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ステージ11-9 龍の社

「ライト……さん……やったんですね……」

「ああ。邪龍は倒した。ユメも回復させた。完全勝利だ」


 邪龍が消え去り、少し弱った声のユメが訊ねるように話す。俺はそれに返答した。

 俺達の勝利。それは確実なものと、今変わり終えた。

 ユメは少し疲れたような顔で俺を見、また別の質問をする。


「ライトさん……何だか雰囲気が変わりましたね……」


「……。……ハハ、まあな。ソフィアのお陰だ。そのお陰で俺はユメを救えた。ユメだけじゃない。皆を守護出来るスキルも手に入れたさ。……“剣聖”としてな……」


「剣聖……成る程。あの時のジョブチェンジを今実行する事でその力を……」


「ああ」


 ジョブチェンジ。成果は上々。これで俺も少しはギルドマスターらしくやれるかもしれない。本当に……ソフィアは消えてからも俺を助けてくれる。


 その後、少し体力を回復させた俺とユメは鳥居を抜けた先の参道を進み、改めてやしろに向き合った。

 見た目は小さな家。小さいと言っても高さ自体は二、三メートルくらいあるな。

 社の前には先程まで俺達が居た鳥居よりは小さい別の鳥居があり、まさに神仏が住まう神域と言う雰囲気の場所だった。


「さて、取り敢えず社に来たけど……どうする?」


「どうしましょう……一応の目的地ですけど、来れば何かストーリーが進展するのでしょうか……」


「番人みたいな立ち位置で邪龍が居たから何かあるとは思うけど、分からないな」


 そんな、神聖な雰囲気の社に着いた俺とユメと、ミハクとコクア。

 しかし何をすれば良いのか分からない。ゲームには決められたストーリーがあるので自動進行だが、現実のこの世界じゃそれも難しい。自分で何かをやって行かなくちゃならない訳だからな。


「……! 思ったより自動進行なのか……?」


 そう考えるのも束の間、何となく何かの気配を感じた。

 それは人やモンスターの気配ではなく、物の気配。容量無限の入れ物に仕舞った置物に何かの反応があった。

 自動進行ではないが、ゲームでもある以上、アイテムがあればストーリーは進展する。俺は容量無限の入れ物から反応のあった龍の置物を取り出した。


「……光っているな。この置物」

「はい。この社に呼応しているような、共鳴しているような光です」


 光る龍の置物。ユメが言うように呼応や共鳴の一種かもしれない。いや、十中八九そうだな。今まで何の反応も無かったのに、ここに来た途端、急に反応を示したんだ。そうとしか考えられない。


「こう言う時って、取り敢えず台座? にこの置物を置いたりするのが良さそうだな」


「基本的に奉りますものね」


 反応を示したなら色々と試すのが定石。俺は光輝く龍の置物を社の中に置き、少し離れて様子を窺う。

 置いた直後に反応がある訳では無いだろう。しかし、何もないという事も無い筈。何かは起こるという確信はあった。


「「……!」」


 その瞬間、置物の輝きがより一層強まった。思わぬ光で俺とユメの視界は一瞬だけ完全に消え去り、気付いた時、俺達の前には一つの影が立っていた。


「……っ。これは……──銀色の……龍……! いや、場所が場所でこの反応だったから大体の予想は付くけど……」

「敵モンスター……ではありませんよね……?」

「多分な。その表記はないみたいだし」


 置物は銀色に輝く鱗を持つ、巨大な龍へと変貌を遂げた。

 あらかじめ予想していた訳ではないが、納得の変化ではある。おそらくコクアのような原理で置物化していたのかもしれない。

 その原理が不明で、今後解き明かされる事も無いんだろうけどな。ゲームの世界特有の不思議現象だ。


『我を呼び寄せたのはお主らか。冒険者達よ』


「……! 喋ったな……龍の肉体構造で声帯があるのか……」


「声帯というより、テレパシーにも近い雰囲気で話しております……なぜ言語が分かるのかは理解し兼ねますけど……」


 龍の置物が変化した銀色の龍が口を利いた。

 モンスターかどうかはさておき、こう言った存在が言葉を話すのも初ではない。スパイダー・エンペラーやエンプレス・アントなど魔王軍所属のモンスター達は言葉を知っていたからな。おそらくその様なシステムになっているのだろう。

 さて、一先ずは言葉を返さない事には始まらないか。


「ああ。呼び寄せたというより、偶然そうなった感じだけどな」


『そうか。試練を越え、よくぞここまで辿り着いた』


「試練?」


 俺の言葉への返答は、試練。

 確かに邪龍は試練と言える存在だったかもしれないが、たった一つだけでゲーム世界の試練って言えるのか気になるな。

 現実世界なら一つの山場を越えればしばらく安泰の事が多い。だが、ゲームの世界では複数の総まとめを試練とくくっている物が多い。邪龍の討伐だけを試練と言うのには少し違和感があった。


『竜帝を倒し、鍵を手に入れ、扉を開き、門番を倒し、ここまで到達したお前達には褒美を授けよう』


「成る程……そう言うことか……」


 そんな疑問に対する答えのような言葉。思考が読める訳でもないだろうし、ただの偶然だけどな。

 つまり、ボスモンスターの竜から進化した三頭竜。それから更に進化した竜帝。次いで西部風の町で入手た鍵、コクア。そのコクアが飲み込んだ巨龍の宝鱗によって“龍の楽園”の扉が開き、そこから現在の居場所である“龍の社”に到達。そこで門番という邪龍を倒した。

 俺達は竜帝の時点で既に試練を受けていたという事。かなり序盤から目を付けられていたのか? それとも全て偶然の産物か? 気になることは様々だが、一旦置いておこう。

 それによって何かの褒美が貰えるらしいが、一体なんだろうか。


『受け取るが良い』

「……。虚空から箱みたいな物が……」

「私達プレイヤーの持つ、容量無限の入れ物と同じ原理ですかね……」


 無から箱が生まれ、俺の手へ収まる。

 見れば銀色の龍は消え去っており、社に奉られた龍の置物がたたずむ。本当に一瞬だけの出来事。本当に、ただ本当に褒美を授けただけ。

 中身は気になるが、これはソラヒメとセイヤの前で一緒に開けるか。ユメと目を見合わせてお互いに頷き、俺は容量無限の入れ物の中へこの箱を仕舞う。龍の置物は置いて行く事にしよう。ここで目覚めたという事は、先程の銀色の龍の居場所がこの社って訳だからな。


「けど、これだけの為にミハクはわざわざ俺とユメをこの場所に連れてきたのか? 何かそれも腑に落ちないな……」


「はい。もしこれが試練だとするなら、別にソラヒメさんとセイヤさんが居ても問題無いような……ミハクちゃん。一体何が狙いなんでしょう……」


 銀色の龍はさておき、俺とユメが一番気になったのはミハクが俺達をここに連れて来た理由。

 あの龍もミハクには何の反応も示さなかった。そしてミハク自身も動きを見せていない。

 つまり、今回のイベントとミハクの目的は別件という事。だからこそ俺達は気に掛ける。


「…………」

『キュルッ!』


「……?」


 そしてミハクはコクアと共に、出入口方面とは別方向へ歩み出す。そう言えば、コクアもまだ残っているんだな。一応鍵としての役割は終えたみたいだけど、他にも開ける扉があるのか?

 それも置いておき、今一番の問題であるミハクの元に俺とユメは歩み寄る。


「ミハクちゃん……どこへ向かっているのでしょう……」


「社もただの通過点だった……って事は確かみたいだな。本当に目的が分からない」


 疑問を話し合いはするが、取り敢えず着いて行くだけ着いて行く。

 通る道はまさしく神社という雰囲気があった。

 この世界の季節設定は春なのか桜が舞い、全体的に暖かく、風が吹くと少し肌寒い。空に浮かぶは太陽と月。夜桜という訳でもなく、形容しがたい桜の連なる光景がそこには広がっていた。

 俺とユメは燈籠とうろうが立ち並ぶ石畳の上を歩き、周りの景色を眺めながら進み行く。


「桜並木……何だか凄いな。凄いとしか言えないや」

「そうですね。綺麗……」


 歩みを進めるに連れて通り道には桜並木が増える。足元にも淡い桜色の花弁が舞い散り、俺とユメの髪を優しく撫でるように心地好い風が吹き抜ける。

 コツコツと石畳を踏み締める音も響き、その雰囲気にミハクの目的が何なのかという疑問が消え掛かってしまう。おっと、マズイマズイ。

 そして緩やかな水の流れる小さな橋の上を進み、渡る時は念の為に支えとしてユメの手を引く。しばらく進んだ俺達三人と一匹は一際大きな建物、ここの本殿の前で立ち止まった。


「神社の本殿だな。ここ、地名は“龍の社”だけど、基本的には神社と同じ感じなんだな」


「その様ですね。見たところ人や生き物の気配はありませんけど、ここに何があるんでしょう……」


 本殿は木造建築に瓦の屋根。全体的に明るい木材かなる造りで、基本色は赤。

 特におかしな点もなく、絵に描いたような本殿が建っていた。

 ミハクはここで止まったけど、一体何が──


「………」

「「…………!?」」


 ──その瞬間、ミハクが手をかざすと同時に俺達の視界が一変した。

 高速で流れ行くように周りの景色が巡り、流転して世界が変化する。

 気付いた時、俺達は宇宙が見える大地の上に立っていた。


「ここは……」

【スキル“天地創造”】

「……! ミハクの……万龍のスキル……!」


 その場はミハクのスキル。“天地創造”。その名に恥じぬよう、本当に宇宙を形成していた。

 成る程な。Lv500以上で天災クラス。Lv10000を越えたら宇宙や星の創造。神話クラスになるらしい。

 と言ってもここの広さは分からない。見た目が宇宙なだけで案外狭い可能性もある。そもそも、今の肥大化した地球以上の大きさだとスキルに必要な光の粒子が収まり切らないかもしれないしな。


「ミハク。ここに呼び出して何をするつもりなんだ?」


「………」

「「……?」」


 ここは何か。それは指摘せず、呼び出した目的を訊ねた。

 それに対する返答は、俺の手を握る。ユメの手も握り、俺とユメは小首を傾げて疑問を浮かべる。

 その瞬間、俺達の世界はまた変化していた。


 ──“世界の中心センター・オブ・ワールド”。


「……! ここは、“AOSO”内にある……」

「世界の中心……」


 上に表記された字を見、そこがどこか理解した。

 ここは“AOSO”の中枢。中心に“AOSO”の世界で数百メートルはある巨大な樹があり、俺と首謀者が対面した場所でもある。

 一体ここは……。


「ここって、“AOSO”の中なのか? それとも元の世界に生まれた、見た目が似ているだけの場所か?」


「どうでしょう……他のプレイヤーも見当たりませんし……少なくともここに居るのは私達だけの世界のようです」


 ここに他のプレイヤーは居ない。地名は表記されたが現実世界なのか仮想世界なのか不明だ。


「……。いや、ここは“AOSO”で間違い無さそうだ」

「え?」


 そして辺りを見渡し、俺は一つの証拠から確信を得る。

 俺の見ている方向をユメが覗き込み、俺は根拠を説明した。


「ここの周囲にはゲーム内での木が生えている。それで、この場所はいくつかの木がへし折れているんだ。……多分あれは俺と首謀者の、“AOSO”内での戦闘の後だ」


「……!」


 中枢の大部分を担う樹とは別に、周囲にもオブジェクトとしての木がある。

 その木は不自然に折られており、それが俺と首謀者の戦闘の痕跡という事に気付いたのだ。

 しかし、とユメは疑問に思う表情で質問をする。


「ゲーム内で破壊された木や建物は自動修復されると思いますけど……ライトさんが首謀者と会ったのは一ヶ月以上前ですよね……」


「ああ。けど、説明は出来る。あの時首謀者は本来のステージじゃ使えない、管理者専用アビリティや、そもそもが不正なチートで仕掛けてきた。その次の日に世界とこの世界が混ざり合ったからな。誰も寄り付かなくなった“AOSO”の世界じゃ壊れたオブジェクトが修復される訳も無かったんだ」


「……っ」


 首謀者が不正なやり方で戦っていたからこそ、自動修復は行われなかった。

 本来ならすぐにでも直る事だが、翌日には今の世界の状態になったので修復されなかった理由にもなる。

 間違いないだろう。ここは“AOSO”の中だ。

 おそらく原因は先程のミハクのスキル。それは“AOSO”への通り道だった様子。そしてその広さだが、オープンワールド系のゲームは星一つ並みの大きさを誇る事もあるので、あの宇宙空間のような場所には本当に相応の広さがあったと考えて良さそうだな。


「それでミハク……なんで俺とユメをここへ?」

「ミハクちゃん……」


「………」


 俺が訊ね、ユメが少し不安そうな表情でミハクを見やる。当のミハクは無言のまま俺達に近付き、俺とユメの額に自分の額をくっ付けた。


「「……!」」


 同時に流れ込んでくる映像のような記憶。俺とユメが二人だけで行う事。まさか、こんな事を……それは確かにミコク……紫翠龍も俺とユメの心を折らなければ、当の俺達が遂行する気になれない事だった。

 ──“龍の社”から進んで少し。“AOSO”内にある世界の中心地点。そこにてミハクに触れられた俺とユメの脳内には、世界攻略のその後、俺達が何をすべきなのか。俺達のやるべき事が入ってきた。

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