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ステージ11-12 狂飆竜

『ヒュザア!』

「今度は風と雨の混合だな……!」


 風雨の塊が放出され、俺達はそれを見切ってかわす。それらは着弾と同時に竜巻を引き起こし、辺り一帯を吹き飛ばした。が、俺達は無事だった。

 狂飆きょうひょう竜の基本的な攻撃方法は属性を砲弾として放つもの。シューティングゲームじゃないが、こう言った攻撃は避けやすくて助かるな。着弾後は広範囲が削られるけど。


「そらっ!」

『ヒュゴッ!』

「……っ。もはや避けないか……!」


 黒魔剣ネクロで狂飆竜に仕掛け、それを狂飆竜はまたもや爪と腕の筋肉で受け止める。

 その衝撃によって辺りがぜ、土塊が浮き上がった。

 成る程な。爪を使う時は風竜の声が聞こえるけど、爪に風を纏う事で周囲も吹き飛ばしているみたいだ。だからさっきの俺とソラヒメも吹き飛ばされたって訳か。


「“火炎弾”!」

「はあ!」

「“神弓”!」


 その様にせめぎ合う最中、ユメ、ソラヒメ、セイヤの三人が一気にけしかけた。

 今は俺が動きを止めている。狙うなら確かなチャンスだろう。


『ヒュオォォォ!』

「「……!」」

「「……!」」


 その瞬間、狂飆竜は自身を中心に風を放出。それによって俺達の身体と技は吹き飛ばされ、嵐の状態になった島へ激突して粉塵を巻き上げた。


【スキル“風円壁”】

「……ッ。防御スキルか……!」


 狂飆竜を中心にして生み出された風の円。それによって一気に吹き飛ばされたか。

 防御もそのまま攻撃に繋がる。基本的にこのクラスになるとそれが当たり前だな。やっぱり手強いか。


『ゴロギャア!』

「雷速は……避けられない事もないけど難しいな……!」


 雷を放ち、俺達は即座に動いてかわす。

 今の俺達の速度と反応でも雷よりは遅い。雷速の攻撃は初動から何とか避けるしかないから大変だな。


『ザギャアアア!』

「……っと……!」


 口に水を溜め、それを地面に打ち付けて巨大な波のように放つ。

 水の暴力は広範囲を飲み込み、俺達は跳躍して避ける他無かった。


『ヒュゴロォ!』

「……っ。まあ、こうなるよな……!」


 まんまと空中に誘い出された俺達四人に向け、狂飆竜は雷と風の合わせ技を撃ち出した。

 二つが合わさったその力は凄まじく、直撃したら一気にやられるな。

 だが、まだ諦めていない。今回の動きは予想出来ていたからな。既にスキルの準備は終えている。専用スキル使用縛りのプレイングだ。使い放題って訳じゃないが、ある程度は使える。


「“天空斬”!」

「“トルネード”!」

「“風雷拳”!」

「“風雷の矢”!」


 全て空や天候に関わるスキル。それをもちいて敵の攻撃を相殺し、逃げ場の無い空中での攻撃は防御した。


『ヒュゴロザギャアアアァァァァ!!』

「まあ当然、一撃で終わる訳無いよな!」


 次の瞬間には再び仕掛けられ、同時に放たれた雨、風、雷が一斉に空中の俺達を狙う。

 空中からの落下時間は数秒程だろうが、Lv700のコイツにとって俺達の感覚での数秒は数分にも及ぶだろう。その間に敵がやれる事は様々だ。その全部を防ぐのも至難の技だな。


「……(“地形生成”なら防げるけど……ここは俺自身のスキルを試してみるか)……“神聖防壁”!」


 ゾーンかランナーズハイか走馬灯か、やけに冷静に判断出来る。いや、ランナーズハイだけは別物か。走ってないし。

 ともかく、俺は神書をもちいて広範囲の守護スキルを発動。落下している間の時間は攻撃から護られるだろう。

 次々と放たれる敵の攻撃を防ぎ終え、俺達は一気に駆け出した。


「何にせよ、近付かない事には始まらないか……!」


「だね! 近接戦が得意な私達が注意を引かなくちゃ!」


 音速を越え、俺とソラヒメがソニックブームを生み出しながら狂飆竜の元へと迫る。その余波で大地は抉れるが関係無い。レベル差はあっても装備で補えるからな。

 数撃当てれば勝てるんだ。それなら囮にでもなった方が良いだろう。無論、ただの囮で終わらせる訳にはいかないけどな。


「そらっ!」

「やあっ!」


『ゴロギャア!』

「……っ。今度はダメージがある防御か……!」

「痺れちゃうね……物理的に……!」


 同時に仕掛け、その瞬間に雷属性の守護壁が張られる。要するに電磁バリアだ。

 風の防御は俺達を吹き飛ばしてのダメージだったけど、雷はやっぱり触れただけでダメージを負うみたいだな。

 そうなると雨の防御はどうなるか気になる。まあ、そのうち見れるか。


「雷属性の守護壁……電気耐性のある魔法は何でしょう……」


「あの範囲だと、ライト達が気を引いてくれても当てるのは難しいね」


 広範囲の高出力な電磁バリア。アレを破るのは至難の技だ。さっきから至難の技しかないな。レベル差ってやっぱ思ったより大きなものだなとつくづく思う。


「永遠には張れないだろうし、切れた瞬間を狙うか」

「じゃあ、それって」


『ヒュゴロザァ……』


「今だな!」

「みたいだね!」


 電磁バリアは途切れた。刹那にまだ痺れた感覚が残っている俺達も仕掛ける。

 ゲームのモンスターだけあって必ず隙は生み出してくれる。そこを突けばやりにくい相手でも勝てる可能性は高まるだろう。

 まあ、ゲームのモンスターじゃない首謀者にその理論は通じないけど、今の狂飆竜を倒すくらいならその隙を突くのが一番だ。


「“神速剣”!」

「“超速拳”!」

『……ッ!』


 同時に通常スキルを使用。速度を上乗せするスキルなのでこの瞬間だけは一時的に狂飆竜を上回る速度を生み出せた。

 それによって狂飆竜へ二撃与えられる。

 通常攻撃ではなく一応スキルだが、Lv700なので半分削れたくらいのダメージ。だが、後二撃と考えればかなりの進歩だろう。


『ヒュゴロザギャアアアァァァァ!!!』

「「……ッ!」」


 だが、ただでやられる狂飆竜ではない。

 ダメージを受けた瞬間に尾をもちいて俺とソラヒメを殴り飛ばし、俺達は大地に激突して体力が残り僅かまで減ってしまった。

 いや、200以上のレベル差でゲームオーバーにならなかっただけマシか。


「……痛いな……凄く痛い……涙が出てき……ッ……!」

「同じく……痛みだけじゃなくて……衝撃も相まっての涙かも……! ……っあぁ……ッ!」


 その激痛は文字通り死ぬ程のもの。

 痛みを忘れる為にも少し会話をしたが、その会話も途中で終わってしまう。

 相変わらず大ダメージの激痛は慣れない。即死なら痛みも一瞬で忘れられるが、中途半端に生き延びたからこそ苦痛が長く続く。その長さもほんの数秒の差だが、あまりの苦しさに数秒も永遠に等しい。幼少期の頃に恐怖を覚えていた注射と同じ感覚だ。

 現実でもゲームでも、長く苦しんで死ぬより一瞬の方が良いな。この世界なら体力が残っていて状態異常にでもなっていなければ死なないけど。


「はぁ……はぁ……落ち着いた……本当に痛みって危険信号だな……」


「……はぁ……ふぅ……そりゃ……そうだよ……けど、本当に慣れない……」


 痛みはすぐに引く。ただ引くまでが死ぬ程辛いってだけだ。

 しかし、二撃は確実に与えられたもの。光明が見えてきたな。


「ソラヒメ。回復しよう。ユメとセイヤは距離が離れているから、俺が回復するよ」


「あ、ありがとう。ライト。ダメージは凄く痛いけど、回復は気持ちいい感覚だからね。その辺も首謀者なりに配慮しているのかな?」


「そうかもしれないな。回復するとスッキリする。まあ、首謀者がこんな世界にしなければ苦痛も少ないんだけどな。──“癒しの書”」


 本を取り出し、それによって治療する。

 本を当てるだけの治療ではなく、本を触媒にして癒しの効果がある力を引き出しているのだ。

 お陰で俺とソラヒメもそれなりに回復した。この世界では、ダメージは痛いが回復には心地好さがある。中には回復するのが趣味の人が居るかもな。


『ヒュゴロザギャア!』

「危ない! “暴風雨”!」


「「……っ」」


 回復した瞬間に仕掛けられるが、それはユメが魔法で相殺してくれた。

 雷混じりの通常攻撃と天候を圧縮した魔法。改めて、Lv500を越えると通常攻撃の応酬が天災規模のものになるのは凄まじいな。元の世界じゃ天候兵を生み出すのは禁止されていたけど、今の世界だとレベルを上げるだけでそれを可能にするか。


「ありがとう! 助かった。ユメ!」

「ありがとね! ユメちゃん!」

「はい! 無事なら良かったです!」


 だが、お陰で助かった。あれが直撃していたらせっかく傷が癒えたのにまた痛い思いをするところだったからな。


「今なら……“光の矢”!」

『……ッ!』


 その瞬間、自身の力を光に変換させ、セイヤが狂飆竜へと矢を射った。

 狙いが俺達だったのとユメに攻撃を防がれたのもあり、その矢は狂飆竜に直撃。半分だった体力が更に削れて残り僅かとなる。


「後少しだ……後一撃でも与えられれば勝てる……!」


「その一撃が、毎回遠いんだよねぇ……」

「まあ、敵も本気……というより消える前の蝋燭みたいに燃え上がるだろうからな」


 流石の上級武器。それもあって一撃で四分の一は削られる。故に、現在の狂飆竜の残り体力は一割にも満たない。だが、だからこそここから更なる本気を出してくるだろう。


『ゴロギャザァァァ!』

「……っ。今までで一番の特大攻撃……!」


 そう考えている瞬間、今までの攻撃とは比べ物にならない大きさの塊が放出された。

 これを見る限り、完全にスキルだな。


「“神聖防壁”!」

「“マジックガード”!」


 だからこそ、俺とユメはほぼ同じタイミングで防御壁を展開させた。

 おそらく耐え切れないだろう。しかし一瞬でも防げればそこから離れる事は出来る。


【スキル“颶風”】

「やっぱりスキルだったか……!」

「当たり前だよねぇ……分かっていたけど、凄い威力……」


 スキル“颶風ぐふう”。それは本来暴風雨の総称だが、スキルへと昇格されているのでとんでもない威力だった。

 ま、要するに全ての嵐のエネルギーを収束させたものなんだろうな。核兵器以上のエネルギーを圧縮したらそりゃこうなる。──……と、俺は数百キロの大部分が消し飛んだ背後の島を眺めて思った。


『ヒュゴロザギャア……』

「また力を溜めているな……」


 一連の行動を終わらせた狂飆竜が再び力を込める。

 その溜め時間は長いが、周囲を覆う風雨と雷が壁となり、その時間を持ちこたえられるようになっていた。

 風の壁と電磁バリアは見たけど、水の障壁は全ての攻撃を吸収するようなものらしいな。弾く風に触れたら感電する雷。そして全てを吸収する雨。アレを打ち破るのは至難の技……また至難の技だな。もはや至難の技が当たり前になってきた。


「時間も勿体無いし、やれる事は一つ。あの壁をさっさと打ち破って残りの一撃仕掛ける事だけだな」


「オーケイ! いつものパターンだね!」

「まあ、それが一番手っ取り早くて確実な攻略方法かな……!」

「はい! 私もやれるだけやってみます!」


 力を溜め始めたなら時間は惜しい。要らぬ事を色々考えて消費するより、さっさと壁を打ち破って突破するのが先だ。

 やり方は簡単かつシンプルな方法。ありとあらゆるフィクション作品にて、防御を打ち破る為に使われた最も確率が高いもの──正面突破。

 あれ程の防御だとしても、今の俺達のレベルで上級武器。それで必殺スキル放てば破れるだろう。


「──伝家の宝刀・“空間斬”!」

「──究極魔法・“神炎乱火”!」

「──奥の手・“時空間裂拳”!」

「──リーサルウェポン・“神の矢”!」


 そうと決まれば事は迅速。前述したように考えている時間も勿体無いからな。

 俺は剣によって空間を切り裂くスキル。ユメは炎の最上位魔法。ソラヒメは空間を打ち砕く拳。セイヤは神の力を込めた矢。

 あくまでスキル名なので本来の威力で空間その物を破壊するなどは出来ないが、俺達のレベルから考えて山河を粉砕する程度の力は込められている。様々な嵐の防御も一点集中の攻撃の前では一瞬でも緩むだろう。


『……!』


 俺達のスキルは嵐の防御と衝突。暴風雨を掻き消し、雷を相殺する。純粋な耐久力からしても普通の山河より頑丈な嵐だな。けどまあ、一瞬でも薄められたならこちらのものだ。


「行くぞ!」


 踏み込み、加速。俺は第三宇宙速度を越えて進み、一瞬にして狂飆竜の元へと──


『ヒュゴロザギャアアアァァァァ!!!』

「……ッ!」


 だが、事はそんな簡単には終わらない。

 近付いた瞬間に俺は弾き飛ばされ、島にクレーターのような穴を空けてしまった。そのまま落下し、島の外へ──え?


「ってオイ! マジかよ!?」


 思わず声に出る。俺が落下し、そのままクレーターが広がって島を貫通。俺は狂飆竜が現れるまで穏やかな気候だった島とは別に、暴風雨が吹き荒れる場所に落ちてしまった。

 元々空に浮かんでいた島なのでこうなるのも当たり前か。さて、下は海だけどこの高さから落ちたらヤバいかもな。昔のゲームだと奈落に落ちたら即死だし。そして純粋にこの大嵐がキツイ。


「ライトさん!」

「……! ユメ!」


 落下途中、ユメが暴風雨の中を風魔法で浮かびながら俺を回収した。

 魔法使いは空を飛ぶ事も出来る。便利な力だな。……って、そう言やこういう時くらいは専用アビリティの“地形生成”を使っても良かったかもしれないな。咄嗟の事ですっかり忘れていた。ユメの反応速度も凄いな。


「ありがとう。度々(たびたび)悪いな。助かった!」

「いえ! 私の好きな人を自分の手で助けられたのなら本望です!」

「ハハ、嬉しい事を言ってくれる……。……ユメ。これからもよろしく頼む……!」

「ライトさん……はい!」


 そう、これから。これからずっと。俺はユメに助けられるかもしれないからな。

 俺達はそのまま島の底を貫き、狂飆竜の真下にやって来た。


「今度こそ終わらせる!」

「はい!」


『……!』


 既に力は溜め終えた様子。この一撃を当てたとしても、この嵐の中に浮かぶ島はどの道消滅する。ソラヒメとセイヤ。多分二人もそれを理解しているから、何とか逃げ延びて欲しいな。


「──伝家の宝刀・“魔法剣”!」

「──究極魔法・“マジックソード”!」

『……!』

【スキル“神雷竜風雨”】


 瞬間、狂飆竜がスキルを放出すると同時に俺とユメが下部から別々の魔力を宿した剣で切り裂いた。

 それによって狂飆竜の体力は減り、僅かだった体力が0になる。その瞬間に狂飆竜のスキルによって千キロ近い広さの島が消し飛び、衝撃によって放り出された暴風雨が吹き荒れる中、俺達は光の粒子となって消え去る狂飆竜を見た。


【モンスターを倒した】

【ライトはレベルが上がった】

【ユメはレベルが上がった】

【ソラヒメはレベルが上がった】

【セイヤはレベルが上がった】


 そして映し出される、モンスター討伐の証明。ソラヒメとセイヤの名前が出された事から、二人も崩壊した島から逃げられたらしい。

 俺達がおこなった“嵐を止めて”という名のクエスト。それは受けてから半日後、ボスモンスター討伐と共に嵐が消え去り、月も見え始めた夕焼けの下で完遂するのだった。

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