ステージ10-19 モンスターハウス
『『『ガギャアアアァァァァ!!』』』
「来たか……!」
飛び退いた瞬間に飛び掛かられ、俺は白神剣を用いて薙ぎ払い、正面の数体を切り捨てる。
コイツらには光剣影狩の方でも良さそうだな。まあ、どちらも十分に強い剣だけど。
「“トルネード”!」
『『『……ッ!』』』
続くようにユメが他プレイヤーの居ない場所に竜巻を形成。そのまま暴風の嵐がモンスター達を飲み込んで消滅させる。
「はあ!」
ソフィアが矢を射り、前方の多数を消滅。的確な狙いで更に複数本放ち、更なる数を減らした。
「レベルは少し高くなってLv190……奥に進むに連れて少しずつ高くなっているね……“サイコキネシス”!」
「本当、厄介だねっ!」
一方でフレアが超能力を用いて浮かせ、それをスノーが狩る。同時に再び超能力で操り、周りの敵を巻き込みながら吹き飛ばした。
『『『ガギャア!』』』
「火炎……! ──“ウォール”!」
遠距離技を使えるモンスターが火炎を吐き出し、それをユメが一人で塞き止める。レベル差もあるので数が多くとも十分に止められる力もあったようだ。
しかし、俺達を誰一人として攻撃の巻き添えにしないよう守り切るなんてな。もはや魔法使いの領域を越えているかもしれない。
「皆さん! 今です!」
「……! 良し!」
防御壁の内側から駆け出し、粉塵を抜けてモンスター達を打ち倒す。まだまだ数が居るな。本当に厄介極まりない。
純粋に数が多いだけで俺達のスタミナも減るし、この世界で実行出来る攻撃に限りが無くて良かった。まあ、魔法とかのような魔力を消費する力は制限があるけど、その辺の魔力なども自動回復。取り敢えず通常攻撃で早いうちに倒すか。
「そらっ!」
『『『……ッ!』』』
断ち、切断し、斬り伏せる。倒す度に光の粒子が飛び交い、更に踏み込んで斬り上げる。
同時に跳躍して上から攻め入り、着地した瞬間に薙ぎ払って周囲のモンスターを倒し、正面を貫いて貫通させた。
「スキルを使わなければ広範囲を狙えないのは辛いものがあるな。正面の範囲なら何百メートル先にも届くのだがな……!」
『グゲッ……!』
『ガギッ……!』
『ガガッ……!』
矢を引き、射出。正面全ての敵を貫いて粉砕。
確かに“弓使い”のソフィアは範囲技は苦手そうだな。
その代わりに正面の範囲は凄まじい。少なくともこの部屋なら直線上、端から端までは届くみたいだ。
「正面の敵は任せます! 奥の方に居る広範囲の敵は私が倒しますから! “落雷”!」
『『『……ッッ!』』』
広範囲に向けてユメが雷魔法を放ち、空から無数の霆を降り注がせる。
雷鳴と目映い光が飛び交い、大多数のモンスターを倒す事が出来た。やっぱり広範囲は魔法使いのユメに任せるのが一番だな。
「ユメさんにばかり良い格好はさせないよ。攻撃力はレベル的にも低いけど、範囲技は得意分野だからね! “サイコキネシス”!」
『『『…………!』』』
範囲技が得意なのはユメだけではない。フレアも負けじと念動力を用いて上からモンスター達を押し潰し、そのまま床を拉げさせて広範囲を凹ませた。
かなりの強度を誇る床がこうなるのか。超能力者。レベルが高ければ本当に万能に匹敵するかもしれない職業だな。
『バウッ!』
【スキル“炎の雄叫び”】
『ヒュシャー!』
【スキル“氷の息吹き”】
『『『グルァ……!』』』
ペットの二匹も奮闘中。
エンが音を炎の衝撃波として伝え、ヒョウが氷の息を吐く。熱と冷気が混ざり合う中心に風を引き起こし、そのまま焼き凍らせながらモンスター達を吹き飛ばした。
『『『ガギャア!』』』
『『『ゴギャア!』』』
『『『グギャア!』』』
「次の団体様がご到着だ……! 丁重にもてなしてやらなくちゃな……! いや、元々モンスターの棲み家だから俺達が侵入者か」
「自然に湧くのですね……最初の数百体だけではなく、次々と現れるモンスターを一定数倒さなくては先に進めないタイプのモンスターハウスでしたか……!」
「こんなハウスは事故物件よりも安く売って欲しいね。まだ幽霊が出たり孤独死した人が居た過去があった方がマシ……!」
「……? 日本では幽霊物件がそんなに安いのか。それは良いな」
「アハハ! そっか。ソフィアは生まれ育った場所が違うもんね。海外じゃ逆に事故物件とかに住みたがるって聞くからね!」
次々と現れるモンスター。自然発生みたいだな。まあ、俺達が後から来た侵入者だけど。……いや、俺達の後に来たモンスターならやっぱり俺達が先客で良いのか? まあいいや。
取り敢えずフレアが言うように、確かにこんな家は願い下げだな。抵抗出来ないかもしれない幽霊よりかは倒せるモンスターの方がマシかもしれないけど、こうも数が多くちゃ相手にするのも面倒だ。
取り敢えず、まだまだ終わる気配の無いモンスターハウス。さっさと攻略したいけどそう上手くいかないか。
『『『グゲァァァ!』』』
『『『ゴワァァァ!』』』
『『『ギェラァァァ!』』』
「多種多様な鳴き声なもので。皆違って皆良いって感じだ」
モンスター達が飛び掛かり、それらをいなすように躱す。同時に斬り付けて打ち倒す。
一撃で倒せても疲れるものは疲れる。我ながら、さっきからずっとスタミナの事を思っている気がするな。体力の衰えを感じ始めた中年か俺は。けど、スタミナが減るのは事実だし、自然とそんな事を考えてしまうようだ。
「機械型モンスターは見当たりませんね。何百体もモンスターはいますけど、今のところ見ていません」
ユメが現れるモンスター達を倒しながらそう言う。
確かにここじゃ全く見なくなったな。こことは違うまた別の場所に居るとかか? ユメの疑問にはソフィアが答えた。
「簡単に考えるのなら、このモンスターの群れとはまた別の存在という事だろうな。意外と目の前のモンスター達は同士討ちなどもしていない。機械型モンスターは敵視されている可能性がある」
「成る程。確かにその可能性はありますね。人間社会でも異形は弾かれる……人の中なら異形を受け入れる人も一定数居ますけど、身の危険を何よりも理解している動物達は機械型モンスターを受け入れるとは思えません……」
「元の世界でも、普通の動物は人を警戒しているって言うしな。襲って来るのも自らを守る為。未知=恐怖の世界。生身なら最弱って言われている人間も、他の動物達にとっては生身ですら警戒対象。機械型モンスターが群れに馴染める訳ないか」
モンスター達は“NPC”にも近い存在だが、この世界にも生態系があるように生き物がちゃんとした“生き物”として存在している。
つまりここのモンスターハウスのモンスター達は、少なくとも互いの存在を理解しており、俺達が敵と認知しているという事になる。
つまり機械型モンスターがこの中に入るには俺達のような警戒対象になるかもしれないという事。第三者のような立ち位置になってしまう為、同士討ちを避けさせる為にもここに配置させていないのだろう。
『『『グゲガァァァ!』』』
「改めて、通常モンスター達を倒す俺達は一つの命を奪っているって事を理解しなくちゃな。ゲームでは襲って来るモンスターを問答無用で殺すけど、ゲームのような世界というだけでここも今は現実だ」
「はい。元の世界でも常に生き物の命を奪って生きていました。物に感謝し、命を敬い、それを肝に命じておきましょう……!」
「おぉ……これが俗に言う日本人の精神か……! 日本人は古来より物に命が宿ると考え、物を大切にすると言う。目の前でそれが見れて感激だ……!」
「……。ソフィアって意外と日本事情に詳しいんだな。嬉しい事だけど」
「フフ、まあな。日本のANIMEはよく見ていた」
「ハハ、そうか」
襲って来るモンスターに敬意を払い、その場で即死させる。敬意を払って命を奪うというのには矛盾があるかもしれないが、この世界では矛盾をいくつか遂行しなければ生きていけない。
今は魔王軍幹部を探す為にも、早いところこのモンスターハウスを突破しなくちゃならないからな。
「そらっ!」
『『『……!』』』
何度も行った行動。斬る、突く、吹き飛ばす。今更だけど剣で吹き飛ばすってなんだ。前にも似たような事考えたな。まあいいか。
倒した数で言えばユメが一番多い。次いでソフィア。そして俺。基本的に正面の敵しか倒せないからこう言った乱戦にはあまり向かないな。まあ、それを補う速度があるからより高速で動いて倒せば良いんだけど。
「“岩連弾”!」
ユメが土魔法の応用で岩を生み出し、それを弾丸のように放つ。モンスター達は落石や隕石のような岩に押し潰され、光の粒子となって消え去った。
スキルとはまた違った活用法だな。確かに半分が現実なら設定されたスキル以外の使い方もあるな。剣士や格闘家が独自のスタイルで戦う事が出来るのに、万能に近い魔法使いが定められたスキルしか使えないのは道理に合わない。魔術師や超能力者。その他の幅が広い職業に就いている者なら独自のスキルを開発する事も出来るかもしれないな。
「私も少し本気で数を減らすか。“矢の雨”!」
ソフィアは“SP”を少し消費し、必殺スキルに昇格させていない通常スキルを使用。天に矢を放ってそれを増やし、雨のように降り注がせてモンスター達を射抜く。
広範囲に降り注ぐ矢の雨。やっぱり範囲技は便利だな。通常スキルだから消費自体は少なく、ボスモンスターまでに専用スキルが使えるように調整している。見る見るうちにモンスター達は数を減らした。
「ここから一気に畳み掛けるか!」
「はい!」
「ああ!」
「オッケー!」
「うん!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」
斬り伏せ、焼き払い、射抜き、狩り、押し潰す。他のギルドメンバー達も銃で撃ち抜き剣で切り裂き拳で殴り飛ばし、その他にもありとあらゆる方法を用いて敵の数を減らす。
これ程の数を相手にしてここまで全員ノーダメージ。心なしか数の増加も減ったように思える。これはいけそうだ。
『…………』
「……!」
そう思っていた時、他とは違う異質な雰囲気のモンスターが姿を現した。
もう増えなくなってきた頃合いに現れたモンスター。それからするに、このモンスターが当初俺達の予想していた中ボスという事が分かった。
「モンスターハウスも攻略間近か……!」
「その様ですね……!」
『…………』
現れたのは四足歩行の翼が生えた……ライオン? 見た目だけなら機械型モンスターと同じだが、機械的ではない。となると機械型モンスターのモデルになったモンスターか?
「一先ず確認するのは敵の情報だな」
「そうですね」
「それが良いな」
取り敢えず中ボスならそれなりの強さはある筈。俺達は敵のステータスを確認した。
『“空獅子”──Lv350』
「Lv350の空獅子か。レベルだけなら“マイン”の街に来る前に戦ったボスモンスター……ガンと同じだな」
「あの時点でのボスモンスターがここでは中ボスクラスか……まあ、ガンの場合は第二形態としてLv400のカウボーイがあったが、空獅子はこのパーティで一番レベルが高い私達以上だ」
現れたモンスター、Lv350の空獅子。
第一形態とは言え、最近戦ったボスモンスターと同じレベル。やっぱり魔王軍のボスモンスターはこの世界でかなり上位に君臨しているみたいだな。まだエンプレス・アント以上のレベルを持つボスモンスターに会っていない。まあ、Lv500の竜帝も居たが……何て言うんだろうな。例外を除く通常のボスモンスターの中で、それ以上の存在は見ていないと言った感じだ。
ともかく、俺とソフィアとのレベル差は50。必殺スキルを使わなくても何とかなりそうなレベルだが、結構厳しい戦いになるかもしれない。
「一先ず倒して先に進むか……!」
「そうですね……!」
「無論だ!」
「そだね!」
「そうだね……!」
空獅子を前に俺達ギルドメンバーは臨戦態勢に入る。周りにはまだまだLv150~Lv190のモンスター達が健在しているのでもう少しだけ時間が掛かるかもしれない。
ボスモンスターの元に向かう道中で入ったモンスターハウス部屋にて、俺達は中ボスと相対した。




