ステージ10-15 戦闘前の休日
──翌日、俺達は宿屋の外に出ていた。
空から朝の日差しが射し込み、俺達八人は何人かが伸びをする。
「結局昨日も眠っちゃったな。ユメ達はどうだった?」
「私は睡眠を取りましたね。今日は何となく気分が爽快で好調です!」
「私はライトの寝込みを襲おうかと画策していたが、バッタリ出会したマイに止められたな」
「私はちょっとした徘徊かしら。夜空も眺めたわね。それとついでに見つけたソフィアを止めたわ」
「私はマイに着いて行っていたかな。あと、少し眠ったね」
「うんうん。皆それぞれの夜を過ごせたんだね。今までは朝起きたら簡単な朝食を摂った後ですぐに移動だったから、今までの中で明確な休憩かな。私もバッチリ眠ったよ!」
「僕も睡眠は取ったかな。それなりに眠れたね」
全員何事も無く夜を過ごしたとの事。まあ、約二名から変な話が聞こえたような気もするが、それについては皆がスルーしているように深くは言及しないようにしよう。
何はともあれ、今日は俺達にとっての休日みたいなもの。残りのギルドメンバーが来たらすぐに決戦だし、今日は決戦近くの今日という日を実感しながら過ごすか。
「それで、今日はどうする? 多分明日には魔王軍の幹部との戦いが始まるだろうし、少なくともこの数日じゃ最後の休日だ」
「そうだね。まだ拠点は見つけていないみたいだけど、この数日で街の探索も他のギルドメンバー達が終えているだろうからメンバーが集まり次第始まる。僕達も拠点探しを手伝うか休日を満喫するかかな」
選択肢は大きく分けて二つ。休日を楽しむか魔王軍の拠点探しを手伝うか。
この世界の攻略を目指すなら魔王軍の拠点捜索が一番効率的かもしれないな。殆ど探索済みだとしても早いに越した事はない。
万が一この街で見つからなかったら今度は旧ワシントンDCの方に向かわなくちゃならないし、“もしも”を想定したらその方が良さそうだ。
「俺は事を早く済ませる為にも魔王軍の拠点捜索かな。この街は安全だろうから各個で行動しても大丈夫そうだし、今日は自由行動だ」
「……って、またライトが仕切ってる。一応ここのリーダー私なんだからね!」
「おっと。ハハ、悪いなソラヒメ」
「もう。まあ、別に各個で行動するのは賛成だけどね」
そう、俺達のリーダーはソラヒメ。マイとリリィは元々パーティも違くて別行動なので関係無いが、本来のこう言った決定はリーダーであるソラヒメの役目だ。いつもの癖でついまとめちゃうな。
取り敢えずソラヒメからの許可も降りた。後は俺達で行動を──
「──ラ、ライトさん。拠点探しではなく私達と一緒に街を探索しませんか? そんな事をしている場合ではないのは分かっています。だけど、最近はこの様な機会もありませんでしたし……たまには骨休めをしたいと思います……!」
「ああ。ここ最近移動続きだったからな。基本的に走り続けるかモンスターと戦うかしかしていなかった。一日だけでも休まないか?」
「ユメ、ソフィア」
起こそうとした時、ユメとソフィアが俺を引き止めて街の探索を提案した。
確かに最近はずっと走りっぱなし。それだけならスタミナの消費も少ないが、一日で何百体ものモンスターと戦っているのでその分はスタミナが減るのだ。
それはさておき、俺自身休憩するのも悪くないかもしれないな。だけどそんな事をしている暇があるのか?
「その案は良いけど……俺も居なきゃ駄目か? それ。別にユメ達だけで行っても──」
「「──駄目です(だ)!」」
「あ、ああ。そうか……」
やや食い気味に否定された。即答とも言う。
その圧に押され、俺は思わず口を噤む。凄い威圧感だな……。竜帝やその他のボスモンスターと会った時より威圧があるぞ。何か前も似たような威圧感を覚えたような……。
「ライトさんの根本的な自己犠牲の性格が変わっていません。休むのが私達だけで良いという判断が正にそれです。この世界ではパーティなんですから、私達は出来るだけ一緒に行動したいんです」
「ああ。ユメの意見全てに完全同意だ。言いたい事を代弁してくれた。ライトが自己犠牲精神の強い性格って言うのもここまでの旅で分かっている。自分以外が幸福ならそれで良いという考えはやめてくれ」
「わ、悪い。その考えは改めたんだけどな……なんでだろうな」
自己犠牲。俺にそのつもりは無いが、傍から見たらそう思われても仕方無い発言だったと我ながら思う。もう何度目だ? ユメに何回か同じ事で怒られている気がする。
先人の言葉で三つ子の魂百までと言うが、俺はどちらかと言えば自分が助かりたい側の人間だったんだけどな。この世界の仕様がゲームだから自然とそんな思考になっているのかもしれない。
「分かった。魔王軍幹部の位置はもうすぐ掴めるみたいだし、今日は身体を休める事に専念するよ。考えてみたら一緒に行動はしても、やる事は基本的に移動が戦闘だったからな。確かに休憩は必要な事だ」
「はい。そうしてください、ライトさん♪」
「ああ、それが良い。賢明な判断だ!」
「ハハハ……態度が急変したな……」
打って変わり、満面の笑みを見せるユメとソフィア。この温度差には風邪を引きそうになるが、この二人の笑顔は太陽みたいに心を洗ってくれる。
「それじゃ今日はパーティ八人で“マイン”の街を探索だな」
「うーん、私はセイヤとどこか行こうかな。たまには姉弟水入らずで行動しなくちゃね!」
「……。ふぅん? ふふ、そうね。私もリリィと一緒に別行動でもしましょうか」
「え? それってユメの言葉に反しているような……」
「行っちゃいましたね……」
迅速な行動と共にソラヒメ、セイヤ。マイ、リリィの四人が俺、ユメ、ソフィア、ミハクとコクアの前から去った。
一体なんなんだ? 別に構わないけど、何か企んでいるのかも分からない。
「……。取り敢えず、俺とユメとソフィア。そしてミハクとコクアで街を探索するか」
「そうですね。ソラヒメさん達も今日を休日にはするみたいですし」
「フッ、そうだな。ソラヒメ達は分かってくれている」
行ってしまったソラヒメ、セイヤとマイ、リリィを他所に、俺達も俺達で行動を開始する。
“マイン”の街に来て二日目の朝。俺達八人と一匹は各々で行動を起こした。
*****
「この辺の武器屋には重火器が中心的に置かれているんだな。“銃使い”や“狙撃手”向きの武器が多い気もするな」
「コンセプトの時代が時代で場所が場所ですもんね。自然と重火器の類いが多くなるのかもしれません」
「どれも中級の武器類だな。世界の平均レベルが上がるに連れて売られる武器レベルも上がるのか」
ソラヒメ達と離れ、街をテキトーに探索している俺達は何となく武器屋に入っていた。
棚には様々な武器類が並んでおり、主に重火器が多い。店員“NPC”も何人か居て客も何人か居る。この客人の何人がプレイヤーなんだろうなとどうでもいい疑問が脳裏を過った。
何かあるという事もなく、売られている武器からしても俺達に関係無い。しかしやる事も無いのでブラブラしているのだ。
「何にせよ、武器屋は探索にあまり相応しい場所でもないか。他にどこか行くか?」
「他にも色々なお店がありますし、装備屋とか薬屋とかが良さそうですね。装備屋は何となく服屋みたいな景観ですし」
「服屋か。悪くないな。ライト達の装備は“アナザーワン・スペース・オンライン”内の上級装備。私はまだこの世界の中級装備だからな。新調するのも悪くない」
武器屋にある武器は俺達の職業的には合わない物ばかり。一応剣士用や魔法使い。弓使い用の普通の武器も売られているけどな。まあ、元々光剣影狩が中級上位の武器。白神剣・ノヴァは“AOSO”クリアしてからの武器なので上位も上位で最上位。なので俺には必要無い。
ユメの持つ夢望杖も中級上位の武器なのでこの武器屋に殆ど用も無いのだ。
ソフィアの持つ弓は多分中級装備だが、前述したようにこの武器屋の品々とは関係無い。関係無い事尽くしだな。銃とかを見るのが好きな人なら何時間でも居れるだろうけど、俺達はそうでもないか。
消去法的に考えても向かうなら装備屋の方が良さそうだ。
「んじゃ、装備屋に行くか。ここは武器屋と装備屋が一緒じゃないみたいだしな」
「はい」
「ああ」
武器屋を後にし、今度は装備屋に向かう。“マイン”では武具屋として一括りじゃないみたいだが、すぐ隣にあるので移動するのに苦労はない。
装備屋へと到着した俺達は眺めるように装備品を物色する。
「ここも街特有の装備が多く売られているな。西部劇のガンマン風の衣装があるぞ」
「女性用のドレスもありますね。一応装備扱いみたいですけど、防御力は魔法防御が少し高いくらいです。あ、装備スキルはいくつかありますよ」
「ソフィアの装備が欲しいところだな。同じ中級装備でも世界の平均レベルが上がった今、その時点で売られている装備の方が防御力も高いしな」
売られている装備はイメージ通り。しかしちゃんと相応の防御力は誇っている。目的で言えばソフィア用の装備辺りを探したいところだな。
「私の装備を選んでくれるのか……! ライトに選んで貰えるなんてな……!」
「ハハ、まあ俺だけが選ぶんじゃなくて一緒に選ぶって事だけどな。ソフィアの装備なんだ」
「そうか、一緒にか。それも良いな。ユメも一緒に探してくれるのだろう?」
「あ、はい。ソフィアさんが良いのなら私も手伝いますよ」
「フフ、良いな。そう言うの。まるで友達みたいだ。彼氏と親友に探して貰える日が来るなんて。一ヶ月前までの私からは考えられない事だ」
「か、彼……!?」
「ソフィアさん! 確かに私は親友で構いませんけど……!」
「おっと、そうだったな。しかし嬉しい限りだ!」
少し役職が飛躍し過ぎたが、取り敢えず装備を探すのには賛成らしい。
ここにはガンマン風の装備が多く売られているが、武器屋がそうだったように当然普通の装備も売られている。なので俺達はソフィア用の装備を探す事にした。
「そうか。胴体や腕に足。頭以外にもアクセサリーとして指輪とかピアスとか、バフ効果がある装備もあるんだな。こんなの“AOSO”内にあったっけ?」
「職業別でならありましたね。ライトさんは剣士一筋で、基本的にソロプレイが中心だったようなので対人戦とかでもあまり注目していなかったんじゃないでしょうか?」
「確かに着けていた人も居たような……説明書は読まない派でチュートリアル機能もオフにしていたからな。その仕様なら魔法使いは着けれそうだけど、ユメは着けて居なかったのか?」
「はい。元々“AOSO”内ではレアドロップアイテムでしたし、そもそも拾う機会がありませんでしたね」
「成る程……持っていた人はかなりの強者だったのか。俺もスルーしただけで“AOSO”内のアイテム欄にあるかもしれないな。ソフィアは着けていたか?」
「ああ。一応イヤリングを。この世界でも着けているぞ。ほら、家にあった物だけどな」
そう言い、髪を掻き上げて耳元のシルバーイヤリングを見せる。確かに着けているな。魔法使いや弓使いはともかく、もしかしたらこの世界でなら剣士でも装備出来るかもしれない。
買っておくのは良さそうだ。
「じゃあ、俺達もアクセサリー装備を着けておくか。その方が有利に働くからな。ソラヒメ達にも買っておこう。ミハクやコクアにもな。マイ辺りは既に着けているかもしれないけど」
「それ良いですね。ここではレア度に関係無く買えるみたいですので少々値が張る物もありますけど、モンスター討伐で手に入る金銭も多いのであまり買い過ぎなければ十分揃えられます」
「フフ、アクセサリー交換か。それも友人っぽくて良いな」
「………」
『キュルッ!』
デメリットもなく満場一致で購入が決まった。指輪、ネックレス、イヤリング、その他にも一応一式を揃えておくか。ミハクも頷き、コクアも相変わらず元気な様子。ミハクとコクアに着けられるかは分からないけど、問題は無さそうだな。
まあ、マイ達からしたらこう言うプレゼントが余計になるとかあるかもな。指輪とかのような、質量じゃない方面で、ある意味ではブラックホールよりも重そうな物は止めておこう。
俺、ユメ、ソフィアの三人は装備とアクセサリーを探した。
*****
「よし、これで良いかな。ユメ達は?」
「選びましたよ!」
「ああ、私もだ」
アクセサリーを探して購入し、選んだ物を互いにプレゼントとして渡す。
「では、これをライトさんに」
「ああ。心からのプレゼントだ」
「ハハ、ありがとう。二人とも。女性からプレゼントなんて初めて貰ったよ」
俺はユメから王冠が装飾されているネックレス。そしてソフィアから滴型のイヤリングを貰った。早速それを装備する。
【ライトは王冠のネックレスを装備した】
【ライトは滴のイヤリングを装備した】
「……どうやら剣士の俺も装備出来るみたいだな。じゃあこれをユメに」
「ああ、私もだ」
「あ、ありがとうございます!」
そしてユメには魔法使いっぽいと言う理由で選んだ十字架のネックレスを俺が。ソフィアが月のイヤリングを渡した。ハート型も悩んだけど、それはかなり重いので今回はこれにしたのだ。
【ユメは十字架のネックレスを装備した】
【ユメは月のイヤリングを装備した】
「に、似合ってますか?」
「ああ、バッチリだ」
「うむ。妖艶な雰囲気になったな」
照れながら耳と首元を見せるユメ。耳はともかく、首元をマジマジ見ると胸元まで見えてしまうかもしれないので俺は横目で見る。けど、似合っている事だけは完璧に理解出来た。
「じゃあ、最後はソフィアだ」
「はい、ソフィアさん♪」
「おお……ありがとう……。友人からプレゼントを貰うなんて……生まれて初めての経験だ……このアクセサリー……この命が尽きるまで大事にするぞ……!」
「ハハ、大袈裟だな」
最後にソフィアへと渡す。まあ、ソラヒメ、セイヤ、マイ、リリィ。ここにミハクとコクアも居るので厳密に言えば最後じゃないけど、取り敢えずの話だ。
【ソフィアは鍵のネックレスを装備した】
【ソフィアは翼の指輪を装備した】
そして俺が選んだネックレスとユメが選んだ指輪を着用。確かに女性が女性に指輪を渡すのは重い意味にはならないな。ソフィアは既にイヤリングは着けているし、装備はこれで完了だ。それによって俺達の全体的な物理防御と魔法防御がそれなりに上昇した。
「さて、次はミハクとコクアだ」
「………」
『キュルゥ!』
その後でミハクとコクアにも選んだアクセサリーを着用させる。けどやっぱり表記はされないか。まあそれも想定の範囲内。効果は付与されているかもしれない。
「さて、次はどこへ行こうか」
「どこでも良いですよ。今日一日だけの時間ですからね♪」
「ああ。ライト達と一緒ならどこへでも行ける」
時刻は昼少し前。戦闘前の休日。各々で行動してから二、三時間後の現在。俺達四人と一匹は装備屋を後にするのだった。




