ステージ1-16 アップデート
使いそうな物と使わなそうな物を分け、一先ず俺達はリビングのソファに集まった。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの順で座り、互いに向き合う形となる。
「おやおや~? ちゃっかりライトとユメちゃん一緒になっちゃって~」
「え!? えーと……これは成り行きでですね!」
「そ、そうだ! 偶然だ!」
「ソラ姉。いきなり茶化すのは止めてくれ」
向き合う形となったのだが、相変わらずの調子で揶揄ってくるソラヒメ。ムードメーカーが居るのは雰囲気が明るくなって良いけど、やっぱり調子が狂うな。
その阻止役としてセイヤが居るけど、基本的にソラヒメは言うことを聞かないのでほぼ意味がない。
ともあれ、俺達は改めて話をする。
「俺の家にある物で即席のアイテムは入手出来たけど、ずっとここに居る訳にもいかないからな。こうしている間にもストーリーは進んでいるんだ。……あまり考えたくないけど、既にゲームオーバーになった人も居るかもしれない。その事もあるから早いところ切り上げて攻略に向かおう」
「またライトが仕切ってる。本当に時間は大事だから余計な事は言わないけど。なんか不満……」
「我慢を覚えただけ偉いさ。ソラ姉」
「アハハ……どっちが年上か分からないね」
指摘に対し、仮のリーダーであるソラヒメは少し不満そうだった。しかし重要な時にふざける性格ではないので真面目に取り合ってくれるらしく、セイヤとユメも向き直った。
「まあ、話し合いって言っても重要な事は管理所で話したから簡単に終わらせるつもりだ。……で、単刀直入に聞くけど、ラスボスって何だと思う?」
今回の攻略に置いて、一番重要な存在はラスボス。それについて訊ねた。
最終的な目的は首謀者だが、一区切りを付けるという意味でもラスボスの存在は必要不可欠だろう。俺の言葉に対してユメを始めとし、皆が話す。
「やっぱり魔王とかじゃないですか? 首謀者も魔王を倒すのも~的な事を言っていましたし」
「けどゲームによっては神様がボスって言うのもあるよねぇ。あと、前作の主人公とか!」
「そう言うのは主に裏ボスじゃないかな。まあ、僕達目線からすれば裏ボスはあの首謀者がそうなんだろうけど」
「そもそも前作って誰だよ?」
「うーん……前世とか?」
「前世って……首謀者は俺の前世を知らないんじゃないか? と言うか、それを遂行するなら全世界の人達の前世を知っている必要がある。それに、俺の人生は俺の物語だ。前世に左右される筋合いは無いさ」
「左右されるのが“ゲームの中の存在”とも言えるけどね」
「うっ……確かにゲームになったこの世界ならそうだな……何なら、“全生物の祖”とかをオリジナルキャラクターとして出す事も出来るか」
議題はラスボスについて。
神や魔王は王道どころであり、ゲームによっては前作の主人公という英雄や勇者が立ちはだかる事もある。
何はともあれ、結論で言えば“全く分からない”という事になった。
「倒すべき相手となれば首謀者。俺達プレイヤーから見たらやっぱ最後のボスは首謀者って事になるのかもしれないな。そもそもを辿ればどうやってこんな世界を創ったのか疑問だけど。何の情報も無いしな」
「今時はラスボスどころか隠しボスも発売前にリークされるのが当たり前だからね。昔なら本当に唐突なボスが現れたかもしれないけど、何がラスボスなのか分からない今の状況は僕達には中々新鮮な感覚だ」
「新鮮か。……うーん、なんか、このゲームの内容が一昔前だな。増える命に隠し通す隠しボス。その事を考えれば、首謀者は昔のゲーム……レトロゲームが好き。そして年齢も自ずと相応の年齢という事が分かる。まあ、レトロゲームが好きな若者って可能性もあるけど」
一先ずラスボスについては分からないので、取り敢えずメタ的に見たラスボスである首謀者について考える。
今の会話で得られた首謀者の情報を纏めると、首謀者は案外年齢がいっている可能性があるという事だった。
無論、レトロゲームが好きな若者という線も捨てていない。なので全ての結論を総まとめにするなら、“いくつかの可能性は生まれたが、相変わらず分からないまま”。……と言ったところだろう。
「まあ、いいか。謎はあるけど、今のゲームは推理物じゃない。ただひたすら攻略すれば、いずれ出会うだろうさ」
「そうですね。全世界の人達がプレイヤーなら、相応の実力者が居れば私達よりも先に真相に到達する可能性もありますものね」
「ああ、そういうことだな。それで、ユメ達は何かないか?」
「うーん、特にはありませんね。ソラヒメさんとセイヤさんは?」
「私もないよー! 早く攻略しちゃおう!」
「気になる事は多いけど、今話す事は特にないかな。僕も問題無い」
どうやらユメ達からも意見は無いらしい。
何はともあれ、それなら行動は決まった。俺達四人は立ち上がり、次の行動を起こす。
「じゃあ、後は拠点として一先ずユメやソラヒメ達の家に向かってセーブ……って言えるのかは分からないけど行動しやすいように“転移”出来るようにしておくか。基本的な地形は変わっていないから真っ直ぐ迎える筈だ」
「そうですね。その道中でもモンスターは現れるでしょうし、ラスボス以外のボスが居るならそのボスでも探しましょう」
「賛成ー! 取りあえずレベリングだね!」
「まあ、ゲーム攻略には必要かな」
次の目的地はユメやソラヒメとセイヤの家。拠点を増やせばそれだけ探索の幅も広がるだろう。俺達“管理者”に与えられた特権とも言える。街の地形がそのままなので行動は起こしやすかった。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人は俺の家から外に出て、行動を開始するのだった。
*****
【──“アップデート”を開始します。プレイヤーの皆さんは揺れ、頭上、諸々にご注意下さい】
「「……!?」」
「「……!?」」
そして俺の家から出た、その瞬間。一つの声が俺達の脳内に直接流れてきた。
内容は“アップデート”の報告。“アップデート”の意味は分かるが、何が起こるのかは分からない。本来の“アップデート”に必要無い筈の注意音声が流れ、辺りが大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
「凄い……揺れ……!」
「わ、わわ……地震!?」
「……っ。立っていられない……!」
その大地震と錯覚する程の揺れによって俺達は倒れ、辺りの建物が倒壊して粉塵や砂塵のような塵が舞い上がる。
この国に住んでいるので地震などに対する心得はあるが、今の揺れは地震とは違う感覚があった。
「……っ。終わったか!?」
数分間揺れ続け、次第にその揺れが収まる。まだ浮遊感はあるが立つ事くらいは出来る状態にあり、俺はユメの手を引き、ソラヒメが片手でセイヤを起こして辺りを見渡した。
「……オイオイ……なんだよ……これ……」
そんな俺達の視界には、本来この日本国に存在しない筈の、石造りの建物やビルをも覆う巨大な樹があった。
道路を抉って剥き出しになった焦げ茶色の土が足元に広がり、先程までなかった筈の木々や川が街を埋める。
建物と新たに出現した建物が混ざり合って歪な形の建物となっており、蔦が巻き付き、素材に使われていないレンガが建物の剥がれた部分から垣間見える。
──その光景は正に──現実と幻想の融合。
比喩や物の例えではなく、本当にそう思える代物だった。
「俺達の住む街……いや、世界が侵食されている……」
「ハ、ハハ……アハハ……! リアル型MMORPG……それって、これの事だったんだ……!」
「あわわ……い、一体どうやって……!?」
「世界の融合にアップデート。本当にゲームの世界になっちゃっているよ。しかも、アップデートが出来るって事はこの時点であの首謀者が世界その物に干渉したって事だしね……」
驚愕のあまり、俺達はたじろぐ。
パニック状態には陥らないように落ち着こうとはしているが、この状況で落ち着けという方が無理がある。
(そう言えば、俺の家はどうなっているんだ?)
ふと後ろに視線を向け、俺は自宅の様子を確認する。
折角の拠点。侵食されたら拠点が拠点の役割を果たせなくなってしまうからだ。
「……っ。俺の家が……」
「ライトさん……」
そして当然、侵食されていない訳がなかった。
周りの建物と同じように俺の家も侵食されており、太い樹の根や枝が巻き付いている。先程までなかった高台。崖のような場所に移されており、あわや家その物が倒壊しそうな雰囲気もあるが、その辺は大丈夫らしい。
「いや、外装はあまり関係無い筈……重要なのは内部だ」
呟いて駆け出し、ゲームの機能によって向上した身体能力で一気に崖を駆け抜ける。一瞬で頂上に到達した俺は即座に自宅内を見渡した。
「問題……は大アリだけど、ある程度のスペースは残っているな。場所が場所だから飛行出来るモンスター以外は入って来なさそうだし、一応拠点として成り立っているか?」
見たところ、自然と同化しているが拠点の役割自体は果たせそうな様子。内部は滅茶苦茶になっていても必要な物は無いので取り敢えず、一先ずの心配は要らなそうだ。
「ラ、ライトさん!」
「……! ユメ!?」
……と思っていた矢先、外から声が聞こえてきた。それは悲鳴にも近い声。俺は慌てて家から飛び出し、数十メートル上の崖にて下方を見下ろす。
そして下方には、ゲル状のモンスターの群れに囲まれたユメ、ソラヒメ、セイヤが居た。
既に交戦は開始している。ユメは初期魔法で牽制しつつ、ソラヒメが拳で粉砕。セイヤは生えてきた樹の上から援護射撃をしており、自体は熾烈を極める状況だった。
「周りに他のプレイヤーは居ないか……手伝って貰いたいけど、無理そうな雰囲気だな……」
崖の上は遠方まで見渡せるが、そこに他のプレイヤーは居ない様子。ゲームに参加したくない者が住宅街に戻っていてもおかしくないが、少なくとも今現在は誰も居なさそうである。
となるとやるべき事は一つ。さっさと加勢してあの群れモンスターを片付けるか。
俺は容量無限の入れ物から木刀を取り出し、そのまま装備する。
【ライトは木刀を装備した】
それによって脳内に流れる声を聞き流し、飛び出した勢いのまま落下。そのまま下方に居た二匹のモンスター──スライムを切り捨てる。
「オラァ!」
『『……!』』
弾き飛ばされ、そのまま光の粒子となって消え去る。
やはり群れモンスターはレベルも低く、木の枝よりも攻撃力が上がった木刀なら一撃で沈められるようだ。
それならやる事は決まった。俺はユメ達に向けてそれを話す。
「ユメ! ユメはセイヤと共に援護を頼む! 近接戦は俺とソラヒメで行う!」
「わ、分かりました! 頼みます!」
「まっかせて~。って、またライトが仕切ってる。まあいいか。ちゃっちゃと片付けちゃおうか!」
「了解」
指示と同時に動き出し、俺達程身体能力が高くないユメはセイヤよりも少し低い場所にある樹に登って俺の家にあった杖を持つ。セイヤも既に武器を変えており、少し良いタイプの弓矢になっている。
後は好きにやるだけ。さっさと終わらせるか。
「行くぞ! スライム!」
木刀を大振りで薙ぎ、周りのスライムを消し去る。残ったスライムが身体を硬質化させて槍のように仕掛けてくるがそれを見切って躱し、距離を詰めて消滅させた。
(まだまだ居るな……いくらなんでも数が多い気もする……)
周りに居るスライム達を見やり、その数の多さに思案する。ただの群れモンスターにしてはかなりの多さ。軽く百匹は居るだろう。パッと見た感じだから厳密に数えればそれ以上居る可能性もある。
俺達はまだレベルが10にもなっていない。敵のレベルが1~3くらいだとしてもかなり疲弊する。仮に百匹として単純計算で一人頭25匹は倒さなくちゃならないな。
「倒しているうちにレベルが上がるとしても精々1~3レベルくらいかな……かなり疲れそうだ……!」
「後ろからユメちゃんとセイヤが援護してくれているけど、それでも数が多いね……!」
『『『…………』』』
ソラヒメと背中合わせになり、スライム達に向き直る。
援護射撃があるので比較的戦いやすい状況ではあるが、それでも労力を要するだろう。
しかし余計な事を考えている暇は無い。俺とソラヒメは同時に駆け出し、前方のスライム達を消し飛ばした。
『……!』
「……っ。“レッドスライム”……! まあ、スライム達の群れなんだから当然居るか……!」
次の瞬間、俺の眼前を炎が通り過ぎる。そこに居たのは赤いゲル状のモンスター、レッドスライム。地下通路で出会った少し強いスライムだが、スライムの群れなので居ても何ら不思議ではなかった。
「ユメ! レッドスライムは炎が効かない! 他の魔法を使えるか!?」
「は、はい! 水の初期魔法は使えます! 使える魔法はまだ炎と水だけですけど……」
「十分だ。一気に洗い流してくれ!」
「分かりました! “水”!」
初期魔法で、使えるものは二種類だけ。しかしレッドスライムに水属性は効果的。広範囲に及ぶ水魔法によってレッドスライムは怯み、トドメとして俺が木刀で消し去った。
(けど、いくらユメのレベルが低いからって相性の良い魔法を受けて一撃でやられないなんてな。他のスライムとは一線を画す存在って訳)
レッドスライムはチュートリアル的な立ち位置のモンスターだが、だからこそ耐久力も他のスライムよりはある。
その分経験値もうまいが、これが複数居るとなると厄介だろう。
「はあ! キリが無いね!」
「ああ、通常矢は無限だけど、それでも疲れる」
ソラヒメがそんなレッドスライムを数撃で消し飛ばし、セイヤが矢にて射抜く。
確かに少し数が多い。そうなると、俺の脳裏には一つの疑問が浮かんだ。
「通常の群れモンスターよりも圧倒的に数が多い群れモンスター……もしかしたら、居るのかもな……ボスが……!」
「……!」
「……!」
「……!」
その言葉に三人はピクリと反応を示す。
群れモンスター。そこには群れを率いる存在、ボスユニットが居る事もある。
つまり、このアップデートによってそのボスがこの場に召喚された可能性があった。
「そうなると……探してみた方が良いかもね……!」
「ああ……!」
ボスモンスターの存在は脅威的。今の低レベルな俺達じゃかなり苦戦するかもしれない。だが、探さない訳にはいかなかった。
このゲームをクリアする為にも、ボスの撃破は優先すべき事柄だからだ。
俺とユメとソラヒメとセイヤ。夥しい数の群れモンスターに襲われた俺達は、ボスの捜索を開始した。




