ステージ1-19 ギルド
「……た、倒したんだ……」
ドン・スネークとの戦闘が終わり、辺りに広がる静寂を破ったのはソラヒメの呟き。
イマイチ実感していないようだが、次の瞬間にはそれをはっきりと理解したのか俺の方に向けて飛び掛かって──え?
「やったー!! 凄いじゃんライト!! なになに? あのスキル本当に使えたの!?」
「ちょ、待てソラヒ……!」
飛び付かれ、俺の身体が吹き飛ぶ。そのまま仰向けの俺の身体に馬乗りして肩を勢いよく揺さぶる。
てか、駄目だ。酔う……。
「うっ……オエ……」
「ラ、ライトさん!?」
脳を揺らされ、意識が遠退く。見れば体力が少し減っていた。これでもダメージ受けるのかよ……。
その横からユメが来てソラヒメから救出され、何とか“GAMEOVER”にならず済んだ。
「やれやれ。ソラ姉は相変わらずだな……。体力がもう少しで無くなるというのに」
「アハハ。嬉しくてね。けど、ライトが補充していた飲み物も沢山あるから回復はバッチリだよ!」
ソラヒメが未開封の飲み物を手に取り、一気に飲み干す。そう言えば、レベルが上がっても体力が完全には回復しないんだな。まあ、半分は回復するけど。
ボス戦の直後なので多分どこかに回復ポイントはあると思うけど、本当にピンチだったソラヒメは万が一の為にある程度は回復したらしい。
「それで、さっきの伝家の宝刀だけど……あれはライトのレベルが四桁後半……“AOSO”内の時に使っていたスキルだね。管理所の会議で言っていたけど、本当にまだ使えるのか」
「ああ、何故か知らないけどあれだけは変わらず使えた。レベルもステータスもスキルもリセットされたと思ったんだけど、それだけは使えたよ」
「ふむ……そうなるとそのスキルは結構大きなヒントになりそうだね。何のヒントかって問われたら答えられないけど、何らかの鍵にはなりそうだ」
ある程度のやり取りを終え、セイヤが俺の使った伝家の宝刀。“星の光の剣”について言及した。
既に思っていた事だが、全ての能力やレベルが初期値に戻った今、このスキルを使えるのはおかしい。それは常々俺も気になっていた事だ。
「ヒントか……このスキルは“AOSO”内で特定の動きをした場合にのみ使えるようになる特殊スキル。全世界の七割がプレイしている“AOSO”ですら俺以外に使える存在が居なかったモノ……剣だから“星の光の剣”になっただけで俺の他にも特殊スキルを使える人も居るかもしれないな。まあそれは捨て置き、そんな特殊スキルだから無効化されなかったとか?」
「可能性はあるね。現実世界とゲームの世界を融合させるなんて有り得ない事柄。その際にも何らかのデータは使うだろうし、そのイレギュラーになったのがライトの特殊スキルって事かな」
「考えても全く分からないな。この世界を生み出したのは首謀者なんだろうけど、なんでイレギュラーが発生したのか。他にも色々疑問はある。まあ、この手の事はセイヤに任せるよ」
「僕も分からないけど、任されたなら色々考えておこうか。気になったら色々と指摘するよ」
「ああ、頼んだ」
実際、俺の理解力じゃ分からない事だらけ。確信を持って分かると言い切れるのはこの世界が本当に融合した世界という事が揺るぎない事実という事くらい。
なので考察などはセイヤに任せ、俺は取り敢えずこの世界の攻略に専念する。
「それで、次はどうするの? 一先ずのボスモンスターは倒したけど、特に進展した感じも無いけど」
「そう言えばそうですね。もしこの世界にストーリーがあるならボスを倒した後に何らかの進展があっても良さそうですけど」
「確かにな。やっぱり自分からやれる事を探さなくちゃ駄目なのか?」
「そうかもしれないね。自由度が高いからこそ見つけ出していかなくちゃならなそうだ」
ドン・スネークは倒した。それによって俺達のレベルも上がり、今は俺が16。ソラヒメが18。ユメが14でセイヤが15。
うん。改めて見るとかなり低いな。ドン・スネークの影響で7レベル上がっているけど、よく倒せたものだ。やっぱり特殊スキルは必須か。状況次第じゃ、少しズルいかもしれないけど管理者専用能力も使って攻略に乗り出した方が良さそうだ。いや、人の命が懸かったゲーム。出し惜しみせずに使いながら進めた方良さそうだな。
「俺達のやれる事……管理者専用能力を何とか戦闘に生かせないか……基本的にウイルスやチーター特効って感じだから難しそうだ」
「“転移”は主に移動用だとして、“バグシステム”や“停止”は相手の動きを封じたり出来るね。“ワクチンプログラム”は使い道が無さそう。他にも色々あって、“分裂”。“能力無効化”に“初期化”や“地形生成”。“千里眼”。……うーん、探索や移動。不正な存在の抹消が主な用途かなぁ」
「時と場合では使えそうな力が多いけど、結局は自分の存在が一番重要か。これでも他のプレイヤーよりは大きく動けるけど、基本的に攻略方法は定石のやり方しか無いみたいだね。ライトのお陰でレベルも一気に上がったし、色々と攻略していった方が良さそうだ」
管理者専用の能力は、チーターなどのような不正な存在相手には有効的だが、普通に攻略するなら普通に進めた方が良さそうだった。
この力は俺達攻略組みじゃなくて、色々と調べている調査組みの方が有効活用出来そうだな。考えれば用途は思い付くと思うけど、今はこの世界の攻略を優先するか。
「取り敢えず、一旦管理所にでも行くか? ボス討伐の報告と、“アップデート”って名目で現実世界と“AOSO”の本格的な融合が起こったから心配だ」
「そうだね。管理所なら“転移”で行けるし、そこから目的の一つだった私達の家に向かえば手間が省けるよ」
「分かりました。アイテムも回収しましたし、一回拠点に戻るのは賛成です」
「異議なし。僕も賛成だ」
ストーリーというものがあるのかどうかは分からない。なので俺達は一旦管理所に向かう事にした。
情報の交換は必要な事。さっき管理所を出てからまだ一、二時間しか経っていないが、世界が大きく変化したし行った方が良いだろう。
そうと決まった瞬間、俺達は管理者専用能力の“転移”を使い、管理所に向かうのだった。
*****
──“管理所・日本支部”。
“転移”を使えば一瞬。間を置かずに管理所の前に到達した。
上に表れた居場所を示す文字を見つつ俺達は管理所内へ──ってあれ? 何か表記に違和感があるな……。
「“管理所”……ギルド!? 俺達の管理所がギルドになってる!?」
「え? あ、本当だ。読み仮名……って言うより当て字かな。当て字でギルドってなっているね」
「ええっ!? まさかここまで侵食されたんですか!? 変化自体は少しですけど……管理所が……」
「……ふむ、確かにおかしな事じゃないかもしれないね……。ゲームの世界でのギルドって言うのは色んな依頼を受けたりする施設。そこに村人からの相談とかが受けられる。この世界もそのゲームの世界と同じなら、ギルドに一番適しているのはこの管理所になるからね」
「そうなると依頼掲示板とか任務表とか新たに追加されているのか? ノンプレイヤーキャラクターはこの世界に変わった時点で目撃者が居るし、さっきのアップデートで変わった感じか」
「掲示板とかは分からないね。けど、村とかは世界に現れているかもしれない」
「じゃ、取り敢えず入っちゃお! ここに居ても何も始まらないしね!」
戸惑いつつ、俺達は確認も兼ねて管理所。もとい、ギルドに入る事にした。
依頼の掲示板などが増えているならかえって好都合かもしれない。やる事が分からなくて途方に暮れるよりずっといい。
それと、色んな疑問点は内部に入れば解決するだろうしな。
「いらっしゃいませ。依頼のご相談ですか?」
「……。え、貴女誰ですか?」
入った瞬間、見た事のない女性が受付をしていた。
艶のある白い長髪にタレ目気味の落ち着いた目付きと優しそうに笑う口元が特徴的だった。
新入社員? な訳ないか。こんな状況で募集なんて出さない筈だからな。そもそも俺達が管理所を離れてまだ三時間も経っていないんだ。新たに増える訳がない。
俺の言葉に対し、女性は言葉を続ける。
「私の名はパール=アマリリス。こちらのギルドにて冒険者様に向けた依頼を受け付けております。以後お見知り置きを」
ニッコリと笑って話すパール=アマリリスさん。
うん、やっぱり知らない人だ。横文字の名前なのに何故か日本語がペラペラなのはさておき、そんな人居なかった。おそらく“NPC”。名前の由来は真珠と花か。
困惑する俺の横でユメが言葉を発した。
「えーと、上階に用があって来ました。色々と話が……」
「すみません。それは出来ない相談です。“冒険者”のアナタ方は“ギルドマスター”の方々に会う事が難しいので……」
「“冒険者”? それに“管理者”じゃなくて“ギルドマスター”ですか……」
「なんか制度が色々変わってるな。他のみんなはどうなってんだ?」
「どうでしょう……」
どうやら奥や上には行けないらしい。ロビー内で諸々を済ますって事か。見れば大分内装も変わっていた。
よくあるRPGのように基本が木造建築。高層って程じゃないけど、本来の管理所のビルの高さではある。それに依頼を受ける為の掲示板も木造だったり、受付の居るカウンター? も木造。階段も木造。床も天井も木造。なんだその木に対する圧倒的な信頼は。
今の時代に木造建築の物は珍しいけど、しかし、さて、どうするか。
「お、ライト! ユメ! ソラヒメ! セイヤ!」
「……? ん? ああ、サイレンか」
「ご苦労様です。サイレン様」
悩んでいると俺達管理者のリーダー、サイレンが木造の階段を使って降りてきた。という事はサイレンはちゃんとギルドマスター指定されているって訳か。パールさんの態度も心なしか俺達より丁寧だ。
取り敢えず一応相談しておこう。
「この状況はなんなんだ? 管理所がギルドになってたり、俺達が冒険者になってたり」
「ああ、さっきのアップデートの声は聞いたよな? その時この管理所が変化してな……内部に残っていた俺達は問題無いんだが、外に出ている攻略組みや調査組みはお前達が就いている職業とまた違う“冒険者”って扱いになっててな。あ、けどギルドマスターやギルドメンバーって事になってる俺達の許可があれば問題無い。その事を学習して次からは普通に入れるようになる」
どうやら内部に居た者と外部に居た者によって扱いが変わっているらしい。よりゲームの世界っぽくなったとも言える。
けどまあ、それに関しての問題は無さそうだ。
「そうか、それは良かった。……って言いたいけど、俺達に侵入の許可を出してくれるのか?」
「侵入って……。そりゃ出すに決まっているだろ。そう卑屈になるなよ。管理者の存在はこの世界の攻略に必要不可欠。お前達も当然ギルドの一員だ。ほらよ、これ」
「ん?」
【ギルドメンバーの証を手に入れた】
サイレンに何かを受け取り、その何かが何なのか脳内に響いた声で分かった。
成る程な。証明書みたいなものをギルドマスターって役職になった者から受け取らないといけないのか。
「ありがとう。これでギルドメンバーに認定されるのか。しかし、首謀者も面倒なアップデートをしてくれたものだな。あのまま無理矢理突破していたらどうなってたんだ?」
「さあ、それは分からない。あのアップデートの後に来た者はそれなりに居たけど、ちゃんと全員にギルドメンバーの証を渡したからな」
「そっか。まあ、それならあまり気にしなくて良さそうだ。他のメンバーは上に?」
「ああ。場所はいつも通りの所だ」
「オッケー」
何はともあれ、余計ないざこざが起こる事は無さそうだ。しかし管理所がギルドに変わるなんて思いもしなかった。今後もアップデートで新要素が増えるかもしれないな。
ギルドメンバーの証を貰った俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人はサイレンと共にギルドとなった管理所内を行くのだった。




