かを模したような事も無く、本当にだだっ広い空間のみがあった。
いや、寧ろそれを表しているのかもしれない。
ムー大陸の存在はアトランティス大陸やレムリア大陸よりも早くに完全否定され、存在しなかった事になった。実際、海底調査の末に何も痕跡が見つかっていない。だからこそ広がる虚無の空間って感じか。皮肉が利いてるな。
まあ、アトランティス大陸やレムリア大陸も確証が無くて色々と難しい事になっているけどな。要するに存在しないから何も飾られていないのか。
「とにかく行ってみるか。俺達は魔王の魂を分けたって言う存在を見つけるのが目的だからな」
「そうですね。このまま虚無を眺めていても始まりませんし」
一歩踏み出し、そのまま加速。広いは広いが、音速移動したら狭く感じる広さなので速度自体は数百キロ。速めの移動は心掛けているが、まあこんなもんだろう。
マイ達も着いて来れる速度だし、丁度良い。
因にだが、現在はマイとリリィがLv475。スノーがLv435。フレアがLv432となっている。エクリプス公爵を経てLv300を超えた四人だが、それから更に100以上のレベル上げを終えたみたいだ。
一ヶ月近くもあればそれくらい上がるかもな。今現在はモンスターの世界的な平均レベルも上がっているし、元々400以上。400近くだったのなら十分にあり得る上昇範囲だな。
多人数となった俺達は塔内を進み、時速数百キロで駆け上がる。
まだモンスターの姿は見ていない。基本的に塔には一体、あの存在以外のモンスターが居たけどここはどうなんだろうな。検討も付かないや。
『『『…………』』』
【モンスターが現れた】
「……っと、考えていたら……」
「黄金の……人形?」
「みたいだねぇ」
「基本的に人型の何かが出てくるね」
考えた矢先、黄金から造られる人形のようなモンスターが姿を現した。
黄金人形。レムリア大陸のゴーレムの強化版みたいな存在だな。まあ、実際の金はそれ程頑丈じゃないんだけど。
「よっと!」
「“ファイア”!」
「やあ!」
「はっ!」
現れた瞬間に俺が金の身体を切り裂いて消し去り、ユメが炎魔法で金を蒸発させ、ソラヒメが拳で砕いてセイヤが矢で射抜く。
「“攻強の舞”」
「“ブリザード”!」
「ウッキャー!」
「“サイコキネシス”!」
そしてマイがリリィへバフを掛け、それによって強化された氷魔術で凍結。スノーが素早く複数体を切り裂き、フレアが念動力によってぺしゃんこにした。
それらの一連の流れによって現れた黄金人形達は消滅し、周囲に光の粒子が飛び散る。
「相変わらず強いわね。アナタ達」
「ハハ、マイ達こそ」
相変わらずマイ達は心強い。数が増えれば純粋に俺達の労力が減るって事だからな。あの存在と戦う時は動き回るし、スタミナを温存出来るのはかなり良い。
しかも、マイのバフスキルによる効力も絶大。レベル的に低いリリィ達の攻撃力を爆発的に上昇させて俺達の上級武器からなる攻撃に匹敵するモノになる。相手が相手なので厳密には分からないけど、光剣影狩とかよりかは少し強いかもな。
「ドンドン進むか」
「ええ、そうね」
黄金人形達を打ち倒し、俺達は上へと進む。
複雑に見えて基本的に一本道。下層は上に上にと行くだけで良いからな。階段までの道のりは少し迷う事もあるかもしれないが、味方にはフレアが居る。
超能力者は透過スキルの一つである“透視”を使えるので壁の向こう側が分かり、何なら罠とかも見つけられるので道中は問題無いだろう。
罠探知なら狩人のスノーも長けており、基本的にこの二人の後を追えば問題無く辿り着ける筈だ。
そのまま順調に進み、時折現れる黄金人形を片手間で打ち倒した俺達は最上階と思しき扉の前にやって来た。
「随分早く着いたな。やっぱり味方に超能力者や狩人が居るとサクサク進むや」
「ふふ、役に立てて良かったよ」
「同じくー!」
スノーとフレアの活躍もあり、道中迷う事も苦労する事も無く辿り着いたボス部屋前。ここまでは順調だけど、ここからが一番の問題点、最難関だ。
俺の専用スキルに対する存在の行動は既にマイ、リリィ、スノー、フレアの四人に教えてある。だからこそ中に入ったら何をするかは了承済み。一番は自分の身を護る事だけどな。
何はともあれ、俺達は扉を開き、ボス部屋の中へと入って行くのだった。
*****
『…………』
「……! 今回もいきなり居るパターンか……!」
「どうやらその様ですね……!」
「流石にもう驚かないよ!」
「まあ、まだ二回目だけど、このパターンも慣れたかもね」
入るや否や、目の前に現れたのは静かに佇んでいる存在の姿。
いきなり居るパターンの時は、味方同士で話し合いも多少は出来る。まあ、前例が一つだけだから何とも言えないけど、とにかくまだ存在が動く様子は無いな。
「これが例の存在ね……威圧感とかは特に無いけど、何となく不気味な感じね……」
「ずっと無言みたい」
「結構おっきいねー」
「不思議な感じだね」
マイ、リリィ、スノー、フレアが順に話、臨戦態勢に入る。俺達四人も臨戦態勢に入り、その存在の様子を窺った。
「戦闘準備をするだけじゃ動かないか。となるとレムリア大陸の存在と同じように、ある程度の余裕はくれるみたいだ」
「その辺は温情ですね。手数の少なさを除けば、最初の旧サルデーニャ島とアトランティス大陸で戦った魂の方が強いかもしれません」
「かもな。けど、その分俺達の戦い方を学習している。だからこその猶予って考えれば、純粋な実力はそれ以降に現れる存在の方が強いだろうな」
「はい……! 何にせよ、気を付けなくてはなりませんね……!」
猶予はあるが、余裕は無い。あるにはあるが、その余裕は猶予と同義。要するに油断大敵って事だな。
「私達の動きを学習しても今回はマイちゃん達が居るし、存在の学習力を上回るやり方で攻めちゃおっか!」
「単純だけど、それしか方法がないな……!」
未だ動かぬこの存在。しかし俺達が仕掛ければ忽ち最強格のボスモンスターへと豹変するだろう。故に一秒足りとも集中力を切らす事は出来ない。
俺達四人とマイ達四人の計八人。加えてエンとヒョウ。ミハクとコクアはいつも通りの見学として、俺達はこの存在と相対した。




