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ステージ15-1 フラウィウス円形闘技場

「へえ……この世界じゃ、今もコロッセオが使われているのか」


「そうみたいですね。中から歓声や悲鳴……様々な声が聞こえてきます」


 不思議なお菓子の町“ワンダー・スイーツ・タウン”をってから一日後。俺達は旧イタリアの旧ローマ。コロッセオ前に居た。

 ローマと言えばコロッセオ。まあ観光スポットは他にも色々あるが、俺的にはそうなのでその闘技場の前に来たのだ。


 世界遺産や教科書の写真で見えるようなコロッセオがあり、その中からはユメが言うような歓声や悲鳴が聞こえてくる。

 どうやら本来のコロッセオみたいだな。人と人。動物と動物。人と動物。様々な形で殺し合いが行われ、多くの存在が命を落としたもの。

 処刑場として扱われていたり、殺し合いはしない単なる娯楽だったりと時代と共に利用する形は変わったコロッセオだが、悲鳴が聞こえる事からするに、このゲームと融合した世界では古来の形がそのまま使われているみたいだな。


「えーと……“死刑囚の観戦をしたいなら右口へ。通常参加。もしくはその観戦をしたいのならば左口へ”……か。処刑とは別で俺達プレイヤーも命を失わない戦いが出来るみたいだな」


「親切に書かれていますね。しかし処刑が完全な見世物になっているみたいです」


「実際、娯楽が少なかった昔は公開処刑が見世物だったらしいからな……。このコロッセオもそうだけど、中世フランスの斬首とかヨーロッパ全般の魔女狩りによる火炙り。日本の晒し首とか切腹。世界的に人が命を落とす瞬間は人々を魅せて来た……今どころか数十年前からは考えられないな」


「私は見たくありませんね……」

「ああ、俺もだ」


 人が死ぬ瞬間は古代から始まって中世から近世の処刑。現代は漫画やアニメ、ドラマにゲームなどのフィクション。形は変われどあらゆる方向で人を魅了してきた。

 殺し合いの何に人が引かれるのかは分からないが、多分非日常的な事柄や法で禁じられている事への反逆が心地好いのだろう。実際、本来出来ない事が出来るゲームを楽しんでいる人は多いしな。俺も含めて。

 しかし、あくまで公開処刑は別口。プレイヤーが楽しめるゲームとしての戦闘も出来るのは面白そうだな。対人戦で純粋な実力を確かめる事も出来るし。従来のプレイヤーバトルシチュエーションだ。


「一先ず、今は情報収集だな。プレイヤーにNPC。誰でも良いから巨大な影かローブを纏った人を見ていないか聞いてみよう」


 だが、今やるべき事はそれじゃなく人探し。ここに来た目的は闘技場じゃないからな。

 ローマ観光もいいけど、世界攻略を目指すのが先だ。


「それでは道行く人々とコロッセオ内の人々に話を聞くのが良さそうですね」


「そうだな。人が多い方が情報も集まりやすい。……と言うか今更だけど、まさかローマが古代ローマ風の景観なんてな。タイムスリップでもしたみたいだ」


「ええ、そうですね。なんだか不思議な感覚です」


 ローマで人を探すのはいいとして、俺とユメは改めて周囲を見渡した。

 ある程度予想はしていた事ではあるが、旧イタリアの首都ローマ。その景観は古代ローマを彷彿とさせるものだった。

 大理石からなる建物や歩廊。道行く人々は古代ローマの衣装だった“トガ”を着ており、NPCの髪型も……何て言おうか。長髪だったり全体的にボサボサな感じのアレだった。取り敢えずローマの資料集とかに出てくる人の髪型だな。


「やっぱりイメージ的なものが優先されるんだねぇ。ヴェネチアとかは過半数がイメージする現代風の水の都になっているのかも!」


「他の観光名所も相応のイメージになっていそうだね。ナポリやミラノはどんな風景が広がっているのかな。……それと、ポンペイ辺りには火山が活性化していそうだ」


 イタリアは観光名所が多い。ソラヒメとセイヤが今述べたもの以外にもフィレンツェやピサ。様々な観光地域がある。

 日本の京都が古風な感じになっていたのを考えれば、一つ一つの都市が大多数のイメージするものになっているんだろうな。

 そうなると何で東京は様々な世界が混ざり合ったかのような景観になっていたんだろうか……色んな物が集まるのは確かにそうだけど、それは永遠の疑問だな。


「取り敢えず、固まって探しても時間が掛かるな。いつもは二手に分かれているけど、今回は別々に探すか」


「そうですね。パッと見だけでかなりの人がおりますし、たまには個別で行動しましょうか。ミハクちゃん達は本人の意思に任せましょうか」


「ああ……って、その肝心のミハクはどこに行ったんだ?」


「……そう言えば……おりませんね」


 今回は人も多い場所なので四人は別々に探そうと考えたが、ミハクとコクアの姿がそこにはなかった。

 ミハクは割と居なくなるけど、コクアが居なくなるのは珍しいな。まあ、多分一緒に居るだろうし、そもそもミハクはこの世界で最強だから心配は無いと思うけど。


「まあ、ミハクなら大丈夫か。戻って来るなら自分の意思で戻って来るだろうしな」


「そうですね。少なくとも私達はまた会う事があると思いますし、私達は私達のやる事をしましょうか」


「二人には必ず戻って来る確信があるのかぁ。それってライト達が龍の楽園で聞いた事に関係するの?」


「ああ、まあな」

「へえー……」


 俺とユメにはミハクが戻って来る確信がある。それはその通りでソラヒメに返したが、ソラヒメは相槌を打つだけで深い詮索はしなかった。

 本当にありがたい事だな。俺達が気にするのは分かっているから気を使ってくれているのだ。


「一先ず聞き込み開始だ」

「はい」

「うん!」

「オーケー」


 ミハクの事は置いておく。俺達はコロッセオ周辺の人々に目撃情報を聞く為、行動を開始した。



*****



「それで、どうだった?」

「何もありませんでした……」

「右に同じー」

「僕もだ」


 ──それから数十分後、何の成果も得られなかった俺達はコロッセオ近くにあったベンチに座って話し合い。と言うか休憩をする。ビックリする程なんの情報もなかったからな。


「俺も同様。まさか何の情報も無いとはな……巨大な影とローブを纏った存在はガセネタだったのか、運が悪いだけなのか」


「聞く人にも寄るかもしれませんね。NPCもおりますけど、やはり基本的に他の人達はプレイヤー。常に冒険している人がほとんどですので、数日前の目撃情報では不足しているのかもしれません」


「そうだな。そうなるとNPCを中心に探した方が良いけど……NPCの見た目も基本的に西洋人風だからな。区別が付かないや」


「アジア圏外の人達がアジア人の見分けが付かないのと同じ理屈なのかもしれませんね」


「その可能性はあるな。話せば定型文しか話さないから分かるんだけど、結局見分けが付かないから他のプレイヤーに聞く事が多くなっちゃうや」


 情報は、常に色んな場所へ行っている他のプレイヤーよりもNPCに聞いた方が良い。それが魔王関連だったりストーリーに関係する事なら尚更だ。

 しかし前述した理由からしてそれが上手くいかない現状。はてさてどうするか。


「確実にNPCが居るなら、コロッセオの中を探してみたらどうかな? 受付をしているなら受付の人も居るんじゃない?」


「成る程。確かにそうだな」


 俺達が悩んでいると、セイヤから提案があった。

 確かにNPCなら道行く人より受付だったり近場のショップで探した方が確実。おそらく何度同じ質問をしても嫌な顔一つせず教えてくれる事だろう。


「それじゃ、入ってみるか。コロッセオに」


 その案を受け、俺達はコロッセオの中へと入っていった。



*****



 ──“フラウィウス円形闘技場”。


「フラウィウス……何だよこの長い名前……」


「確かコロッセオの正式名称……というより、建設当時の名前だね」


「よく知ってるな、セイヤ。しっかし、成る程なー。この世界のコロッセオは普通に稼働している。そして扱いで言えばゲームによく出てくる闘技場。だからコロッセオじゃなくて昔の名前の方を使っているのか」


 俺達が入った場所、“コロッセオ”。改め、“フラウィウス円形闘技場”。

 まあ、円形闘技場って部分はイタリア語……というよりラテン語の部分を日本語に変換しただけなんだが、とにかくここは長い名前みたいだな。


「ま、呼び方は今までみたいにコロッセオでいいか。そっちの方が慣れているし。取り敢えずコロッセオの中で色々と聞いてみるか」


「そうですね。コロッセオの方が短くまとまっていますし」


 呼び方はさておき、俺達は改めてコロッセオの内部を探索した。

 内部って言っても基本的に形は俺達の知るコロッセオのままだから常に日差しは差し込んでいるけど。

 内部を探索しつつNPCを見つけては巨大な影とローブを纏った存在について訊ねる。先ずは無難に受付からかな。


「という感じなんだけど……どうだ?」


「あー、確かに前に見たような……見なかったような……ローブの人はあまり大きな特徴じゃないから答え兼ねるけど、巨大な影が西に向かって行ったのは覚えているよ」


「今度は西か……。ありがとう。参考になったよ」


「いえいえ~」


 他の受付よりも少しフレンドリーな女性の受付NPCに訊ね、また新たな情報を得た。

 ローブを纏った人は確かに限定的で絞りにくいが、どうやら巨大な影は目撃しているらしい。そしてその影は西に向かったようだ。


 今度の行き先は西。旧イタリアから西となると、旧スペインを通って旧アメリカや旧ブラジルがある北アメリカ大陸や南アメリカ大陸になる。

 一応旧アメリカ合衆国は既に調べているけど、最近の目撃情報なら前に何かあったのかは関係無いな。行ってみる価値があるかもしれない。


「あ、そうそう。他にも役立つか分からないけど君達に関係している、かもしれない事もあるよ?」


「なんだって!? 本当か!?」

「うん! 確信は無いけどね~」


 軽く明るい笑みを浮かべながら他にも情報があると告げる女性。

 俺は結構な勢いで訊ねてしまったが気にする様子はなく、裏表の無い笑顔で言葉を続けた。


「ローブを纏った人。答え兼ねるって言ったけど、ローブが特徴的な人は今日のフラウィウス円形闘技場の大会に出ているよ」


「「……!?」」

「へえ~思いの外早く見つかりそうだねぇ」

「……真偽は定かではないとは言え、まさかこんなにタイミングが良いなんてね」


 唯一の特徴であるローブを纏った者が今日、この闘技場で開かれる大会とやらに出るとの事。

 セイヤの言うようにどうかは分からない。だが、調べてみる必要はあるかもしれない。


「その受付はもう終了時間が近いけど……どうします?」


 受付の女性が最後に訊ねる時は一応敬語を話す。

 真偽は不明。全くの別人の可能性の方が高い。しかし、答えは決まっていた。


「ああ。しよう。参加するよ。俺達!」

「はい!」

「そうだね。せっかくの手掛かりだもん!」

「まあ、やってみる必要はあるね」


「分っかりましたー! それでは四名様ご案内~!」


 俺達の言葉に笑顔で受け、羊皮紙に俺達のユーザーネームを書き記す。

 俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの俺達四人は、首謀者の手掛かりを掴む為にもフラウィウス円形闘技場で行われる、公開処刑とは違う大会へと参加する事にした。

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