ステージ10-17 要塞ダンジョン
「行くぞ……」
「「「…………」」」
全員が息を飲み込み、言葉を待つ。
「突撃だ……!」
「「「うおおおおお……!」」」
次の瞬間、サイレンの声と共に他のギルドメンバー達が一斉に駆け出した。
おそらくこのタイミングで他の場所に居るメンバー達も動き出した事だろう。その声の確認は情報共有端末から実行出来る。つまりギルドマスター達は全員が今の瞬間に指示を出したのだ。
「「「…………」」」
全員の突入速度は時速100㎞以上。故にすぐ出入口付近に到達出来るが、なるべく奇襲を仕掛ける為にそこで一時的に停止。先程の指示と掛け声も気合いは入れたがある程度は声量を抑えていた。
出入口からサイレンが覗き込むように見やり、超能力者のフレアと魔法使いのユメを始めとした他の魔法使い・魔術師・超能力者の職業に就くメンバーが力を込める。
「「「“スモーク”……!」」」
「「「“サイコキネシス”……!」」」
魔力を炎と水に干渉させ、煙を放出。それを念動力で操り、要塞内へと一気に充満させる。精々入り口付近の範囲内だろうが、その間は敵から姿が見えなくなる。しかしこちらは専用アビリティを使えば風景を確認可能。気分はさながら特殊部隊だ。
まあ、ただの煙で特殊部隊が使うような特別な成分も含まれていないんだけどな。ある程度見えているにしても同士討ちはしないように気を付けよう。
『『『…………!』』』
【モンスターが現れた】
当然モンスターは現れる。多少の驚きはあるみたいだが、思ったよりは困惑していない。それはモンスターだからか、はたまた俺達がここに来る事を既に分かっていたからか。
「向こうも臨戦態勢か……!」
だがそのどちらにしても構わない。敵のレベルだけなら確認可能。ここに居るモンスター達のレベルはLv150~Lv180。Lv180のモンスターは他のギルドメンバー達にとってそれなりのレベルだが、勝てない強さではない。割とゴリ押しが効くタイプだ。
多分上層に行くに連れて高くなるんだろうけど、下層は問題無い筈だ。
「そらっ!」
『『『グギャッ……!』』』
「“スピア”!」
『『『グゲッ……!』』』
「はあ!」
『『『ギギ……!』』』
「はっ!」
『『『グゥッ……!』』』
「食らえ!」
『『『………ッ!』』』
「私達も仕掛けるわよ! “全攻の舞”&“魔攻の舞”!」
「分かった! “アイスボール”!」
「相変わらず頼もしいねっ! ライト達はっ!」
『ヒュシャー♪』
「ふふ、そうだね。相変わらずで良かったよ。“サイコキネシス”!」
『バウワン!』
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ソフィアの五人で先陣を切って数十匹のモンスターを倒し、後続へと続くようにマイが全体に物理と魔法。両攻撃力上昇のバフを掛け、リリィが氷弾で撃ち抜き、スノーが高速で切り裂き、フレアがサイコキネシスにてモンスター達を上から押し潰す。当然スノーの使い魔である氷蛇のヒョウ。炎犬のエンも戦闘に加わっていた。
マイのバフ効果も相まってこの辺の敵は容易く一掃する事が出来、煙幕を抜けるまでダメージすら受けずの突破に成功した。
敵にとっては視界が悪く、強化された俺達は一方的に仕掛けられる。この状況でなら無傷の突破も容易いだろう。
「最下層は問題無さそうだな。まあ、地下とかがある可能性もあるけど、取り敢えず問題無く進めている」
「はい。この広さですので途中で何人か別行動をする必要もあるかもしれませんけど、敵の強さからしても私達で勝てない相手ではありませんね。ボスモンスターは確実に高レベルでしょうけれど何とかなるかもしれません……!」
「そうだねぇ。まあ、後々の事を考えるよりも今を進まなきゃだね!」
「一理あるね。なるべくダメージは食らわないように、迅速に進む必要がある」
「そうだな。四方八方。全てを警戒する必要がありそうだ」
下層のレベルは低い。いや、高いと言えば高いが、その辺の通常モンスターと同程度。この要塞の階層は不明だが、暫くは楽に進めそうだ。
『『『グギャア!』』』
「簡単に倒せると言っても、こうも数が多いとキリが無いな」
「それ以前に、ライト君達は楽に倒せても私達にとっては普通に強敵よ……。それが何百何千……気が滅入るわ」
「そうだね。マイがバフスキルを使ってくれているお陰で一撃で倒せるけど、効果が切れたら大変そう」
次々と現れるモンスター達を次々と打ち倒す。しかし今話したマイとリリィを筆頭に、他のギルドメンバーにとっては決して楽な相手では無いようだ。その大変さは表情にも出ていた。
一撃で倒せているのはマイの全体バフによる効果が大きいから。確かに今のうちに一気に攻め落としたいところだな。
「……と言うか、なんか凄く機械的な建物ですよね。ここ。西部劇のような景観に似付かない、真逆の世界。近未来的な建物の構造です」
「それと全体的に暗いねぇ。機械的だから視界は最低限確保出来ているけど、それでも気を抜いたら見失いそう」
「確かにそうだな。ファンタジーはファンタジーでも、まるでSFファンタジーみたいな世界観だ」
モンスターを倒しながら渡り廊下らしき道を進み、疑問に思うような表情のユメとソラヒメの言葉を聞いて俺達は辺りの様子を確認する。
近場の街は近世モチーフだが、この要塞自体は近未来的。鉄とも違う特殊合金が素材となっているであろう壁があり、道も同じ素材からなる道。走る度に金属音が響き渡る。これじゃ俺達の居場所を教えているようなものだな。
ソラヒメの言うように全体的に暗く、視界も悪い。煙幕はとっくに抜けたが、それでも周囲は見えにくかった。
迅速な行動を第一として明かりを点けている暇も無いのでこのまま進むしかないが、はぐれないか心配だな。まあ、道に迷ったら入り口に“転移”したりやり方は色々ある。取り敢えず俺は専用アビリティが使えないソフィア、マイ、リリィに注意を向けておくか。
「こんな場所ならどこかに上層に行く為のワープパネル的な物もありそうだな。この強度の天井は打ち抜けなさそうだし、そう言った物を探す必要がありそうだ」
「それか階段かエレベーターですね。フィクションにはワープパネルを作れるような技術力があるのにアナログな方法で進む物も多いですし」
「だな。ワープパネルとかがある城の部下になったら全部の位置を覚えなきゃならないし、最初の数週間は何も出来なさそうだ」
見つける必要がある物は上への行き方。候補で言えばワープパネル。階段。エレベーターの何れか。
作品によっては木を登ったり梯子を登ったり壁を登ったりと様々な方法があるが、取り敢えず上へ行く手段を迅速に見つけなくちゃな。
外から回り込んでいきなり最上階に行くのも良いけど、見た感じこの要塞はドーム型。そう言った行動への対策も当然のようにされていた。
「ハッハッハ。余裕があるな。ライト達は。ほんの数日間見なかっただけでかなりの力を付けているようだ。頼もしい!」
「まあな。それなりにボスモンスターとも戦っている。けど、サイレン達もいつの間にかレベル三桁に達していたし、十分凄いんじゃないか?」
「ハッハ! 俺達も遊んでいた訳ではないからな! いや、まあゲームは遊びだが、そう言う遊びじゃなくて、ゲームの中でゲームをする的な遊び……何もせずにブラブラしていなかったって事だ。つまりちゃんとレベル上げとかにも専念していたって訳だな!」
「ハハハ……この世界だとよくある慣用句にも御幣が生まれるな。取り敢えずサイレンも頼りにしているさ」
敵モンスターが手強くとも、その敵モンスターとのレベルが近いサイレン達にもある程度の余裕はある様子。マイのバフ効果は五分程。たったそれだけの時間だが、それだけの時間で十分な力を発揮していた。
俺達の速度なら五分もあれば少し奥へ行ける。と言うか俺達にもバフが掛かっているからかなり強いかもな、今の俺達。
ま、道中のモンスターのレベルが急に上がる可能性も考えたら決して油断は出来ないけどな。とにかく俺達は分からぬ道を闇雲に進みつつ上に行く方法を探し回る。
『『『………』』』
「……! 何だコイツら?」
「生物……なのでしょうか?」
進む途中、生き物感の薄いモンスターが現れた。
具体的に言えば機械的な身体をしている。肉体が全て金属にも近い物質から造られており、足の数は四本だが何の動物をモチーフにしているのかは分からない。見た目はライオンのような頭に翼が生えた生物。それならグリフォンやスフィンクス。マンティコアがモデルかもしれないな。いや、スフィンクスに翼はないか。
しかし見た目的に今までに出会ったモンスターの中なら肉体の材質はスパイダー・エンペラーにも近い。機械仕掛けの獣……機獣って表現が合いそうなモンスターだな。
『『『……!』』』
「少なくとも、敵意は剥き出しみたいだな……!」
「その様ですね……!」
俺達の姿を確認するや否や、ビームにも近い攻撃を嗾ける。
口から火炎やビームを吐くモンスターも居るには居るけど、コイツらはそれとはまた違う存在だな。人の手が加わったかのような存在だ。
「レベルは他のモンスターより少し高くて、全員Lv185。それだけなら別に変じゃないけど、見た目が全く同じの何十体ものモンスターが全部同じレベルなんてな。この世界で生まれたモンスターにも意外と個体差があったりするし、完全に人造のモンスターみたいだ」
「人造モンスター……しかしおそらくこれに首謀者は関わって居なさそうですね。既に数多のモンスターを生み出せる首謀者がわざわざ他のモンスターを触媒に改造する訳ありませんから……!」
「そうだな。このモンスターは科学の力で強化されている。設定もアップデートも自由自在の首謀者がモンスターを生み出すのにこんな手間は必要無い」
ビームを避け、俺とユメを始めとした俺達五人のメンバーがそのまま正面の何体かを粉砕する。
機獣の動力は光の粒子みたいだが、鋼鉄の肉体は残っている様子。その事から他のモンスターからは逸脱した、生き物とは違う存在という事が窺えられた。
全てを辿れば人類の祖が一人の女性に繋がるように、根本的な部分は首謀者の生み出したモンスターなのだろう。だが、このモンスター達はアップデートも何も関係無く、この世界で生まれている。生命の不思議とかじゃないやり方でな。
つまりこのモンスターは首謀者が生み出したのではなく、意思を持った“NPC”か他のプレイヤーか。首謀者以外によって生み出されたモノと分かった。
まあ、少し身体が硬いけどレベル的に見ても俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ソフィアなら一撃与えれば倒せるくらいだ。
「頑丈なモンスターだな。ここはライト達や魔法使い・魔術師に任せるか……!」
「ああ、任せてくれ。全員パーティだからここで得られた経験値も全員に行き渡るからな!」
サイレンも武器を振るってそのモンスターに仕掛けるが、それは弾かれ体力もあまり減っていない。まだマイのバフ効果が残っている事を踏まえると本当に防御力が高いらしい。
しかしそれもあってか敵の攻撃手段は目視で避けれない事もないビームだけ。動きも遅く、完全な防御特化型モンスターと言う感じだった。
俺達のレベルが同じくらいだったらかなり苦労する、ダンジョン攻略には一番嫌なタイプのモンスターだな。
『『『…………!』』』
「敵がビームなら……! “アイスミラー”!」
次々と射出されるビーム攻撃。それに対してリリィが氷魔術と金属魔術を組み合わせた鏡を形成して反射。刹那に返り、ビームは機獣達の胴体を射抜いた。それによって一撃で破壊が完了する。
成る程な。その辺のバランス調整もされているらしい。ただの防御特化ではなく、敵の一つしかない攻撃を反射させる事が出来れば一撃で倒せる。レベルによるゴリ押しか既存の力を使っての攻略。レベルが高くても低くても攻略出来る仕様のようだ。
「ナイスだ。リリィ!」
「へへっ。ありがとっ! ソフィア!」
「ふふ、良い調子ね」
そんなリリィをソフィアが褒め、リリィは照れたように返す。本当にこの二人も仲良しになっているな。それは良い事だけど、基本的に人見知りの二人がなんでこんなに仲良くなったのか気になる。まあ、良い事なのは変わらないから詮索しなくても良いか。
ともかく、一階の時点でかなりの数のモンスターと特殊なモンスターが現れる、近未来的な要塞ダンジョン。ギルドメンバー全員で仕掛けているにしてもここの攻略は骨が折れそうだ。
魔王軍幹部の拠点らしき要塞の中。全ギルドメンバーは攻略に向けて突き進むのだった。




