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ステージ12-2 謎の女剣士

「ここから先には行かせないって言っていたけど、何かがあるって事だよな? それって、俺達が足を踏み込むだけでも駄目なのか?」


「君達が知る必要はない。君達の選択肢は二つ。来た道を戻るか、ここで私と戦うか。もう気付いているだろうけど、さっきのはあくまでも牽制だよ。次は当てるかもしれないから気を付けてね」


「サクサク会話を進ませるな。質問にさっさと答えて俺達がどう行動すべきかも早くに話す。割と待っていてくれるんだな」


「無駄話はしないでくれ。会話をするのも良いけど、今の君達に与えられた選択肢は二つだけなんだ。“会話をする”というのは含まれていない。だから、次の返答によって私は私の行動を決める」


「そうか。じゃあ、その三。“この先に行く”で」

「分かった。“ここで私と戦う”だな?」


 瞬間、女剣士は剣を片手に踏み込み、空気を蹴って空中で加速しつつ俺達の眼前へと迫った。


「本当に、何で飛べるのかな……!」

「フム、腕は良さそうだね」

「お褒めに預り光栄だ」


 女性の剣と俺の白神剣が正面衝突を起こし、衝撃波を散らしながら火花を散らす。

 本来は時代劇の殺陣たてのように刀同士をぶつけ合うと刃が欠けてしまうが、この世界では普通に剣同士でぶつけ合わせられる。


「はあ!」

「……っと」


 剣を弾き、俺達は地形を滑るように押し出される。それと同時に女剣士は宙を舞い、空中で身をひるがえして俺の元へと再び迫った。

 見れば足から風を放出しているな。剣士は剣士でも魔法剣士か? 剣士の上級職の可能性がある。


「確かめてみるか……」

「はっ!」

「それも難しいな……!」


 俺が思考する間にも構わず攻め入られ、剣戟けんげきを行う。確かめてみようにもこれじゃ隙がないな。

 もう一度弾き飛ばしたいところだけど、俺の身体から離れようとしないな。数ミリの間隔を離さずに斬り込んで来る。技術面がかなり高いみたいだ。流れるような動きで密着して仕掛けられるとやりにくさがある。


「ライトー? 手伝おうかー?」

「いや、大丈夫だ。この女性の動きは参考になる」


「余所見をしている余裕があるのかな!」

「いや、ないな。少なくともアンタ相手にはな!」


 苦戦を見て手伝おうとしてくれるソラヒメだが、この動きから学ぶ事は色々あるので断った。

 まあ、正統派な剣での戦いもこの世界じゃ滅多に出来ない。この人がプレイヤーでもモンスターだとしても良い練習相手だ。


「はっ!」

「話している余裕もないな……!」


 剣を振るい、俺の頬が裂かれた。

 血は出ないが痛みはある。本来なら小さな痛みでも後々響くが、痛み自体はすぐに引くので死ぬ程の痛みじゃない、小さな傷ならこの世界の方が良いかもしれないな。


「“聖衝波”!」

「……! 本術スキル……? 剣聖って事……!?」


 一先ず距離を離す為、何とか本を取り出して衝撃波のスキルを使用。それによって女剣士は弾き飛ばされた。

 しかし、この人……。


「剣聖を知っているか。確かにこの世界じゃ職業として確立されているけどその反応……アンタはプレイヤーみたいだな」


「ふん、だから何?」


 俺の言葉は意に介さず、構わず仕掛ける。

 プレイヤーではあるみたいだが、とことん素性を隠そうとしているな。何か裏があるのか気になるけど、その辺の詮索せんさくはやめておくか。


「同じ上級職の剣聖相手に、力を隠したままじゃ分が悪いだろうさ! 魔法剣士さん! “聖剣”!」


「……っ。私のジョブまで……侵入者に……! “魔法剣”!」


 光の剣と魔力が込められた剣が衝突を起こす。それによって衝撃波が広がり、断崖の壁を粉砕して下方の海を巻き上げた。

 ついに相手もスキルを使ってきたな。まあ、俺がそれを誘発させたんだけど。しかしお互いに命中はしなかった。

 何はともあれ、この崖の上に何があるのか気になる。門番を自称していたが、何に対する番人なのか。魔王が居るならそれに協力している可能性もある。魔王が居なければ、何か護るべきものがあるという事だ。


「何に対しての“侵入者”かは分からないけど、良ければ教えてくれないか? 見た感じ、俺達が悪人じゃないって分かるだろ? “悪”の定義も人それぞれだけどな」


「ふん。誰が教えるものか。見た感じなら私に攻撃を仕掛けているし」


「それはアンタが仕掛けてきたから……いや、言われて立ち退かなかった俺にも原因はあるな」


 女剣士は足から風魔法を放って加速。そのままの勢いで剣を斬り付ける。それを俺はいなし、本をもちいて壁を展開。そのまま女性を弾き飛ばす。


「剣は防ぐ為……本も防ぐ為……。やる気はあるのかな!」


「あるさ。だからこうして必死に防御しているだろ? アンタの動きは参考になるからな。参考になる動きはどんどん吸収して行かないと今後の戦いに支障をきたす」


「……っ。ふざけないで!」


 踏み込み、加速。剣を振り下ろし、それを俺は正面で受け止めた。

 再び火花が散り、弾かれると同時に女剣士は身を翻して裏拳の要領で剣を放つ。逆手持ちって言うんだっけか。この流れで咄嗟に持ち替えるなんて器用なものだ。


「“ファイアブレイド”!」

「“火剣”!」


 次の瞬間に互いがスキルを使用。空中から炎の剣が迫り、俺はそれを同じような炎の剣で受け止めた。

 その衝突によって下方に顕在する海水から上部分は蒸発し、辺りを水蒸気が包み込む。


「ライトさん! 大丈夫ですか!?」


「ああ、問題無いさ。どうやら技術面は俺が劣るけど、純粋なレベルやスキルは俺が勝っているらしい」


「……くっ……!」


 海の匂いが香る水蒸気の外からユメの声が聞こえる。このプレイヤー、どうやらレベル自体は俺より低いみたいだ。

 俺は魔法剣士のスキルにただの剣士のスキルで競り勝ったからな。結果として女剣士は地形生成によって生まれた地形の上、俺の前で膝を着いていた。


「こんなところでやられてたまるものか……! 私がやられたら上の子達が……!」


「上の子? 上って言うのは崖の上って事だよな……崖の上に一体何が……」


「余計な詮索はしないでちょうだい!」


 立ち上がり、加速して剣を放つ。痛みが引いたみたいだな。

 余波とは言えその余波だけで女剣士の体力が半分は減った。直撃させるつもりは始めからなかったけど、本当に当たらなくて良かったよ。


「やあ!」

「……っと。相変わらず凄い戦闘センスだ……」


 流れるような身のこなしで俺へ仕掛ける。剣と剣がせめぎ合い、弾かれぬように触れた瞬間に女性は死角へ回って斬り込む。そしてそれを俺は見切って防いだ。

 今までの相手が相手だったから俺は基本的に力任せの戦闘スタイルだけど、この女性は俺の動きを観察し、思考を読んで的確な一撃を仕掛けつつ俺の攻撃を避けているな。

 レベル差による身体能力の差から俺も対等以上には戦えているけど、同じレベルだったら専用アビリティか専用スキルを使わなくちゃ勝てない相手だった。


「はっ! やっ! はあ!」

「っと、ほっ、よっ……!」


 縦から振り下ろされ、俺はそれを横に逸らす。それと同時に横から仕掛けられ、仰け反って避けた。

 避けた方向には既に剣が来ており、飛び退くように倒れ、背中が地面に着く前に片手を使って支え、飛び跳ね起きの要領で距離を置く。

 しかし眼前には剣尖が迫っており、それを紙一重でかわす。刹那に横へ振るわれ、それも何とか躱した。が、女剣士の攻撃の手は止む事が無く、嵐のような勢いで次々と仕掛けられた。


(一切の隙を与えない戦い方……参考にはなるけど、実践に生かすのは俺の技術じゃ難しいな……!)


 もはや言葉を口に出す余裕もない。

 なので相手の動きを頭で考えるが、先を読もうとした瞬間に更に先の攻撃を仕掛けられる現状、本当に俺が持つLv500以上の動体視力と身体能力でいなすしかないな。

 一言でこの女性を表すなら──“強敵”。その言葉だけで十分だ。


「“魔剣雷業”!」

「“神聖防壁”!」


 次の瞬間に雷を纏った剣が迫り、それを俺はスキルで防ぐ。それによって生じたいかづちほとばしり、周囲を感電させた。


「“マジックガード”!」


 その余波はユメ達の元まで行くが、ユメは広範囲の守護魔法をもちいて雷から自分達を護る。

 雷の余波だけが残り、周囲はバチバチという破裂音のみが残っていた。


「はあ!」


「少しずつ感情が出てきたな。割とダメージを負って焦りが出てきたか」


「……っ」

「……なんてな。よくある台詞だろ? 達人っぽかったか?」

「舐めないで!」


 茶目っ気を出したが、逆撫でしてしまったようだ。まあ、普通に考えてこう言う反応になるよな。この状況での茶目っ気はただの挑発だ。


「やあ!」

「……!」


 だが、それもあって少し動きに隙が生じた。俺は女剣士の剣を見切ってかわす。

 激昂という程でもないが、ほんの少しの怒りでも頭に血が昇って思考が単調になってしまう事もある。俺自身、それが原因でダメージを負った事も多々あるからな。冷静さを欠くのは問題だ。


「これで終わりかもな」

「……!」


 かわすと同時に背後へ周り、女剣士の首元を腕で苦しまないように多少力を抜いて抑えつつ、剣尖を首筋に突き立てる。

 完全に悪役とかが人質を取る時のそれだが、取り敢えず今は勝負を終わらせたかったからな。

 技術面を盗みたいのでこのまま続けたい気持ちもあるけど、改めて考えてみたら俺達の目的はこの崖の上に何があるのか。

 口振りからして悪い事ではなさそうだが、それでも魔王軍や首謀者関係をかくまっている可能性もあるのでなるべく早く終わらせたのだ。


「……っ。動けない……!」


「呼吸とか痛みとか、その他の問題は大丈夫だろうけど、見たところ俺の方がレベルも高いからな。ちょっと力を込めればアンタの自由は利かなくなる。多分な」


「……くっ……! 煮るなり焼くなり己の欲望を私の身体にぶつけるなり好きにしな!」


「アンタの俺のイメージはどんなんだよ……。戦っている最中に一回でもアンタに向けて、“良い身体してんな。ゲヘヘ。楽しんでやるよ”……とか言ったか?」


「男は皆獣だからね! 今は他の仲間が居るみたいだから目の前でそんな事はしないんだろうけど、後々“話がある”とか言って個室に連れ込んだ後に好き放題するんでしょ! 私は貴方に屈しないから!」


 この女剣士は色々と男に偏見を持っているらしい。まあ、フィクションじゃそう言う存在が多いし、フィクションと日常的に触れる機会があるこの世界なら別に変じゃないだろう。

 ゲームの世界と融合したからこそ、法律が役割を果たさなくなったからな。俺達が見ていない場所ではこの世界の自由度と身体能力で好き放題やっている人も居るだろうしな。

 取り敢えず返答するか。


「答えはNOだ。確かに話は聞きたいけど、俺は浮気はしないように心掛けている。そもそも、浮気する程モテないからな」


「浮気? もう結婚しているの? 年齢は知らないけど、その若さで? やっぱり女を食い物にしているんじゃないか?」


「結婚している訳じゃない。言葉のあやと言うか、何て言うか。今回の件が全て終わった後で色々と約束していてな。てか、モテないって前置きをしたのに、なんでそう言う考えに至るんだよ。人生満喫している人みたいな、やりたい事だけをする青春は謳歌出来ないんだよ。俺にはな」


「ふん、どうかな。誰が相手かは分からないけど、そう言う約束をしている時点でやる事はやっているんでしょ」


「だから違うって……」


 偏見は取れない。こりゃ、戦闘面以外でもかなりの強敵だな。色々と誤解を解いたり、他のギルドメンバー達も向かっている、かもしれない崖の上を目指したりやる事も沢山ありそうだ。

 謎の女性と俺の戦闘。それは俺が女性を抑え込む事で無力化し、戦闘自体は終わりを迎えるのだった。

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