ステージ14-3 おかしな災害
「避難警報ーッ! 避難警報ーッ! 皆に告ぐ! 火山に変動があり、現在噴火を引き起こした模様! 住民及び冒険者達は直ちに避難せよ!」
「火山の噴火……」
「成る程。これが慌てていた理由ですか……」
「確かに危険だねぇ」
「相変わらず呑気だね。ソラ姉」
駆け付けてみると、どうやら火山の警報が発令されたらしい。
確かにヨーロッパ方面にも火山はあるな。旧イタリアと旧フランスの国境付近に火山があったのかは脳内に世界地図が内蔵されている訳でもないから分からないけど、とにかく大変な状況のようだ。
「火山の噴火が起きたのを、起きた瞬間に分かったのか。遠方と連絡を取る手段がある訳でもないのに……この世界は元の世界より文明レベルが下がっている割には発展しているな」
「あくまで世界の全てが書き換え可能なデータですからね……地震が起こると言われたら起こる。火山が噴火すると言われたら噴火する。そんな感じの世界みたいです」
「地球その物が首謀者の意のままか。全ての事件の原因は首謀者……とんだGMだな」
首謀者はこの世界にて全能の神にも等しい存在。あくまでこの地球内ではな。
だからこそ、既に設定されているならその通りに火山も噴火するのだろう。
もっとも、首謀者以外にも他者の介入によって意図的に引き起こす事も可能だけどな。この世界の天災に匹敵するプレイヤー達のスキルなら。
一先ずこの避難勧告。たまたま居合わせた俺達も無関係とは言い切れない。何か手伝える事なら手伝っておくか。俺達は兵士へ歩み寄り、
「町の兵。その話、詳しく聞かせて貰えないか? 俺達冒険者なら色々と出来ると思うぜ?」
「ええ。それなりの報酬が出るなら、火山を止める事も可能ですから。その場合はクエストとして受注しますけど……如何かな?」
「……! 冒険者の方々……!」
そんな事を考えていた時、俺達が行動を起こすよりも前に何人かのプレイヤーが名乗り出た。
成る程。考えることはみんな同じか。俺達にはそれを遂行するだけの実力がある。ならば止めようと試みるプレイヤーも居るって訳だ。もちろん報酬は要求するみたいだけどな。
けど、それは当たり前の事。俺達は偶然上級装備を見つけただけで、本来は薬草とか回復アイテム購入だけじゃなく装備調達にも金銭が必要だからな。旅をするのも楽じゃないのである。
「これは心強い! 報酬なら王から直々に、多額の賞金を……! しかし相手は町一つくらいなら容易く飲み込む火山……冒険者の方々と言えど……」
「心配は要らない」
「ああ。何とかしてやるさ」
「報酬に見合った働きはしよう」
どうやら話はまとまった様子。俺達が名乗る暇もなかったな。
しかし、逃げ惑う住民とは別に立ち止まるプレイヤー達の中には名乗っていない者も大勢居る。つまり今回、この場に居るだけでクエストを受けた事にしても良いみたいだな。
クエスト名は……無難に“噴火を止めて”とかかな。
まあ実際、止められない事も無いだろう。大勢のプレイヤーは各々が様々なスキルを使える。それらを合わせれば何とかなるだろうからな。多分。
フィクションの世界でも力を合わせていっせーのでで大体上手くいく。
「……! み、皆さん! 早速噴火の余波が……!」
「……!」
その瞬間、俺達の頭上を巨大な影が覆った。
大岩か何かか? 俺達よりも先に依頼を受けたプレイヤー達がそれを見上げた。
「これが余波か。大きな何か……ハッ、一体どれ程の……。……んなっ……!?」
「こ、これは……」
「はあ!?」
「ええ!?」
「んだよこれ……」
そして上からは──巨大なポップコーンが降って来た。
「「「「Popcorn!?」」」」
ネイティブな発音で驚きの声を上げるプレイヤー達。アメリカでも日本でもヨーロッパ方面でもポップコーンはポップコーンらしいな。自動翻訳されなかったのがその証拠だ。
ともかく、まさか火山までお菓子とはな。寧ろ本物の岩石とかより少しホッとしたぞ。
「何と言う事だ……! 選りに選ってキャラメルポップコーンとは……! 通常の噴火より強度な雨が降る……!」
「そう言う問題かよ……いや、まあここじゃそれが普通なんだろうけども」
見れば確かに黄土色の着色がある。表面がキャラメルでコーティングされているみたいだな。兵士の言葉は些かシュールだけど、結構な事態なんだろうな。
実際、キャラメルポップコーンは通常のポップコーンよりも少し硬くサクサクとした食感。巨大なそれは確かに大岩にも匹敵するだろう。……って、これって真面目に考える事か?
「皆様! 火山灰も降ってきました……!」
「火山灰……って、甘いな。キャラメルパウダーの火山灰だ」
噴火の衝撃で火山灰が降り注ぎ、それが俺の口の中に入ってきた。
空中で冷えて熱さは無くなっているな。少し焦げてる感じもあるけど甘さも強い。うまいキャラメルパウダーだ。
「ハッハッハ! 災害かと思ったら所詮はお菓子! これなら恐るるに足らないぜ!」
「あまりの大きさに驚きはしたが、問題は無いな!」
火山がポップコーンと知り、余裕の態度を見せる他のプレイヤー達。
確かに慣れ親しんだお菓子。侮られるのも無理はないだろう。だが、この町のお菓子は何れも頑丈だからな。一つ一つが本来の火山岩並みの破壊力があると思うんだけど。
「また降って来たぞー!」
「こんなもの、容易く切り伏せてやる!」
他のプレイヤーが空を見続け、複数のキャラメルポップコーンを確認。そのうちの何人かが跳躍して各々の武器を扱い、キャラメルポップコーンを縦に切り裂いた。
斬られたポップコーンはそのまま落ち、下方にて構えていた銃使いや狙撃手の者達が更に細かく粉砕。被害を出す事無く抑えた。
「ハッ、余裕だな」
「こんなもんならいくら降って来ても問題無いぜ」
確かに被害は抑えられている。少なくとも火山岩のポップコーンくらいならこの者達でも十分みたいだな。
プレイヤーなのでレベルは分からないけど、三桁レベルはある筈。それなら降り注ぐ巨大ポップコーンに対処出来るだろう。
「他のプレイヤーの方々が居るので、町に火山岩によっての直接的な被害は及ばなそうですね」
「ああ。となると問題は、まだこのポップコーンやパウダーが噴火の余波って事だ。基本的に自然災害は起こってから数分後に猛威を振るうし、油断は出来ないな」
「そうですね。火山の噴火なら火砕流や溶岩。雷などの被害もあります。大気汚染や畑への影響は火山灰がキャラメルパウダーなので問題無さそうですけど、それらが何になっているかですね……!」
このポップコーンはあくまで余波でしかない。噴火の時に勢いが良かった物がちょっと飛び出して来ただけである。
つまり本番はこれから。噴火は第二波第三波がある。ユメが述べたような現象が何になっているのか、どの様に対処すべきなのか。それが一番の問題点だな。
「……! 大きく揺れた……!」
「もう一度噴火したのか!」
「次の波が来るか……!」
「ちょっと怖いかも」
「ハッ、余裕だぜ!」
「ヒュー!」
そんな事を考えていると町が大きく揺れた。他のプレイヤー達も声を出してその事を確認する。
まだ余裕は保っているみたいだな。噴火が原因って分かっており、それに対処する力があるからパニックに陥ったりしていないのか。
しかし一回目の噴火の時は何の衝撃も来なかったのに、二回目の噴火で体感震度3くらいの地震並みに揺れるとはな。これはデカイ影響が来る前兆か?
「さあ次だ! どんな物でも──……っ!?」
「んなっ!?」
「えっ……?」
「急に大き過ぎだろ!?」
そう思った瞬間、フラグの回収というか来る事が予期出来た未来というか──この町サイズのポップコーンが降って来た。
全貌は見えない。それ程までに巨大なポップコーン。そもそもこれ程の火山岩が降り注ぐ程の火山ってどんな大きさだよ。
「うおおおぉぉぉ! ──最後の力・“極大切断”!」
「──リーサルウェポン・“金剛連射”!」
「──リーサルウェポン・“破壊の矢”!」
「──極限槍術・“一点一突”!」
「──騎士道・“神の槍”!」
他のプレイヤー達は各々で必殺スキルを使用。戦士に銃使い。弓使いに槍使い。そしてこの地域にぴったりな騎士か。
プレイヤー達のレベルは何れも三桁に到達しているだろうが、果たして山河を粉砕する領域に立っているのか。けどまあ、前述した五名以外にも何十人ものプレイヤーが必殺スキルを使っている。少なくともこのキャラメルポップコーンは破壊出来るだろう。
俺達は今後来るかもしれない最大級のポップコーンに備えるか。待機している間にその巨大キャラメルポップコーンは粉々になっていた。
「ハッ、ざまあみろ!」
「俺達に掛かればこんなもんだ!」
「やったね!」
「ところでお姉さんこれから俺と……」
「NO」
巨大キャラメルポップコーンが砕け、他のプレイヤー達から歓喜の声とナンパの声が上がる。確かにこちら方面の男性は女性好きのイメージはあるな。
ともかく、あのサイズもこのプレイヤー達が何十人も居るなら何とかなるか。
「次が来ないな」
「前兆は終わりって事かな」
「だったら本元を抑えに行くか」
「良いな。俺達なら簡単だろ!」
町サイズのポップコーンを粉砕してから次の波は来ない。一旦休止にでも入ったのかもな。
だが、それはつまり力を蓄えているという事。次の噴火が起これば先程以上の被害が及ぶ事だろう。
だからと、他のプレイヤー達は本元である火山を叩きに向かった。
お菓子と言えど火山程のエネルギーが力業でどうにかなるものなのか気になるけど、確かに噴火した瞬間に止める事が出来れば周囲に影響を及ぼす事も無いかもな。少なくとも俺達プレイヤーにはそれを可能にする力がある。
冒険者達の大半は火山の元へと向かう。
「ライトさん。私達はどうしましょうか?」
向かうプレイヤー達を見やり、ユメが心配するような面持ちで問い掛ける。
確かに不安はあるな。色々と。プレイヤー達が余裕を持っているのが逆に心配だ。
「俺達も行った方が良いな。最悪、あのプレイヤー達全員が火山の噴火に巻き込まれてゲームオーバーになる可能性もある」
俺の返答は俺達も行くという方向で考える。
レベル三桁前半はあっても、それだけじゃまだ人間の領域。前の世界で様々な力を以てしても抑え切れなかった自然災害を止められる筈もないからな。
余波だけで大半のプレイヤーが必殺スキルを使わなければならなかった現状、天災の領域に到達したLv500以上の俺達の力がなければ他のプレイヤー達が全員危険だ。
「それでは、私達全員で向かいますか?」
「いや、念の為に何人かは残った方が良いな。まあ、何人かって言っても俺達は四人だけだけど。ミハクが本気になったらすぐに終わらせられるけどな……とにかく、例え止められたとしても余波まで完全に消し去るのは至難の技だ。備えはあった方が良い」
「そうですね。えーと、それでは誰が残りますか?」
「そうだな……まあ、俺とユメ。ソラヒメとセイヤか、俺とセイヤ。ソラヒメとユメの近距離と遠距離が得意なメンバーで分かれた方が良いかもな」
メンバーを分けるなら遠距離技と近距離技を得意とする者達。それが一番安定しているからな。
てな訳で決めるべきなんだけど、はてさて一体どうするか。
「いつもみたいにライトとユメちゃん。私とセイヤで良いんじゃない? なんやかんや一緒に行動する事が多いし、一番連携が図れるからね!」
「ま、それが一番かな。僕達はいつもみたいに待機しておくよ。どちらにせよ、ライト達が向かうなら行かなくても良いからね」
「そうか。それじゃ、手伝いに行くか。ユメ」
「はい。そうですね!」
向かうのは俺とユメ。“ワンダー・スイーツ・タウン”で待つのはソラヒメとセイヤ。いつもの流れだな。
ミハクとコクアがどっちに付くのかは本人達に委ねるとして、ソラヒメとセイヤが居るならまず町の安全は確保されたも同然だろう。
俺とユメは先に行ったプレイヤー達の後を追うよう、お菓子の国の火山へと向かった。




