ステージ11-2 高難度クエスト
「それで、どこに行く?」
「さあ……今は何かが起こらないかを探しているだけですので、特に当てはありませんね」
「まあ、色んな方向を見たら何かはあるかもしれないからねぇ」
「それで、何で今回僕達はアグレッシブに動いているんだろうね」
俺達は今、飛び回るように街中を進んでいた。
木から木へと飛び移り、枝を掴んで更に高く跳躍。ガサガサという葉の擦れる音も響き、また一歩踏み出して先へ進んだ。
理由は特に無い。何か起こっていないかを空から探すのと、気を少しでも紛らわせる為に超人的移動を行っているのだ。
「気分転換だな。この世界を元に戻したら自由に動き回る事も出来なくなる。こう言う機会も大事だ。ミハクも問題無く着いて来れているから何の心配もないしな」
「………」
「否定はしないかな。確かに自由度の高さはゲームにも現実にも求められている事だ。まあ、現実世界で自由度が高過ぎたらただの無法地帯になってしまうけどね」
さながら忍のように飛び回る今。気分は忍者。そしてセイヤも気分転換自体は否定しなかった。やっぱり冷静ながらもロマンとかは理解しているからな。
しかしやる事も無いのは事実。こうなったら一度クエストとかを受けてみるか。
「取り敢えずクエストを受注するか。ギルドマスターの俺はギルドに行かなくても直接受けられるし、何かしらの問題を解決しながら進めた方が良さそうだ」
「ええ。良いですね、ライトさん。この世界がゲームである以上、クエストを受ければボスにも近付けます」
「だねぇ。基本的に依頼される程のモンスターや自然現象ってなると、相応の力を有するって事だもん。強大な力の後ろには強大な何かがかるって事だからね」
「僕も賛成かな」
「んじゃ、軽く見てみるか。初級クエストじゃなくて結構上の依頼があれば良いけど」
反対の意見は無し。なので俺は早速何かのクエストが無いかを確認した。
「どれどれ……高ランククエストは……──“嵐を止めて”。“急にモンスターが増え始めた”。“最近森が変”。“海が荒れている”。“山火事を消して”。必要基準推定レベルは順に500。250。220。400。200。……って、前もこんな風に見ていたな……一先ず一番必要レベルが高いのはLv500必要な“嵐を止めて”か」
「天災規模でLv500ですか。確かにそれくらいは必要そうです」
「レベルだけならエンプレス・アントよりも高いねぇ。竜帝と同じくらいかな。魔王軍の幹部クラスで天災未満。No.2のエクリプスとかで天災以上って感じかぁ。モンスターと自然災害で存在は違うけど」
「妥当な基準レベルではあるね。まあ、現実の嵐じゃ山を複数熔解させる竜帝より弱いと思うけどね」
「エネルギーの問題かもな。台風やハリケーンは核兵器の数倍はあるし、この世界じゃ元々の人類最高峰の強さでLv500未満か。今の俺達が今のままで元の世界に戻ったら簡単に世界征服とか出来ちゃうな。やらないけど」
色々と気になるクエストはあるが、一番興味を引かれるのがLv500は必要な“嵐を止めて”。俺達は必要基準推定レベルに達していないが、やれない事も無さそうだ。
けどまあ、どのクエストにもボスモンスタークラスが関わっていそうだな。
「それじゃ、今回は“嵐を止めて”にするか。前は低ランククエストでスパイダー・エンペラーと会ったけど、今回は正統派に難関クエストにしよう」
「構いませんよ。大変そうですけど、倒すべき残りの存在が存在なので最難関を攻略していった方が良さそうです」
「賛成ー! Lv500必要な存在自体が気になるもんね!」
「ああ。そうするとしようか」
俺達が受けるクエストは決まった。Lv500必要な“嵐を止めて”。クエスト名は非常にシンプルだが、そのシンプルの中に今からやろうとしている事の難易度が示されている。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人とミハクにコクア。五人と一匹は指定地点に向かうのだった。
*****
──“イサリビ村”。
「よくぞいらっしゃいました。勇敢なる冒険者様……私が依頼を出した村の村長、アマドと申します」
「あ、どうも。よろしくお願いします。ギルドから来たギルドマスター、ライトと申します」
「ユメと申します」
「ソラヒメだよー。よろしく!」
「ソラ姉。態度。……僕はセイヤです。よろしくお願いします」
漁に関係してそうな上に表記された村の名を一瞥しつつ、村長のアマドさんに自己紹介をする。
今回は珍しく花に関係する名前じゃないな。家にある雨戸と神話に関係する天戸。どっちがモチーフなんだろうかとどうでもいい疑問が浮かぶ。しかしそれは置いておこう。
「おお……まさかギルドから……それもギルドマスター様が直々にいらっしゃるとは……! 苦節数十年……ようやく報われました……」
「ああいえ、まだ問題は解決していませんので……」
苦節数十年か。生まれて一ヶ月のこの世界だけど、当たり前のように何千年も経っている設定だし、別に変じゃないな。
「それで、依頼内容ですが……」
「はい……実は数十年前から消えぬ嵐がありまして、どうにかそれを消し去って欲しく……無理難題なのは百も承知です。しかし、このままだといつ村が飲み込まれてしまうか不安で……」
「成る程。しかし、数十年も無事だったのですから、大丈夫なのではありませんか?」
「いいえ。たった数十年……私もまだ若かった頃に突然現れた大嵐……突然現れたのなら、今が無事でも突然村が消え去る可能性もあります故……」
「確かにそうかもしれませんね。分かりました。皆様の安全を護るのもギルドの務め。精進致します」
「おお……ありがたや……ありがたや……」
まるで神か仏でも前にしたかのように大袈裟に感謝される。しかし、村の近くに危険があると分かっていたら当然の反応だろう。
嵐の規模がまだ分からないのでギルドメンバー専用アビリティでどうにか出来るのかも不明だが、百聞は一見にしかず。何より見てみる事が優先だろう。
「それでは案内を頼みます」
「はい。是非」
そして俺達はアマドさんの案内の元、イサリビ村から離れた、寂れた停船場のような港に着いた。この村はやっぱり漁業が盛んだったのか。
向こうではうっすらと黒い塊のような雲が見える。距離は数十キロから数百キロは離れているが、それでも規模が分かる程の大きさだ。確かにこれは不安にもなる。
「あの先で御座います。見ての通りここはもう使われておりません。しかし、近場にはここ以外にも海があるので何とか生計は立てられるのですが、住人も増え、村の危険と村の未来を考え、こうした方が良いとギルドに依頼致しました」
「大丈夫です。先程も述べたようにそれがギルドの役目。ギルドマスターの名の元に、今回の問題を解決致しましょう」
色々な苦悩があり、それを考慮した上での依頼。それなら遂行しない訳にはいかないな。
「それでは船か何かを……」
「いいえ、構いません。その船は貴方達が活用してください。俺達は俺達なりの進み方がありますので」
「なんと……! それは凄い。では、本当によろしくお願い申します……」
「ええ」
俺達の為に船を用意してくれるみたいだが、俺達には移動手段があるのでそれを断った。
実際、帰って来る可能性が少ない船などは村の為に使った方が良いだろう。
ともあれ、俺達は片鱗だけが見えている嵐の全貌を見る為、海を渡る事にした。
*****
「指定地点って……当たり前だけど、まんま海だな」
「特に地名とかも表記されませんね……嵐は凄いですけど……」
そして地形を生み出して進み、海の真ん中に到達した俺達は、その地形に乗って眼前で荒ぶる波風。暴風雨を前に気圧されていた。
本当にとんでもない嵐だ。数十年無事だったとしても目の当たりにするもまた違う。このままだと本当に村が飲み込まれる可能性もある。早いところ消さなきゃマズイな。
「けど、どうやって消し去るんだろうな。今の俺達なら嵐の中に突っ込むくらいなら耐えられるだろうけど、中心で必殺スキルでも放つのか?」
「この嵐の原理が不明ですもんね。数十年前から続いているなら通常の嵐とは違う筈。何かしらの方法で外部からエネルギーを吸収しなければ自然災害と言えど永遠に存在出来ませんので、そのエネルギー源を絶つのが最適解でしょうか?」
「現状、そうする他無さそうだな。結局のところ嵐の中心部に行くのは確定か」
嵐の止め方など分からない。しかし原理はある程度、小学生の理科でやるような知識くらいはある。
そもそもこの世界で数十年前からある設定の嵐。普通に考えてただの自然現象じゃないしな。
取り敢えず俺達はその場で踏み込み、同時に音速以上で跳躍して嵐の中へと突入した。この世界じゃ取り敢えずの行動もかなり多いな。元々ゲーム自体がそんな感じか。
嵐の中では足場もない。飛ばされる心配もあるので最低限の地形を造り、そこで嵐を眺める。
「……っ。凄い風雨だ……息をするのも辛いな……!」
「周りには雷も轟いていますね……あれが当たったらダメージを受けそうです……」
「即死じゃないのは良いけど、結構大変だねぇ……!」
「何とか会話も出来ているけど、時折風に消されて情報伝達もままなら無くなるね……!」
暴風雨に雷に竜巻。タイフーン、ハリケーン、サイクロン、トルネード全ての集合体。風関連の災害は全てここで体感出来るな。ちょっと危険なテーマパークだ。
さて、冗談を考えるのはさておき、ここからどうやって中心を探すか。大型だと数百キロ。超大型となると千キロ近くの大きさはあるし、おそらく超大型のこの嵐の中心を探すのは結構な作業だ。
「こんな場所じゃモンスターも出てこないな。餌とかがある訳じゃないし当たり前か。一先ず進んだ方が良いかもな」
「アビリティの地形は壊されなさそうですし、横断するように進めば自ずと中心部に行けそうですね」
「ああ。そうするとしようか」
ユメが風に煽られる髪を押さえ、片目を瞑って話す。
俺達も思わず目を綴じてしまっているが、進まない事には始まらないので行く事にした。
「はぐれないようにな……!」
「ライトもね!」
俺とソラヒメが言葉を交わして同時に踏み込み、加速。基本的に全員で纏まって離れぬように行動を起こす。
音速以上は出ているので、超大型の嵐だとしても数十分もあれば横断は出来るだろう。
「この速度で進むと、やっぱり多少は痛いな……」
「音速以上ですもんね……水に数百キロで叩き付けられるとコンクリートに激突したような衝撃と同じと言われていますけど、この豪雨……私達の速さだと弾丸の中を進んでいるようなものですね……」
吹き荒れる風に押され、痛い程の雨が身体に打ち付けられる。流石に体力ゲージは減らないが、天候もギミックとなるこの世界。今の俺達には何かしらのデバフが掛かっているかもしれないな……。
「……ねえ、ライト! あそこに何か見えない!?」
「あそこ……? 本当だ……光みたいなものが見える……雷とか雲の隙間から射し込む日光とは違う光だ……!」
その様な雨の中を進む途中、風雨の圧力に押されながらも指を差すソラヒメに言われて見た方向に確かな光を確認した。
こんな暴風雨の中にある光。一体なんだ?
「よく嵐の雲の中に光を見たって報告はあるけど、それは基本的に要因がある……けどこの世界なら何かはあるかもしれないな……!」
「そうですね……! 空にある不自然な光……ここに来るまで十五分程……もしかしたらあれが嵐の原因かもしれません……!」
光の見える場所は目安で数キロ先。俺達の速度なら数十秒で到達出来る距離だ。
これはいかない他にない。俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人は互いに頷き、速度を少し上げる。この速度でもミハクは簡単に着いて来れるだろうし、ミハクも多分大丈夫か。
高難度クエストを受け、現在嵐の中。俺達は見つけた光の元へと前進した。




