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ステージ14-10 おかしな襲撃

 ──“ワンダー・スイーツ・タウン”。


「……っ。酷い有り様だな」

「文字通り、食い散らかされた跡だね」


 スイーツ・キャッスルから出た俺達四人は、目の前に広がる悲惨な光景を前に息を飲んだ。

 住民達は逃げ惑い、お菓子の建物は砕け散り、食い散らかされた残骸のみが残っている。それのみならずソーダやラムネの川も濁っていて、クッキーの歩廊も荒らされていた。

 飴の木々やクッキーチョコレートの街灯も言わずもがな。完全に崩壊したお菓子の町が眼前に広がっていた。


「短時間でこれ程までとはな。群れモンスターってだけあって一気にやられたか」


「至るところに冒険者と住民、蟻型モンスターがりますね……。プレイヤー達は何とか応戦していますけど、蟻もそれなりにレベルが高いので苦戦しているようです……」


 居るのは蟻型モンスター。しかもこの町の近くに来た時最初に出会った、チョコレートの身体を持つ蟻型モンスターだ。

 こんなにチョコレートがあっても、凶暴で襲って来るチョコレートはごめんだな。というか、チョコレートの身体を持つ存在がチョコレートを食べても共食いにならないのだろうか……いや、肉体を持つ人間も肉を食べてるし、チョコレートの生物の感覚も種類によって違うのかもな。


『『『…………!』』』

「お、見つかったか」


 ユメと話つつ、そんな事を考えているとお菓子の建物を食していたチョコレートの蟻型モンスター達が一斉に迫って来た。

 統率の執れた動きで迫り来る蟻の進軍。こう言った光景も久々だな。前にエンプレス・アントと戦った時以来だ。あの時はソフィアも居て全員で倒していったっけ……と、少し暗い思考になっちゃったな。今は目の前のモンスター達に集中するとしようか。


「よっと!」

『『『……!』』』


 迫った瞬間、白神剣を振り抜いて複数匹を切り裂き、そのまま消滅させた。

 レベルは相変わらず300前後。他のプレイヤー達は苦戦するレベルだとしても、俺達なら問題はない。まあ、こんなレベルになっているのも俺達が原因なんだけどな。

 流石に全責任ではないにせよ、他のプレイヤー達には迷惑掛けるよ。その代わりと言っちゃあれだけど、プレイヤーは全員護るか。剣聖の俺ならそれも可能だ。……そう言や、シャインに俺が剣聖って言うのは教えていなかったな。つい今までの癖で剣士って言ってしまう。今度会ったら訂正しておくか。


「ファイア……は、周りのお菓子に影響が及ぶので……“スピア”!」


『『『…………!』』』


 そして、一方ではユメが魔法をもちいてチョコレートの蟻型モンスター達を打ち倒していた。

 しかし、周囲はお菓子。広範囲の魔法は使えないみたいだな。槍の魔法でも十分に倒せているが、やっぱり範囲は狭いか。


「相変わらず、群れモンスターの相手は無双ゲームをやっている気分になるねぇ」


「そうだね。まあ、本来のゲームでもレベルを上げ過ぎるとボスまでの道中は作業になりやすい。ある意味王道のRPGをしているよ。そのボスも簡単に倒せるレベルになる事もあるけど、この世界ではその心配も無さそうだけどね」


『『『…………!』』』


 ソラヒメが拳で打ち抜き、粉砕。同時に掴んで投げ、複数の蟻型モンスターを巻き込んで吹き飛ばした。

 セイヤも的確に矢で射抜いて打ち倒し、俺達の周囲から蟻型モンスター達は数を減らす。


『『『…………!』』』

『『『…………!』』』

『『『…………!』』』


 が、まだまだやって来る。基本的に無限湧きだからな。数に限りがあったとしても何万匹は居る筈。先は長い。

 というか、そろそろ正攻法の残機アップとしてのノルマ、十万の敵を倒していそうだけど、やっぱり遠いのかもな。案外五万弱とかそんなもんかもしれない。


「キリがありませんね……!」


「ああ。出し惜しみはしておけないな。今回それをすると他のプレイヤー達が犠牲になってしまうかもしれない。ボスまでに回復するかは分からないけど──伝家の宝刀・“星の光の剣スター・ライト・セイバー”!」


「ライトさん……!」


 その瞬間、俺の身体が光と化す。放って置いて他のプレイヤー達が犠牲になっては元も子もない。今までの失態は純粋に“SP”不足で専用スキルを使えなかった事であり、出し惜しみをして仲間を失う事は無かったが、それが今になる可能性もある。

 なので俺は光になってこの町を囲む蟻型モンスターの群れくらいは消し去るさ。


「終わらせる……!」


 光の速度となり、刹那の瞬間で“ワンダー・スイーツ・タウン”を隅々まで一周。通り過ぎ様に見た全ての蟻型モンスターを討ち滅ぼし、町に居た全てのモンスターを消滅させた。


「……あれ? 今、目の前に居たモンスターは……」

「消えた?」

「た、助かった……の?」

「バグか?」

「虫はバグだろ」

「いや、そうじゃないよ。けど、バグの語源は本当に虫らしいぞ」

「へえー」


【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】【──はレベルが上がった】


「な、何だ!? 文字化けか!?」

「周囲にレベルアップの表記……!?」

「え? じゃあモンスターは倒したの?」

「いや、モンスター討伐の表記は出ていないけど……」

「マジでバグ説あるぞこれ」

「蟻型モンスターもなんか急に現れたしな……」

「最初の標的が建物とかだけだったのは不幸中の幸いだな」


 それによって近くに居た者には経験値が入り、レベルが上がる者も現れる。

 プレイヤー達はその事について困惑し、実感も何もないのでゲームの不具合を疑う。周囲を困惑させちゃったのは少し罪悪感があるな。

 けど、【モンスターを倒した】の表記無いので他のプレイヤー達もまだ事は済んでいないのを理解しているみたいだな。


「はあ……流石に町全体の蟻型モンスターを数秒で倒すのは骨が折れる……」


「お疲れ様です。ライトさん。周りの様子を見る限り、本当に群れモンスターは先程来たみたいで犠牲者は出ていないようですね」


「それが何よりだ。他人を護るなんて偉そうだけど、護れたならそれに越した事はないさ」


「もう、無茶ばかりして。ライトさん」


 俺の身を案じてくれるユメ。優しいな。

 この世界には疲労システムがある。なのでモンスターを倒せば倒す程にそれが溜まる。だからこそ町の蟻達を消し去る作業もかなりの労力を消費した。

 けど、本当に護れたならそれで良いさ。


「住民の皆様! 直ぐ様避難を急いでください! 敵が攻めて来ました!」

「町からは消え去りましたが、まだ町の外には無数の群れが居る模様!」

「冒険者の方々にはこの町への協力を要請致します!」

「しかし! 冒険者様方の身の安全も優先事項の一つ! 故に参加は自由とします! しかし危険なクエストだからこそ、相応の謝礼も御出しします!」


 話していると、城のクッキー兵士達がスナック菓子やチョコレートの槍に盾を携えて姿を現し、迅速に事を説明した。

 行動が早くて優秀だな。他のプレイヤー達からもザワめきは聞こえるが、これがクエストと分かった以上、動きは既に決まっていた。


「よし! 参加しよう!」

「ああ! よく分からないけど、これがクエストなら取り敢えず参加するか!」

「謝礼と聞いちゃ黙っちゃいられないからな!」

「お、俺は避難しようかな……」

「強かったもんね……あの蟻……」

「ハッハー! 私は参加致すぞ!」


 大半は参加。数人は身を案じて避難。まあ、思った通りだな。危険なのを理解してはいるんだろうけど、やっぱりプレイヤーとして報酬は欲しいのだろう。

 どちらが賢い選択かは本当に個人の意見だから何も言えないけど、俺は少し話した人。全くの初対面の人。全員を護るだけだ。


「では、参加する者と避難する人々は各々(おのおの)で“スイーツ・キャッスル”へ!」

「兵士達に町を見張らせますので、第二陣。第三陣が来たら報告致します!」


 クエストの手続きは受けるか受けないかの選択のみで終わり、受けるプレイヤー達は“スイーツ・キャッスル”へ向かった。

 避難組も城に向かっているが、最終的な目的地は別。あくまで前線に立つ者のみが王の前に行くというやり方みたいだ。


「ライトさん。私達も行きましょう!」


「ああ。自分で言うのもなんだけど、多分俺達はこのプレイヤー達の中でも上位の力を有しているからな。その力を使って護れるならそれが良い」


「純粋なレベルとか、専用アビリティ。ライトのスキルもあるからね」


「そうだね。傍から見たら傲慢にも思える発言だけど、他者の評価よりも他者を護り切れるかが優先だ」


 そのクエストには、当然俺達も参加する。

 ギルドに国境はない。元の世界では警察とかも外国に逃げられたら色々と手続きが必要で問題だったが、この世界に法律はないからな。自制心だけがルールだ。

 だからこそ日本のギルドでも外国の問題に手を出して良いだろう。ま、もう既に他国に出現したボスモンスターを何体か倒しているしな。

 一先ず町の蟻型モンスターを全て倒した俺達と他のプレイヤー達は兵士達の後に続き、今一度スイーツ・キャッスルへと戻るのだった。



*****



 ──“スイーツ・キャッスル、大広間”。


 参加するプレイヤー達が集められたのは昨日のパーティ会場だった大広間。ここもかなり使われているな。まあ、人が大勢入るし会議とかにも適正なんだろうな。

 しかしパーティテーブルなどは既に片付けられており、簡易的な椅子くらいしか置かれていなかった。

 各々(おのおの)のプレイヤー達は壁に寄り掛かって立つ者。椅子に座って休憩する者、真ん中付近で仲間と話す者と自分の好きな態勢で王の言葉を待っている。


「おや、君達は昨日のライトとユメじゃないか! 他の二人はお仲間かな?」


「あ、シャイン。ああ、俺とユメ以外の二人も仲間だけど……そうか。シャインも参加するのか」


「まあね。僕達にも色々とやる事があるんだけど、突然蟻型モンスターが現れてちょっと面倒臭くなってきたからね。パパッと片付けちゃおうかなって思ってね」


「ハハ、相変わらずだな。かなり強さに自信があるみたいだ。てか、僕“達”って……仲間が既に居たのか」


「あれ? 言っていなかったっけ。ハハ、まあそんな事はいいさ。今話したからね!」


 俺達も王を待っていると、昨日出会ったシャインが姿を現した。何かと構ってくるなって思ったけど、本人の性格上、本当に少し知り合っただけで心置き無く話せるみたいだな。そう言うところは俺も見習わなくちゃならないかも。

 ともあれ、何やら自分の実力に自信がある様子のシャイン。それが本当なら凄い戦力になる。


「皆の者! 恐ろしい敵を前に、よくぞ集まってくれた!」


「……!」


 シャインと話していると、王様が二階席から姿を見せて全体に届くような声量で話した。

 今更だけど年の割にかなり声が出るんだな。NPCだから老いとかはあまり感じないのか? と、どうでもいい思考がよぎった。集中しなくちゃな。

 それから王様は一通りプレイヤーへの感謝の言葉を述べ、三分後。結構早いうちに本題へ入る。この部分もスムーズに進んで良いな。


「知っての通り、この町が謎の魔物に襲撃されている。既に戦った者達も居るだろう。そしてそれのみならず、兵士が言ったようにこの町の全体を囲まれ、私達は籠城戦を余儀無くされてしまった……!」


 籠城戦。今の様子から言うなら籠町戦か。とにかく外に出る事が出来ない、かなり大変な状況だな。

 既にSPも回復したから視界に映る範囲なら蟻型モンスターを俺一人でも消せるけど、数が分からないからそれは愚策だな。蟻達が囲む町の範囲が問題だ。


「だからこそ、冒険者達には力を──」


「そんな事はどうでもいいから進めてくれ! 報酬はどれくらい出るんだ!?」

「ああ。ここに集まった時点で参加する事は決めているんだ。後は報酬と、どんな作戦で迎え撃つかだけを話してくれ!」


 王様が懇願するよりも前に、プレイヤー達は話にうんざりした面持ちで事を急がせる。

 うん、他のプレイヤー達は少しせっかちかもな。確かに事態は一刻を争うけど、メタ的に考えれば話が終わるまで蟻型モンスター達は何もしてこないだろうに。


「お前達! 王に向かってなんて口を……!」


「いや、構わぬ。確かに事は急がねばならぬ。報酬は弾もう! して、肝心の作戦だが、籠城戦の第一は敵の侵入を許さぬ事。故に、前衛部隊と後衛部隊に分け──」


 それから王様から作戦の詳細が説明された。

 簡単に言えば町に入ろうとする蟻型モンスター達を前衛部隊がなるべく食い止め、疲労が見えてきたら後衛部隊に変わって休まず相手を町から攻め続ける作戦。


 町にはそれなりに設備もある。全部お菓子だけど。しかしこの世界のお菓子なら元の世界の中世から近世辺りの武器に匹敵する威力はあるだろう。

 なので概要を説明し終え、前衛と後衛に分かれて作戦を遂行する事になった。敵は人間ではなく蟻なので誤射なども最小限で済む筈だしな。


「では、武運を祈る」


「ハッ、任せてくれよ。王様!」

「さっきレベルも上がったんだ! 俺達にゃ敵無しだぜ!」

「何か知らない力で敵が殲滅されたしな!」

「誰かのスキルだとしても、それが味方なら一瞬で終わるだろ!」


「……。呑気な事を……結構疲れるのに……まあ、それでも使うけど」

「ふふ……本当にお疲れ様です。ライトさん」


 気楽なプレイヤー達に愚痴を吐いてしまった。けど、周りは盛り上がっているし隣に居るユメ以外には聞かれなかったから良いか。

 ともかく、これもプレイヤーを護る為。ギルドの使命でもある。俺の疲労は二の次で良い。

 vs蟻型モンスターの群れに対する陣形が作られた。後は上手くいく事を祈るだけだな。

 今、俺達プレイヤーvs群れモンスターの籠城戦が始まるのだった。

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