ステージ11-11 嵐のボスモンスター
「一先ずステータス確認だ……!」
『“雨竜”──Lv600』
レベルは既に把握している。その名は雨に因んだもの。外の嵐を体現させたかのような雨竜。
龍じゃなくて竜。ワイバーンタイプだ。
しかし、名前に入っている天候は雨だけか。果たして雨がたった一匹でこの規模の嵐を顕現出来るのか気になるな。
『ザギャア!』
「スキルというより能力……能力は予想通り、雨その物か……!」
吠え、雨の塊を弾丸のように放つ。その大きさは数メートル。それが複数放たれた。
レベルは600で“龍の社”で戦ったモンスター達より低いけど、やっぱり500を越えると天災規模の攻撃を普通に放ってくるみたいだな。これを元の世界で放ったら水によって洪水が起きる。
「けどまあ、防げない力じゃない! “バリア”!」
「はい! “ファイア”!」
「“火炎拳”!」
「“火炎の矢”!」
水の大砲へ、俺は神書のスキルからなる防御壁で防ぎ、ユメは炎魔法で蒸発させる。
ソラヒメが炎の拳で打ち消し、セイヤは炎の矢で射抜いて消し去った。
成る程な。装備が強化された事で火属性スキルの威力も上がって、水を逆に蒸発させたらしい。俺だけ普通に防いじゃったな。まあ、神書が防御に使えるのが分かったし良いか。
「早速試してみよっか!」
「白神剣並みの武器だからな。レベルを見た限り、二回当てられれば倒せるぞ!」
「それは良いね!」
雨竜に向け、近接戦を行う俺とソラヒメが駆け出した。
俺達の武器の攻撃力から考えて、Lv600なら二撃で倒せる。敵の攻撃は直撃したらマズイが、避けられない攻撃ではない。専用スキルを使わなくても勝てる相手だ。
『ザギャアアア!』
「同時に仕掛けるぞ!」
「オッケー!」
雨竜は水を溜め、それを一気に放出する。大砲の如き水弾。その一撃一撃にも山河を粉砕する力は秘められている。
しかし俺とソラヒメはそれを躱し、背後のユメとセイヤも躱して島に大きな穴を空けた。多分アレはそのまま下の雨になるんだろうな。
その数百キロの島を揺るがす衝撃は意に介さず、俺達二人は同じタイミングで嗾けた。
「オラァ!」
「はあ!」
『……ッ!?』
そしてソラヒメの時空裂爪が雨竜の頭を打ち抜き、俺の黒魔剣がその胴体を切り裂く。
一瞬怯みを見せ、次の瞬間に雨竜は吹き飛んで島へと擦るように激突。その体力は0になっていた。
「……。まだ【モンスターを倒した】の表記がないな……」
「……って事は、また何かあるんだね……!」
その計二撃で雨竜は倒した。 だが、モンスター討伐の証明は無し。その時、空に亀裂が入り、そこから無数の霆が姿を見せた。
『ゴロギャアアアァァァァ!』
「第二戦目か……!」
「雷竜だろうね……!」
もう一匹の姿を確認してステータスを確認。そこには予想通り、『“雷竜”──Lv600』と映し出されていた。
間違いないな。また別のボスモンスターだ。
『ゴロギャア!』
「出現演出と名前通り、雷属性の竜か……!」
現れると同時に間髪入れず雷を放射。雷によって島は裂け、周囲の空気が物理的にピリつく。
雷属性の竜。それは“AOSO”内でも確認している。まあ、あっちは“竜”じゃなくて“龍”だったけどな。
「今度は私達が仕掛けます!」
「ああ。敵はこの場所から更に上空。遠距離の相手は任せてくれ!」
そんな雷竜に対して向き直ったのはユメとセイヤ。
確かに雨竜と違って雷竜は空高くに位置している。ここは近距離特化の俺達より、中距離・遠距離特化のユメとセイヤの出番だろう。
攻撃力からしても、また二撃で倒せる相手だしな。
『ゴロギャアアアァァァァ!!』
その瞬間、雷竜はプラズマボールのように無数に枝分かれする広範囲の雷を放った。
それは雷速で見境無く進み、数撃ちゃ当たると言った感覚で全方位を感電させる。
対し、ユメとセイヤはそんな雷竜へしかと狙いを定める。そんな二人の元に攻撃が迫る時、二人は同時に仕掛けた。
「“スピア”!」
「“鋼の矢”!」
『……!』
無数の雷を貫き、二つの力が雷竜へと迫る。
魔力から顕現させた槍が直進し、鋼鉄の矢が周りの雷を纏いながら進む。その二つは同時に雷竜へと直撃し、貫通して背後へと消え去った。
『……ッ……ゴ……!』
そして体力は0となり、雨竜と同じ場所に落ちて動かなくなる。
けど、まだ【モンスターを倒した】の表記が無ければ、二体の姿も光の粒子になっていない。
「……。多分、また来るな」
「そうだね。雨に雷と来たら残るは……」
『ヒュオオオォォォォ!』
「“風”だな……!」
そして、タイミングを見計らったかのように姿を現した竜。ステータスを見れば予想通り、『“風竜”──Lv600』と表記されていた。
雨竜。雷竜。風竜。この嵐を体現させたかのような三匹がボスモンスターって事だ。
『ヒュオッ!』
「そしてまた唐突に仕掛けて来る……!」
短く鳴き、風の弾丸を射出。俺達はそれも避け、風は着弾すると同時に竜巻となりて周りの大地を飲み込んだ。
辺りを洪水状態にする雨に切り裂く雷。そして飲み込む風か。本当、雲の上じゃなければ地上が大惨事だった。
「さて、これで最後かは分からないけど、嵐の特徴は終わりな筈だ!」
「はい! 一気に終わらせます!」
次いで仕掛けるは俺とユメ。
次に俺は白神剣ノヴァを携え、ユメは夢叶杖を構えた。討伐に必要な攻撃数は二撃。さっさと終わらせるか!
『ヒュオオオォォォォ!!』
俺が迫り、ユメの狙いが風竜を示す中、風竜は風を複数放ち、次の瞬間にそれらを竜巻へと変換させて放出した。
それもただの竜巻ではない。さながらドリルのように迫り来る竜巻。確かに風なのだが、見た目だけならもはや別物みたいな技だ。
「そらっ!」
「“魔砲撃”!」
その竜巻に俺は正面から仕掛け、ユメが魔法からなる大砲を撃ち込む。それによって無数の竜巻は内部から爆ぜ、そのまま風竜へと迫った。
『……ッ!』
瞬間的に切り裂き、切り裂いた瞬間に大砲が直撃する。そしてそれによって生じた爆発と共にその体力は0になった。
0になった瞬間、三体の竜から光が放たれ、俺達の前には一つの表記がされる。
【モンスターが進化しました】
【次いで、エクストラバトルに移行します】
「ま、大方予想は付いていたよ。光った瞬間にはな……!」
モンスターの進化。しかも、今回は一匹だけではない。三匹全てが、同じタイミングで進化を行ったのだ。
そうなる事を既に分かっていた俺達の前には、三つの頭を持つ竜が佇んでいた。
『ヒュゴロザギャアァァァ!!!』
「鳴き声まで混ざり合ったか……!」
耳を劈く絶叫。鼓膜が震え、騒がしさのあまり顔をしかめているうちに辺りの天候が大きく変化する。
天気は雷が鳴る暴風雨。風速数百メートルの中、横から滝のように打ち付ける雨も相まり、立つどころか息をするのも辛い環境が形成されていた。
「取り敢えず、ステータスの確認からだ……!」
『“狂飆竜”──Lv700』
Lv700の狂飆竜。
魔王軍No.2のエクリプス公爵に並ぶレベルを持つボスモンスター。
進化モンスターとは言え、恐ろしいな、天界は。魔王軍の最高戦力クラスが多過ぎる。まあ、他は特定の条件を満たさなくちゃ行けない場所のものだったけど。
取り敢えず、必要基準推定レベル500の高難易度クエストでこのレベル。レベルのインフレが激しいな。ゲームあるあるだけど。
『ヒョゴロザギャア!』
「……!」
その瞬間、狂飆竜は水、雷、雨の混ざり合った嵐を象徴とするかのような砲弾を打ち放った。
咄嗟に防御する事は不可能だと踏んだ俺達はそれを避け、背後から数十キロの範囲が粉砕したのを横目で確認しつつ目の前の狂飆竜に立ち向かう。
「そらっ!」
『……!』
「……っ。今度は避けたか……!」
レベル相応の速度で飛び掛かり、狂飆竜はそれ以上の速さで躱した。
まあ、Lv700。今の俺とは200近くの差があるので、避けられない方が不思議なレベルだな。三匹居たLv600の時は敵の攻撃を防ぎながら仕掛けたので相手も咄嗟の反応が出来なかったのかもしれないが、今回は反応速度も上がっていて厄介さに拍車が掛かっているのが窺えられた。
「はあっ!」
『……』
次いで仕掛けた正面からのソラヒメの拳を空に舞い上がって躱し、
「そこっ!」
『……』
浮かんだ瞬間を狙ったセイヤの矢をスゥッと軽く横に逸れて躱した。
「くっ!」「もうっ!」
当たらなかった事へ二人の声がハモる。やっぱり姉弟。言っている事は違くても似るところもあるんだな。
飛び回る狂飆竜へ、次いでユメが夢叶杖を構えて仕掛けた。
「“サンダー”!」
『ゴロギャア!』
「……!」
速度を優先した雷魔法。対する狂飆竜は自分自身も放電し、その魔法を相殺するように打ち込んだ。
二つの雷は衝突し、中心地点でゴロゴロと雷鳴轟かせる。刹那に弾かれるよう吹き飛び、雲の上にある大地を切り裂いた。
「上級武器の通常攻撃で、Lv700の通常攻撃と互角か。これならまだ戦えそうだ!」
見たところ夢叶杖からなる雷魔法と狂飆竜の雷は互角。上級武器があれば200の差は埋められるらしい。
これは朗報だな。相手の攻撃に当たらぬよう、仕掛け続けられればチャンスは巡ってくる。
まあ、単純に俺が専用スキルを使えば早いんだけど、今回は新装備の初陣。なるべく通常状態で倒したいというのが俺の心境だ。
『ザギャアアア!』
「今度は水だけか……!」
ユメの雷魔法を相殺した瞬間、水の大砲を俺達四人に向けて撃ち込んだ。
聞いた後で見たところ、鳴き声によって属性を変更しながら仕掛けるみたいだな。先程は雷。今は水。その前は三つの混合。確定だ。
まあ、それが分かったところで何かのチャンスが掴める訳でもないから、やり方は変わらないけど。
一先ず水の砲弾は避け、また雲の上の世界が洪水に飲まれる。これも吸収されて下界で雨に変わるんだろうな。
『ヒュオッ!』
「連続攻撃か!」
それと同時に風を放つ。ただの暴風ではなく、切断力のある風が複数。要するに無数の鎌鼬だ。
水も雷も風も、形と勢いを変えるだけで大抵の凶器に代わるのがこの世界の恐ろしいところだ。そもそも生身でそれらを操ったり形を変化させるのがおかしなもの。それらを可能にする光の粒子は本当に万能な物質だな。
「よっと!」
『ヒュガッ!』
黒魔剣を斬り付け、それは爪で防がれる。
特殊能力ばかりに目が行く狂飆竜だが、当然肉弾戦もレベル相応。ただの防御である爪がかなり重い。
「やあ!」
「はっ!」
『ヒュルッ!』
「「……っ」」
俺と狂飆竜が拮抗する最中、背後からソラヒメが時空裂爪で。遠距離からセイヤが光弓からなる矢を射って牽制。狂飆竜は風を生み出してソラヒメを吹き飛ばし、無数の矢も同時に弾き飛ばした。
『ヒュッ!』
「……ッ。基本的な動きは風竜のものか……!」
同時に爪を振るい、黒魔剣共々俺の身体も吹き飛ばす。島に激突した俺とソラヒメは体力が少し減り、雨で濡れた顔を拭って向き直る。
「ハハ、思った以上に強敵だな。狂飆竜……! 新しい武器の試用には申し分無い……!」
「そうだね! ライトの専用スキルを使えば一瞬だけど、ここは自分の力で倒したいところだね!」
「そうですね。来るべきvs魔王やvs首謀者の時、おそらく何らかの形でライトさんの専用スキルを封じられる可能性があるとしたら、今のうちに素の能力を上げるのも重要です……!」
「異議はないかな。考えてみれば、今までのボスモンスターの大半はライトの専用スキルで倒していた。ゲーム進行も後半。早めに倒せるのは良いけど、僕達自身のステータスとは違う、技術面でのレベルアップがある意味前半より必要だね」
俺が専用スキルを使わないのにはユメ達も全員が賛成。
確かに力押しでどうにかなったゲームの序盤に比べ、後半の方が素の技術が必要になる。しばらく専用スキルは封印だな。そうする事でやれる事も見つかるかもしれない。
要するに縛りプレイってやつだ。縛りプレイは慣れたゲーム以外ではオススメ出来ないけどな。
何はともあれ、俺達四人とLv700のボスモンスター、狂飆竜の戦闘。それは新武器を試すのも兼ね、専用スキルは使わずに続行されるのだった。




