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ステージ10-13 酒場

「サイレン。ラディン、シリウス、クラウン。やっぱり先に来ていたんだな」


「ん? おお、ライト達か」

「おお、お前達も来たか!」

「どうやらそうみたいだね」

「せやな。久し振り……ちゅう程でもあれへんか」


 酒の匂いが充満した騒がしい中を俺達は進み、それらで楽しむ人混みを抜けた先のサイレン達に話し掛けた。

 そんな俺達に気付いたサイレン、ラディン、シリウス、クラウンはその順で話、サイレンは俺の次にユメ達も見やって言葉を続ける。


「集まったな。良し、これである程度のギルドメンバーが揃ったみたいだな。少なくとも主力は全員揃った」


「そうなのか。やっぱり俺達が少し遅かったみたいだな。サイレン達はいつ頃来たんだ?」


「今朝だな。まあ、朝と言っても昼少し前……時間で言えば午前十時くらいだ。その後で氷雪街ギルド。北側ギルド。南西ギルドのメンバーと出会った」


 どうやらサイレン達は昼間のうちに来たらしい。

 俺達は一度日本を横断して進んでいたし結構遅れていると思っていたけど、案外そうでもなかったみたいだな。ほんの十時間くらい。日本とヨーロッパの時差並みの差だ。


 取り敢えず情報は掴めた。ここに向かったギルドメンバーもある程度集まっており、主力。つまりレベルが高いメンバー達は俺達が来た事で全員揃ったらしい。まずは順調だな。道中でやられたという報告も無いし、やられそうになったら基本的にはギルドメンバー専用アビリティで帰れる。集まるだけなら犠牲を出さずして集まれるかもしれない。


「そうか。そうなると、明日辺りにはもう行けるかもしれないんだな?」


「そのくらいだな。明日か明後日には魔王軍の幹部と戦う事になりそうだ。言うなれば、明日が最初で最後の休憩になるな」


「そうか。決戦前夜って感じみたいだ。サイレン達はここでそれについて話していたのか?」


「まあな。と言ってものんびりはしていた。これくらいの喧騒があった方が逆に日常を感じられて良いからな」


「成る程な」


 サイレン達がここに居たのはある種の休憩みたいなものらしい。

 当然話し合いもしていたんだろうし、本当は休憩らしい休憩を取れていないんだろうなと改めて思う。本当、つい最近までゲームの管理仕事をしていただけなのにこんな事になるなんてな。よくもまあ俺達は順応しているよ。


「そう言えば、サイレン達もどこかの宿屋に泊まっているのか? 何なら他のギルドメンバーも拠点があったり?」


「拠点を見つけて泊まっている者も居る。後は幹部の厳密な居場所を探していたり、その辺を散策していたりだな。睡眠が必要無いから一晩中動いている者も居るだろうな」


「へえ。全員ちゃんと役割を持っているんだな。あーあと、ここに来る途中でボスモンスターも倒しておいたから」


「ああそうか……って、マジか? ハッハ、相変わらずライト達はボスモンスターとのエンカウント率と討伐成功率は高めだな!」


「ハハ、まあな。それが良い事ばかりとは限らないけど、今回はレベルを上げられたし、上々の収穫だった」


「そうか。頼もしい限りだな。これからもよろしく頼む!」


「任せておけ……って大きくは言えないな。けど、なるべくやるさ」


 他のギルドメンバーの役割は分かった。

 ついでにここに来る途中で出会ったボスモンスターについての報告も簡潔に行い、俺達は酒場を後にする。

 サイレン達はまだしばらくこの酒場に留まって話し合いを進めるらしい。得られた情報はまだまだ少ないからこそ各自で進めているのだろう。

 取り敢えず俺達は拠点を見つけて、その後で行動を考えるか。



*****



「すみません。空き部屋ありますか? えーと……八人と……一匹? 出来れば二人部屋と六人……いや、三人と三人の部屋で」


「かしこまりました。計八人と一匹。空いている部屋が無いかの確認をします」


 俺達はサイレン達と別れ、一先ず宿にチェックインした。……何か宿にチェックインって自分で思ってて違和感ある言い回しだな。まあいいか。

 外装は木造建築にレンガがいくつか使われた物。内装は案外綺麗であり、木造の床に観葉植物や絵画などよくあるエントランスだった。西部開拓時代のイメージにしては割と綺麗な感じだな。いや、その考えはその時代に対して失礼か。訂正しよう。


 取り敢えず数で言えば俺とセイヤの部屋は二人部屋で大丈夫そうだが、問題はユメ、ソラヒメ、ソフィア、マイ、リリィ、ミハクの六人だな。

 ペット枠のコクアはミハクの帽子みたいな感じになっているので多分大丈夫そうだが、六人部屋か三人部屋二つ。俺達だけで三部屋使う事になるのは何か悪いな。

 そもそもこの人数なので全員が入れるかは分からない。今日はギルドメンバーの団体さんが来ているしな。部屋が空いていても限りがある場合は俺とセイヤで夜回りか野宿でもするか。


「確認したところ、四人部屋が二つ余っていました。お客様方の数に合いますけど、如何致しましょうか?」


「四人部屋か……」


 余ってはいたが、四人部屋。それは結構な問題だな。何かの間違いが起こり兼ねない。その何かは何だって問われたら、イタズラをした子供のように口を噤んで答えられないけどな。

 取り敢えずこれは悩みどころだ。


「仮に俺とセイヤで入るとしたらあと二人……流石に女性と一晩過ごすのはアレだよな。色々と問題がありそうだ。一層の事、俺達は外で待機するか?」


「考え過ぎかもしれないけど、他の女性陣は気になるかもしれないね。うん。別に僕は探索や野宿でも構わないよ」


 流石にな。年頃の異性が同じ部屋なのは結構な問題だ。そもそも俺達二人が部屋に入る前提なのは間違いかもしれない。

 なので女性陣にはくつろいで貰って、俺とセイヤは外で待機する方向で話を進めていた。

 するとそこに、珍しく悩ましげな表情のソラヒメが言葉を発した。


「うーん、そんなの今更じゃないかな? 一晩どころか、部屋有りの拠点を造ったは造ったけど、私達は何日間か一緒に過ごしたんだし、特に何も起こらないと思うよ? ……ライト以外は」

「何で俺をはぶいた……」


 確かに俺達はこの何日間か共に過ごしたが、一応それは同じ建物であっても部屋は別々だった。やっぱり数十センチの距離なのが問題だ。まあ、寝具の位置とかは動かせるから問題無いかもしれないけどな。

 そんな事よりソラヒメが意味深気に俺を省いた事が気になる。ソラヒメはスッと視線を向けた。


「だってねぇ……」


 ソラヒメの視線の先にはユメとソフィア。そしてミハクとコクア。ミハクとコクアは関係無いとして、どっちを見たんだ? 明確に俺へ好意を持ってくれているソフィアか? いや、言い回し的には俺がユメへ好意を抱いているのが既にバレていて、ユメに対して変な気を起こさないかの心配か?

 どちらにせよ、あまり良い目線では見られていないみたいだ。まあ、そんな性格のソラヒメも一応は女性。男性の俺の存在が不安なのもおかしくない。


「俺は何もしないぞ。いや、そもそもまだ泊まる事すら決めていないからな?」


「あ、うん。それについては大丈夫だよ。ライトに何かする勇気がないのは分かっているからねぇ♪ むしろ逆かなぁ?」


 曰く、逆との事。つまり俺がモテる? ハハ、流石にそれはないだろう。

 ソフィアは好意を抱いてくれているが、本来は天地が引っくり返っても有り得ない事柄。この世界になった時点で天地が引っくり返っているかのような状態なので偶然それが起こっただけ。普通は起こらない。それについて返すか。


「逆……? そんな訳無いだろ……だって俺だからな」


「いやいや。分からないよ。ねえ、ユメちゃん! ソフィアちゃん!」


「え、そ、そんな……急にそう言われましても……」

「フム……確かに日本にはYOBAIという文化があるんだったな。それなら郷に入っては郷に従え。つまり私も……」


「いや、ソラヒメの言葉を本気にするなよ二人とも。特にソフィア。ここはアメリカだ。日本の郷は関係無いから!」


 外国人は積極的。どうやら本当にそうみたいだな。いや、思い切って告白したし一人気質でもそう言った性格は養われているのだろう。

 ともかく、そんなソラヒメの有り得ない可能性の言葉に構っている暇は無い。どうするかだ。


「如何致しましょうかお客様」

「ある程度の話し合いはスルーか」


 受付の女性に催促される。しかし全く慌てておらず、文句も言わない。

 【はい】か【いいえ】の選択肢を待ち続けるなんて、本当に“NPC”らしいな。


「一番適正なのは姉弟のセイヤ、ソラヒメと、俺、ミハクかもしれないな。特にミハクに至っては感情すら分からないし」


「もし僕達も泊まるならそれが最善かな。確かにそれなら問題は起こらないと思う」


 仮に四人部屋でまとめるのなら俺、ソラヒメ、セイヤ、ミハクとコクア。この四人と一匹だろう。

 姉弟の二人もそうだが、ドラゴンであるミハクとコクア。感情というものがミハクからは感じられず、そもそもミハクは見た目が少女なだけで性別は不明だ。


「そうかな? 私ライトに襲われちゃうかもぉ~」


「大丈夫だ。もしそうなってもソラヒメの方が筋力はあるからな。レベルは俺の方が高くなったけど、多分すぐに俺が吹き飛ばされる」


「ちょっとそれも酷くなーい? 私が脳筋みたいにさ」


「じゃあ、この配置が妥当だな」

「そうだね。それで行こうか」

「無視しないでよぉ!」


 諸々の理由から各宿泊部屋は決まった。まあ、ソラヒメはともかく、ミハクが嫌がるなら俺達は野営に回るつもりだ。後は最終確認だけだな。


「ユメ達とミハク、コクアもそれで良いか?」


「私は別に構いませんけど……ライトさん達と同じ部屋でも良かったですよ」

「ああ。私も構わないが……私もライトと相部屋で良かったぞ? ユメに同意だ」

「そうね。別にライト君、セイヤ君なら大丈夫だと思うから相部屋でも構わなかったわ。けど、念の為の処置ですものね。今回の配置で構わないわ」

「私も今回の配置で良いよ。それと、私はアナタ達と相部屋は断っていたかな。別にアナタ達は嫌いじゃないからその辺は勘違いしないでよね……今までの男の子達よりはかなりマシな部類だから……」

「………」

『キュルゥ!』


 最終確認の結果、今回の部屋割りで良いとの事。ユメ、ソフィア、マイ、リリィの順でそれを告げる。そして意外にも俺とセイヤと同じ部屋になっても良い意見の者も何人か居た。傍から見たら問題だらけだけど、仲間から信頼があるのは良い事だな。

 そして肝心のミハクも喋ってはいないが頷いていた。言葉の意味はやっぱり通じるみたいだ。

 コクアは相変わらず元気いっぱいに返事をする。


「それじゃ、俺と彼と彼女と少女とペットを一つの四人部屋で」


「私とあの子と彼女とその子がもう一つの部屋でお願いするわ」


「かしこまりました。それでは案内致します」


 部屋割りが決まり、受付の女性に案内される。見たところ一人しかいないのにここを空けても良いのか気になるが、元々余っていた部屋が二つだけなのでもう今回の受付も終わりなのだろう。

 受付“NPC”なので24時間いつここに来ても起きていると思うけど、客人の対応などで一時的に空ける事もあるみたいだ。

 炭鉱の街マインに着いて数十分。サイレン達と情報交換をし、宿屋に来た俺達八人と一匹は一夜を過ごすのだった。

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