ステージ1-15 装備調達
『『『『ギギギャァァァ!』』』』
俺の家へと向かう道中。俺達は群れモンスター達とエンカウントしていた。
俺が管理所に向かう時はこの道で群れモンスターに出会わなかったが、今回いきなり出会ったのは案外幸運かもしれない。レベルを上げる事が出来るからな。
モンスター達が一気に迫り、俺達も自身の武器を構えて向き直る。
「よっと!」
『グゲッ……!』
「“ファイア”!」
『ギャッ……!』
「はあ!」
『……ッ!』
「……」
『ガギッ……!』
──そして、一瞬にしてケリが付いた。
俺は木の枝を振るって打ち倒し、ユメが初期状態でも使える炎魔法でもう一匹を消し去る。
ソラヒメは一撃で殴り倒し、セイヤは少し離れた場所で狙撃。的確に脳天を貫き絶命させた。
凄いな、セイヤ。“AOSO”では色々細かく設定されている。急所などもあり、肉質や身体の箇所によってダメージが変わるからセイヤの腕には感心するよ。
「今回の群れモンスターは四匹だけか。経験値は少ないけど、無いよりはマシだな」
「そうですね。私はまだレベルも低いので少ない経験値でも十分です」
「手応え無いなぁ。ボスモンスターとか出てこないの~?」
「ソラ姉。旅立った瞬間にボスが現れたらそれは確実に負けイベントだ」
この辺りに居るモンスターはまだまだ弱いものばかり。やっぱりここは最初のステージって扱いなのかもしれないな。
しかし相変わらず道が遠く感じるな。モンスターを倒しながら進んでいるからなんだろうけど。
「……」
「……? どうした、セイヤ? 浮かない顔をして?」
「「……?」」
モンスターを倒して先を進むが、何だかセイヤが黙り込んで考え事していた。何かあったのか?
俺はそれを訊ね、セイヤは言葉を発する。
「いや、少し気になってな。何か道……広くないか?」
「……? ああ、確かに広く感じるな。けどまあ、出現するモンスターを倒しながら進んでいるしそれの疲労とかで広く感じるだけじゃないか?」
どうやらセイヤは今進んでいる道の広さについて考えているらしい。
俺はそれについて話すが、セイヤは首を横に振って言葉を返した。
「いや、それにしても広過ぎる。体感で今までの倍……。モンスターを倒しながらだとしてもおかしな事だ」
「そうか? 朝管理所に向かって辿り着いた時の時間は普通だったし、別に変わっていないと思うけど。まあ確かにモンスターを倒しながら進んだから少し疲れたけどな」
「それがおかしいんだ。知っての通り今の僕達は身体能力が向上している。それなら、何故ライトはいつもと変わらない時間で辿り着いた? モンスターを倒しながらとは言え、もう少し早く着いても良かった筈だ」
「……? ……。…………! 考えてみればそうだな……道の広さが変わらないなら、身体能力が向上している俺はもう少し早く着けたかも……」
セイヤの疑問が分かった。
それは身体能力が向上しているにも関わらず、いつもと同じ時間で管理所に辿り着いた事。
確かにモンスターを倒しながら進み、途中で飲み物なども購入したが、だからと言って改めて考えるとおかしい。
道の広さがそのまま。今まで通りなら今の身体能力なら歩くにしても半分の時間で辿り着けた筈……いつもと同じなのは逆におかしいのだ。
「ここからは僕の持論だ。けど、もしかしたら──世界の広さが本当に倍以上になっているのかもしれない」
「……っ」
「まさかそんな……!」
「けど、確かにあり得るかもしれないね。流石セイヤ。我が弟ながら頭良いね。ちょっとした変化で気付くなんて」
セイヤの持論は、本当にそうとしか思えない事だった。
この国のみならず世界が倍の広さになっているなら今の疑問に合点はいくからだ。それと同時に、俺の脳裏には首謀者の言葉が過った。
「……もしかして、世界と融合するって、こう言う事だったのか? “AOSO”はオープンワールドのゲームでシームレスのフィールド。俺達管理者は分かりやすいように区切りを付けてステージ別で考えているけど、その広さは無限大。まあ、本当に無限なのかは捨て置き、少なくともこの世界一つ分の大きさはあるかもしれない。それを考えると倍の大きさになっている事も納得が出来る……」
「……。その説、強ち間違っていないかもしれないね。元々あったこの世界に“AOSO”の世界が融合する……つまり本当の意味で世界が混ざり合ったって事。厳密な広さは分からないからあくまで倍以上。だけど可能性は高い。おそらく全人類の身体能力が上がっているからその広さ自体は苦にならないだろうけど、首謀者がどうやって世界と世界を融合させたのか。それが問題だ」
セイヤの言う事は尤もだ。
世界と世界。二つの世界を融合させる事なんて現代の技術でも出来るか分からない。
密かにそう言った研究をしている科学者も何人かは居るかもしれない。だが、何故態々ゲームの世界と現実世界を融合させる必要があったのか。首謀者は楽しませる為と言っていたが、その真偽ももやは定かではなかった。
「……まあ、別に良いんじゃないかな? 世界の融合方法も含めて全部その首謀者に聞けば解決するんだからさ。そんな事を考えるより、私達は私達でゲームを進めて知らない事を色々と知った方が良いと思うよ?」
「「……!」」
俺とセイヤの話にソラヒメが割って入り、冒険の先を促した。
だが、実際その通りだろう。答えは確実に存在しているのだろうが、その答えを知る方法は知らない。それならこのゲームという世界で攻略しつつ情報も集めた方が効率的だ。
「確かにそうだな。今回はソラヒメの言う通りだ。“AOSO”は推理や謎解きのゲームじゃない。現実世界にストーリーがあるのかどうかは分からないけど、ストーリーを進めれば自ずと色々分かるかもしれない」
「そうだな。今回はソラ姉の考えに同意しよう。謎を解くのは嫌いじゃないし、僕はどちらかと言えば推理ゲームとかが好きだけど、“AOSO”には“AOSO”なりのちゃんとしたゲームシステムがある。それに則った上で謎を解くとしようか」
「そうそう! それじゃ、早いところライトの家に向かおうか! ここからなら後十分くらいかな?」
「そうですね。私はライトさんの家に行った事ありませんけど、ライトさんの話からしたらそれくらいかと思います」
この世界の秘密や謎を考えるのはまたの機会に保留。今はゲーム攻略を目的として行動した方が良さそうだ。
なので俺達は改めて俺の家に向かう為、道中のモンスターを倒してレベリングしながら進むのだった。
*****
「特に苦労は無かったね。やっぱりここが初期ステージみたいな感じなのかな?」
「そうかもしれないな。けど、全世界がゲームになっていると考えると、中には最後の街に生まれた人とか居るのかもしれないな。そうなったら始まった瞬間に詰んでるぞ……」
「確かに。僕も世界の地理は人並みには頭に入っているけど、どの辺から敵ユニットのレベルが上がるのか、全世界が初期ステージなのか悩みどころだね」
「それならどこの国と地域でも出現モンスターのレベルは1~10前後なのでしょうか。初期面ってそんな感じですよね?」
「まあ、そうだな。そもそも現実世界が舞台のゲームに後半って概念はあるのか? いや、まあ一般的に売っている現実世界が舞台のゲームには後半もあるけど、この融合した世界にあるのか気になるな」
それから十分後、俺の家に到着した俺達はここまで出会ったモンスターのレベルからして近辺は初期ステージの扱いなのだろうかと考えていた。
首謀者は何を考えているのか分からないが、ゲームをプレイヤーに楽しませようという気概は感じる。それが少し他人とズレているだけのようにも思えた。なのでいきなりラストステージ前のようなモンスターが湧くなどという行為はしないのかもしれない。そうなると俺達が強くなったらどうなるのか気になるところである。
「そう言や、今更だけど管理所みたいに特定の建物以外は上に位置を示す文字が出てこないんだな。俺の家に“ライトの家”……みたいな表記があってもおかしくないのに」
「単純に考えればNPCの家って扱いなのかもしれないな。ほら、勇者ってよく不法侵入して金銭や武器を強奪してるだろう?」
「言い方考えろよ……。まあ、否定はしない。出来ないけど……。もしかしたら国王に勇者は荒らしても良いって言われている可能性もあるさ。……まあそれはいいとして、そうなると俺の家に不法侵入される可能性もあるのかな。火事場泥棒とかは現実世界にも居るし、混乱に乗じて家に入られたら嫌だな」
「まあ、大丈夫だろうさ。外は危険だから家に籠っている人も多そうだし、従来のRPGにも鍵が掛かっていて入れないって家があったりするから、戸締まりさえ確認していれば問題無さそうだ。RPG世界の建物はそんな風に設定されているか、イベント以外で壊れない頑丈な造りだからな」
この世界がゲームになった事から家に侵入される事を懸念した俺だが、セイヤは問題無いだろうと話す。
確かにゲームならゲームのシステムに従って戸締まりとか忘れなければ問題無さそうではあるな。取り敢えず俺達は俺の家に入った。
「お邪魔します……」
「邪魔しまーす!」
「ソラ姉の言い方だと本当に邪魔しに来たようにしか聞こえないぞ」
「ハハ。まあいいさ。親とかは居ないから適当に寛いでてくれ。何か飲み物を持ってくるよ。少し休憩したら武器になりそうな物とかを探そう」
ユメ達を招き入れ、取り敢えずモンスターとの戦闘で疲労した身体を休める事にした。どうやら家の中にもモンスターは湧かないらしい。確かに朝起きた時も居なかったが、休める空間があるというのは良いものだ。
俺はユメとソラヒメとセイヤに飲み物を提供し、ダイニングテーブルを囲むように座ってこれからの行動を纏める事にした。
「さて、と。まずやる事は武器探しだな。俺の家だけど、どこに何があるのか全て把握している訳じゃない。何か使えそうなものがあったらとにかく持ってくる事にしよう」
「はい。それが終わったら今後どうするかを改めて会議ですね。ボスとかも居るのでしょうし」
「ああ。拠点なら管理所があるけど、俺達の自宅を仮拠点にするのも良さそうだからな。毎回毎回管理所に戻るんじゃなくて、戻れる範囲の近場に準備を出来る場所はあった方が動きやすい」
当初の目的は武器探しと今後についての話し合い。それに加え、管理所だけではない仮の拠点があっても損は無いだろう。
俺達には管理者専用のアビリティがある。なのでマズイと判断した場合、“転移”で戻って来れる場所を増やすに越した事はない。
その為にはそこに一度行かなきゃならないが、今後のメリットを考えればそれは良い方向に進む筈だ。
「だから、後でソラヒメとセイヤの家やユメの自宅にもマーキングを付けておく為に向かいたいけど……良いか?」
「ああ、別に構わな──」
「うんうん! 良いよー! 全然オッケー!」
「私も構いませんけど……私達は自分の家から管理所までの範囲は見ているので“転移”で行かないのですか?」
快諾するセイヤとソラヒメ。そしてユメだが、ユメは自宅には“転移”で行けるのではないかと疑問に思っていた。
確かに俺を始めとして朝まで管理所に居た者以外は自宅から管理所までの道を見ている筈。なので“転移”が使えるのでその疑問も当然と言えば当然だ。だが、少し思うところがあるので俺は言葉を返す。
「いや、“転移”の対象はあくまで“自分一人”だから仲間が色んな場所を見ていても結局はその者しか行けないんだ。だから一度全員が向かう必要がある。その一人が先に行って待機していても良いけど、これから何が起こるか分からないし、一緒に行ってレベリングしながら進んだ方が色々と都合が良いんだ」
「成る程……。確かに移動出来るのは一人……だからライトさんもここまで皆で来たんですね……」
「ああ。一人より四人の方が経験値配分も良いからな。貰える“EXP”は同じだけど、同時に仲間も強くなるから動きやすい」
これで話は纏まった。後は当初の目的通り色々と使えそうなものを探すだけだ。
俺とユメ、ソラヒメにセイヤの四人は俺の自宅探索を始めた。
「さて、取り掛かるか」
手始めに俺は自室を中心に探す。
探し始めて数分であった物はナイフ、ハサミ、カッター。ペン。その他諸々。しかしこれだけは絶対に外せない。金輪際使う機会は皆無だろうと思い込んでいたが、まさかこんな形で使う機会が訪れるとはな。運命の悪戯というものは面白い。
……。……何か今中二病入ったな……俺……。
とにかく、それは捨て置きだ。
自室以外にもキッチンや洗面所。その他にもめぼしい所はある程度調べる。別に見られてマズイものがあるという事も無いのでユメ達が調べるのも問題は無い。
それから数十分後、俺達は再びリビングに集まり、自分の見つけた収穫を見せ合う事にした。
「どうだった? 俺の家で言うのもあれだけど、めぼしい物はあったか?」
「はい。それっぽい物なら見つけました。まだアイテム扱いされていないので装備してみないと分かりませんけど……」
「同じく。取り敢えず、使えそうな物は一応見つけたよ」
「色々あるみたいだね。私は基本的に武器を必要としないから、回復アイテムとかになりそうな物を見つけたよ」
俺を含め、全員がそれなりの収穫はあったらしい。おそらく要領無限の入れ物に入れているのだろうから何を見つけたのかは分からないが、今からそれを見せ合うので無問題だ。
「それじゃ、言い出しっぺの俺から言うよ。……えーと、俺が見つけたものは財布とかの貴重品とか、エアガンみたいな俺の職業に関係の無い武器類だな。財布の中身を確認したら一応この世界の通貨になっていたからそこそこ旅の費用はあると思う」
しかしまあ、基本的に最低限の生活が出来れば良いという考えの俺はあまり大した物を持っている訳でもない。無駄な物を買う事もあるが、それでも少ない方だろう。生活スタイルはベッドで寝て、朝起きて朝食。仕事がある日はそのまま管理所に行き、無い日は“AOSO”をしている。なので驚くような品は特に無かった。
けど、俺にはこれがある。最後に容量無限の入れ物から取り出し、取って置きを見せる。
「そして最後はこれ──“木刀”! 修学旅行の時に買って以来、本当の本当に暇な時くらいしか使わないと思っていたんだけど、ついに使う機会が訪れそうだ!」
「は、はあ……木刀ですか……」
「確かにライトにとってはかなり強い武器かもね! 剣士なんだし、刀も大丈夫だろうからね!」
「勿体振る程の物じゃない気もするけど、まあいいか」
反応は上々。ソラヒメの反応が良いだけな気もするが、おそらく気のせいだろう。
何はともあれ、武器が木の枝から木刀に強化。これは中々良さそうだ。ゲームの為に現実でも素振りとかはしていたから、手には馴染んでいる。
やっぱり無駄かもしれない物も残しておくと良いな。この世界。本当に無駄なモノは捨てた方が良いけど。
「えーと、じゃあ次は私が行きますね。……私は杖と傘。ライターに天然水。手持ち扇風機に農業用の土。懐中電灯。……何となく魔法使いとしてそれぞれの属性に合わせた物やそれを扱う道具を見つけました」
「成る程。関連性が無さそうである物か。確かに見方を変えれば魔法になりうる物だな」
「あるどうか分からないけど、暗闇を進む機会があるならライターや懐中電灯は重宝しそうだね。良さそうだ」
「暑い日は扇風機も必要だからねぇ。土は……足止めとかかな?」
俺に続き、名乗り出たのはユメ。
どうやら魔法に関係しそうな物や、構造が魔法に近い物を見つけたらしい。
確かにデータだとしても魔力を込めて炎などを放つ魔法と、燃料を込めて点火させるライター。その他諸々。何らかの要因で起動する物は魔法らしいと言えばらしいかもしれない。
「じゃあ次は僕が見つけた物だ。と言ってもライトの家にあった物だ。ただの日用品を見せつける必要も無いからね。殆ど他の皆と同じ。玩具の弓矢。先端が吸盤じゃないタイプと、ナイフ。記録用のカメラ。市販の薬。絆創膏。包帯にドライバーとかかな」
「ちゃんと考えていますね。いざという時に使えそうな物です」
「無難だねぇ。けど、流石の私の弟! ちゃんと使えそうな物だよ!」
「確かに良さそうだな。けど、ドライバーって必要か? 一応この世界はRPGで脱出ゲームとかじゃないけど」
「備えあれば憂いなしって感じかな。アクションゲームやRPGでもキーアイテムとしてドライバーとかが出てくるのも少なくないさ」
セイヤが見つけた物は色々と利便性の高そうな物。
先端が吸盤ではない弓矢は純粋な武器強化。ナイフは小刀か小太刀代わりになりそうだし、もしも光の粒子になって消え去らない魔物がいれば解体も出来る。市販の薬や絆創膏に包帯も、自動販売機の飲み物が回復やドーピングのアイテムになるこの世界なら強力な回復アイテムになるかもしれないし、ユメが調合スキルを覚えれば多くの用途がある。記録用のカメラやドライバーはよく分からないけど、結構真面目に考えていた。
「じゃあ最後は私だね! 私は冷蔵庫にあった飲み物や食べ物! 鍋にフライパン、ヘラとかお玉。包丁とかフォークとかかな!」
「キッチンに集中しているな……。けど、一見ふざけている物だけど武器や盾になったり回復アイテムになりそうな物ではあるな」
「そうですね。意外とこれらが役に立つかもしれません」
「おそらくヘラやお玉は必要無いと思うけどね……」
ソラヒメの見つけた物は主にキッチン用品だが、案外馬鹿にならないかもしれない。
と言うのも、ちょっとした物や木の枝ですら何かに変わるこの世界。鉄製の物というだけで役立つ可能性はあった。
「こんなところかな。じゃあ、後は意見を出し合って必要そうな物を分けていったり今後について話し合うか」
「そうですね。改めてこのゲームみたいになった世界について話しましょうか。私はもう少しレベルを上げたいところですけど」
「もう! 仮でもリーダーは私なんだからライトが仕切らないでよ! 賛成だけど! 別にライトの為に乗るんじゃないんだからね!」
「ツンデレか。やれやれ。話し合いには乗っても悪乗りは止めてくれよ」
相変わらずの調子のソラヒメを始めとした、旅のメンバー。何はともあれ、今後についての話し合いは重要だろう。
俺達は俺の自宅にて、装備の調達。そして話し合いを行うのだった。




