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ステージ13-6 本番

『いざ……!』

「……っ」


 刹那、鬼神が驚異的な瞬発力で俺の眼前へと迫り、その刀を振り下ろす。

 俺も咄嗟にガードしたが押し出されてしまい、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。


 なんつー重さだよ。そして速さ……これが鬼の筋力か……! 何となく鬼って遅いイメージだったけど、鬼神は全くそんな事無いな……!


「“サン──”」

『遅い!』

「……!」


 俺が吹き飛ばされた瞬間にユメが雷魔法を使おうとするがそれも即座に阻止され、その横を斬撃が通り抜けた。

 ユメも何とか咄嗟に避ける事は出来たみたいだな。本気になった鬼神。確かに強いけど、まだ避けられない速度ではない。後はそれがいつまで続くかだ。


「あの動きやと、ウチが詠う暇も無さそうやな」


「さっきみたいに隙を突かんとスキル全般が発動前に掻き消されてまうわ」


 鬼神の様子を窺いつつ隙を狙うクラウンとモミジだが、二人も攻めあぐねている様子。

 攻撃を仕掛ける前に阻止される現状。本当にさっきまで、俺達が攻撃を仕掛ける事が出来た時点でかなり手を抜いていたみたいだな。


「ここは……距離を置くか……!」

『逃がすか!』


 間合いに居ては何も出来ない。なので一旦更なる距離を置き、身を隠せる木々がある場所まで向かってみる事にした。

 その後を当然追ってくる鬼神だが、先程のように木を斬り倒したりはしない。おそらく、この森は鬼神の城が攻められる際に障害という役割としても重要なので必要以上は切り崩さないのだろう。

 俺達的にもその方が助かるけどな。視界が回らない後ろから斬撃が飛んできたら当たらない事を祈るしかないし。


「……竹林か……」


 暫く音速で逃げ続け、気付けば俺達は竹林に居た。

 さっきの森からは繋がっている様子。侍が登場人物の作品とかでも竹林はよく出てくるな。やっぱり日本っぽいからか。


『何処まで逃げるつもりだ? 既に余の領地からは脱したぞ』


「マジかー。いや、音速で逃げ回ればそれくらい普通か。……それで、ここなら俺達が身も隠せるけど、アンタの領地じゃないなら構わず周囲を切り裂くか?」


『さあな。それは主らの出方次第だ』

「成る程ね。結構温情があるんだな」


 会話をしつつ、逃げるのをやめて鬼神の眼前に迫る。走り続けたその場での切り替え。流石に反応はし切れないみたいだ。


『フン、遅い』

「ま、反応し切れなくても防げないって訳じゃないんだろうけど。今現在の通り」


 小さな隙は突けたが、当然防がれた。

 純粋な身体能力の差があるからな。少し反応が遅れたくらいじゃすぐに追い付かれるか。


「“サンダー”!」


 その上からユメが雷魔法を使用。俺が抑えているので今度は阻止されず、鬼神の頭上へと落ちた。


『危ないな』

「これも避けるか」


 当の鬼神は俺の身体を弾き、そのまま飛び退くようにかわす。

 鬼神にもユメの動き自体は見えている。着弾地点の予測も出来るだろうし、そう簡単には当たってくれないみたいだな。


「“火ノ輪”!」

「“束縛の詩”!」

『拘束術か』


 鬼神の避けた先にはクラウンとモミジが拘束スキルを放ち、それらを刀で切り裂く。


「“停止ストップ”!」

『それももう効かぬ』


 切り裂いた瞬間の死角を狙ったが、バク転をするように跳躍して避けられた。同時に鬼神は竹を踏みつけ、跳ねたそのままの勢いで俺の元へと迫り来る。


『“鬼突”!』

「……ッ!」


 そのまま刀を突き出し、速度を落とす事無くけしかけた。

 これもスキルの一種か。何とか防ぎはしたが、多少のダメージを受けてしまったな。さっきの蹴りと今の攻撃を防御した余波。既に俺の体力も半分以下だ。


『刀では防がれるか。ならば、武器を変えよう』

「……!」


 スキルを防いだ俺を見てそれだけ告げ、手に持つ刀の形状を変化させた。

 持った得物の形を変化させる事が出来るのか。錬金術師みたいな事をするな。


『“鬼ノ金棒”。余の本気の武器だ』


「鬼に金棒じゃなくて鬼ノ金棒か。洒落た名だな」

『その慣用句、余はそれ以上の力を扱える』

「そうかよ!」


 金棒を振るい、俺は飛び退いて避ける。瞬間、先程まで立っていた場所から数十メートルの範囲がひしゃげて陥没し、大きなクレーターが形成された。

 マジかよ……。竹林の周囲数十メートルが更地どころか穴になったぞ。


「なんつー馬鹿げた破壊力だよ」


『本気ではあるが、今のはほんの小手調べよ。全力ならば一撃で山を数座粉砕する事も可能だ』


「レベル相応の実力をお持ちの事で……!」


『フッ、それはまだまだ余が未熟だからだがな。真の破壊は余波など広げる暇もなく、全ての力を対象にぶつけるものだ』


「そんなんされたら死ぬな、確実に」


 数十メートルのクレーターは小手調べ。本来なら山を複数座粉砕する事が可能らしいが、本人はそれを未熟な力と述べた。

 確かにその力を圧縮して一点に込められればとてつもない破壊力になるだろうな。

 傍から見たら大した威力が無いように見えるかもしれないけど、対象さえ倒せれば良い訳だから鬼神にとって他者から見た評価は関係無いんだろう。


「その未熟者が熟練者になる前に倒せると良いな!」


『余の実力を以てしても極めるには数十年掛かるだろう。この戦闘に置いてそれが開花する事は無い』


「それを聞いて安心した……ッ!」


 俺は白神剣と黒魔剣を振るい、鬼神は金棒を一振りして防ぐ。同時に俺の身体が吹き飛ばされ、竹を複数粉砕して先程の場所から見た遠方に向かった。

 うん。十分な実力だ。また体力が減ったぞ。さっきから防御しても完全には防げないか。


『これで終わりだ』

「あらら。一瞬で来たのね」


 そんな俺の思考を余所に、既に距離を詰め寄った鬼神の金棒が振りかざされていた。

 ユメ達はまだ追い付いていない様子。仕方無い。この一機はここまでか。専用スキルがまた使えるようになるって考えればまあ、


「わわっ!」

『……!』

「……!?」


 その刹那、別の方向から何かが吹き飛んで来、鬼神の身体にぶつかって俺から引き離した。

 そしてその声には聞き覚えがあった。


「ソラヒメか!?」

「イテテ……あ、ライト! やっほー!」

『……。一体何事よ……』


 その声の主、別のボスモンスターを倒しに向かっていたソラヒメ。

 突然衝突された鬼神は、ダメージは無いが困惑はしており、ソラヒメの身体を軽く摘まんで俺の方へと放り投げた。


「わっ!?」

「……っと」


 放られたソラヒメは俺にぶつかる。その間に顔に柔らかい何かが二つ当たった気がしたが、それは忘れた方が良さそうだ。

 だけどソラヒメがここに飛ばされて来た理由。ソラヒメ達がボスモンスターと戦っていた事を踏まえれば、どうやらそれは俺と同じかもしれないな。


「……。ソラヒメ。もしかしてソラヒメも?」

「あ、あの赤鬼、やっぱりそうなんだ。アハハ~ごめんね。ちょっとピンチかも」


『何処だ! ギルドからの侵入者ーッ!』


「「……!」」

『……?』


 次の瞬間、一つの荒々しい声が聞こえてきた。

 俺とソラヒメは声の方向を見、鬼神も小首を傾げながらそちらを見やる。そして、竹林を掻き分け粉砕しながら一つの青い影が俺達の視界に映り込んだ。


『我の城へ攻め込むとは言語道断! 必ずその命を以て償って貰おう!』


「……っ。青い……鬼……!」

「ここまで追い掛けて来たか~。まあ、私を吹き飛ばしたのもあの鬼なんだけどねぇ」


 地響きを鳴らし、槍を携えて姿を現した青い鬼。俺達が戦っていた鬼神。赤鬼とは対をなすような存在。向こうのボスモンスターは青鬼だったか。


『む? お主は鬼神! 此処で会ったが百年目! その命、頂戴致す!』


『主は“悪鬼”。フン、丁度良い。先に主を始末するのもまた一興よ……!』


「悪鬼……?」

「鬼神……?」


「「あ、向こうのボスモンスターか!」」


 俺とソラヒメの言葉がハモる。

 しかし青鬼。その名を悪鬼。

 鬼神に対しての悪鬼。赤鬼に対しての青鬼。そして互いに命を奪い合う関係。そしてそして、鬼神は近々(いくさ)をしようとしていた。

 うん。全てが繋がったな。これはそう言う事か。


「成る程な。鬼神。アンタがしようとしていた戦。その相手がコイツか」


『ああ、その通りだ』


「あー! 悪鬼! 確かになんか戦争するって言ってたね!」


『そうだ! 何を隠そう此処に居る鬼神とは犬猿の仲! 何をするにも真逆! 故に殺し合うのだ!』


「戦をするって言う考えだけは一致していた訳か」


『『…………』』


 ソラヒメ達も俺達と似たようなやり取りがあったのだろうと、今の会話から大体分かった。

 結構複雑な関係みたいだな。一先ずここはどうするか。離れても良いけど、この二人が争ったら近辺どころか旧西日本全域がヤバい事になる。


『フン、大分手負いのようだな。悪鬼よ。今の主など恐るるに足らぬ』


『それは我の台詞だ鬼神。そこの小僧にしてやられたようだ』


『女にやられたお主よりは幾分かマシだと思うがな』


『抜かせ。この小娘には今よりトドメを刺そうとしていたところ。お主もついでに殺めてしんぜよう!』


『それは余も同じ事。仕留める相手が増えたに過ぎん』


 しかしこの二人の喧嘩は止まらなそうだ。

 そろそろユメ達も到着するだろうし、ソラヒメ達の標的がコイツならセイヤ達も来る筈。漁夫の利的に倒すか?


「ソラヒメ。どうする?」

「完全に自分達の世界に入っちゃってるからねぇ……やっぱり避難かな?」

「それが良いかもな。一先ずこの場は離れるか。二人の様子はうかがえる範囲で」

「今のうちに仕掛けても、少しの殺気に気付いて専用アビリティは破られちゃうだろうからねぇ。それが良さそうかな」


 手負いの悪鬼。つまりソラヒメも俺と同じように“停止ストップ”か何かを使い、一時的に動きを止めてダメージを与えたみたいだ。

 今の言い争いの隙を突いて“停止ストップ”を使っても破られるのは明白。完全な逃亡じゃなく、態勢を立て直す為にも少し離れるのが吉か。


「……あ、居ました……けど、青鬼? 何か揉めているみたいですね……」


「せやな。ライトと一緒にソラヒメもおんねんけど、何があったんや?」


「何やろなぁ。あんまええ事では無さそうやけど」


 そんな事を考えていると、ユメ達が俺に追い付いた。……って事は他のメンバー達も、


「居たよ。ソラ姉。……うん? 赤鬼? それとライト達も居るのか」


「そうみたいだね。理由を考えるなら……僕達と似たような事なのかもしれないや」


「曖昧やな。まあしゃーない事やけど。一体何しとんのやろ」


 来た。

 セイヤと南西ギルドの主力である“錬金術師”のゴールド。そして“槌使い”のレート。計三人。

 既に殉職したナイト、メア、リン以外の主力全員で今回のボスモンスター討伐におもむいていたからな。ソラヒメが来ればおのずとやって来る事も分かる。


「んで、おたくら何してんねん」

「それはこっちの台詞や。クラウン、モミジ」

「ふふ、言うてもウチら、説明大変なんどすえ~」

「どすえなんて普段言わんやろ……ふざけとんな」


 微妙にニュアンスの違う三つの関西弁が飛び交う。他にも関西弁には種類があるんだっけか。けど、何となくコントか漫才を見ている気分だな。モミジ辺りは若干ふざけているみたいだし……てか、旧京都の人ってどすえって言わないのか……。

 それはて置き、俺達が互いに集まっても鬼神と悪鬼に動きは無い。相変わらず互いに争っているだけだ。


『決着を付けようではないか……悪鬼よ!』

『良かろう。お覚悟召されよ、鬼神……!』


「「……!」」

「「「……!」」」

「「「……!」」」


 ──そう思った矢先、鬼神の金棒と悪鬼の槍が正面衝突を起こした。

 その衝撃によってつどったばかりの俺達は吹き飛ばされ、竹林が一瞬にして更地と化す。

 いきなり仕掛けて来たな……! いや、厳密に言えば仕掛けた相手は違うけど、その余波だけで凄まじいものがある……!


「さて、どうする? みんな」

「はい。決めております……!」

「うん、やるしかなさそうだねぇ……!」

「そうだね。何やかんや主力が集まったし、やれない事は無さそうだ」


「せやねん。やったろか……!」

「やりはりますか……!」

「やったるで……!」

「やれやれ。大変だよね……」


 二人の争いに水を差すのもあれだが、このまま争われるのも色々と面倒。それなら一気に叩いた方が良いだろう。

 既にユメ達とクラウン達も覚悟は決めており、全員肝が座っていた。頼もしい仲間達だ。全員揃うとそれにより拍車が掛かる。

 俺、ユメ、クラウン、モミジが織り成していた鬼神との戦闘。それにソラヒメ、セイヤ、レート、ゴールドの四人が加わり、悪鬼も敵になる事で終局へ踏み込んだ。

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