ステージ9-9 ギルドからのメッセージ
「侵入者はどこに──……あれ? 侵入者って何の事だ?」
「さあ? だが、確か領主の命で屋敷の護衛を……いや、領主なんてこの村に居ないしな……」
「あーっ!? おい! 村の遺産の屋敷が消滅しているぞォーッ!?」
「な、なんだと!?」
「村起こしの希望が……」
「……。なんか、下が盛り上がっているな」
「はい……というより、盛り下がっているとも取れるような……」
「フム……私達がしでかした事だが……悪い事をしてしまったな……」
戦闘が終わり、俺は足場にしていた地形を消し去り、地面に降りて屋敷跡地を悲しそうに眺める見張り役達を眺めていた。
どうやら見張り役達は本当に洗脳されていたみたいだな。けど、皇龍と帝虎。勿論あの悪代官にも催眠などのような力はなかった。そもそも悪代官は死体が肉付けされて操られていただけ。謎は深まるばかりだ。
「取り敢えず、俺達が疑われる事は無くなったみたいだな。洗脳というか催眠というか、それが解けたならここでの行動は安心か」
「その様ですね。それと、ミハクちゃんはどこに居るのでしょう……? 白い光が来た方向を考えると、それなりの高さとそれなりに離れた距離に居るのは分かりますけど……」
「うむ。確かにそうだな。私達にはミハクの居場所が分からない」
「そもそも何でミハクはあんな場所に居たんだ? いや、まあ必ず居たって確証はなくて、あくまで推測の段階での判断なんだけど、その推測での距離がそれなりってのはほぼ確実だろうからな」
俺達が普通に行動出来るようになったのは良いが、ミハクは相変わらず行方不明……ってのは少し大袈裟か。取り敢えず、居場所が分からないのが気掛かり。まずはミハクの探索が先だ。
「ん? ああ、そこに居る……観光客? ここから先は何故か建物が倒壊しているから気を付けるんだよ」
「全く……何でこんなことに……」
「後片付けが面倒だぞ……」
「怪我人が出なかったのは幸いだが……」
「あ、はーい。気を付けます」
見張り役だった者達に声を掛けられるが本当に何の問題も無い様子。ミハクの居場所も、位置は大凡だが分かっている。そこに向かって進めば良さそうだ。
「ミハクは自分の意思で離れたのか、どうなんだろうな。元々一人で行動していたし、もしかしたら自分から離れた可能性もある」
「確かに私達が勝手に連れてきたようなものですもんね……」
「そうだな……確かにミハク自身は何も言わなかった」
来た当初と違い、何となく活気のある村を進み、ふとミハクについて考える。
考えてみれば、いや、考えるまでもないか。ミハクは別に自分から望んで着いて来た訳ではない。着いて来てくれはしたが、俺達が誘ったとも言える。
もしも自分の意思で離れたのならば探すのは俺達のエゴなんじゃないかとも思った。
「……」
「あ、ミハクちゃん」
「自分から戻って来てくれた……」
「どうやら私達の杞憂だったみたいだな」
そう考えていると、ミハクは自分の意思で戻って来る。
たまたま近くを通っただけの可能性もあるが、来るや否やユメの側に近寄ったのでどうやら本当にミハク自らの意思だったようだ。
相変わらず無言だが、俺達に最低限の信頼はあるらしい。多分。
「よっ! 兄ちゃん! 買ってかないかい? 薬草十茎で銅貨1枚。1Bだ!」
「回復アイテムか……じゃあ、それを10スタック」
「まいど~!」
薬草一つで0.1B。加工すれば回復の薬の材料にもなるし、状態異常に対する薬にする事も出来る。それがこの値段なんて破格だ。
売っている物は店が違うので当然違うが、ボッタくろうとしていた商人とは思えない変貌振り。逆にそれが不気味な疑問になりうる。
「やっぱりこの村の住人達は何者かによって操られていたみたいだな。“NPC”という事を前提としてもこの変貌振りはおかしい」
「どうやら本当にその様ですね。商人はまだしも、奴隷のように扱われていた村人達ですら何事も無かったかのように過ごしています」
「不気味だな。操られて戦う相手や、いいように利用される者はフィクションの世界によく居るが、先程までを知っている私達から見ればかなり不自然だ」
「……」
何事も無かったかのように決められた動きをする“NPC”。その人型が織り成す規則的な行動は見る者が見れば恐怖を覚えるかもしれないものだった。
まあ、俺達が感じている違和感はそれとは全くの別物。先程まで操られていた者達の変貌と、すぐ近くに元凶が居るかもしれないという、恐怖にも近い感情からなるものだ。
「多分皇龍も帝虎も、当然あの悪代官も操り主じゃない。魔王軍がアジアを狙っているかもしれないと考えれば、その幹部が仕掛けてきたのかもしれないな」
「考えられるのは金銭と労働力の為でしょうか……。まあ、フィクションによくある悪役は強盗とかを働くので、何で金銭が必要なのかは分かりませんけど」
「そう言や、金とかよく集めてるな。悪役は別に法に縛られている訳でもないし、奪えば良いから食料や人材とかならともかく金銭は必要無さそうなのに。何で面倒なやり方で必要無い金銭を集めているんだ?」
「基本的に裏取引的な感じで国がバックに居るのもよくあるな。必要悪的な感じだ。金銭は買い物以外にも“人間”を扱うに当たって便利だからな」
「魔王軍が居るとして、全ての部下が必ずしも暴虐の限りを尽くしている訳でも無さそうですね。上手く人里に溶け込んでいる可能性もあります」
魔王軍の狙いはこの大陸全土。その理由を色々と推測する。
単純に考えれば金品や人材。
略奪などを主流としている魔王軍にそれらは必要無いかもしれないが、この世界では数年間(という設定)で人類を手中に収めていないのを見るに、俺達主人公のような存在が元々居る設定という事が窺えられる。
その存在によって魔王自身は滅ぼされていないが、邪魔が入る事で世界征服も達成出来ていないのだろう。
だからこそ人類に魔王軍のスパイ的な存在を忍ばせる事で有利に運ぼうという魂胆らしい。
その為、スパイは金銭などを使い、人間達の生活に合わせている。表沙汰になら無い程度の洗脳術などを使って着実に進めていると考えるのが妥当か。
「色々な事柄の為に資金も必要。魔王達も割と苦労していそうだな」
「ふふ、そうですね。……しかし、この村のような場所が他にもあるかもしれませんし、呑気な事は言っていられませんね」
「ふむ、ライトとユメも私と考えている事は同じか。やはりスパイのような存在が居る可能性は高い」
ソフィアの言葉に俺とユメは頷く。
どうやらユメとソフィアの二人も考えは俺と同じみたいだな。
まあ、少し考えれば思い付く推測か。独自の国家を持ち、人里の金銭を必要としない魔王軍がそれを集める理由は人里に溶け込む為。世界征服は力だけじゃ反乱の意思を生むからな。上手く取り込んで行く必要がある。……って、俺は裏ボスか何かか。
まあいいか。ともかく、思った以上に魔王軍は人類に干渉しているかもしれないな。
「…………」
「……ん? どうした? ミハク」
「…………」
「「……?」」
そんな事を話、考えている時ミハクが何もない方角をボーッと眺めていた。本人は無言を貫いているが、何もない訳ではなさそうだな。
フィクションの世界じゃ“いや、気のせいだ”とか“何でもない”などで誤魔化される事柄だが、ああ言ったパーティの実力者や勘の鋭い者が遠方を眺めていれば必ず何かがそこにあるのは明白。
俺達三人もミハクの見ていた方向に視線を向ける。
「あそこは山の方だな。いや、その前に森があるから、もし何かが居るなら山じゃなくて森の中か。ミハクが数キロ先の存在を感知した可能性もあるけど」
「何れにせよ、隠れるにはもってこいの場所ですね。気配とかを感知出来たら良いのですけど、一般人の私達にはそれも叶いませんし」
「私達にも感知スキルが欲しいところだな。五感は元より向上しているが、それとスキルとしての“感知”と比べたら雲泥の差。特に私やセイヤのような、他の職業よりは感覚が鋭くなっている“弓使い”でも感知出来る範囲は限られているし、必須クラスのスキルだ」
「感知スキルか。確かにあると便利だな。自動感知なら不意討ちの対策にもなる」
感知スキルの存在。よくあるスキルだが、実際にそれを扱えたらかなり便利だろう。
元々“AOSO”にもスキルとしての“探索”はある。ゲーム内で結構便利だったそのスキル。それでもやはり範囲は限られているが、普通に感知するより広い範囲の事を理解出来る。
「……まあ、感知云々は置いといて、あの方向に行くかどうかだな。何かあるとしてもそれは敵か味方か分からない。けれど重要な何かではある筈。もし敵だった場合のリスクを考えると悩みどころだ」
「そうですね。レベルアップボーナスで体力なども回復しましたけど、あれが魔王軍の幹部ならばソラヒメさんとセイヤさんが居ないと大変そうです」
「ああ。何かしらの情報は得られるのだろうが、利点とリスクを天秤に掛けると必ずどちらかが正しいという訳でもない」
「さて、どうするか……」
俺達が森の方に行くか考えていたその瞬間、ギルド間で情報共有に使っている端末から音が鳴った。
「「「………!」」」
その音に俺達三人は反応を示す。
この端末は基本的にミュートにしているが、緊急事態の場合は音が鳴るように設定されている。つまりギルドで何かが起こったって訳だ。
「電話じゃないな。メッセージメールだ」
「一体何が?」
「私の端末にも届いている。一先ず見てみるか」
俺達はその端末を開く。緊急事態なら急いだ方が良いからな。端末を開くのに慎重になる必要は皆無だ。
俺達三人はそのメッセージに視線を通した。
『──全ギルドメンバー・その協力者達へ。
魔王軍の幹部を確認。手の空いているギルドメンバー、及び協力者には日本支部関東ギルドに応援を求む』
内容自体は簡潔なもの。まあ、知られちゃマズイ情報でもないし、難しい言葉回しで回りくどくする必要も無いしな。
けど魔王軍の幹部か。もしこの情報が正しければ三体目の確認だ。
「ライトさん。これって……!」
「ああ、そうみたいだな。応援を求めているのを見るに、相変わらず魔王軍の幹部は強敵みたいだ」
「これは行った方が良いかもしれないな。ミハクの事が気掛かりだが……」
「そうだな……」
魔王軍の幹部目撃情報。ギルドメンバーとして、元の世界で生活していた身としてそこに行かない訳にはいかない。
だけどそうなった場合、ミハクが心配だ。
元々俺達がソラヒメ達と分かれた理由はミハクの事があるから。ソラヒメとセイヤがギルドに首謀者の事はともかく、ミハクの事を説明しているかどうか。悩みどころである。
取り敢えずミハクの様子も確認してみるか。
「ミハク……ん? ミハクー?」
「あれ? ミハクちゃん……?」
「また消えた……?」
ふとミハクの様子を確認してみたが、近くにミハクは居なくなっていた。
やれやれ。かなり自由だな。今は結構大変な時なんだが、ミハクは心配。なので取り敢えず当初の目的通りミハクを探すか。もしかしたら何かに巻き込まれている可能性もあるからな。
俺、ユメ、ソフィアの三人はギルドから緊急事態の連絡を受け、行動を起こす前に一先ずミハクの捜索に移るのだった。




