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ステージ11-8 邪龍

『…………』


 瞬間、邪龍が闇の球体を複数吐き付けた。今度は精神的なものではなく、物理的にダメージを与える攻撃だ。


「アイツは速い……かなり速い。あまり近付き過ぎるとさっきの俺の二の舞だ。ユメも気を付けてくれ」


「はい……。あまり近付く職業ではないので大丈夫かもしれませんけど……先程のライトさんと邪龍はそれなりの距離がありましたからね……距離を置いても一瞬で追い付かれるかもしれません……」


 そう、さっきの俺は邪龍の様子をうかがっていただけ。それなのに反応するよりも前に仕掛けられた。

 つまり、ほんの少しの距離などコイツにはあまり関係無いって事だ。


「だったら……“停止ストップ”!」


 ならばと俺は、手をかざしてストップを掛けた。

 どんなに速くとも動きが止まれば意味がない。停止の影響は何に置いても絶大だからな。


『……』


「これも避けるか……スキルだけじゃなく、アビリティを使う暇もないな……! 使えていたらさっきも“地形生成”辺りで防げたか」


 だが、それがどうしたと言わんばかりに俺の“停止ストップ”は不発に終わった。

 スキルとはまた違うからな。何でもありに近い分、直前の動作が色々と必要だ。

 その一瞬の動作もコイツにとっては悠長なもの。避ける事など容易い所業だろう。

 魔王軍幹部のエクリプス公爵も基本的なギルドメンバー専用アビリティを避けていたし、ギルドメンバーの権限もこの世界じゃ圧倒的なレベル差の前には無力って訳か。当たりさえすれば良いんだけどな。


『………』

「……っ」


 同時に闇を放出。俺は直ぐ様鳥居に隠れてそれをいなす。

 邪龍とも鳥居とも一定の距離を保たなくちゃ、また悪夢に飲まれるからな。すぐに鳥居に隠れられるようにしなくてはならない。


「全方位に闇を放出しているな……攻守一体の絶対防御か……」


 攻撃にも防御にも転ずる闇。何なら精神にも作用する。闇という名の謎の物質だな、これ。

 まあ、宇宙には暗黒物質ダークマターって言う謎の物質は多いらしいけど。それは置いておこう。


「闇は光で晴らします! ──究極魔法・“ライトニング・エクスプロージョン”!」


『……!』


 俺が鳥居に隠れて思案する途中、ユメが必殺スキルを使用。小さな光の塊は着弾と同時に破裂。周囲の闇を逆に飲み込む程に目映く、熱を有する光を放出した。

 それによって周囲は白く包み込まれ、全ての視界は白く染まった。

 何千度の光と熱かは分からないが、Lv500を越えたユメの魔法。Lv500の竜帝の通常攻撃で複数座の山が熔解していたし、ここが不思議な結界に包まれたやしろじゃなければいくつもの山も消し飛ぶ程の光だろうな。


『……』

「……っ。効果はイマイチですか……!」

「流石のタフさだな……」


 それ程の光を受けても大して堪えていない邪龍。自身の周囲へ闇を放出し、渦巻く闇が辺り一帯を飲み込んでいた。俺とユメは鳥居に避難する。

 また防御と攻撃を行える姿勢に入ったな。今のうちに専用スキルを使えないか画策するか。まだ“SP”は回復していないけど。


 とにかく、しばらくこの状況が続くなら星の軌跡の弓矢スター・ロード・アーチャー”を使えば……それなら位置が分からなくても狙える……いや、流石に星を砕くとソフィアが豪語していた“星の軌跡の弓矢スター・ロード・アーチャー”を使うのは問題だな。さっきも思ったように社が壊れる可能性がある。

 だからと言って“星の光の剣スター・ライト・セイバー”を使っても居場所が見えにくく狙いにくい。やっぱり地道に仕掛けるか。


『……』

「来るか……!」


 同時に闇の中から複数の球体が放出される。邪龍の大きさからして、どの位置から狙ったのかは分からない。

 だが、俺とユメは鳥居に隠れているので多少の闇漏れはあれどダメージは肉体的にも精神的にもまだない。


「あの闇……触れただけで駄目なのか気になるな……」


「直撃したのは先程のライトさんが受けた精神的ダメージだけですからね……当たらないに越した事は無いのでそれは良いんですけど、物理的なダメージがあるのでしょうか……」


「もし精神力でどうにか出来るスキルなら、多分、ユメが居れば突破出来るかもしれない」


「私が?」


 根拠はない。しかし何となく、何となくだがそんな気がする。

 ユメは俺に指名され、表情に若干の困惑を浮かべた。


「ああ。ユメには状態異常を治すスキルもある。それに、何となくユメの声を聞くと安心するんだ……さっきもそれで意識が戻ったしな。……こんな事言うのは少し恥ずかしいけど」


「私が……いいえ。ライトさんの力になれるならやります! 他の理由は要りませんよ!」


「ユメ。ありがとう。なら、飛び出すぞ……!」


「はい……!」


 皆まで言わずに了承してくれた。

 どうやら俺の言葉を信用してくれているらしい。本当にありがたい事だ。

 俺とユメは今一度互いに目を合わせ、一斉に飛び出した。


『…………』

「連続した球体か……!」

「これは見るからに精神力の問題では無さそうですね……!」


 言っている側から邪龍は闇の球体を放出し、それらが着弾と同時に破裂。闇の物質を巻き上げる。

 あの形状から推察するに、球体の時は物理的。霧のように広がると精神的に作用するのかもしれない。

 そして当然、物理的な攻撃と精神的な攻撃は本人……本龍? の意思で使い分けられるようだ。


「あの球体には触れない方良いな。霧には触れても、多分大丈夫かもしれないけど」


「その様ですね。私も出来る限りライトさんを護ります!」


「頼んだ。遠距離攻撃には防御魔法が使えるユメが頼りになるからな!」


「ふふ、頼りにしてください!」


 ユメは嬉しそうに返す。実際、頼りになる良い仲間だ。

 そのまま俺達は進み、邪龍は再び球体の闇を俺達に向けて撃ち出した。


「“ライトニングシールド”!」


 その闇はユメが光魔法の応用からなる壁で応戦。光と闇は衝突を起こし、灰色の光が周囲を覆った。


「そこだァ!」

『……!』


 その光を抜け、俺は宇宙速度で邪龍の眼前に迫る。それと同時に白神剣と光剣影狩を斬り付け、初めて邪龍にまともなダメージを与えた。

 減った体力は一割にも満たないが、それでも十分だ。まともなダメージを与えた事実が重要だからな。

 ま、ダメージを与えた割合ならユメの方が俺よりも多いけど。


『……』

「これは……さっきの……!」

【スキル“闇支配”】


 その瞬間、俺に向けて再び闇が吐き出される。そのスキルは“闇支配”。本当に精神の支配を目的としたスキルだったか。

 だが、今はもう大丈夫だ。絡み付く闇を抜け、今度はその顔を斬り付けた。

 何故かは分からない。だが、先程まで苦しんでいた闇に今の俺は飲まれない。ユメが近くに居るからか、過去のトラウマを乗り越えた訳ではないが、ユメが居る事で俺が救われる何かを示唆している可能性もある。


『……』

「……!」


 俺に闇が効かなくなったのを理解した邪龍はその漆黒の身体を震わせ、攻撃方法を変更した。

 複数の球体が宙を漂い、それらが同時に放たれる。

 成る程な。基本的に物理的なダメージを与える時は球体のように変化させるのか。まあ、たまに槍のような形で仕掛けて来る事もあったけどな。


『……』

「考えている側から……!」


 球体は全てかわした。その瞬間に今度は槍へと変化させた槍を放つ。

 空気を貫いて直進する槍を俺は見切ってかわし、丸三角四角。次々とあらゆる形の闇が打ち出された。

 強度が変わるのか、殺傷力が上がるのか、その形状変化に意味があるのか分からない。しかし、当たったら一堪ひとたまりも無いだろう。避けた方が良いのには変わりないな。


「“ライトニングスピア”!」

『……』


 その槍へユメが光魔法の槍をぶつけて相殺。レベル差的に考えれば相殺するのも難しいが、いなす形で相殺し、鳥居に衝突させた事で闇を払ったらしい。

 それならまた俺も仕掛けるか。


「残り数分でSPは回復する……今は仕掛けるだけだ!」

『……』


 槍と球体を抜け、邪龍の元へ直進。次々と闇の槍が打ち込まれるがそれらをかわし、闇の槍の上に乗って更に迫った。


「そらっ!」

『……』

「……ッ!」


 その俺を邪龍は尾で払い、筋肉の塊によって打ち付けられた俺は鳥居に衝突する。

 クソッ……! 凄く痛ぇ。打ち所が悪かったのか、過呼吸にも近い症状が現れた。


「ライトさん! “ヒール”!」

「……! 助かった! ありがとう、ユメ!」

「はい!」


 ダメージは一気に半分以下に低下したが、体力が回復する事で痛みが消え去る。

 軽く払うような攻撃じゃなけりゃ残り残機が減っていたな。危なかった。


『…………』

「……っ」


「……! ユメ!」


 そのユメへ向け、邪龍が闇の塊を射出。闇の球体は直進し、ユメの身体を飲み込んだ。


「……! ぁああ……ッ!」

「これは……精神的な攻撃か……!」


 ユメを飲み込んだ闇は精神的な、先程の俺が受けた攻撃に類似しているもの。スキルではないようだが、今のユメは何かしらのトラウマに蝕まれているのかもしれない。


「……っ、一体どうしたら……俺には状態異常回復のスキルは無い……アイテムも無い……!」


 一先ずユメの身体は回収。俺はユメをかかえ、鳥居の後ろに座らせる。その表情は苦悶に歪んでおり、涙のようなものも浮かべていた。

 見る見るうちに体力が減る。この調子じゃ、一度ゲームオーバーになっても症状が回復しない。残機が無くなるまで延々と苦しむだけだ……!


「クソッ! 仲間を守ると考えた矢先に……!」

「ぁぅあぁ……」


 思わず悪態を吐く。自分の無力さが嫌になる。ギルドマスターになった。仲間を守れるスキルを覚えようと思った。しかし、ソフィアや他のギルドメンバー達を多く失い、現実が俺の弱さを叩き付けてくる。

 何か出来る事は無いか、俺は駄目元で自分のステータスとスキルを確認する。


「……! これは……!」


 そしてそれらとは別の項目に、“転職”の文字が浮かんでいた。

 これは一体……いや、確かあの時……!


「ソフィアのスキルを覚えたから……なれるようになった……!」


 あの時は冷静さが掻いて思考が回らなかった。しかし、今ならはっきりと理解出来る。

 それに必要な職業ジョブは“騎士”と“僧侶”。“弓使い(アーチャー)”の熟練度が上がる事で全体のバランスが整い、なれるようになった職業。

 ユメが危ない今。考えている暇はない。それには“僧侶”が必要。それなら、他人を癒す事や呪いを払い除ける事も可能という事だ!


確認チェック……転職ジョブチェンジ! ──“剣聖”!」


【確認しました。転職します。しばらくお待ち下さい】


「早く……早くしてくれ……!」


 あの時は気が動転して転職などする暇は無かった。だが、今は一秒も惜しい。自分勝手な考えだが、剣士の上位職、剣聖の力がどうあっても必要だ。


【NOW LOADING…】

「まだか……!」


 待機の間にも闇が打ち付けられ、霧散するように広がる。

 転職には時間が掛かるからな……と言ってもほんの数秒。この数秒でユメは救える……!


【NOW LOADING…】

「……っ」


 自然と力が入る。俺が力んでも意味がないのは分かっている。だが、力まざるを得ない。もはや一種の整理現象だ。


【確認。転職を完了しました】

「来た……!」


 俺は剣士からジョブチェンジを終え、剣聖となった。しかしそれを堪能する暇はない。即座にスキルを調べ、今回の件の打開策を見つけた。


「あった……! “呪術淘汰の護符”!」

「……!」


 瞬間的に見つけた呪い系列に対抗するスキル。

 それを即座に使用し、ユメの身体を浄化する。それによって闇が取り払われ、ユメは目覚めた。


「大丈夫か、ユメ!?」

「ラ……イト……さん……?」

「良かった……」


 意識は戻った。これで一安心という訳にはいかない。Lv888の邪龍をどうするかが一番の問題だからだ。


【スキル発動。剣聖スキル“聖なる守護者”。浄化によって体力、スタミナ、魔力、SPの回復速度が上昇します】


「……!」


 その瞬間、自動スキルが発動した。

 これは他人を浄化させる事で自分に回復のバフを掛けるもの。限定的なスキルだが、その限定の場所である今現在のこの瞬間に上手く作動出来たようだ。


「案外……運が良い事もあるんだな……最高のシチュエーションだ……!」


 俺はこう言った時、今まではあまり上手くいかなかった。だが今回。今回だけは多少運が回ってきたらしい。

 何百回に一回の運。これを利用しない手は無い……!


「この位置なら──リーサルウェポン・“星の軌跡の弓矢スター・ロード・アーチャー”!」


 その瞬間、俺は“弓使い(アーチャー)”の専用スキルを使用した。

 ユメにデバフを掛けた事によって邪龍は居座っていた社から離れた。そして現在位置は空。飛んでいる訳ではないが、闇を足場に浮かんでいる。

 だからこそ、今の位置は最高ポジションだ。


『……!』


 邪龍も即座に気付いて対応。闇の防御壁を張る。だが、それは無意味に終わる。

 必中。一撃必殺の光の矢。それを防ぐ術は無い。

 束になった光がつどって矢を形成し、並大抵の存在を一撃で仕留めるその矢が邪龍の身体を射抜いた。


「……。ありがとう。ソフィア」

『………! ────!』


 射抜かれた邪龍の体力ゲージは空になり、直後に天空で光がぜて星の軌跡を描く。その瞬間に空から無数の流星が降り注いだ。


【モンスターを倒した】

【ライトはレベルが上がった】

【ユメはレベルが上がった】


 そして俺達の脳内に声が響く。完全なる討伐の証明。

 俺とユメが織り成した試練。vs邪龍。それは俺が剣聖となり、ソフィアの専用スキルを使用する事で終わりを迎えるのだった。

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