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ステージ14-6 おかしな舞踏会

「行くぞ……」

「はい……初めてですので、優しくしてくださいね……」

「ああ。俺も初めてだから……って、その他者が聞いたら勘違いするような言葉はやめるか。一応ただのワルツなんだから」


「あっ……いえ、他意は無く……」

「あ、もちろん分かっているさ!」


 互いに変な緊張が走り、たじたじになって互いの手を取る。

 別に誰が見ている訳でもない。まあ、強いて言えばソラヒメにセイヤ。そしてミハクとコクア。後はアドバイスをくれた謎の男性が見ているけど、周りのプレイヤー達は皆自身のダンスに夢中。しかしそれでもやっぱり気になった。


「先ずはステップから入るんだよな……」


「はい……ワルツの基本は抱擁と旋回。それがベースですので……ポージングはまだあまり意識せずとも良さそうです……私達初めてですからね」


「詳しいな。ハハ、頼もしいよ。リードしてくれ」


「ふふ、普通は男性がリードするものですよ。私も頼りにしています。ほら、肩の力を抜いて下さい」


「よ、よし……!」


 お互いの手を引き、自分達の距離を詰める。クルリと揺れるように回ってステップを踏み、城内に流れる曲に合わせて踊りを始める。

 学校の授業でダンスがあったから基礎の動きは出来るけど、授業のダンスとワルツは違う。周りのプレイヤーの見様見真似でやるしかないな。


「こんな感じで合ってるのか……?」

「さあ、どうでしょう……しかし、遠目から見たら周りと変わらないと思いますけどね♪」


 周りの動きに合わせ、ステップを踏む。そしてワルツ特有のポージング複数を流れとリズムに合わせて魅せるように取る。他人の観察はモンスターの観察と同じ要領なので周囲の動きを真似る事も出来ていた。

 プロから見たら違和感があるかもしれないけど、周囲には溶け込んでいる筈だ。

 緊張している俺とは裏腹に、ユメは笑顔でダンスを楽しんでいるな。


「上手だねぇ。ライトにユメちゃん♪ セイヤ。私達も踊ろっか?」


「ワルツって発祥はカップルのダンスだった筈だけど、姉弟で踊るものかな」


 少なくともソラヒメから見たら上手く踊れているらしいな。それは何よりだ。

 しかしカップルのダンスが発祥か……そう聞くと更に緊張してきた。汗でクッキーが湿りそうだ。

 そんな事を考えているうちにダンスにも何度目かの盛り上がり部分が訪れ、佳境に差し掛かる。そこから次第に落ち着きを見せ始め、そろそろ終幕も近い事が分かった。

 ワルツと一概に言っても(シメ)や決めポーズは曲や踊り手によって個性が出る。さて、俺はどうするか。


「ユメ。最後はどうする? 大きく仰け反るか抱き上げるか自然に離れるか……色々終わり方はあるけど」


「それって今聞く事でしょうか……けど、私はライトさんにお任せします。好きにしてくださいね♪」


「お任せか……悩むな」


 ユメは俺に委ねるらしい。そう笑顔を向けていた。

 アニメや映画のダンスシーンもダンスメインの作品じゃなけりゃナアナアで終わらせられるからな……その様な作品はあくまで俺がだけど、あまり見ないし、正直言って終わり方は本当に難しいぞ。

 かかえる方向に絞ろう。それとあまり寄せ過ぎると俺が緊張するからその辺も何とか上手い事やりたいな。


「あ、終わるみたいです……」


「早いな……途中で踊ったってのもあるけど」


 考えていると本当に曲が小さく、遠くなっていく。ワルツは比較的静かな躍りなので周囲の喧騒も無くまだ聞こえるが、果たしてどうするか。

 まだ決めてないぞ……。……いや、ここはビシッと決めるか。そうした方が良い。

 決めるところで決められる性格かって言われたらそうでもないけど、器用貧乏な感じだとしてもある程度の対応は出来る……!


「終局です……」

「これだ……!」

「……! わわっ……」


 音が止む直前、ユメのうなじ部分に手を回し、ゆっくりと背面から倒すように姿勢を低くして支える。そのままユメと見つめ合うのは緊張するけど、ここで手を離してユメの後頭部をお菓子の床にぶつけたら大変だ。ダメージは無くても見た目的意味とお菓子でユメの髪の毛が汚れてしまう可能性がある。

 体勢は整えた。後はここから手を引き、


「……っ」

「ラ、ライトさん……頑張って……!」

「や、やってやるさ……! 多分、おそらく、きっと……!」


 手を引くと同時にステップターン。これはスイングって言うんだっけか。ワルツで一番基本の動き。

 大きく仰け反ってからのスイング。今一度ユメの手を引き、背中に触れる。そのままの姿勢でもう一度ターン。停止。花弁が開くようなポーズで互いに近距離のまま曲が止んだ。

 果たしてこれが正しい動きなのかは分からない。だけど個人的には上手くいった感がある。俺的に言ってしまえば、踊る途中で足を滑らせたりユメに危害を与えなければ全部成功だ。


「皆の者! ご苦労! 良き舞踏会であった! 盛大な拍手を私と兵士達から冒険者の方々へ送ろう!」


「「「冒険者様方ー!」」」


 終わった瞬間、薄暗かったパーティ会場が明るくなる。そして会場の二階? 高所にある席から金箔を纏ったクッキーの王冠を被るクッキーの王様が俺達を見下ろし、心から賛辞の言葉を与えた。

 兵士達から冒険者に向けた拍手が送られ、歓声が上がる。さっきまで静寂にも近い状態だったのに状況の変化が激しいな。それと、建物関連はチョコレートが多いけど、人型なのはやっぱり世間的なイメージからしてもクッキーが多いな。


「火山を止め、素晴らしき舞踏会を見せて貰った謝礼を与えよう! 本当に感謝致す! では皆の者、ステータスメニューを開いてくれ」


「急なメタ発言だな……いや、NPCにはステータスって言う概念があるのかもしれないけど」


「ふふ、一先ず従いましょうか」


 王様の指示により、謝礼を与えるのでステータス画面を開いて欲しいとの事。

 プレイヤー。つまり神視点から聞いたこの発言はメタ的にも聞こえるが、NPC達からしたらそれが普通なのかもしれない。

 なので俺達プレイヤーは王様の言葉に従い、ステータスを開いた。


「では、与えよう!」


 王様が手を掲げたその瞬間、ステータス画面にある金銭が一気に増える。

 金銭は見る見るうちにカウントされ、B(ブロンズ)S(シルバー)は一枚も入らず、G(ゴールド)1000枚が記録された。

 これは凄い。一般的なRPGで“1000G”というと少なくも思えるかもしれないが、この世界にはゴールド以外にも概念があるからな。日本円に換算すると一千万円が謝礼として受け渡されたようなものだ。


「すごい! 嬉しい!」

「わーい! やったー!」

「よっしゃー! やるゥ!」

「すげえ! 流石だぜ王様!」

「これで装備が新調出来るぞ!」

「回復アイテムには困らないな!」

「ハッハー! 何に使おっかなー!」


 他のプレイヤー達は受け取った謝礼を見て三者三様に歓喜の色を見せる。これが普通の驚き方だな。掻く言う俺も喜んでいるけど。

 俺達は、装備には困らないにせよ、金銭が増える事で色々出来るようになる。なのでかなり嬉しい事だ。ちゃんと王様が王様しているなこの町は。


「皆の者、よくやった! 今宵の祝宴会は朝まで執り行う! 冒険者の方々も戻るも良し、救われた町へおもむくも良し、当然朝までこの宴会を楽しむも良し! 心行くまで“ワンダー・スイーツ・タウン”を楽しんでくれ!」


「「「イエーイ!」」」


 ワイングラスを片手に複数のプレイヤー達が乾杯する。本当に気前が良い王様だな。と言うか、基本的にこの世界の王様は良い人だな。

 魔王軍の幹部も王様と言えば王様だけど、何て言おうか。味方NPCの王様は全員良い人と設定されているみたいだ。

 火山の噴火を止めた事によって開かれた宴会。それは舞踏会を含めて大いに盛り上がり、開催された。



*****



「ふぅ……あのノリはあまり俺向きじゃないな……」


 スイーツ・キャッスルのバルコニーにて俺は夜風に当たり、一人言を呟いて肩を落とした。

 ああ言ったノリは見る分には嫌いじゃないが、俺の性格的にあまり合わない。なのである程度の食事や他のプレイヤーとの交流を終えた後で、一息吐く為にも夜風が涼しいバルコニーに移動したのだ。


「良い景色だなぁ」


 飴のガラス越しから聞こえる背後の賑やかな声に釣られたのか、自然と一人言も増える。と言っても呟きは本当に他愛のないもの。

 今は城のバルコニーから見えるお菓子の町の光や空に浮かぶ星や月を見て感傷に浸っていた。今日は別に心が痛むような出来事とかも無かったけどな。


 バルコニーの欄干らんかんに手を乗せ、その上に顎を乗せて特に何も考えずボーッと遠方を見やる。

 欄干も当然お菓子。ホワイトチョコでコーティングした白いクッキーを組み立てているみたいだ。どうやら足元……バルコニー全体の素材も同じみたいだな。

 お菓子の町なので常に甘い匂いが鼻腔をくすぐる。今はまだ腹八分目みたいな状態だから良いにせよ、満腹の状態でこの香りは少し辛いかもな。香り自体は落ち着くような良い香りなので飽きないんだけど。


「あ、ライトさん。一人でこんなところに居たんですか」


 ボーッとして何分が経過したのだろうか。背後から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 俺は振り向き、その声の主に返答する。


「お、ユメか。ちょっと夜風に当たりにな。賑やかな空間も嫌いじゃないんだけど、やっぱり賑やかな場所よりは静かな場所派だからな。俺」


「ふふ、実は私もそうです。なので落ち着こうかなって……」


「ハハ、似た者同士だな。俺達」

「はい。そうですね♪」


 これまた他愛ない会話。中身もなくフワフワしている。だけど今はそれが一番適正な内容だ。


「隣、良いですか? ライトさん」

「ああ、構わないさ」


 そしてユメは俺の隣へと来、互いに同じ格好で遠方を見つめる。


「改めて、かなりおかしな町でしたね。“ワンダー・スイーツ・タウン”。お菓子の町なんて生まれて初めてですよ」


「同意だ。まさかこんなメルヘンチックな町も用意しているなんてな。首謀者の性格は問題だけど、割と幅広く配慮されているみたいだな」


 お菓子のおかしな町、“ワンダー・スイーツ・タウン”。本来の目的は魔王捜索の為にローマへ向かう途中だったのだが、まさか旧イタリアと旧フランスの国境でこんなにくつろぐ事になるとは思わなかったよ。


「そう言えば魔王についての話、結局聞けていないな。後で王様に色々と聞いてみるか」


「あ、そうですね。ダンスや食事……色々と夢中になってしまいましたけど、私達の目的はそれでした」


「今日はもう遅いし、明日改めて魔王について聞こうか。もう少しこの町でのんびり骨休めするのも良さそうだからな」


「良いですね! 美味しくて見ていても楽しい町ですし、王様もこの町を楽しんでくれと仰有おっしゃってました♪」


「ハハ、そうだな」


 魔王の情報は優先事項だったが、一向に集まらないのもあって少し優先度が下がった。

 まあ、元の世界に戻ったらここに来る事は出来なくなるし、今は攻略のその日までの僅かな時間を楽しむとするか。この世界になってから基本的に切羽が詰まっていたし、何度も言うように息抜きは必要だ。


「ライトさん、近いですね。この世界の終わりも」


「……。そう、だな。俺達には……俺とユメには世界を終わらせて元に戻す為にもやる事がある。それまで、それまでの一時は心の底から楽しむとしよう」


「はい……。ずっと一緒ですよ。ライトさん」

「ああ。一緒だ。ユメ」


 バルコニーにて風に当たり、互いに髪を揺らして遠くを見るように話す。

 俺達のやる事。それは俺達の為にはならないかもしれないが、世界の為にはなる。それを実行したらどうなるか、概要だけ分かっていてもその日にならなければ分からない。

 それでもユメとは一緒だ。それなら乗り越えられる。きっとな。

 俺とユメ。ソラヒメとセイヤにミハクとコクア。そして他のプレイヤー達。火山を止めた事によって開かれた舞踏会。祝宴会はとても明るく、とても賑やかに続いていく。

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