ステージ2-4 ギルドの役割
「Lv20の蜘蛛型モンスターか……」
「そんなモンスターが現れるなんて……規約違反だよ!」
「必要基準推定レベル1。確かに詐欺もいいところですね……」
仮拠点に戻った俺は概要を説明し、あった事を話した。
確かにこれは規約違反とも言えるかもしれない。Lv20のモンスターが出る可能性が少しでもあるならそれについての記述をしなくてはならない。それは俺達の望む主張などではなく、ギルドの規約に書かれていたルールだ。
“クエストの必要基準推定レベルは必ずそこに出現する魔物に合わせよ”など、こんな風に規約のような事柄もいつの間にか追加されていたみたいだが、これはプレイヤーの為のルール。あの首謀者は本当にプレイヤーが大事だと思っているという事か?
「まあそれはいいんだ。結果的に倒せたからな。けど、俺はあのエーデル=ワイスさんが気掛かりなんだ。悪い人じゃ無さそうだけど、なんか裏があるような……」
「そうだね。少なくとも何かを隠しているのは事実。そうでなくちゃこの記述ミスは無い筈」
俺はエーデルさんに何かしらの違和感を覚えていた。気のせいかもしれないのでソラヒメ達にも話していなかったが、どうやら気のせいでは無くなったらしい。
それについてセイヤも同意してくれた。ソラヒメとユメも後ろで頷いている。こうなったら、出るとこは出た方が良さそうだな。
「一先ずこの件に対して明日話を聞いてみよう。俺の個人的な意見と見立てだけど、悪い人じゃないっぽいんだ。質問すれば答えてくれるかもしれない」
「うん。それが良さそうだね」
「ああ、そうするとしよう」
「はい」
事は明日。詳しく話を聞こう。依頼自体は遂行させる為、俺達は仮拠点にて夜を明かした。
*****
「……。彼らには悪い事をしてしまったな。どうかあの世では幸せに……」
「いや、あのやり方じゃ幸せになれる訳無いだろ。何も報われないし、成仏も出来ないかもしれない」
「……!?」
──翌日、俺達は管理者専用能力の“転移”を用いてエーデル=ワイスの屋敷へと姿を現した。
それを見たエーデルさんは腰を抜かして倒れ、後退るように離れる。そして俺達の姿を視認し、呼吸を荒くして訊ねた。
「な、一体どこから……いや、それより生きていたのか……君達……! それとも既にアンデッドに……!」
「なっていない。普通に生きてるよ。それよりどういう事だ? この依頼書。この世界でも仕事をする事になるとは思わなかったけど、時と場合次第じゃギルドに呼び出す」
そう言い、俺はギルドメンバーの証を見せた。さながら警察がお話を窺う為にするような行動だが、果たしてギルドの権限が通用するかどうか。
「……っ。それはギルドメンバーの証明……成る程……君達はギルドの一員だったか……怪しくてこの依頼を調査しに……?」
「調査? そうなると前からこんな事をしていたって訳か……」
「……?」
「ああいや、そうだな。調査だ。前から色々気になってギルドで調査をしていたんだ」
「やっぱりそうか。ハハ、色々、か。既に怪しまれていたんだな……」
無論、俺には何も分からない。なんだよ調査って。取り敢えず色々って言葉で誤魔化したけど、本当に誤魔化せる程色々な事をしていたのかこの領主は。
取り敢えず何とか誤魔化し続けて本質だけ聞き出そう。
「それで、えーと……何の為にこんな事をした? 悪い事は悪い事だ! 駄目だぞ!」
って、何を言っているんだ俺は。俺は馬鹿なのか!? マジで分からないぞこれ! 一体全体どうすればいいんだ!? 何が正解だ!?
「それは言えない……私は捕まってもいい。けど、民を巻き込む訳にはいかない……!」
「民……。それ程までに重大な事か」
何とか誤魔化せたのか? 運が良いな、俺。取り敢えず、こう言う時は相手に合わせて会話をすれば話してくれるのが定石だよな。良し、こうしよう。
「じゃあ他言はしない。約束する。ギルドへの報告も隠蔽する。(多分アイツらも分からないし)だから話してくれ。えーと、世の為人の為に活動するのが我々ギルドです」
「……」
なんか選挙の嘘臭い宣伝文句みたいになったな。黙り込んじゃったけど聞き出せるのか、これ。
「そうか。なら、話しても良いかもしれないね」
誤魔化せた! が、本当にこれでいいのか!? いや、いい。むしろこれ以上アドリブやったら俺が耐え切れない。既に後ろでソラヒメ達が肩を震わせて笑いを堪えているし。ユメにも笑われるのは少しショックだ。
しかし観念したのか、エーデル=ワイスは口を開いた。
「魔王軍からの命令なんだ……」
「……! 魔王……!」
その言葉を聞き、笑いを堪えていたソラヒメ達も神妙な顔付きに変わる。
魔王。確かにこの世界を生み出した元凶である首謀者も魔王が居るみたいな事を話していた。しかしこれはありがたい。攻略の目処が立った。
「ああ、あの魔王だ。いや、厳密に言えば魔王軍の幹部からの命令だな。何週間かに一回、冒険者を誘き出して我々の餌を用意しろって言っていたんだ。もし逆らったらこの街を滅ぼす。とね。もう既に何人もの冒険者が犠牲になっている……私が不甲斐ないばかりに……!」
「成る程。冒険者をターゲットにした命令という事か」
うちひしがれるエーデル=ワイス。しかしおそらく、本当の犠牲者数は0だろう。
何週間かに一回のペースで冒険者を誘い出しているのなら、俺達の世界がこの世界なった時点で誰も犠牲になっていない事になる。それは冒険者=プレイヤーという形が作り出されるからな。
ここは二、三日前に変化した世界。冒険者が犠牲になる道理はないんだ。
しかしそれだけなら初日に犠牲になった可能性がある。だが、前述したように誘い出すのは何週間かに一回。その部分が肝だ。
この世界になってから二日目に俺達が今回の依頼を受けた以上、最後の犠牲者は数週間前にいたという事。つまりその時点でこの世界はゲームのような世界ではなかったので、この世界になった時のプレイヤーは誰も死んでいないという事だ。
それなら話は早い。
「それじゃ、約束の日だった昨日は幹部が何も得られなかったという事だ。その場合どうなる?」
「……え? えーと……おそらく今日来る事になるだろう。約束の日は数週間のうちの二、三日だからね。基本的に幹部が部下を送り付けて獲物を運ばせる。それでも戻って来なかった場合は、自ら軍勢を引き連れて赴き、失敗した部下ごと始末する……」
「成る程。幹部が部下を……は? “幹部”が……“部下”を……送り付けて……!?」
「あ、ああ……」
「マジかよ……」
じゃあ昨日の蜘蛛型モンスターはあくまで幹部の部下。それは厄介だな。部下の時点でレベルが20。しかも本番は軍勢を連れて来るときた。軽く絶望的だぞ、これ……。
あくまでしたっぱ部下の一匹に過ぎないなら、あのレベルのモンスターが大量に存在する事になる。
「けど、君達を巻き込んでしまった以上、私もケジメを付けなくてはならない。この街を巻き込まない為にギルドに隠蔽してくれるなら、今日来る予定の魔王軍の幹部にどうか私の命一つで許してくれないか頼んでみるよ。もし駄目なら時間を稼ぐ。だから街の人々を逃がしてやってくれ」
「そんなに覚悟を決めているのか……」
本当に良い人みたいだ。エーデル=ワイスさんは。
今までの犠牲者の記憶はおそらく首謀者がストーリー形成の為に仕込んだもの。本当の犠牲者はいない。それならウダウダ言っていられないな。罪人は報いを受けるべきだが、善人は恩恵を受けなくちゃ不条理だ。
俺達は互いに視線を向け、頷いて行動に移った。
「俺達ギルドは快適な暮らしを与える為にある。ここに来たのも何かの縁。貴方が犠牲になる事はない。今日、魔王軍の幹部を俺達ギルドメンバーが落とす」
「……!? な、何を言っているんだ君達は!? 見たところまだ若い。ギルドにも入ったばかりだろう!? そんな尊い犠牲を出す訳には……!」
「犠牲にはならないよ。私達は結構強いんだからね!」
「ああ、それが僕達の仕事なんだ。犠牲になるつもりはないよ」
「はい! なのでエーデルさん。貴方も犠牲にならないで下さい!」
俺に続き、ソラヒメ、セイヤ、ユメも話す。“NPC”であるエーデル=ワイスさんに自分の意思があるのかは分からない。
だが、俺はゲームキャラにも感情移入をするタイプの人間だ。これがスルー出来るストーリーだとしても見捨てられない。
「おお……ありがたい……。ありがとうございます……」
感涙し、膝を着く。基本的に内密。故に街や使用人達にもいざという時の為、何人かだけに説明して後は黙って遂行する他無いだろう。
俺達は作戦を考え、夜に来るであろう魔王軍の幹部の進撃に備えて準備する事にした。
*****
──“エーデル=ワイスの屋敷・貴賓室”。
上に映った文字を無視し、俺達は貴賓室に集まった。
その理由は当然、今後についての話し合い。なんかこの世界になってから話し合いしかしていない気がするな。
まあ決行は今夜なので話し合い自体は手短に終わらせるつもりだ。
「それにしても、何で狙いがこの街なんだろうな」
「……? と言うと?」
俺の言葉に小首を傾げるエーデルさん。俺は言葉を続ける。
「ほら、ここってギルドにも近い街だろ? 数週間に一回のペースで同じ依頼が何度か来れば、“今回と”同じように疑問に思われるのも時間の問題じゃないか」
エーデルさんの態度からして、おそらくギルドは様々な用途を担う公共機関のようなものなのだろう。それ故に、魔王軍の幹部が魔王軍の敵対組織とも言えるギルドの近場であるこの街に、何故わざわざ来たのか気になったのだ。
エーデルさんは納得したように話す。
「ああ、そう言うことか。それについては私も分からない。ただ、思い当たる節はある」
「思い当たる節……?」
「そうだ。この街“レコード”は、古来より歴史学の研究が盛んで図書施設なども他の街より多く、様々な研究者が日夜活動している。その歴史学の中には様々な戦争の歴史もあるんだ。おそらく魔王軍はその戦争の歴史から新たな兵器などを学習し、この世界を征服しようと考えているんだろう」
「成る程。兵器に世界征服。まさに魔王の理想みたいな事柄だ。それでこの街は“記録”か」
この街は歴史研究が盛んらしく、それに伴って魔王軍に狙われたという事のようだ。
「逆に、ギルドが近い方が利点が多かった訳か。ギルドが近い。近いからこそ力を付けていない冒険者を襲撃しやすい。領主に脅しを掛ければ今回の俺達みたいに直接踏み込まれなければ暫くは安泰だったって訳だ。魔王軍も考えるな」
「その事に関しては本当に申し訳ない……」
「ハハ、いいよいいよ。気にしなくて」
本当はただの偶然でここに来ただけだからな。とは言わない。一応ギルドメンバーとしての活動という事にしていた方が良いだろう。
それに、元より“NPC”の思考は開発者によって植え付けられたモノ。嫌でも魔王軍に従わなければストーリーが進まないって事だな。
「取り敢えず理由は分かったね。それで、本題の作戦だけど……何か提案はある? 僕は考え中だ」
「同じく! 私も考え中だね!」
「恥ずかしながら私も……」
「俺もだ。けどまあ、思い付きそうではある」
残るは本題。魔王軍を迎撃する作戦について。単体の部下でLv20もの強さを誇る幹部の軍勢。生半可な作戦じゃ返り討ちがいいところだろう。
そして俺の脳裏にはそれが思い浮かんだ。
「よし、じゃあこうしよう。……やり方は──」
「あ、いいですね。それなら上手くいきそうです」
「確かに面倒が減るね。僕も乗った」
「私も!」
「そんな事が本当に出来るのか。スゴいな、君達は……」
街のあり方について聞いていたので少し時間を割いたが、一先ずの作戦は早々に決まった。こう言う時は冴えているんだな。俺。さっきのアドリブは黒歴史入り確実だが、何とか忘れよう。
何はともあれ、俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人はそれを遂行すべく、決戦の今夜に向けて作戦を開始した。




