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ステージ10-14 ガールズトーク

「それでは、こちらになります。ごゆるりと御寛ぎ下さい」


 ペコリと頭を下げ、受付兼案内の女性が静かな足取りで去る。

 俺、ソラヒメ、セイヤ、ミハク、コクアの四人と一匹は案内された部屋に入り、剣や弓矢などの武器を下ろして今日一日でようやく明確な休息を取る事が叶った。


「結構良い部屋だな。フィクションの世界によくあるような造りだ。国が国だし、景観も相まってやっぱりハリウッドの世界に入った気分だな」

「そうだねぇ。映画的ストーリーなら何かしらの分岐点になりそう! 窓からモンスターが入って来たり扉からゾンビが入って来たりね!」

「何で全部パニックホラー物なのか気になるけど、ソラ姉の見ている映画は確かに恋愛ラブロマンスとかよりかはアクションやホラーが多いね」

「………」

『キュルッ!』


 部屋の感じはよくあるような造り。しかしそれは良い意味で。

 ガラス窓に木枠があり、そこから下方を見下ろせる。ここの階層は三階。それなりの高さで周りに大きな建造物も無く、街全体を見渡す事が出来た。

 装飾品はベッドや絵画。本棚に今の季節は使われていない暖炉など。テーブルと椅子もあり、ベッドで寛ぐか椅子に座って寛ぐかの選択も出来る。時代が時代なので今の俺達からすればアンティーク系に当てはまる綺麗な家具や装飾品だった。


「取り敢えず一息吐けそうだ。眠るにしても寝ないにしても身体を休める事は出来るしな」


「備え付けの浴室もあるみたいだね。中世のヨーロッパやアメリカ方面はあまりお風呂の文化が広がっていなかったけど、ここは近世。ちゃんとその辺の設備も整っているみたいだ。まあ、本来のアメリカは湯船よりもシャワーだけって言うのが多いらしいけど」


「お風呂があるのは嬉しい事だねぇ。気分がさっぱりするもん!」


 部屋には風呂もあり、休憩するには最適の空間があった。

 確かに中世の海外は日本程風呂の文化が浸透している訳じゃないみたいらしいしな。当然その時代から風呂が浸透している場所もあるが、何はともあれ落ち着ける空間があるのは良い事だ。


「えへへ。ライト。セイヤ。後で一緒に入ろうか?」


「いや、遠慮しておくよ。いい年して姉と入浴なんてね。別に世の中には居るんだろうけど、僕はやめておこう。それに、見た感じスペースが狭いから、三人で入ったらお湯が足りなくなったり、すし詰め状態になって入浴前よりも疲れてしまうよ」


「むぅ。何の感情も抱かないで正論で返さないでよぉ……」


「ハハ……俺も遠慮しておくよ。そもそも部屋分けの理由が理由だからな。てか、血縁のセイヤはともかく知り合い程度の俺を誘うのは変だろ。それじゃただの見せたがりだ」


「そこまで言う? 私は誰でもOKじゃないからね! もう、じゃあミハクちゃん、コクアちゃんと入ろうっと」

「………」


 そう言い、ミハクとコクアを抱き寄せる。当の本人は特に気にしておらず、ソラヒメのされるがままだった。

 元々ソラヒメを無視していたけど、ある程度は慣れたのかもしれないな。全体的に適応してきている。

 それもさておき、一足先に風呂へと向かったソラヒメとそのソラヒメに連れ去られたミハク。休憩にはなるし問題は無いか。

 もう既に夕食も摂ったし、後は本当に休むだけだな。夜も更けてきた現在。俺達は部屋でくつろぐのだった。



*****



「隣良いか? ユメ」

「あ、ソフィアさん。はい。構いませんよ」


 ──夜も更けてきた頃合い、ライト達が近くの部屋で休んでいる頃、もう一つの四人部屋ではソフィアがユメの近くで訊ねていた。

 ユメに断りを入れ、ソフィアが椅子に座るユメの正面に座ってそこから会話に入る。


「マイとリリィは?」


「少し宿屋内を見て回るそうですよ。マイさん達も海外……旅行? は初めてらしく、今日と明日が比較的自由なので折角だからと」


「成る程。フフ、意外と行動的なんだな。あの二人も」


「そうみたいですね。実際、初めて出会った時は私よりもこの世界を知っていましたよ」


「へえ。そうだったのか」


 この部屋にマイとリリィがおらず、ユメとソフィアの二人だけ。基本的に人見知りのソフィアだが、この数週間の旅でなれたのもあって問題無く会話をこなせていた。


「それと……ユメ」

「はい? なんでしょうか?」


 そんなソフィアは急転したように神妙な顔付きとなり、ユメの顔をじっと見つめる。

 それに対してユメはキョトンとした表情になり、ソフィアは言葉を続けた。


「単刀直入に聞きたい。私の勘違いの可能性もあるが……ユメはライトの事をどう思っている?」


「……え」


 それを聞き、ポカンとした表情になる。瞬間的に立ち上がり、慌てるように言葉を発した。


「そ、そんなこと急に聞かれましても……ライトさんは優しくて……ギルド……旧“アナザーワン・スペース・オンライン”管理のバイトをしていた時も新人の私に色々教えてくれて……そ、尊敬しています!」


「そうじゃない。私が聞きたいのはもっと単純な話だ」

「え?」

「更にストレートに聞こう。ユメはライトに好意を抱いているか?」

「……っ!」


 ボッ。と、どこからか音が聞こえてきそうな勢いで顔が赤くなり、口を噤む。

 唐突に訊ねられたライトへの評価。ユメが何も言えなくなるには十分な要素だった。


「見た感じ、ユメはライトに好意を抱いているように見える。これは私の勘だけどな。……だからこそライバルとも思っている。もしそれが勘違いならそれについて指摘してくれ」


「……。それは……その……」


 俯き、何も言葉が出なくなる。ソフィアはそれでもユメの返答を待ち、決心したかのようにユメは口を開いた。


「はい……。私はライトさんを……先輩や友人としてではなく、異性として好意を抱いているかもしれません……」


「フフ、そうだろうな。アレで案外(にぶ)い本人は気付いていないと思うが、傍から見たら割とすぐに分かる言動だ。しかし、“かもしれない”か。自覚はしていないのか?」


「……。おそらく。異性を、恋愛対象として好きになった事が無くて、何をもってして好意を抱く結果になるのかが分からないんです……」


 恋愛経験が乏しいユメは恋愛に対する“好き”がよく分かっていない。だからこそそう言う対象として見る事が出来ない。

 ソフィアは納得したように頷いた。


「フム……確かにそれは考えられるな。私もライトにアピールしているが、元々ソロプレイヤー。他人と関わらなかったからこそ初めての時はライトが好きなのか分からなかった。しかし、今では明確にそう思える」


「スゴいですね。自分の気持ちに素直になれるなんて。私、自分で言うのも結構消極的で……友達と同じ人を好きになったら諦めるを選択するタイプなんです……」


「そうみたいだな。しかし、私も元々はそんなタイプだと思っていた。だが、他人を好きになるという事はその自評価を見直す切っ掛けになった。私はライトを取られたくない。ユメ。お前にもな」


 フッと笑い、ソフィアはユメを見つめる。

 その笑みは含みのあるものではなく、純粋にライバルとして相手を見るようなモノ。その表情を確認し、今度はユメが逆に訊ねた。


「なぜソフィアさんは私にそんな事を? このまま何も言わなければ、私がライトさんを諦めていましたのに……」


「フフ、ただ純粋にガールズトークをしたかっただけだ。そしてその口振り……友達と同じ人を好きになったら諦めるんじゃなかったのか?」


「ええ。元々は。けど、なるべくやれる事はやってみようって思う事にしました。この事、ライトさんには言わないで下さいよ? 変に意識させるのではなく、私自身が本人の前で言わなければ解決しませんから」


「ああ、分かっているさ。この事は私達だけの秘密だ。ないしょ話……これも友達っぽくないか?」


「ふふ、そうですね。私達、親友になれるかもされませんよ。だって私の唯一の秘密を知っているんですもの。まあ、しょっちゅう揶揄からかわれる事からしてもソラヒメさん達も気付いていると思いますけど、私の口からは言っていませんからね」


「親友か。悪くない響きだ。ユメ。これからもライバルではあるが、仲良くしてくれよ」


「こちらこそ。ソフィアさん!」


 互いにニッコリ笑い、相手を親友兼ライバルと定める。二人は話す前に比べ、どこか満たされた様子になっていた。


「ただいま。今戻ったわ」

「帰ったよー」


「あ、お帰りなさい」

「うむ。お帰り。二人とも」


 するとそこに宿屋の探索に出ていたマイとリリィが戻ってくる。

 ユメとソフィアはそれに返し、二人の様子を見たマイが人差し指を顎に当て、小首を傾げながら訊ねた。


「あら? 何だか雰囲気変わったわね。この数分で何かあったのかしら?」


「「……!」」


 マイの鋭い指摘。

 その問いに対し、ユメとソフィアはお互いの顔を見合せ、悪戯っぽく笑って返答した。


「「──秘密♪」」

「何よ……それ……」


 マイはそんな二人に肩を落とし、小さく笑って返す。リリィは小首を傾げていた。

 炭鉱の街、“マイン”に来て一日目の夜。ライト、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ソフィアの五人とマイ、リリィの二人。そしてミハクとコクアの一人と一匹。各々(おのおの)は宿屋にて各々の夜を満喫するのだった。

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