ステージ16-1 影の追跡
「──彼らは行ってしまったみたいだね」
「そうだね。本当に仲間に加えなくて良かったのかい?」
「ハッハ。出来ればそうしたかったけど、残念ながら彼らにもやる事はあるみたいだ。次は元世界ランキングの2位、5位、8位、9位、10位……要するにまだ仲間じゃない人達をスカウトしたいかな」
──シャイン達が国を作ってからある程度の落ち着きを見せた頃、他のプレイヤー達とは別の場所。自分達の城にてシャイン、フラッシュ、ダークネス、シャドウの四人はライト達と他のランカー達について話していた。
「スカウトって……シャインに当てはあるの? 他のプレイヤーの居場所とか」
「まあ、大体はね。ただ唯一、8位の居場所だけが分からないかな。旧ロシア出身の弓使いという事は分かっているけど、目撃情報が全く無いんだ。8位の専用スキルの目撃情報は最近でも出ているんだけどね」
「曖昧ね。スキルだけが見つかっているってどう言うこと?」
「さあ、それについても調べておきたいところかな。ソロプレイを中心的に行っているらしいし、探し出すのは一番大変かもね」
シャイン達は自身のコミュニティを大きくする為、元世界ランキング上位者から着手するらしい。
確かに専用スキルを持っているので戦力的には申し分無いだろう。
「ハッ、んな事しなくても魔王くらい倒せるっ言ーの。そもそも全員が協力的かは分からねェだろ」
「まあ、断られる可能性も高いね。何ならこの世界……各々に専用スキルがあるとしても既にゲームオーバーになっている可能性もある。どちらにせよ一筋縄じゃいかないかな」
「だろーな」
もしもの可能性は全て考慮しており、ある程度は割り切っている。なので仲間に入ってくれるなら良し、違うならそれもまた良しという考えのようだ。
シャイン達が話を終えた直後、
「………」
『キュルッ!』
「「「…………!」」」
「おや、君は……いや、君達は誰かな?」
白髪赤目のアルビノ肌。小柄な少女が城の窓から入ってきた。その隣には黒龍も居る。
城の高さは数十メートル。この世界のプレイヤーなら十分に跳躍出来る高さではあるが、その大胆さにシャインを除く三人は警戒を高める。
しかしシャインは構わず話し掛けた。
「このコミュニティに入りたいなら大歓迎だけど……」
「………」
『キュル?』
「どうやら違うみたいだね。黒龍に至っては質問の意味を理解していないような……まあ当然か」
その反応から、目的はまた別にある事を理解するシャイン。
少女はその静謐な赤い目でシャイン達四人をじーっと見つめていた。
「何かを言いたいのかしら……けど、何だろう。この雰囲気。不思議な感じね……」
「ああ……俺も今回はあまり大きく動けねェ感覚だ……」
「何だろうね……勝てない程の強敵に会った時の方がまだマシに思える感覚だ」
ダークネス、シャドウ、フラッシュの三人は警戒しつつも絶対に敵わないという感覚に陥る。その少女は窓枠から床に降り、シャインに向けて口を開いた。
「………」
「……? “彼らの邪魔をしないで欲しい”……? 彼らとは一体……」
「え……? シャイン? な、何を話しているのかしら……?」
「……。そう言えば、今僕はどうやって会話を……?」
少女から声は出ていない。しかしシャインは平然と会話を行った。
その不可思議な状況にダークネスは怪訝そうな表情をし、シャイン自身も何が起こったのか分からずに困惑の色を見せる。
それについて四人は訊ねようと──
「……! 居ない……」
「え!? 嘘……さっきまでそこに居たのに……」
「オイオイ……幽霊か何かだったんじゃねェの?」
「まさかシャドウからその言葉が飛び出るとはね……」
──したが、既に少女と黒龍は居なかった。しかし不意に背後へ気配を感じ、シャイン達はそちらを向いた。
「待ってく──」
その言葉を終えるよりも前に少女は消え去り、シャイン達は慌てて出入口に向かう。だが、そこには影も形も無かった。
「……。一体彼女は何だったのだろうか……」
「彼らの邪魔をしないで……ね。私達の行動が何かの邪魔になっているのかしら……」
「思い当たる節はあるね。僕達は元の世界に戻そうとはしていない。元の世界に戻そうとしている勢力に関係する事かな……」
「それなら光の剣士達の……?」
「さあ、全知でもない僕には分からないかな」
謎の少女への疑問は残るが、シャイン達には何が何だか分からない。なので今は気にせず、また会う機会があればとその場を終えるのだった。
*****
「……。旧イタリアから西側……当然だけど広がっているのは海だよな」
「そうですよね……」
──非公式世界ランキング1位のシャインが大会の賞品で作った国を出てから数時間後、俺達は巨大な影が向かったと言う西側の海岸に来ていた。
コロッセオを去る時にシャイン達からは何も言われなかったけど、最初にパーティへの勧誘を断った時に無理強いはしないって言っていたからな。俺達以外にも去るプレイヤーは居たし、本当に他者の意思に委ねていたみたいだ。そして居なくなっていたミハクにコクアだが、特に何事も無く戻ってきていた。一体どこで何をしていたんだろうな。無事で良かったけど。
まあ一先ず、今は謎の影の追跡だな。
「うーん、一応この先には旧サルデーニャ島があるけど、そこに影の主が居るのかなぁ?」
「さあ、どうだろうな。色々と歴史はある島だけど、神話とかはよく分からないや」
「……。そうだね。何十年も昔だけど、巨人の痕跡が見つかったとかはあった気がするよ。そうなると巨人のボスモンスターとかは居るかもしれないね」
「巨人か……確かにあり得そうだな。現地人が出会っている可能性もあるけど」
ソラヒメとセイヤの言葉を聞いて考える。
確かに旧ローマから西側にある海の先にはサルデーニャ島。もしくはコルシカ島があるな。その島々にまつわる伝承とかは知らないけど、ここから行く事になるであろうサルデーニャ島がリゾート地という事とかは分かる。なので今現在の世界でどんな姿になっているのか。その点が問題だな。
「何ならサルデーニャ島の先に居る可能性もありますね。西側としか言われていませんでしたし」
「確かにな。本当に旧アメリカ合衆国方面に向かった可能性もあるし、旧サルデーニャ島でまた別の目撃情報を得られるかもしれない」
「何はともあれ、向かってみる必要がありますね」
「ああ、そうだな」
目的地は変わらない。手掛かりからしても東側という事だけ。
なので俺達はその西側へ向けて海を進むのだった。
*****
「……。綺麗な場所だな。まさにリゾート地って感じの場所だ」
「そうですね。少し寛ぎたい気持ちにもなります」
「綺麗な海ー♪」
「観光スポットって感じだね」
旧サルデーニャ島に着いた俺達はその光景を眺めて感嘆のため息を吐いた。
色鮮やかな花々に透き通る青緑の海。確かボートが浮いているように見える程の海の一つがここだっけか。今はボートとかは無いけど。
“AOSO”と融合した世界なので建物などは無いが、元より海などのような自然による観光スポット。目の保養には十分だった。
「青い海。鮮やかな花! 青い空。白い雲。そして光輝く太陽! それに加えて、」
『ウオオオォォォォ!!』
【モンスターが現れた】
「本当に巨人が居たなんてねぇ!」
「呑気だな。ソラヒメ」
敵対する巨人さえ居なければな。
まさか予想が的中するなんてな。どこからどう見ても巨大な人だ。
巨人もヒト科なら言葉が通じたりするかもしれないけど、敵対NPC扱いだから色んな意味で言葉が通じないんだろうな。
『ヴァア!』
「……っと。せっかくのリゾート気分が台無しだ……!」
現れた巨人モンスターは巨腕を振り下ろし、俺達五人を狙って押し潰した。が、当然俺達は躱す。その跡には巨人サイズの手形クレーターが形成されていた。同じ手形でも力士のサインなら欲しいけどこの巨人のサインは欲しくないな。
そこから地面が更に沈み、深い手形が作り出される。まるで砂浜に手形を付けたみたいだ。
「ボスモンスターって訳じゃない。動きはそれなりに速いけど避けられる。取り敢えず倒すか」
「そうですね」
『ヴオォォォ!!』
また大きく吼え、再び巨腕を振るう。俺はその上に飛び乗って駆け、白神剣を用いてその首を刎ね飛ばした。
巨大なだけで体の構造は人間と同じ。脳が指示を出しているなら引き離せば即死だ。
『……ッ!』
【モンスターを倒した】
数十メートルの巨体は倒れて島に人の形の跡を付ける。魚拓ならぬ人拓だな。いや、墨を付けてないから足跡みたいなものか。
ここに居た巨人型モンスターは一体だけ。なのでこの一体で今現れたモンスターは終わりだ。
「敵モンスターは居たけど、ここに他のNPCが居るのかどうか気になるな。その存在の有無で影の手掛かりが掴めるだろうし」
「そうなるとまずは街か村を見つけなければなりませんね。この辺りには人通りもありませんし」
「だな。何より人の気配は重要だ」
モンスターは居ても人は居ない。それでは折角来ても何の情報も得られないだろう。
だからこそ手掛かりを掴む為にも俺達は人を探す事にした。
ソラヒメも自然豊かで静かな辺りを見渡して言葉を綴る。
「観光スポットの人気がこんなに少なくなるなんてねぇ。他のプレイヤーとかはどこに居るんだろ」
「まあ、単純に考えれば街や村の近くじゃないかな。そこならイベント以外じゃモンスターも入って来ないし、この世界じゃかなり安全な場所だからね」
「だねぇ。そうなるとシャイン達の国は本当に理想国家だね。少なくともこの世界じゃ!」
人が居そうな場所はある程度限られて来る。実際、前の世界なら地上は人類が至るところに住んでいたので過疎地ですら人に会えた。
しかしこのゲームの世界。ファンタジーでの人は限られた所にしかおらず、野山にはモンスターが蔓延っている。基本的にファンタジー世界だと魔法とかが使えても生存競争では人類が劣勢なのでそうなってしまうのだろう。
それらはストーリー進行上のご都合的なものではなく、ちゃんと生態系を考えれば正しい。漫画や小説にアニメやゲームのファンタジー作品での世界は在り来たりだとしても割と理に適っているのだ。
「そんじゃま、俺達も旅に戻るか。まずは人探し。早いうちに終わらせて巨大な影の後を追おう」
「はい!」
「オッケー! ……って、またライトが仕切ってるー!」
「了解」
「………」
『キュルゥ!』
現在位置は旧ローマから真っ直ぐ西側。旧サルデーニャ島。そこではまだ当てなどは無いが村的な物を見つければ小さい場所でも手掛かりになる筈。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人とミハクとコクア。いつもの面子で旧サルデーニャ島を調べるのだった。




