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ステージ10-3 道中

 ──時速500㎞。森になった日本列島を進み、白銀の大地を踏み締め、“地形生成”で道を造って海を渡り、早十数時間後。俺達は依然として海の上を走り、走りながらも少し休憩していた。


「はあ……遠っ……!」

「一日中走っていましたけど、まだ海の上ですか……」

「走るだけならスタミナはあまり消費しないけど、やっぱり精神的に来るモノがあるね……モンスターも現れるからそのスタミナも結構減っているし……」

「はぁ……僕も同感だ。走るだけならまだ行けるのに……ため息が出るよ……」

「………」


「むむ……これは思った以上に遠いな……旧中国、旧日本と初めての海外旅行に行ったが……アメリカまでこんなに遠いとは……」

「地図上だと指でピストル作ったら到達出来るくらいの距離なのにね……ちょっとキツいわ……みんなが居てくれて良かった。一人だと完全に飽きていたもの……」

「何だろう、この感じ。疲れていないのに疲れた……」


 そしてそんな海の上、俺達は精神的に疲弊して時速250㎞程に減速しながら進んでいた。まだ時速500㎞は出せるが、気分的にもあまり走りたく無くなったみたいだ。つまり減速が今の俺達の休憩みたいなものである。そんな事も言っていられないんだけどな。

 もう既に第二陣のメンバー達も出発している筈。もしかしたら既に俺達よりも先に行っているかもしれない。


『ギャア!』

【モンスターが現れた】

「……っと、サメ型モンスターか」

「海ですしね。居てもおかしくありません」

「サメって鳴くっけ?」

「声帯が無いから鳴かないけど、小さな音は出すよ……まあ、元々この世界なら鳴くかもしれないね」


「サメは本来人をあまり襲わないらしいが、この世界のサメは積極的に襲うみたいだな」


「そうね。まあ、普通は人を襲わない生き物も襲ってくるし、基本的に大体のモンスターは襲ってくるのでしょう」


「レベルも三桁を越えているし、道中も楽じゃないね」


 同じ景色を見ながら走り続ける事で精神的に疲弊していた俺達の前に現れたLv180のサメ型モンスター。俺達にとっては簡単な相手だが、マイとリリィ。要するにあまりボスモンスターと出会わない者達は大変そうだな。


 因みに現在の俺達のレベル。俺とユメ、ソフィアは皇龍と帝虎を倒したのもあって少し上がり──俺が【Lv257→Lv285】

 ユメが【Lv256→Lv284】

 ソフィアが【Lv257→Lv285】

 と、28ずつ上昇していた。ボスモンスターとのレベル差が100ちょいだとあまり上がらなくなってきたな。それと、今更だけどボスモンスター後は基本的に全員のレベルが同じくらい上がるみたいだな。

 そしてソラヒメとセイヤ、マイ、リリィのレベルだが、ソラヒメとセイヤは以前と変わらずLv257とLv255。しかしマイとリリィの二人はLv180で前に会った時より結構高くなっているな。ミハクは相変わらずレベル不明だ。


「通常モンスターで私達と同じレベルなんてね。少し自信無くすわ」

「うん。複雑な気分」

「ハハ、何か悪いな」


 モンスターのレベルが高い理由は十中八九俺達が原因。その事は推測として話したのでマイとリリィも理解している。

 なので申し訳無さもあるが、取り敢えず今はコイツを倒すとしようか。


「よっと!」

『ギャッ……!』


【モンスターを倒した】

【マイはレベルが上がった】

【リリィはレベルが上がった】


「あ、レベルアップしたみたい」

「敵のレベルが高いから私達のレベルも上がりやすいのは利点かもね」


 サメ型モンスターを倒し、マイとリリィのレベルが上昇する。これで二人ともLv181。確かに平均レベルが高ければ二人のレベルも上がりやすいな。

 そして敵モンスターのレベルによる苦労だが、ここは俺達が居るから高いのであって、サイレン達他のメンバーは多分簡単に倒せるレベルの敵モンスターが出現している事だろう。世界の平均レベルが敵モンスターのレベルになるが、その辺のバランス調整はされている。


「取り敢えず先に進むか。たまにモンスターが現れてくれるお陰で同じ景色が続く事で起きる疲労感も少なくなるし、速度も戻すか」


「そうですね。何度かモンスターと戦っているので疲労は溜まっていますけど、まだまだ走れます……!」


「頑張ろうか。あと更に数十時間!」

「……。気が遠くなるね……」


「これだけ進んでまだ何十時間か掛かるのか……」

「流石に大変ね……」

「はあ……」


「あちゃー……余計な事言っちゃったかな?」


 ソラヒメの言葉によって士気が下がる。いや、ソラヒメは事実を言っただけなので何も悪くないが、その辺は完全に気分的な問題だ。


「うーん……それじゃ、そろそろ休憩にしない? 勉強とかでも眠気をこらえながらするより一層の事寝た方が集中力も上がるって言うし、肉体的にはまだ余裕がある今でも負の方向に向かっている気分を変えなきゃ!」


「……一理あるな。急がなくちゃならないのは変わらないけど、このままの気分で進んだら思わぬ傷を負ったりするかもしれないしな」


 ソラヒメは場を盛り下げてしまった事を気に掛け、減速するだけではない本格的な休憩を提案した。

 そんなソラヒメの言い分は一理ある。実際のところ乗らない気分で行動したら思いがけない事故が起こる可能性もある。海の上で何が起こるのかは分からないが、とにかく休憩には賛成だ。ユメ達にも訊ねてみるか。


「俺は賛成だな。急ぎたいところだけど、別にボスモンスターは移動しない。サイレン達からもまだ連絡はないし、それくらいの余裕はあった方が良いからな」


「私も賛成ですね。休憩や気分転換は必要な事ですし」


「……」

「あ、ミハクちゃんも頷いている! 賛成みたい!」

「僕も賛成だね。体力的な余裕と気分の問題は別物だ」


「ああ、私も休憩出来るならそれに越した事はない気分だ。賛成する」

「そうね。休憩もまた一つの仕事だもの」

「うん。私も良いよ」


 意見は出ず、ミハクも含めて満場一致で休憩に賛成。元々一日近くは走り続けていたし、睡眠が必要無いこの世界でも数時間は休むとするか。

 幸い、海の上でも“地形生成”を使えば簡易的な拠点が造れる。モンスターに襲われても通常モンスターが相手なら安全だ。

 なのでソラヒメの意見に賛成した俺達は早速仮拠点作りに取り掛かった。



*****



「まあ、こんなもので良いか。五分も掛からなかったな」


「“地形生成”をもちいてある程度の部屋と外壁を作るだけでしたものね。本格的な家を造るならもっと掛かると思いますけど、あくまで休憩の今はあまり時間を掛けずにリラックスした方が良さそうです」


「そうだねぇ。これでやっと休めるよ!」

「まあ、その通りだね」


 外壁を造り、個室を造り、俺達の仮拠点が完成した。休憩時間は数時間。まあ、気分を完全に入れ換える必要があるから十時間くらいが妥当かな。逆に行動したくなくなるかもしれないが、その時はその時だ。

 今現在はすっかり日も暮れており、造り出した地形の上でも正面が見えにくいので今回の考えは良案だったな。まあ、目が慣れれば月明かりでも十分に見渡せるが、何度も述べたようにそもそもの気分を変える必要があるので休憩するのが一番だ。


「便利なものだな。ギルドメンバー専用アビリティというのは。私が“転移ワープ”などを使えたらライト達に迷惑を掛けずに済むのに……」


「ハハ、そんな事ないさ。ソフィアは十分やってくれている。これからも頼りにしているぞ、ソフィア。ソフィアも居なくちゃならない大切な仲間だからな!」


「……っ。あ、ああ……うん。頼ってくれ、ライト!」


「ライト君って、案外無自覚なたらしよね……」

「だよねぇ。ソフィアちゃんは本心を伝えたけど、想いを寄せている女の子は他にも居るし」

「……っ」

「へえ? フフ、誰かしら? 興味深いわね。ね、ユメちゃん」

「は、はい! そうですね!」


 ギルドメンバー専用アビリティを使えない事に負い目を感じているソフィアだが、そんな事はない。実際、“星の軌跡の弓矢スター・ロード・アーチャー”に救われた事もあるしそもそも戦闘面や料理面。あらゆる方面で役に立ってくれている。……役に立っているって言うのは何か嫌な言い方だな。何て言おうか。……とにかく、ソフィアは居なくてはならない大切な仲間。その事実だけは変わらない。


 一方でマイとソラヒメとユメが何かを話していたが、よく聞こえなかったな。距離は数十メートル程。普通の会話なら声が届きにくくなる位置だ。陰口とかを言う性格じゃないだろうし、気になるな。いや、女性同士の会話に男が割って入るのは禁忌タブー。ここはグッと堪えよう。


「……って、え!? ソフィア! アナタ彼に告白したの!?」


「……! あ、ああ。そうだな」


 そんなユメ達の近くに居たリリィが声を張り上げて言葉を発する。流石にこれは聞こえた。俺は難聴ではないからな。

 しかし、成る程。ユメ達……というよりソラヒメ達が話していたのは恋バナ。俗に言う男子禁制の神域(ガールズトーク)。もしくは大奥か。それなら俺が入る余地は無い。やっぱり言及しなくて良かった。


「で、付き合ってるの!? アナタ達!?」

「いや、それについてはまだ……」

「それについては俺から話すよ。まあ、返事はしたけど……その、断ったんだ。俺が選り好み出来る身分じゃないって言うのは分かっているんだけどな」


「ええ!? 勿体無い! こんなに良い娘が告白したのにスルーするなんて……早いうちに行動しておかなきゃロクな目に遭わないよ?」


「ハハハ……耳が痛いよ……」

「フフ、大丈夫だ。私の想いは変わらないからな。いずれ振り向かせてみせるさ!」


 俺にはあまり話してくれないリリィだが、珍しく積極的に話し掛けてきた。やっぱり色恋沙汰に興味がある年頃なのだろう。……俺も言えないけど。

 取り敢えず、返事はした。俺自身は出会う女性に無条件でモテるような主人公体質じゃないし、だからこそここぞと言う時にバッと決めなくちゃならない。それが本当に正しい選択だったのかは分からないけど。


 うぅ……改めて胃が痛い。ハーレムラブコメの主人公は最終的に一人選ぶが、よくそんな決断が出来るな。恋が実らない俺としては相手に感情移入して自分より相手が傷付かない事を優先してしまう。結果として傷付けてしまったかもしれないけどな……。

 ……いや、こうやって優柔不断に答えを導かない方が結果として相手を傷付けるのかもしれない。それなら正直に話した方が良い筈だ。きっとな。

 けど、俺にはまだ迷っている節がある。相手の気持ちは優先したいし、だからと言って人生に重要な事柄を妥協で済ませたくはない。我ながら面倒な性格だな……。ソフィアのこう言った事柄に対しての前向きな性格と姿勢を見習いたいよ。


「さて、僕はすっかり蚊帳の外だ。ライト。モテるのは良いけど、ちゃんと相手の気持ちを尊重するんだよ」


「セ、セイヤ……お前なぁ……」

「ふふ、冗談さ。君が選んだ道。後はソフィアの行動次第だからね」


「フフ、良い考えだセイヤ。私は必ずライトを振り向かせてみせる。その考えは変わらない。……しかし、セイヤはライトのような恋愛対象と違うが、人柄はかなり好きなタイプだ」


「ああ、ありがとう」

「何かセイヤって女性慣れしているな……」

「まあ、上が上だからね」

「あぁ……」


 セイヤが妙に落ち着いており、女性慣れしている理由。それは完全にソラヒメが原因だった。セイヤ自身は苦労しているんだろうけど、結果的に耐性が付いたみたいだな。


「えーと……その、そろそろ休憩しませんか?」


「ん? ああ、そうだったな。それが目的だ。すっかり話し込んじゃったよ」


 話に一区切り付いたところでユメが提案する。というより、本来の目的がそうだった。

 なので俺達は生成した地形による建物に入り、旅の疲れを癒す。

 俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ソフィア、マイ、リリィ。そしてミハク。八人の旧アメリカ州に向けた珍道中は、一日目を終えるのだった。

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