表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/322

ステージ12-10 強い力

『ウガァ!!』

「……っ。巨体の割に何て速さだ……! 確かに歩幅は身長高い方が広いけど……!」


 膨大な筋肉によって肥大化した肉体にも関わらず、とてつもない速度で両手を広げて俺達に迫るストロング・マイト。長いからマイトにするか。

 マイトはそのまま抱き締めるように仕掛け、俺達五人はそれをかわして空中で体勢を立て直した。


「ダメージはどれくらい通るのかな……!」

『……』


 そんなマイトに向け、セイヤが逆さ状態のまま空中で矢を放つ。

 矢はマイトに直撃した、それによって体力がそれなりに減り、そのままセイヤは着地した。やっぱり上級武器は強いな。

 そう言えば、ライフの時は色々バグっていたけど、今回はバグ・システムを使っていないからか体力もちゃんと見れる。レベルの使用はそのままだったみたいだけど、体力とかは普通に表記されるみたいだ。


『チカラヲ……!』

「……っと……!」


 腕を振るい、マイトは洞窟を崩すように粉砕した。洞窟は崩れ落ち、瓦礫と落石の山がそこに形成される。

 多くのプレイヤーは殺めたのだろうが、戦い方は至ってシンプル。主に肉弾戦を中心としている。他のプレイヤーのスキルはまだ使っていないな。


『寄越セ……!』

「あの崩落を物ともしていないな……!」


 加速し、ソニックブームを放出しながら俺達の元へと迫る。見切れない速度ではないが、あの巨体とこの速度。直撃はマズイな。


「“地形生成”!」

『……!』


 なので強固な地形を生み出し、マイトの突進を防いだ。

 防げたのはその力からしても一瞬だけだったが、一先ず今はそれで十分。直撃は避け、そのまま後ろへと回り込んでマイトの身体を斬り付けた。


『……!』

「体力は減ったな……けど、何だこの感じ……」


 一撃で体力は大きく削れる。三撃でも与えられれば残機の一つを消し去る事も可能だろう。

 だが、それには違和感を覚えた。それはその強さについて。あれ程の威圧感があったにも関わらず、あまり強く感じない。上級武器が強過ぎるのもあるが、それとは別に速度も力も大したように思えなかった。

 一撃食らえば致命傷にはなるだろうが、山河を崩壊させるような破壊を見てきた感覚があるから大した事がないように感じてしまうのか?


『チカラヲ……!』


 巨腕を振るい、風圧で地面が抉れる。俺達の身体も吹き飛ばされそうになるが、耐える事は容易に出来た。

 今のコイツから嫌な気配は感じない。いや、別に完全に感じないという訳でもなく、その威圧感から今朝と同じ存在なのは分かるんだけどな。何となくあの気配程脅威に思えないって感じだ。


「一先ず、残機一つ!」

『……!』


 しかし考えていても仕方無い。コイツがモンスターになったプレイヤーなら残機は複数有している筈。故に一回分は俺がトドメを刺した。

 ライフで二、三十はあったからな。今もなお力を求めて戦っているのを考えると、三、四十は残機を残しているかもしれない。


「……。てか、何の躊躇ためらいもなく一回分の残機を減らしちゃったな……俺。結構サイコパス的な、他人の死をどうとも思わない嫌な存在になっているのか……堕ちたもんだな……」


「ライトさん……」


 復活まで倒れ伏せるマイトを見、頭上に浮かんだ+1の表記を確認して俺は俺自身に嫌悪感をいだく。

 ライフに首謀者の分身。他にも俺は既に何人か殺している。だからなのか、この者が元・プレイヤーだとしても関係無く殺すようになってしまった。悪い意味でこの世界に適応しちまったみたいだな……。

 マイトが人間だった時の姿を見ていないのも理由の一つかもしれないが、それでも無慈悲過ぎた。


「ライトさん。ライトさんは罪悪感を後からでも覚えるなら大丈夫だと思います。本当のそう言った人物は罪悪感の“ざ”の字もありませんから。私も……私もライトさんと共に行きます!」


「ハハ、ユメにそう言って貰えると勇気が貰えるよ。一つの命を奪っている事を肝に命じて、尊重して倒すか……!」


『チカラヲ……!』


 既に復活していたマイトが巨腕を振り上げ、俺とユメを狙う。それを俺達はかわし、大地が大きく割れた。

 そんな俺達の間からソラヒメが加速するように迫り、けしかける。


「罪を背負うのは……ライトとユメちゃんだけじゃないよ!」


『……!』


 それだけ告げ、ソラヒメが腹部に拳を打ち付けてマイトを吹き飛ばす。

 そこから更なる連撃。跳躍するように加速して吹き飛ぶマイトに追い付き、上から拳を叩き付けてその身体を地面に落下させる。そのまま高台を崩し、先程拳を打ち込んだ反対方向からマイトの身体を蹴り飛ばしてその体力を0にした。

 それによってソラヒメの頭上には、先程の俺と同じように+1の文字が映し出される。


「ソラヒメ……!」

「連帯責任♪ 私は何があってもライト達の味方で居るからね♪」

「……。ありがとな。ソラヒメ」


 ウィンクし、優しい笑みを浮かべてサムズアップする。

 ソラヒメの明るさには本当に救われているな。その実力もだけど、精神的な方面でもかなり助かる。

 そしてその背後から、復活したマイトが起き上がり、ソラヒメに向けて巨腕を振りかざしていた。


「あ……」

『チカラヲ……!』


 その瞬間、ソラヒメ目掛けて拳が振り下ろされる。ソラヒメの反応は一瞬遅れ、その巨腕は、


「やれやれ。相手の残機は沢山あるんだから。油断はダメだよ。ソラ姉」


『……!?』


 セイヤが放った複数の矢に射抜かれ、その勢いで後ろへと引かれるようにマイトの身体がグラつく。


「これで三機消滅だ」

『……!』


 そこへ更なる矢が放たれ、マイトの心臓を直撃。この世界にも弱点になる部位はある。なので的確に狙いを付ける事で確実なトドメを刺したのだろう。

 上級武器かつ、セイヤの技量だからこそやれる技だ。そのセイヤの頭上にも+1の表記がされていた。


「凄い……君達凄いよ……! あれ程の存在を意図も簡単に、何度も倒すなんて……!」


「ハハ……まあ、殺人だしあまり良い事じゃないんだけどな。けど、ありがとう。そう言って貰えると俺も救われる」


「ううん。あのモンスターになった人……なる過程で多くのプレイヤーを殺めたんだよね。自業自得だ。やむを得ずとか、守るべき存在の為とか、納得出来るような理由があれば良いんだけど……目的が自分を強くさせる為だけだらね……許せない……!」


「そうか。マホもそう言うタイプの人間か。俺達と似ているな」


「ふふ、まあ、私自身傍から見たらただの人殺しだからね……今の言葉は自分を擁護ようごする為に言っていたのかも……」


「そんな事はないさ。立派な試みだ」


 人を殺める事は、基本的にどんな理由があってもタブーとされる。

 それが戦時中とか極刑ならば、あくまで世間一般。世界中のうち五、六割程度の存在には許されるが、俺達は私刑にも近い理由から殺めている。

 仮に正義の味方や、皆の人気者である主人公っぽい存在が居たら怒られるだろうな。人は殺しちゃダメって。それはヒロインの役割だったりもするけど……とにかく、人を殺めた数を考えれば俺達は完全に悪者寄りのパーティだろうな。


『チ……カラ……ヲ……寄越セェェェ!!』


「悪いけど、俺の力はアンタの為にあるんじゃない。物を持ったり好きな人を支えたりする為にあるんだ……って、ちょっと臭かったな?」


『……!』


 キザっぽい台詞を吐き捨てつつ、マイトの突進をかわしながら白神剣で切り裂く。

 それによって敵の体力が三割以上減り、大打撃を受けたマイトは怯み、飛び退くように距離を置いた。


「ううん、良いと思うよ。君。漫画やフィクションみたいな言い回しなら私と出会った時もしていたからね。いつでも余裕を持っている。それが君の良いところなんじゃないかな?」


『……ッ!?』


 飛び退くマイトに向けてマホが迫り、火属性をまとった剣で複数回切り裂く。

 それぞれの切り口から発火して炎上。マイトの身体は火だるまとなった。


「余裕はしょっちゅう無くなるけど、そう思ってくれているのは良い事かな」


「余裕が無くなっても、私がカバーしますよ。ライトさん。“火柱”!」


『……ッ!』


 火だるまのマイトはユメの追い討ちによって更に炎上。俺達の眼前にはその名の通り火柱が立ち上ぼり、空に向けて燃え盛る。

 マイトの体力は再び0となり、ユメの頭上には+1の表記が施された。


「そうか。君のパーティはそう言うパーティなんだな。良いね、そう言うの。私も憧れるよ!」


 燃え盛ってもう一回絶命したマイトはさておき、マホが俺達を見つめて羨望せんぼうの眼差しで話す。

 確かにユメ、ソラヒメ、セイヤは俺の自慢の仲間だ。ユメ達が評価されるのは心の底から嬉しい限り。けど、それをひけらかす事はしない。良い仲間と言われるのはユメ達が全員優秀だから。俺も誇りに思っている側だな。


「まあ、俺のパーティって言うより、リーダーは実はソラヒメの方なんだけどな」


「え!? そうだったの……?」


「ちょっとちょっとー! なんでそんなに驚くのー!?」


「だって君、ギルドマスターだよね……」

「ハハ、それでもリーダーはソラヒメなんだ」

「へえ……」

「もう!」


 パーティのリーダーは俺ではなくソラヒメ。

 確かに今の俺はギルドマスターだけど、最初に決めたリーダーはソラヒメだからな。俺達はそれにのっとっているけど、傍から見たらでしゃばっている俺の方がまとめ役に思われてもおかしくないか。今までもそんな事あったし。

 

『チカラヲ……』


「復活したか。やっぱり気配の割にあまり大した事が無いように思えるな……前向きに考えれば俺達が強くなった……後ろ向きに考えれば何か裏がある……」


「そのどちらにしても倒さなくちゃならなそうですね……このまま倒すとして、私達が容量オーバーになってモンスター化する可能性もありますよ」


「そうはなりたくないな。今までの戦いでそれなりに残機は減ったけど、コイツがどれくらいの残機を有しているのか分からない限りその不安と常に向き合わなくちゃならない……」


 ストロング・マイトと戦ってみた感想は、あまり大した事が無いというもの。それは最初から思っていた事だ。

 そして俺達がこのまま残機を貯めるに連れて、俺達もこうなってしまうのではないかと言う不安がのし掛かってくる。

 しかし人が居たら所構わず暴走するコイツを無視する訳にもいかない。出来るのは俺達の誰かがこうならない事を祈るだけだな。


『ウガァ!』

「よっと……」


 俺は真正面から突進するマイトをかわし、背を伝って背後に回る。そのまま駆け出し、背後から白神剣でその身体を切り裂いた。

 同時にソラヒメが仕掛け、その拳をもちいて遠方へと吹き飛ばす。


「君達だけに、その業は背負わせないよ! “炎魔斬”!」


『……!』


 その瞬間、吹き飛ぶマイトに追い付いたマホが炎魔法を有した刀剣スキルをもちいて斬り抜ける。

 それによってマイトの体力が無くなり、マホの頭上に+1の表記が現れた。


「これで五回は倒したか。何十回かの残機は保持しているだろうし、攻撃だとスタミナも使う。俺達の今の余裕がどこまで続くか分からないな」


「改めて、壁は高いですね……倒せるという考えも、倒しているからこそ、そのたびに敵は全快する訳ですし……」


「ついでに言うと奥底に何かあるかもしれないからな……本当に……モンスターになったプレイヤーは精神的にも肉体的にも俺達を苦しめてくる……!」


『チカラヲ……寄越セ……圧倒的ナ……チカラヲ……!』


 そして復活した。

 俺達はライフの時より体力もSPにも、そして残機にも余裕はあるが、定型文にもならないような呻き声に近い言葉を話し続けるマイトを倒すのは骨が折れそうだ。

 多分、終わる頃には実際に骨が何本か折れるようなダメージを負うんだろうな。

 俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、マホ。五人が織り成すストロング・マイトとの戦闘は、常例通り長引きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ