ステージ1-20 ゲームと融合した世界
──“管理所内・渡り廊下”。
「見れば、全体的に景観が変わったな。道幅とか曲がり角とか、地形に名残はあるけど全てが木造建築……よくあるファンタジー世界の建物みたいだ」
「俺達も驚いたよ。エレベーターも水を使った井戸に近い感じだったし、階段はまあ木造。壁にはレンガとかが使われていたり、中世ヨーロッパと色々混ざり合わせた感じだ。なんでこう言った場合は中世ヨーロッパ風なんだろうな。中世なら日本家屋も良い感じなんだが」
「まあ、木造やレンガを使ってるってだけで中世ヨーロッパ認定は分からないけど、やっぱりファンタジーらしいからじゃないか? 日本ステージがあるゲームは日本が舞台じゃない限り、基本的に中盤から後半に掛けて出てくるからな。それに、横文字の名前も多いし違和感を少しでも無くす為かもしれない」
「成る程な。やっぱライトはゲーム事情に詳しいな」
「ハハ、ただの憶測だ」
サイレンと話をしながらギルドとなった管理所内を進む。
ギルドと言えばこれと言った印象があり、今現在の管理所が正にそうみたいだ。まあ、フィクションの世界にビル型のギルドは少ないけどな。
そのまま簡単な話をしながら会議室に到達し、その中に入っていく。
「お、ライト達も来たか。やっぱアップデートについて色々と気になるからな」
「やっほー! ライトー!」
『ヒュシャー!』
他の管理者。今はギルドメンバーか。ギルドメンバー達も迎えてくれた。
スノーは相変わらずアイススネークという名の使い魔と化したペットのヒョウを連れており、相変わらず元気だ。
「結構来ているな。それでも何人かは居ないけど、やっぱり考える事は同じみたいだ」
「全員が全員“AOSO”の事を想っている管理者ですからね。そう言った事柄には敏感なのでしょう」
「敏感って。ユメちゃんも好きだねぇ」
「え!? そ、そんなつもりじゃ……!」
「ん? 考察するのが好きだねって事なんだけど、何か他の意味あったっけ?」
「……っ」
「はあ……ソラ姉。真面目に」
こちらもこちらで相変わらず。主にソラヒメが。ユメが赤面して口を噤んだ。
一先ず大方の管理者は集まった。今回は簡単な話し合いなので全員が畏まらず、その場で楽な体勢となって向き直る。
「それで、アップデート内容。お前達はどんな風に考えている?」
「考えとかは特に無いな。強いて言えば街の景観についてだ。それに、大きな変化もそれくらいだろうし」
「それで十分だ。考えるってのはそう言うことだからな。それで、どう思う?」
「どうもこうもないな。ファンタジーの世界と現代日本が融合したって事だろ? それなら他のみんなも同じように考えているだろうしさ」
サイレンの質問に返した俺の言葉に他のみんなも頷いて返す。
アップデートの内容については情報が少な過ぎるので厳密には分からないが、アップデートが行われてから数十分。得られた情報は世界が大きく変化した事についてくらいだ。
「そう言えば、日本全国……世界中。地球全てがアップデートされたのか? 俺は勝手に世界中が“AOSO”と融合しているって思っているけど、見た訳じゃないからな」
「まあ、普通に考えればそうなんじゃないかな? けどそうなると、ゲーム攻略には全世界を巡らなくちゃならないかもね」
「全世界か。そう言えば、乗り物……車とかはどうなっているんだろうな。ここに来るまで……というかこの世界になってから乗り物を一台も見ていない」
ソラヒメの言うように、このゲームの攻略には倍の広さになったかもしれない全世界を巡らなければいけない可能性もある。が、他にも乗り物などが気になった。
ファンタジー世界は主に馬車や手漕ぎの船が移動手段になっているが、木の枝ですら武器になるこの世界なら現代兵器や乗り物も凄い事になっているかもしれない。
「確かに見ていないね。車はともかく、海を渡る機会があるなら船や飛行機は必須だろうし」
「この管理所みたいに自動的に海渡りの施設や船が用意されるのかもしれませんね」
「まあ、私のヒョウなら海を凍らせて渡れるようになるけどね!」
「うーん……渡れて川くらいじゃないかな? この世界でも海に塩分が含まれているのか分からないけど、本来の海はそれもあって凍りにくいし……そもそもオブジェクトや背景みたいな概念なら干渉出来ないかもしれないし」
「もう! フレアちゃんはネガティブ! 炎って明るくて熱いものでしょ!? じゃあフレアちゃんも熱くなくちゃ!」
「名前は関係無いと思うよ……それに、名前通りじゃなくちゃならないならスノーちゃんは冷たくなくちゃ」
「性格は人それぞれだよ!」
「じゃあ私もそんな性格なの」
「あ!」
思ったより乗り物談義に花が咲いた。スノーによってある程度方向転換はしたが、全員がこの世界でのあらゆる事が気になってはいるのだろう。
しかしながらアップデートによって変わった世界はまだまだ分からない。なので早々に今の話に一段落は付いた。
「それで、他に話す事はあるか? あるならどんどん言ってくれるとありがたいんだが……」
「じゃあ、俺から言うよ。率直に言うけど、俺達はさっきボスモンスターを倒した」
「……!」
他の意見を求めるサイレンに対し、俺は挙手してボスモンスターの事を話した。
周りにどよめきの声が上がり、俺は言葉を続ける。
「それで新たな発見があったんだけど、どうやらこの世界にも生態系が存在しているっぽいんだ。そのボスモンスターだが、ボスモンスターの前に別のボスモンスターが居て……後から来たモンスターがボスモンスターを食して……」
「……。“ボスモンスター”ってワードがゲシュタルト崩壊起こしそうだな。いや、もう若干起こしている。で、その後から来たって言うモンスターが他のボスモンスターを捕食した後どうなったんだ?」
「姿が変化した。元は“オーガスネーク”って言う通常モンスターだったんだが、前のボスモンスター。俺達が弱めた“ライムスレックス”を捕食して“ドン・スネーク”ってモンスターに変化……多分進化したんだ。補足として、レベルはライムスレックスがLv15。オーガスネークは不明。進化したドン・スネークがLv25だった」
「レベル25……!? よくまあ、低レベルのお前が倒せたな……。何かあったのか?」
「それについても話すよ」
急な変化だったから話自体は纏まっていない。けどまあ、ある程度は理解してくれたようだ。概要を掻い摘まんで話したので通じたとも言える。簡単に纏めるとモンスターがモンスターを食べたら進化したって事だからな。
そして俺達のようなレベルでLv25もの強敵を倒せた理由についても話す。
「理由は簡単。さっきも管理所で話したように伝家の宝刀。この世界になる前、VRMMO内で使えた“星の光の剣”が使えたから倒せたって感じだな。ドン・スネークの攻撃力は一撃で体力がごっそり持っていかれる程の強さだったし、“星の光の剣”以外じゃ大したダメージもなかったしで本当にギリギリだった」
「お前だけが使えた特殊スキルか。その様子じゃ、何で使えるのかは相変わらず分かっていないみたいだな」
「ああ、皆目見当も付かない。全てが謎だ」
「成る程。けど、そんなボスモンスターを倒したんだ。今この場に居る管理者ならお前達のレベルが一番高いって思っても良さそうだな」
「ハハ、それは嬉しいな。けどまあ、最初のレベルなんて簡単に上がるからな。このままの勢いを持続出来れば上々だ」
どうやら他の皆はまだボスモンスターという存在に会っていないらしい。
それもあってレベルや強さは俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤのパーティが一歩リード。仲間同士なので別に競っている訳でもなく大きくは関係無いが、このまま順調に進めると良いな。
「取り敢えず、アップデートが終わったばかりのこの世界。まだまだ分からない事だらけだ。この管理所がギルドになったし、受付のパール・アマリリスとやら以外にも居なかった筈のノンプレイヤーキャラクターが増えている。敵意は無いからいいとして、気を付けてくれ」
「「ああ!」」
「「おう!」」
「「うん!」」
「「了解!」」
「「承知!」」
サイレンの言葉に全員が返し、ここに残る管理組み以外の全員は管理所。改め、ギルドの外に出る。
俺達も例外なく、ゲーム攻略の為の行動に移った。
現実世界と混ざり合ったリアル型MMORPGが始まってからまだ数時間しか経っていない。GAME OVERが死に繋がる悪趣味がゲームを終わらせ、元の世界に戻す為にも俺達管理者は専用スキルを用いて奮闘するのだった。




