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ステージ2-3 レコードの街・クエストの初日と二日目

 エーデル=ワイスさんに屋敷へと案内された俺達は食事を摂り終え、その後街中を見渡しながら散策していた。

 街の景観は全体的に洋風。レンガの歩廊に木材の骨組みをレンガで覆うような構造の建物。これまた絵に描いたような……なんだろうな。既視感があるけど見た事はない。ゲームのような世界というかフィクションによくある世界というか何というか、まあいいか。


「よくある商業都市って感じの街だな。武器・防具屋に食堂。後はショップに……」


「街自体は平和みたいですね。本当に農地だけが荒らされるだけみたいです」


「色々あるねぇ。確かにこれだけのお店があれば街中に農地は作れないかも」


「そうだね。けどまあ、持ち合わせが少ないから無駄遣いは出来ないかな」


「この辺……と言うか管理所や俺の家からここまであまり強いモンスターが居ないからな。倒した事で入手出来る金銭も少ないみたいだ。まあ、宿代は要らないから普通に旅するよりは節約出来ているんだろうけどな。“転移ワープ”があればどちらにせよ宿代は必要無いけど。取り敢えず新しい武器はまだ必要無さそうだし、本当に街を探索するだけで終わりそうだな。いや、そうした方が良さそうだ」


 モンスターの強さは=金銭と同義。無論、低レベルでも金銭が多く手に入るモンスターや高レベルの割に金銭自体は手に入らないモンスターも居る。

 ともあれ、金銭的事情から武器屋などに寄るのは控えておこうかな。


「最初付近の街だけあって最強の武器とかは売っていないだろうけど、案外近場に最強武器があるのも王道だね。そうだとしても暫くは入手出来なさそうだし、ライトの考えが得策かな」


「私は武器自体必要無いけどねぇ。木刀のライトはともかく、有り合わせの武器を使っているセイヤやユメちゃんは良いの?」


「私は構いませんよ。“杖”という類いの武器に上位種があるのかも分かりませんし」


「僕もそんなところかな。まあ、銃刀法違反が適用されているこの国だからこそ市販で手に入れられる弓矢はやじりが鋭利じゃないけど、モンスターにはちゃんと効くからね。矢の速度は種類によって様々だけど時速100~200㎞くらい。この世界なら強化されていると考えればその倍の速度は出そうだし、鏃が無くても十分脅威的さ。……まあ、現実世界と違って体力や物理防御力がある世界。元の世界の常識からは外れていそうだけどね」


「そうでなくちゃ一般人の俺が木刀で殴って人間並みの大きさや人間以上の質量を持つ存在を吹き飛ばせないからな。武器と本人の攻撃力で威力が変わるし、物理法則とか訳分からない事は関係していなさそうだな。あくまでデータの集合体だ」


 この世界が“AOSO”を融合した事で生まれた世界だからこそ、常識など存在しない世界になっている。ざっくりと言えば何でもありという事だ。

 だからこそ俺達の肉体も強化されている。生身でモンスターと張り合える程にな。そうなると何らかの方法で俺達人類の肉体を強化させたという事だけど、それはまだまだ不明。今考える事じゃないだろう。


「まあ、まだこの辺のレベルなら武器を変える必要も無いだろうし、キツくなってきたら武具の購入を考えるか。農地の守衛でモンスターと戦う事になっても必要基準推定レベルが1だったし、あまり苦労はしなさそうだからな」


「そうだね。早いところ終わらせて報酬金を貰っちゃおうか」


「欲にまみれているな、ソラ姉。けどまあ、資金が必要なのも事実。改めて依頼書を確認すると、領主の依頼だけあって報酬金は多い。普通にモンスターを倒すより割に合う。……ハハ、自分で言っててあれだけど、煩悩だらけだな。僕も」


「取り敢えず“NPC”の街を見つけられただけで本来の目的は完了していますし、この依頼を終わらせれば良いだけですね」


 俺も含め、気楽に考えている。今思ってみれば、これはまさしくフラグだったとも言える事柄だ。レベルも他の管理者達より高かったから調子に乗っていたのかもしれない。

 それからブラブラしているうちに時は経ち、予定の時間になった。



*****



 ──“農地”。


「さて、夕方か。依頼開始時間は午後六時から。もう始まっているな」


「けど、モンスターの姿は見えませんね。確かに今日中に来るかは分からないって言っていましたけど」


「アハハ。まあ、気楽に行こうよ。依頼日数は三日に渡っているんだからね。初めから気負い過ぎると疲れちゃうよ? 肉体的にじゃなくて精神的にね」


「ソラ姉に一理あるな。基本的に楽観的だけど、こう言った場面じゃその考えの方が良いのかもしれないね」


 日が沈み始める時間帯。守衛場所である広い農地に集った俺達は仮拠点にて見張りをおこなっていた。

 広い農地なので一ヶ所から見続けても全体的な存在が分からないが、管理者(プログラムマスター)専用能力(アビリティ)の一つである“千里眼”にて農地全体を見渡せていた。


 ──“千里眼”。それは一度見た場所を空から見るように眺める事が出来る“管理者専用能力”で、こう言った見張りで重宝出来る。

 今回の場合、普通のプレイヤーなら巡回して農地を回るのだろうが、管理者としての権限的に甘んじれるのは楽だった。少しズルい気もするけどな。

 多少の罪悪感はあれど、簡単な雑談をしながら俺達は農地を見張っていた。動かないのは不自然だが、元々街の外にある農地。やって来る者も俺達以外の見張りも居ないので違和感を覚えられる事は無いだろう。


「……! 引っ掛かったな。俺の“千里眼”にモンスターが映り込んだ。一匹だけだから一人で倒してくるよ」


「死亡フラグ染みているけど、ライトなら本当に平気だろうから任せたよ」


「気を付けて~」

「お気をつけて下さい!」


 “千里眼”の見える範囲は一度見た事がある場所なら自在だが、目が疲れる。なので俺達四人は四人の目をもちいて農地を四つに分けて見ているのだ。

 そのうちの一つである俺の見張り場所にモンスターが映ったので俺はそちらに向かった。


『フゴ……!』

「イノシシ型のモンスターか。レベルは1。見るからに突進して来そうだな」


 到着して確認すると、そこに居たのはイノシシ型のモンスター。俺は一人言と同時に木刀を腰から抜き、次の瞬間にモンスターが突進して来た。


『フゴォ!』

「予想通りだな」

『……!』


 そして木刀を前に構え、モンスターは自ら剣尖に突っ込んで絶命する。それが光の粒子となって消え去り、俺に“EXP”が入った。

 やっぱり簡単だな。まだ一匹倒しただけだけど、レベル相当の依頼みたいだ。

 倒し終えた俺は辺りを今一度確認し、問題無いと判断して仮拠点に戻る。“転移ワープ”を使ってもいいが、道中でモンスターと出会でくわす可能性を踏まえて徒歩で帰った。しかしまあ、特に問題は無かったようだ。


「ただいま。……って、セイヤが居ないな」

「お帰り~ライト。あ、セイヤならモンスターを見つけたからってさっき出ていったよ」

「成る程な」

「お帰りなさい。ライトさん!」

「ああ、ただいま。ユメ」


 俺が戦っている間にセイヤもモンスターを見つけて倒しに行ったらしい。まあ特に心配する必要も無いか。

 それからモンスターを討伐したセイヤが戻って来、俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人はダメージを負う事もなく淡々と農地荒らしのモンスターを倒していき、一日目は何の問題も無く終わった。そう、一日目は。



*****



「早くも二日目か。今日と明日が終わったら依頼は完了。楽なものだな」


「本当だねぇ。手応え全然無いよ。ボスモンスターとか来ないかなぁ」


「来たら来たで大変だ。僕達のレベルからして、まだ初日に倒したドン・スネークよりも低いんだからね。まあ、あれは偶然の産物で生まれたモンスター。仮に次のボスモンスターがライムスレックスの次だとして、それでも20は超えると思うから苦労するよきっと」


「そうですね。モンスターは弱いですけど、その分私達のレベルも上がらないので大変です」


 依頼を受けてから二日目の夜。すっかり気の抜けた俺達は依頼達成を前提とした雑談をおこなっていた。

 既にこの時点で何匹かのモンスターを倒しており、二日目も終わりに差し掛かった時間帯。その時は訪れた。


「お、モンスターの姿を見つけた。今までの奴よりデカいな」


「そうか。大きさはレベルと関係しないけど、どうする?」


「私達も行こうか?」

「お手伝いします!」


「ああいや、構わないよ。俺一人で十分だ。他にもモンスターが居るかもしれないし、仮拠点を離れる方が問題だろうさ」


 俺の“千里眼”に新たなモンスターを発見。今夜はあまりモンスターも出ず暇だったのでソラヒメ達も出ようかと訊ねたが、多分俺一人で問題無いので断った。

 そのまま仮拠点から外に出てそのモンスターの姿を確認する。


『……』


「うっ……蜘蛛型のモンスターか。デカイ蜘蛛って気味悪いな」


 見た目は気持ち悪い。世の中は蛇が嫌い派と蜘蛛が嫌い派で別れるらしいが、後者がこの蜘蛛を見たら失神するかもしれないな。

 俺は蛇も蜘蛛も平気派なので問題無いが、取り敢えず見た目は気持ち悪かった。

 しかしまあ、問題は無いだろう。今までのモンスターもモンスター。この依頼の必要基準推定レベル相応だったのでレベル自体は大した事無いだろう。


 ──そう思っていた。


「……っ!? な……嘘だろ……レベル……20だって……!?」


 思わず絶句しそうになった。

 Lv20の蜘蛛型モンスター。まさか、ソラヒメとセイヤが言っていた冗談が現実になるなんて……!


『……!』


【モンスターが現れた】


「……っ。気付かれた……いや、完全に油断していた……俺の不注意だ……!」


 蜘蛛の視力は種類によって色々。しかし目の多さから視野は広く、感覚でも少しの物音。振動で気付く程に敏感ではある。

 見れば辺りに薄い糸が張り巡らされており、俺は既に捕らわれていたらしい。


「ハッ、上等だ。俺とのレベル差はたった2。コイツがボスモンスターなら……一瞬でケリを付けてやる!」


『……!』


 見つけた瞬間、俺目掛けて飛び掛かって来る蜘蛛型のモンスター。その動きはハエトリグモにも近く、機敏性はあるらしい。

 しかし今の俺の動体視力はかなりのもの。それをかわし、木刀をもちいて側面から殴り飛ばした。

 吹き飛んだ蜘蛛は軽快な身のこなしで着地し、糸を吐きつけて仕掛ける。


「つか、蜘蛛の糸ってそんな役割じゃないだろ……確かにフィクションの蜘蛛は糸を自在に操るけどさ!」


 吐きつけられた蜘蛛の糸を切り裂き、掻い潜って肉迫する。それと同時に俺は木刀を振り上げ、蜘蛛の身体をひっくり返した。


(さて、伝家の宝刀を使うかどうか……使った方が楽なんだろうけど、体力の減り具合からして問題無く倒せそうだな……)


 距離を置き、起き上がろうとしている蜘蛛の様子を眺める。

 “星の光の剣スター・ライト・セイバー”を使えば簡単に倒せるだろうが、特殊スキルに頼りっぱなしというのは思うところがある。レベル差はたったの2。“SP”の節約以前に、倒せる存在は自分の力で倒すべきだと考えた。


「じゃ、そうするか!」

『……!』


 跳躍し、起き上がろうと藻掻く蜘蛛の上から木刀を突き刺す。同時に引き裂き、体液が辺りに飛んだ。幸い作物には掛かっていないらしい。

 次の瞬間に飛び退き、木刀を片手に力を込めた。


「どうせ“SP”を使わないなら……新スキルを試すか!」


 特殊スキルの“星の光の剣スター・ライト・セイバー”は使わないが、節約が目的ではないのでスキル自体は使う。そのまま態勢を低くし、木刀を納める。刹那に引き抜き、そのスキルを使用した。


「──伝家の宝刀、“居合い斬り”!」

『……ッ』


 素早く事を済ませ、起き上がった瞬間の蜘蛛を切り抜ける。それと同時に倒れ伏せ、蜘蛛型モンスターは光の粒子となって消え去った。


【モンスターを倒した。ライトはレベルが上がった】


「ふう……一段落ついたか。仮拠点に戻って報告するか」


 それによってレベルも上がる。しかしノーダメージで倒せたが、少々疲れた。傷によるダメージと体力による疲労は別物だ。

 何はともあれ、蜘蛛型のモンスターを打ち倒した俺は仮拠点に戻るのだった。

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