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ステージ11-6 龍の楽園

「──龍の……楽園……」

「本当に……龍種しか居ませんね……」


 到達した龍の楽園。

 空は青く、ここの高さがどれ程かは分からないが雲も見える。そして空を交差する太陽と月。景色で近いのは夕刻だが、そう言う訳でもない。本当に太陽と月が存在しており、片方に昼。片方に夜が形成されていた。

 そこには龍に竜。ドラゴンもワイバーンも問わず、一般的に“りゅう”と呼ばれる種族が無数に飛び回る。


「炎に水に風に土……色んな属性の地形も造られているな……」


 あるのは何も空だけではない。よくフィクションでもちいられる火、水、風、土のような四大元素をモチーフとした島もあった。

 炎で燃え盛る島。滝が壁のように流れる島。風が吹き荒れる島。岩で覆われた島。

 辺りを見れば他にも様々な光景が生み出されており、静かな湖畔。灼熱の大地。荒れた岩肌。白銀の世界。鬱蒼と生い茂る森。涼やかな風の吹き抜ける草原。

 “AOSO”内のモニターで確認したステージの光景全てがあるのではと錯覚するものが広がっていた。


「……。けど、特に何かがある訳でもないな……空を飛んでいる龍達は誰も俺達を意に介していないや」


むし”ろ幸運かもしれませんね……遠目ですけど、見る限り龍達のレベルはいずれも500以上……ここの攻略をクエストにするなら、必要レベル1000は必要ですよ……」


「今回のクエスト、“嵐を止めて”は必要基準推定レベルが500……ここに来るまでの島とは別件みたいだな……」


 飛び交うドラゴン達は全てがエンプレス・アントのみならず、竜帝をも越えるレベル。何ならたまにLv1000以上の姿も見える。一匹一匹が並大抵どころか世界を牛耳る魔王軍の幹部以上と考えると、魔王軍など目ではない裏ステージ感があるな。

 まあ、鍵が掛かっていた場所だったし、本来は魔王討伐後とかに来る場所なのかもしれない。


「………」

『キュルッ!』


「あ、ミハク、コクア……」


 周りの光景に呆気に取られ、ボーッと眺めていた時、ミハクが俺達をまた一瞥して再び歩き出した。

 コクアも俺達に催促するよう小さく吠え、俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人も後に続く。


「どこに行こうとしているんだ、ミハクとコクアは……。おそらくここは今回のクエスト攻略には関係無い場所だよな……」


「どうでしょう……しかし、今回のクエストではなく、世界的な攻略には必要そうですね」


 どこに行くから分からない。それならミハクが止まるまで進むだけ。今更俺達を騙したりとかはしないだろうからな。

 周りのドラゴン達や景色を眺めつつ、空に浮かぶ橋のような道を行く。

 その橋を渡り終え、次いで進むは切り立った崖。凍てつく寒さの雪原を越え、炎の大陸を渡り、現在は春風香る森の中。およそ七時間は歩きっぱなしだ。


「本当、ミハクちゃん達はどこに向かっているんだろう……結構な時間は進んだよねぇ……」


「ああ。見ていて飽きない景色だけど、流石に数時間歩き続けるのも大変だな。疲れなくても目的地が分からないから少し心配になる。太陽と月の位置が変わらないから時間の感覚も変な感じだしな。まるで夢の中にでも居るようだ」


「確かに……色んな世界が同じ場所に顕在しているような景色ですもんね。見てる分には楽しいですけど、目的がさっぱり分かりません……」


 ユメが言うように、まるで現実世界じゃないかのような光景。それはこの世界がゲームの世界と融合してからずっとそうだが、太陽や月の位置。俺達が歩いている場所の高低差。移り変わる景色。

 それらも相まってよりファンタジー色が強く感じられた。


「………」

「……! ミハク?」


 その様な事を話している時、ミハクが歩みを止めた。

 それと同時に俺達の方を振り向き、白い長髪をなびかせて静謐な赤い目で俺達をジッと見つめる。例えるなら品定めされているような、値踏みされているような、そんな感覚。俺達は流れるようにふと上を見上げる。するとまた、今度はかなり巨大な鳥居があった。


「……凄い高さの鳥居だな……これも数百メートルはありそうだ」


「………」


 鳥居へと自然に目は行くが、ミハクからも目は離さない。

 しかし、俺達を値踏みしている様子の理由はこれを見て大体分かった。鳥居は日本じゃ神の通り道と言われている。だからこそ、俺達が此処を通るのに値するのか見ているのだろう。


「………」

「え?」

「あれ?」


「あらら」

「フム……」


 そしてミハクは、その白く小さい綺麗な手で俺とユメの指を掴んだ。宝石のように赤い目はジッと俺達を見つめる。

 俺とユメは素っ頓狂な声を漏らし、ソラヒメとセイヤが何か納得したように吐息のような声を漏らす。これはつまり、そう言う事か?


「どうやらライトとユメだけが合格したみたいだね。僕達は入らない方が良さそうだ」


「残念だけど、そうっぽいねぇ。確かに元々ユメちゃんには慣れていたし、その後に慣れたのがライト。ミコクちゃんも言っていたけど、何かにライト達が選ばれるのは不思議じゃないね」


「そうか……」


 俺とユメがミハクの選別に合格したという事。

 セイヤとソラヒメはそれについて納得しており、俺も妙に納得出来た。

 “AOSO”での俺との出会い方はさておき、富士山での出会いを初めとして俺とユメに慣れた。それもあり、もしもミハクが共に行く者を考えていたなら俺とユメだろうという感覚はあった。

 これとは別件かもしれないが、ミコクが考えていた俺とユメだけの世界にして世界を救うという事もあるので、もしかしたら俺達をまだ選別している途中なのかもしれないな。


「じゃ、俺とユメで行ってくるよ。今回のクエストは嵐を止めるのが目的だけど、それの前にミハクが何を考えているのか知る必要もあるしな」


「そうですね。ミハクちゃん、私とライトさんが必要みたいですし、ミハクちゃん自身についても色々と知りたいところです」


「気を付けてねぇ~」

「じゃあまた後で」


 ミハクに手を引かれ、ソラヒメとセイヤに手を振って一時的に別れる。

 嵐の中に入ってから頻繁に別れて行動しているな。今回ばかりは仕方無い事だけど。

 俺とユメは変わらずミハクに続き、巨大な鳥居の向こう側へと進んだ。



*****



 ──“龍の社”。


「龍の……やしろ……?」

「確かに鳥居の先ですけど……」


 鳥居を潜った瞬間、ソラヒメとセイヤの気配がすぐ後ろから消え去り、俺達の前には何処までも続く石階段。そしてその先にうっすらと社のようなものが見えた。

 ここの地名は“龍の社”。完全に龍神などのような存在が奉られて居ることは明白だった。


「……。俺達、入ってまだ十メートルも進んでいなかったよな……?」


「はい……。けど、ソラヒメさん達が居なくなってしまいました……」


 振り向き、確認。背後の鳥居はそのまま、しかし鳥居の外が深い霧に覆われてソラヒメ達の姿が確認出来なくなっていた。

 鳥居をくぐった先の、よくあるシチュエーションと言えばそうかもしれないな。鳥居の向こうは現世とは引き離された異界。

 先程の“龍の楽園”が昼と夜、両方混ざり合っていた世界だった事を考えるに、神社に夕方に行ったら“神隠しに遭う”。や、“異界に引き込まれる”と言われている伝承から来ているのかもしれない。

 少なくとも、確信を得ているのは一つ。ここは先程の嵐の中の島とも違う、“龍の楽園”とも違う、隔離された完全な別世界という事だ。


「そう言う世界か。気を引き締めて行かなくちゃならなそうだな。あくまでゲームの世界の存在だけど、これから多分神仏のような存在に会う訳だからな……」


「神様……龍の……。ミハクちゃんと何か関係しているのでしょうか」


「さあ、どうなんだろうな……」


「………」


 俺とユメはミハクに視線を向けるが、ミハクは特に応えない。

 しかし俺達は覚悟を決めた。それと同時にミハクも先へ進む。俺達も続き、社へと続く石階段を登った。


『グギャラァ!』

「「……!」」

【モンスターが現れた】


 その瞬間、本当に次の瞬間。石階段を一歩上がると同時に黒い龍のようなモンスターが姿を現した。

 名前は見えないが、そのレベルは分かる。Lv666。竜帝は軽く越えるもの。そしてそのレベルはかなり不吉な印象を与える。


『ギャラァ!』

「龍型モンスター……たった一歩で……!」

「それもかなりのレベルです……!」


 龍は黒い炎を吐き、俺とユメはそれを跳躍して飛び退くようにかわす。

 コイツは見るからに敵意丸出し。加えてそのレベルの不吉さから、この社に巣食う怨霊のようなモンスターという事だろう。


「レベル差は軽く200以上……やるぞ、ユメ!」

「はい……ライトさん!」


 階段に続く石畳を踏み込み、俺は跳躍して頭から白神剣ノヴァと光剣影狩を斬り付けた。

 ユメは龍の死角へと回り込み、夢望杖に魔力を込める。


「そらっ!」

「“光球”!」


『……!』


 俺の白神剣と光剣影狩が直撃してダメージを与え、ユメの光魔法が龍の身体を撃ち抜く。同時に破裂し、光の爆発に飲み込まれた。


『グラギャア!』

「まだ生存しているか……!」

「当然ですよね……!」


 体力は、半分以上は削れた。200以上のレベル差なんて今更だからな。白神剣や光剣影狩ならLv666でもそれなりに食らわせられる。

 しかも、どうやら光魔法が弱点みたいだ。ユメのお陰で大きく怯んだから狙いも付けやすくなっている。


「トドメだ!」

『……ッ!』


 怯んでいる隙に斬り付け、龍型モンスターの残りの体力ゲージを0にする。同時に認証された。


【モンスターを倒した】

【ライトはレベルが上がった】

【ユメはレベルが上がった】


 流石はLv666。俺達のレベルも一気に上昇。

 因みに現在、というより先程。俺のレベルはLv448。ユメはLv434だったが、それが上昇し、俺は【Lv448→Lv460】。ユメは【Lv434→Lv449】になった。

 階段を上がった瞬間にこれだからな。社に着くまでに俺達は軽く100レベル以上上がるんじゃないか? そんな事を考えつつ、俺達は改めて階段を登る。


『ガラギャア!』

「またかよ……!」


 そして今度は数歩登った辺りで龍型モンスターが姿を現す。そのレベルは680。またレベルが上がったな。

 既に魔王軍No.2のエクリプス公爵とタメを張れるレベル。本当にここは裏ステージ並みの難易度だ。


「くそっ! やるぞユメ!」

「はい! ライトさん!」


 頑張れば二撃で倒せる。しかし防御面の不安は多く、本当に一瞬でケリを付けなくちゃ勝てないな。

 しかしやらない事には始まらず、俺とユメは敵の眼前に迫った。


【モンスターを倒した】

【ライトはレベルが上がった】

【ユメはレベルが上がった】


 そして討伐。やり方は似たようなもの。

 けど、神の通り道である参道に現れるモンスターだけあって基本的に光属性には弱いみたいだ。

 俺の白神剣なら二撃だが、ユメの光魔法が怯ませてくれるお陰であまりダメージを受けずに勝てる。

 そして上がったレベルは俺が【Lv460→Lv471】でユメが【Lv449→Lv462】。順調だな。


『グギャア!』

「またかよ!」


『ギギャア!』

「またです!」


『グルギャア!』

「「しつこい!」」


 その後、いずれもLv600を越える存在を撃破。俺達のレベルも先程から一気に上昇して俺が【Lv471→Lv508】。ユメが【Lv462→Lv502】と順調に上がり、やしろも眼前まで迫った。別の鳥居が見え、その周りを屋根が付いた塀のような物が囲んでいる。

 けど後少し。後少しで目的地に到着出来る!


『──…………』

【モンスターが現れた】


「……っと、今度は余計に吠えないか……目の前には社に続く、最後の鳥居……」

「これが最後の龍でしょうか……!」


 その目前、俺とユメの前に最後の障壁が現れる。加えて新たな【モンスターが現れた】の表記。今まではLv666以降に表記が無かったのを考えるに、これは確実にボスモンスター。今までとは雰囲気も違うな。折角だからステータスを確認しておくか。

 そう思い、俺はボスモンスターと理解しつつ、比較的軽い気持ちでそのステータスを確認した。


『“邪龍”──Lv888』

「……っ。マジかよ……」

「ここに来て……!」


 そして目の前に現れた──Lv888のボスモンスター……“邪龍”。

 魔王軍No.2をも越える、今までのモンスター達とは一線をかくす存在。“龍の社”じゃ正真正銘、最後の相手だな。

 “龍の楽園”からミハクの案内で到達した鳥居をくぐり、新たに辿り着いた“龍の社”。そこで出会った鳥居の前に立ちはだかる邪龍を前に、俺とユメは臨戦態勢に入った。

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