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ステージ14-2 おかしな町

「やっぱり魔王関係の事は全員が知らないか……城に行くのはリスクがあるし、町中は終わったから次は酒場辺りに向かうか。昼間から経営しているか分からないけど。お、これもうまいな」


「はむっ。ほうだねぇ。RPGだとやっぱり情報は酒場に集まるもんだもんねぇ……」


「もぐもぐ……そうですね。町中は大凡おおよそ調べましたし、経営云々はさておき一先ず酒場に向かいましょうか」


「それが良さそうだね。うん、良い味だ」


 途中で購入したお菓子を片手に、俺達は変わらず情報を集めていた。

 今は完全にピクニックとかそう言う気分になっているな。俺も言えないけど。

 この町は魅力的だな。色々なものに目移りしてしまう。


「それで、酒場の次はどこに行く? お菓子の町の温泉とか気持ち良さそう!」


「それなら宿屋とかも良さそうですね♪ まだ昼間ですけど、お菓子の宿屋とかどうなっているのか気になります!」


「入るのは駄目かもしれないけど、お城も見てみたいねぇ。あー、行きたい所が多いよ。“ワンダー・スイーツ・タウン”!」


 ユメとソラヒメは心の底からこの町を楽しんでいた。

 まあ、二人が楽しいならそれは何よりだ。最近の旅はあくまでも情報収集の為だけの行動であって街の観光とかはしていなかったからな。

 この二週間で何の情報も掴めなかったけど、だからと言って休めた訳ではない。常に情報を得る為に世界中を飛び回っていたからだ。時には今日みたいな日……骨休めも必要なんだろうな。


「ハハハ。ユメとソラヒメは本当に楽しそうだな。美味しくて楽しい町……今のところ問題も起きていないし良い雰囲気だ」


「そうだね。悪くない。けど、一先ずは酒場が目的地か。その後でどこに行くかはリーダーであるソラ姉に従っておくよ」


「オッケー!」


 一先ずの目的地は酒場。

 その道中にも色々と気を引かれるものは多いんだろうけど、ちょっと寄るだけなので問題は無い。しかし、ユメもソラヒメもよく食べるな。俺も結構食べたけど、お菓子だけで割と腹に溜まる。二人はすごいな。


「この世界はいくら食べても光の粒子に変換されるので太らなくて良いですね。もちろん危険な世界なのでずっとこうしている訳にもいきませんけど」


「そうだねぇ。まあ、元々私は太らない体質だから元の世界でも沢山食べれたんだけどね! 別に栄養が足りないとかじゃなくて、健康的に太らないんだ!」


「わぁ! 羨ましいです。私もそんな体質だったらなぁ」


 食べ歩きながら進んでいるが、会話を聞く限りユメとソラヒメは体重などを気にする必要が無いからいくらでも食べられるらしい。

 けど、元の世界でも栄養の補給も問題無く結構食べると言うソラヒメの栄養はどこに運ばれているのか……いや、この考えはソラヒメを見たら分かるし保留で良いか。本当によく栄養が行き渡っているよ。

 女性は体重や体型についての悩みが多そうだからな。美味しいものを食べても太らないこの世界は割と理想的かもしれない。ユメが言うように危険だから完全な理想郷って訳じゃないけど。

 そう言えば俺も体重とかは気にした事がなかったな。アスリートや俳優とかモデルじゃないから健康的な身体なら体重を気にする必要も無いしな。

 その様な他愛ない会話をしているうちに俺達は酒場へと到着した。


「ここがこの町の酒場か。酒の匂いがするし、酒入りチョコレートがレンガみたいだな」


「それと黒いクッキー……コーヒー味のクッキーやチョコクッキーが基盤みたいですね」


 目の前に佇む大きな酒場。おそらく町一番の場所だろう。

 材質はやはりチョコレートやクッキー。ガラスの役割を担うのは透明な飴。この町にあるほとんどの建物と同じ造りだな。本当に違いは少しチョコやコーヒーの割合が多いのと、酒入りチョコレートが使われている事くらいだ。


「一応営業はしているみたいだな。少ないけど人影もある」


「プレイヤーとクッキー人形が一緒に居ますね。私達も既に慣れましたし、クッキーが動いているのもなんやかんや慣れるんでしょうか」


「そうかもしれないな。人って環境に適応する生き物だし、考えてみればこの世界になってからまだ二ヶ月くらいなのにもう慣れているからな」


 飴から作られたガラスから店内を覗くと、クッキー型の店員がプレイヤーに対して酒を提供している姿が映り込んだ。

 ここではそれが“当たり前”なんだろうな。俺達もある程度は慣れたし、郷に入っては郷に従えとも言われるから構わず接するとしよう……って、既にクッキーやチョコレート達にある程度の聞き込みはしているから適応しているな、俺達も。

 ともかく、俺達もチョコレートクッキーの扉を開けて酒場へと入った。早速、情報収集開始だ。



*****



「魔王……ねぇ。“魔王”って言う名前だけなら聞いた事はあるけど、居場所までは知らないかな。まあ、“聞いた”と言っても、大半の魔物を放っている張本人だから自然と入ってくるんだけど。はい、チョコミルクドリンク」


「あ、ありがとうございます」


 クッキーの店主がお菓子の皿を薄いお菓子で拭き、俺達の質問に答えてくれたが、やはり知らないらしい。

 魔王の存在自体は全員が認知しているんだけどな。それと、クッキーの身体でどうやって話しているんだろうな。声帯とかあるのか? そもそも肉体的な構造がどうなのかも気になるけど、趣旨が違うからそれは置いておこう。


「悪いね。力になれなくて」

「いえ、質問に答えてくれただけ十分ですよ」


 拭き終わった皿をビスケットの棚に戻し、飴ガラスが張られた戸を閉める。そしてクッキーの店主は自分の仕事に戻った。


「やっぱり誰も知らないか。情報が集まりそうな酒場だけど、今は時間も時間で人は少ないし成果は得られなさそうだな」


「そうですね……あ、これも美味しい」


 注文したチョコミルクドリンクを飲みつつ肩を落とす。

 何も得られない現在の状況に染み渡るな。このドリンクは。

 味に飽きる事もない、程好い甘さ。いくらでもって事はないけど、4ℓくらいなら軽く飲み干せそうなうまさだ。


 そして当然、プレイヤー向けに作られたコップや付属のストローも食べる事が出来た。

 ストローはチューイング系のお菓子。コップは薄い透明な飴だな。種類によってはクッキーを使っているものもある。ジョッキタイプが飴って感じだ。しかも手がベタ付く事のない親切仕様。メニューにはちゃんと“ご自由にお食べください”の文字もある。翻訳されて日本語になっているから文字も読めるな。

 この店主からしたら何で食べているんだろうって感覚だとは思うけど、プレイヤー用にそう言った思考はインプットされていないのだろう。

 おかわりが欲しければコップを残しておく必要があるけど、おかわりが要らないならそのまま食べても良さそうだな。本当にこの町はプレイヤー以外の物質は全部食べられる造りだ。素直に感心したよ。


「やっぱり大きな情報を集めるには町の城に行った方が良いのか。絶対に警戒されるよな。俺達は部外者だし」


「プレイヤーの出入りがあるだろうし多少は慣れているかもしれないけど、それでもある程度の信頼は必要だもんねぇ。ま、何かしらの方法で信頼を得る事が出来れば良さそうだけど」


「信頼か……何かの問題が起きればそれを解決して信頼を得る事も可能だけど、この町は平和だからな。いや、むしろ平和だから城に入っても問題無いかもしれないけど」


「どちらにしてもお城に向かう必要はありそうだねぇ」


「ああ、そうだな」


 チョコミルクドリンクを飲み干し、そのまま飴ジョッキを食して事を済ませる。そして値段分の金銭を払う。

 この世界の金銭は世界共通だからな。その点は元の世界より分かりやすくて良いな。

 取り敢えず城に向かう事には全員が賛成。リスクも気になるけど、今はそれしか方法が思い付かないしな。


「それじゃ、行ってみるとするか。お菓子の城に!」


「だね!」

「はい!」

「よし来た」

「………」

『キュル?』


 行動の選択は終えた。お菓子のお城に行くのが次の目的。目的の為にまた別の目的地に向かう。それもまたRPGの醍醐味だな。

 俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人とミハクにコクア。このメンバーでこの町の領主が居るであろう城に向かうのだった。



*****



「大きな城だな。しかもこれ全部お菓子か……かなり壮観だ」


「この大きさのお城でよく下の方のお菓子が潰れませんね……確かに町の建物も私達の知るお菓子より頑丈でしたけど……」


「美味しそうだねぇ」

「ソラ姉はここに来てからずっとそれを言っているね」

「だって美味しそうなんだもん♪」


 レンガチョコの敷かれたクッキーの道を行き、飴の並木トンネルからなる道を抜けた先にあったお菓子の城。それはまさに壮観と言える光景だった。


 城の周りの堀にはソーダやラムネの川が流れており、クッキー橋を渡った先にある門は他の建物と同じようにチョコ枠にクッキーを嵌めた物で、門の上には生クリームがあって甘い良い香りが俺達の鼻腔をくすぐる。

 チョコレートとクッキーの、二種類のレンガを組み合わせて城の形が形成されており屋根は着色された三角のチョコレートがある。本当にチョコの割合が多いな。

 珍しくドーナツの窓枠に飴が張られており、宝石のような飴や食べられる金箔で装飾が施されていた。外装まで抜かりないな。


 周りには今まで見た木とは違い、溶けないソフトクリームからなる木々が立ち並んでいた。

 中にはケーキとかシュークリームとか、特に用途がある訳ではない場所が余ったから置いておこうと言った感じで置いたかのようなスイーツもある。けど、ケーキ類にも扉や窓があるし、兵士達の憩いの場? 的な役割を担っているんだろうなとうかがえられた。

 印象で言えばどこまでも甘そうで、どこまでもカラフル。しかし互いの色が邪魔しておらず、かえって纏まったような色合い。派手なのにそれに違和感が皆無。本当にメルヘンの世界に迷い込んだ気分だ。


 それと、当たり前だけど和菓子は見当たらないな。

 “ワンダー・スイーツ・タウン”に来てから見た和菓子は煎餅せんべい。日本っぽい味付けは抹茶くらいだ。しかも建物とかじゃなくて防具や薬草としてだしな。

 まあ、場所的にも和菓子類の扱いは難しいのかもな。仏壇に飾るカラフルな和菓子、落雁らくがんくらいなら花として生えていてもおかしくないけど。


「さて、後は城に入れるかどうかだけど……お菓子の町にもギルドの知名度があれば許可が降りるかもしれないな」


「一応ギルドは世界的に有名ですからね。おそらくギルドというだけで話くらいは聞いてくれると思いますけど……それについても100%の確信がありませんからね……」


 俺達はギルド。なのでその権力がここまで届いているなら話くらいは出来るかもしれない。

 けど、それもそれで権力の濫用みたいで嫌だな……別に横領とか悪い事はしないけど、ギルドだから話を聞けって命令するのもな。今までは普通に聞いていたから今更だけど。


「だけど、何だか話どころじゃないみたいだよぉ?」


「「え?」」


 その様な会話をする俺とユメの横から入ってきたソラヒメの言葉へ同時に返す。

 見れば確かに何かあるみたいだな。一人……一個? のクッキー兵士が門番に何かを告げ、門番と兵士は慌てて城へ入る。

 そして数分後に城から飛び出し、砂糖菓子の馬に乗って町の方へと駆けて行った。


「……。確かにただ事じゃないな。あの兵士の後を追ってみるか」


「そうですね。その方が良さそうです」


 甘い香り漂う草影から一連の流れを見やり、城に入るよりも前にやるべき事があると判断した。今の慌ただしい様子なら俺達と話をする暇なんか無いだろうしな。

 俺達は城を改め、兵士の後を追うように駆け出した。

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