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ステージ1-18 首領蛇

『……!』

「……気付いたみたいだな……」


 ドン・スネークが俺達を見やり、チロチロと舌を出して匂いを確認している。

 俺達が食える獲物かどうかを確認しているらしい。その行動は終わり、周りの木を伝ってゆっくりと移動する。


「一旦離れて死角から捕食するつもりみたいだね。まあ、僕ならそれを阻止出来る!」


『……!』


 その隙を突き、セイヤが矢をもちいてドン・スネークの脳天を射抜いた。

 それによって怯み、俺達が一気にけしかける。


「どうせ逃げられないなら、当たって砕けろだね!」


「砕けちゃ駄目ですよ!? この世界の生死感は現実と同じなんですから!」


「まあ、半ばヤケにでもならなくちゃこのレベル差の敵を倒すなんて難しいからな。この世界での肉体なら、丸飲みでもされない限り多少のダメージは受けても平気そうだ」


 実際、無傷で勝つのは相当厳しい事だろう。むしろ一撃でも攻撃を受ければ体力を一気に削られる事はほぼ確定。更に言えば即死もあり得る。ダメージを受けても平気というのは、四肢の欠損など今後の行動に支障をきたす事が無いという意味。受けないに越した事はない。

 今まで、VRMMOの中でなら例えやられても即座に復活出来たが、この世界では死に繋がると首謀者の口からはっきりと伝えられた。

 だからこそ、敵が何かするよりも前に倒すべきと判断したのだ。


「この身体能力なら、一瞬で到達出来るからな!」


『……!』


 大樹を駆け、ドン・スネークの頭に木刀を突き刺す。ライムスレックスのように怯まないという事はなく、確かな隙が生まれるのは良心的だろう。


「はあ!」


 次いで真下から大樹を粉砕しながらソラヒメが拳を振り上げ、ドン・スネーク。……長いな。首領蛇の身体を打ち上げた。

 打ち上げられた首領蛇に向けてセイヤが三つの矢を射出。脳天、蛇の目となるピット気管。舌を射抜いた。同時にユメが炎魔法を放ち、その全身を焼き払う。


『ッシャァァ……!』


 それらの連続攻撃によって首領蛇が怯んだ。

 蛇は声を上げる生き物ではないので掠れるような音だが、確かなダメージは与えられたようである。


「お、意外と効いているのか? 手応えはそれなりにあるぞ」


「確かにあるね。けど、体力ゲージはあまり減っていないみたい」


 思ったよりも怯みが大きく、確かな手応えを感じる事は出来た。

 しかし体力はまだまだ残っており、


『ヒャシャァッ……!』


 その言葉通り、怯むだけ怯みはした首領蛇だったが即座に復活した。

 元々倒れていた訳ではない。なので復活というのには少々語弊があるかもしれない。面倒なのは変わらないけどな。


『シャッ!』

「……っ。毒か……!」


 蛇型のモンスターらしく、毒液を吐いて俺達に牽制した。

 基本的に毒というのは無色透明だが、この毒はゲームらしく着色されている。分かりやすい限りだな。


「この毒を受けるだけでもかなりのダメージだろうな。何なら状態異常もあり得る。まだ毒消しのアイテムも無いし、受けない方がよさそうだ……!」


「体内で生成されるから私とライトは頭を狙わない方がいいかもね……!」


「なら僕達で上部を狙うか。ユメ。君に魔力はあとどれくらいある?」


「まだまだ大丈夫です! ライムスレックスの時は温存出来ましたから……!」


 狙いは決まった。その瞬間に俺達は首領蛇へ近付き、ユメとセイヤは高いダメージが与えられるギリギリの場所に陣取って援護の態勢に入る。


「俺達は肉体か……爬虫類だけあって鎧みたいな身体を叩いても効果は薄いかもな」


「ただの鎧なら振動を与えるとかの方法はあるんだけどね。弾力がある鎧だから衝撃にも強そう」


 蛇の、というより爬虫類全般の皮膚はタンパク質が固まって作られたものであり、硬質化したタンパク質が散りばめられた形になっている。

 だからこそ硬いだけじゃなくある程度の弾力なども備わっており、とことん物理的な攻撃に強い構造になっている。

 元々はゲームのモンスターだとしても、“現実世界にそのモンスターが居たらどうなるか”という事柄を顕現しているので、そう言った部分も細かく再現されている。要約すると一筋縄じゃいかないって感じだ。


「はあ!」

「そらっ!」


 迫り、左右から首領蛇の身体を打ち抜く。俺の木刀とソラヒメの拳が同時に叩き込められ、首領蛇はまた怯んだ。そこに矢と炎が放たれ、着実にダメージを与えていく。


『……!』

「……っと、やっぱりあまり効いていないか……!」

「蛇の身体は元々獲物を仕留める為にあるからね……! 頭以外も十分危険みたい……!」


 身体を震わせ、俺とソラヒメを弾き矢と炎も消し去る。

 蛇は全身が凶器と言っても過言じゃない存在。一番危険なのは頭かもしれないが、他の部分も十分脅威的。やっぱり近接戦メインの俺達は少し大変そうだ。


『シャッ!』

「……!」


 次の瞬間、着地した俺達に向けて高速で噛み付いて来た。

 俺とソラヒメは辛うじてかわしたが、もう少し近ければ終わっていただろう。しかし余波によって吹き飛ばされた。

 蛇の攻撃速度、噛み付く場合は秒速200メートルを超す個体も居ると言う。この世界の生き物という存在が人間以外にも居ると仮定すれば、今の首領蛇は音の速度を超えて噛み付く事も可能みたいだ。

 俺とソラヒメが吹き飛ばされたのは音速に到達した事によって生じるソニックブームによるものだろう。


「……っ。大樹の幹が大きく抉れているな……」


「そうだね……。蛇の噛む力自体は人間の半分以下だけど、噛み付く際に消化液を分泌して噛み付くと同時に溶かしているみたい……」


「この世界の蛇なら噛み付く力が向上しているとしても、この破壊痕はやっぱり消化液の酸か……!」


 音を超える攻撃速度というものはかなり厄介。避けられたのは俺達の距離が相手の射程距離より少し離れていたのもあるが、事前にセイヤがピット気管に刺激を与え、周りにユメの放った炎がまだ残っていたから距離感が少し狂ったんだろう。

 ゲームのモンスターなら自然と視界などの異常も戻る筈。次間合いに入ったとして、確実に避けられる保証はない。


『シャッ!』

「……! 次は毒液か……!」

「胃液と毒液を使い分けてるね……!」


 距離を置いた瞬間に毒液が吐き付けられ、俺とソラヒメは更に離れる。首領蛇は構わず身体をくねらせ、それなりの速度で迫ってきた。


「速さは時速40~50㎞くらいか……! 一般的な車並みはあるな……!」


「世界最速の蛇で時速15~20㎞だから……単純に考えて倍以上の速度みたいだね」


 俺達の肉体もゲーム仕様になっており、それなりの速度で動ける。なので一定の距離を保ちながら相手の力を考えていた。

 速度や攻撃力はステータスの割り振りによって変わるとして、詳しく確認出来ないので今現在の首領蛇の動きから現実に伴った攻撃力や速度を見極めているという事だ。


「ライトさん! ソラヒメさん! “ファイア”!」


「「……!」」


 次の瞬間、俺達と首領蛇の眼前に炎が過ぎ去り、首領蛇の気が逸れた。俺達はそちらに視線を向け、炎を放ったユメが叫ぶように話す。


「今のうちにステータスに得られた“EXP(経験値)”を割り振って下さい! 私とセイヤさんはそれを終えたので時間を稼ぎます!」


「ユメ……!」

「ありがとう!」


 ありがたい。これで少しは戦いやすくなる。

 俺とソラヒメは言われた通りステータス画面を開き、主に物理攻撃と物理防御。そして素早さに割り振った。

 ステータスには自由に割り振れるのが本来の“AOSO”の利点なのだが、ゲーム内とは違う現実では切羽詰まる状況でステータスに割り振らなければならない事もある。ゲームみたいにステータスに振る時は一時停止出来たり、戦闘が終わるのを待ってくれるのは良心的だったみたいだ。

 まあ、逆に考えれば戦闘中でも構わず割り振れるのは良い事かもしれないけどな。


「また少し身体が軽くなったな。これで攻撃をかわす事が出来る」


「もう少しで“SP”も回復するからね。なんとか必殺スキルを使うまで持てば良いけど……!」


 俺達が基本的に避けてばかりで仕掛けない理由。それは、一撃食らえば致命傷になるというのもあるが主な理由は“SP”の回復目的。

 伝家の宝刀や奥の手。必殺スキルを使えるようになれば戦闘が有利になるからだ。

 幸いこの戦闘自体に時間制限がある訳ではない。なので避ける事さえ出来れば時間が解決してくれる。

 まあ、それだけじゃ当然倒せる訳もないし、隙を見て攻撃していかなきゃならないな。せめて5レベくらいだけ離れていてくれたならまだ助かったのに、10レベ以上の差がある相手だからな。基本的な戦法がヒット&アウェイ。気の短い俺に耐えられるかどうか。


「幸い、まだ炎は広がっている。この状態の蛇は視野が狭いし、死角は多い筈だ」


「まあ、地道に当てていくしかないね」


 作戦という作戦は無い。だが、やれる事は色々ある。その一つが攻撃。俺とソラヒメは首領蛇の死角から攻め入り、俺が木刀で顎を打ち上げ、ソラヒメが拳にてその身体を殴り飛ばす。

 その瞬間に踏み込み、倒れ伏せた首領蛇の側面から木刀を打ち付ける。それによって頭が横に向き、次に頭のいった方向から木刀を叩き込んで連撃を与えた。

 そのまま着地。同時に跳躍して頭上から木刀を振り下ろし、大樹に頭を叩き付けた。


『シャアッ!』

「……ッ。あまり効いてない……!」


 連続攻撃によって怯みはしたが、即座に反撃される。俺の身体に尾が叩き付けられ、重い衝撃が全身を貫いた。


 ……ッ。てか、この世界じゃ痛覚が普通に働いているんだな……! “AOSO”内じゃ最大級の痛みでもこれ程のモノはなかったぞ……!


 身体が身体だから骨が折れたり出血したりはしないが、生身だったら確実に内臓損傷。吐血コースだったな。てか、痛すぎて涙出てきた……。


「ちょ、ちょっと! 大丈夫!? ライト!?」


「あ、ああ……滅茶苦茶痛いけど平気だ……」


「平気って……泣いてるけど……」


「それくらい痛いんだから仕方無いだろ……フィクションのキャラ達はこんなダメージ負ってよくすぐに戦線復帰出来るな……」


現実リアル創作フィクションは違うからねぇ。けどまあ、今はこの世界がフィクションの世界みたいなもの。多分もう動けるでしょ?」


「ああ、まあな。一瞬死んだんじゃないかって思う程の衝撃は来たけど……痛みも一瞬だからすぐに動けるようにはなるな」


 痛み自体は一瞬。その一瞬がかなりの苦痛。ふと体力を見てみると、どうやら半分以上削られてしまったようだ。

 攻撃の際に掠っただけでこれ。思ったよりもレベル差による影響は大きいみたいだ。


「あ、けどもう“SP”が全回復したんじゃない?」


「……! 本当だ。んじゃあまあ、仕掛けるとするか……!」


 時間は稼げた。首領蛇も傷付いた肉体を脱皮して修復し、体力が回復する。……は?


「オイ! アイツ回復したぞ!? しかも脱皮しやがった!?」


「アハハ……笑えないね……。けど、もう逃げられないからやるしかないよ!」


「……っ。本当に厄介だな……!」


 肉体の自然回復。蛇特有の脱皮だが、まさかこんな風に作用するなんてな……。

 あれだけ仕掛けてようやく五分の一くらいは削れたけど、その全てがパーだ。


「あわわ……ど、どうしましょう……」


「どうするってもね。どちらにせよ、ライトとソラ姉がやられたら次は僕達。覚悟は決めていた方が良さそうだ……!」


「そんな覚悟決めたくありませんよ……」


『シャァッ!』


 俺達は全員が動揺する。当たり前だろう。まさかこんな事になるなんて思っていなかったからな……。

 けど、向こうはやる気満々。殺る気というよりは食す気満々って感じか。


「大人しく糧になんかなるかよ……!」

「当然……!」


 刹那に踏み込み、首領蛇を囲うように仕掛ける。しかし首領蛇は身体を巧みに動かし、一切の隙を見せない。

 そこにソラヒメが突っ込み、力を込めていた。


「──奥の手・“連撃”!」

『……!』


 同時に首領蛇の顎を打ち抜き、その身体を打ち上げる。続くように上から殴り掛かり、大樹に叩き付ける。そこに連続した拳や蹴りを放ち、首領蛇の身体を数十メートル吹き飛ばした。


『シャアッ!』

「……ッ。ああ……ッ!」


 その瞬間、粉塵から首領蛇の尾がソラヒメの身体を打ち抜く。それを受けたソラヒメの体力が残り僅かまで減り、近くの樹に叩き付けられた。


「ソラヒメ!」

「大丈夫……痛いけど……!」


 どうやら首領蛇。ドン・スネークの射程距離が変わったらしい。脱皮した事によって身体が一回り大きくなり、距離と攻撃力が上がったようだ。


「一体どうすれば……いや、もう“SP”が全回復しているなら……!」


 使える。あの技を使えばいけるかもしれない。

 そう考え、俺は力を込めた。


「ライトさん!?」

「駄目だ! ライト! ライトよりも物理防御も体力もあったソラ姉が一撃で瀕死……攻めるのは得策じゃない!」


 俺を心配してくれる二人。ありがたい限りだな。けどまあ、その心配はあまり要らない!


「大丈夫だ!」


「ライトさん!」

「ライト!」

「ライ……ト……!」


 それだけ告げ、俺はドン・スネークの元に肉迫する。そしてその力を解放した。


「──伝家の宝刀・“星の光の剣スター・ライト・セイバー”!」


 光に全身が包まれ、その速度が宇宙最速のモノに到達する。


「この光……!」

「……っ。一体……!」

「……?」


「ハッ、これが俺の全力だ!」

『……!?』


 その刹那、俺の身体はドン・スネークの背後へと回り込んでいた。

 ドン・スネークは何をされたのか分からずに困惑しており、そこから更にけしかける。


「流石に“光速連鎖”は使えないか。けどまあ、十分だ。──伝家の宝刀“連続斬り”!」


『……!』


 光の速度で仕掛け、一瞬にして百発斬り込んだ。

 木刀なので与えられた攻撃は斬撃より打撃だが、それでも十分だろう。そして試していなかったけど、どうやらよく使っていた“光速連鎖”は使えないが、“星の光の剣スター・ライト・セイバー”と“連撃斬り”は重ね技が可能らしい。


「まだまだ仕掛けるぞ!」

『……!』


 一瞬とは言え音速を超えられるドン・スネークが反応し切れていない。まあ当然だ。光の速度ってのは、言ってしまえば俺達が見ている全ての光景と同等の存在だからな。視界に映った時、既に事は済んでいる。


「そらそらそらァ!」

『……? ……?』


 頭に百発。執拗に木刀を打ち付け、胴体。左右に五十発ずつ叩き込む。次いで全身を巡りながら百九十九発の攻撃。どうやら今の俺じゃ、これが限界みたいだ。


「これで終わりだ!」

『……!』


 そして最後の一撃で跳躍。同時に脳天から真下に木刀を振り下ろし、ドン・スネークの身体を大樹に叩き込んで粉砕。そのまま樹を貫き、大地にドン・スネークが落下した。


『シャァッ……』

「ふう……終わったか……」

『……ッ!?』


 その刹那、今まで打ち付けた攻撃が遅れて生じ、ヒット数をカウントする。

 全身に多連ヒットの数が刻まれ、計五〇〇発を表示。そのままドン・スネークの体力ゲージが一気に空になり、倒れ伏せると同時に光の粒子となって俺達の身体に吸い込まれるように消え去った。


【モンスターを倒した】


【ライトはレベルが上がった】

【ユメはレベルが上がった】

【ソラヒメはレベルが上がった】

【セイヤはレベルが上がった】


 それによって俺達の脳内に響き渡る声。レベルが一気に上がり、様々なスキルも入手したようだ。けど成る程な。色んなスキルを同時に覚えたらレベルアップと同時に流れず、自分で確認するようになるらしい。まあ、特に支障は無いか。

 何はともあれ、レベル差10以上あったボスモンスター“ドン・スネーク”だったが、土壇場で何とか勝利を掴むのだった。

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