ステージ9-3 怪しい村
「お、見えてきた。あそこは確実に村みたいだな」
「国が国ですので中華街みたいですね。少し規模が小さいので中華村? ……でしょうか」
「ああ。確かに村と言える代物ではあるな」
「………」
食事を終えて森を進み数時間。徒歩で街や村を探してここまで来たが、徒歩の割には割と早く辿り着いたな。
村の景観は全体的に中国感は少なく、木造建築であり屋根も木造や茅葺きの屋根。一昔前……この国で言えば数千年前の村と言った感じだな。
元々何千年も前に技術を日本に渡らせたのもあり、案外造りは日本にも近い感じだった。
「……けど、そこまで裕福な場所じゃないみたいだな。全体的に痩せこけている。村人もだけど、土や建物もな」
「大国ではありますが、だからこそ国の目が細部まで届かず割と貧富の差が激しいですからね。それがそのまま反映されたのでしょう」
「ウム。割とシビアな世界だな、ここも。まあ、村というのは基本的にそう言うものなんだろうけどな」
第一印象は貧相な村。しかしこう言う場所にこそ何かがありそうな気もする。
まあ、今まで寄った街は“レコード”や“トラベル”の街を除き、案外問題を抱えていないところが多かったけどな。
「おお……旅の人や。ここで一つ食事でもしていかんかね?」
「いや、食べて来たから遠慮するよ」
「おお……旅の人。良いもん売っとるよ。薬草十個で銀貨五枚。5Sでどうですか?」
「相場より高いような……遠慮しておきます」
「武器は要らんかね。剣一本金貨一枚。1Gだ! “弓使い”の姉ちゃんは弓でも要らんか? これも本来は1Gだが、特別に銀貨八枚。8Sにまけよう!」
「そ、そうか……それなら……」
「遠慮します。行くぞ、ソフィア」
「あ、ライト……!」
「「「チッ……」」」
やれやれ。複数の舌打ちが丸聞こえだ。
分かっていた事だが、貧困の村では現実でも金銭の要求が多い。その知識を知ったのは現地じゃないけど。
まあ要するに、凄くぼられるって訳だ。それ程までに金品にがめついなら何で貧困の危機に瀕しているのか気になるけどな。
(……そう言えば……商人は割と良い服を着ているな……村人は皮や麻を簡単に加工した、洗濯もロクに出来ていないような服だけど……)
「ライト……その……手を……」
「ん? ああ、悪い。完全にぼったくられていたから……ついな。気を悪くしたか?」
「い、いや……寧ろ……」
「……?」
「な、なんでもない!」
ソフィアは何かを言い掛けたが、その言葉は話さない。色々と気になるけど、それは一先ず置いておこう。ユメとも合流し、俺は人気が無い建物の影に二人を誘い込んだ……ってこの言い方は語弊があるな。
要するに話し合いをする事にした。
「なあ、一つ気になるんだけど……この村……村の中だけで貧富の差が目立っていないか?」
「え?」
「む?」
「ほら……例えばあの商人や何かを売っている人達……」
「「……!」」
建物の影から様子を窺い、指で差し示してユメとソフィアに俺の疑問を話す。
人に指を差すのは悪い事だが、今回はそのルールを作った人も納得してくれるだろう。何故ならこの村にありそうな“闇”を払えるのかもしれない事だからな。
俺が説明したのはさっき思考した事。服装や容姿。肉付きなど疑問が浮かんだ事柄だ。
「た、確かに……物を運んだり畑仕事をしたり、その他の雑用を行っている村人達は疲弊しています……」
「目の隈……ボロボロの衣服に洗われていない汚れた身体……共に働いているにしては呼び込みをしてぼったくっているだけの商人との差が激しいな……」
「ああ。まるで商人以外の村人が奴隷みたいにな。……それと、気のせいか村の人口の割には若い女性が少ない……そして奥の方に見えるこの貧相な村に似付かない豪邸……そこを出入りする、村自体には数が少ない若い女性……」
「「……っ」」
そこまで言い、俺が思った全ての疑問を二人は理解した。
そう、“そういう事柄”に対しての女性の扱いの悪さはフィクションの世界ではお馴染み。ユメ達に配慮して皆までは言わないが、この村の領主がかなり怪しい。
「ライトさん。ちょっとあの家燃やしてきます」
「ユメ。私も同行しよう」
「待て、落ち着け。二人とも……!」
やはりそういう事柄について目に見えた嫌悪感を示す。男の俺でも気分は悪い。当然だ。
しかし行動を起こすのが早過ぎると絶対に不利に陥る。意思を持ち始めたとは言え、ただの“NPC”がここまで格差を生み出せる訳がないからな。絶対に真の黒幕が居る。だからこそここは慎重に行くべきだった。
俺は“夢望杖”を構えるユメと“星の軌跡の弓矢”の構えに入ったソフィアを止め、これ以上暴走させぬ為にも二人を誰も居ない建物の中に引き込んだ……って、より言い方が悪化した。
「多分あそこには糸を引いているボスモンスターが居る。蜘蛛型モンスターって訳じゃなくて、操っている人が居るって事だ。人かどうかすら危ういけどな。……ともかく、村人の一部は操られているだけの可能性も高い。“NPC”とは言え、操られているだけの村人を殺めるのは気が引ける」
「……。確かにそうですね。少し先を急ぎました……」
「ああ。私が考えたのは女性としての尊厳を穢す行為……だが、穢された者には罪はない……怒りに身を任せて罪無き被害者も殺めるところだった……」
二人とも分かってくれたみたいだ。
村人が操られている可能性を考えれば、無闇矢鱈な突撃は相手の命に関わる。この貧富の差だけで領主が最低最悪の下衆野郎という事は分かるが、行動を起こすにしても一旦視察は必要だ。
「けど、この村の様子を見る限り何の情報も与えてくれないだろうな。多分商人は領主の手中の者。重労働させられている村人達も厳しい罰によって既に調教されているだろうからな。普通の人間なら話し合えばどんな状態でも話してくれる可能性はある。むしろ、死ぬ事を視野に入れている人なら最後に復讐をしたいって力を貸してくれる筈だ。だけど、自我を持ち始めているとしても“NPC”からまだ大きな進化はしていない。だからこそ設定されたルーチンの元での行動が常だ」
「そうかもしれませんね。精神を壊された人なら救いの余地はありますけど、謂わば設定を書き換えられたコンピューター。情報提供ルーチンが組み込まれている“NPC”でなければ情報は与えてくれないでしょう……」
「元が中国だけあってこんな小さな村でも村人の数はそれなりにいる。情報のルーチンが組み込まれた“NPC”の数は全体の一割だと仮定して、それでも私達だけで探すのが大変だからな……」
情報収集。従来のRPGならやけに詳しい村人が様々なヒントをくれるが、この世界の村人はどうか分からない。“復讐”や“情報”のデータが入った村人の捜索は大変そうだ。
「こうなったら……まだ戦争は引き起こさないけど、領主の家に突撃して牽制した方が良いかもしれないな」
「「牽制?」」
ユメとソフィアがハモって言葉を発する。それについてある程度説明するか。まずは俺だけが行けば良い。
「ああ。作戦は──」
「成る程……」
「フム……」
その作戦について話し合う。俺達は元々人通りが少ない場所の、更に誰も居ない建物の中に居る。これなら作戦を聞かれる可能性は今から一瞬後に世界が滅びるくらいあり得ないだろう。
まあ、世界五分前説とか一瞬後に滅びる可能性は0じゃないとか色々言われているけど、今の俺が居る今の時間が現在なのでそんな頭の良い人しか考えないような事は無視だ無視。
ともかく、集中出来るので作戦はすぐに決まった。なので俺達は早速その作戦の為の行動に移るのだった。
*****
「あのぉ……すみません。一つ窺いたいのですがよろしいです?」
「何だ貴様。見ない顔だな。此処は余所者がそう易々と近付いて良い場所ではない。帰れ」
「ああ、さっさと帰れ」
作戦実行の為、俺は領主の家と思しき建物へと近付いた。
当然門番は居る。しかも二人だ。だからこその俺の役割。俺達には特権があるからな。上手く引っ掛かってくれたら良いんだけど。
「ほんの少しお時間を頂けるだけで良いんです。ほんの数分。ざっと数百秒。その僅かな時間だけお話を……」
「ならん。帰れ!」
「帰らねば痛い目見るぞ!」
少し声を上げて怒鳴られる。上々だな。
見た感じ、出入り口は四ヶ所。塀を挟んだ四ヶ所にある。
まあ、真後ろの方は大丈夫として、ここと左右の門番を何とか出来れば後は何とでもなるな。その為にももう少し問題を起こしたいところだ。
「そんなー! 頼みますよーッ!」
「……っ。五月蝿い!」
「喧しいぞ!」
なのでわざとらしく大声を張り上げて門番にも声を上げさせる。
そうする事で他の場所にもその声が届く。もう少し粘れば他の見張りもやって来る事だろう。
「オイオイ……一体何事だ」
「騒がしいな」
「……!」
そんな事をしていると他の見張り役がまんまと引っ掛かった。案外上手く行くもだな。単純な方法だが、割と有効らしい。
後の問題は他に見張りが何人居るか。正面には二人。単純に考えれば他の場所にも同じ数居る事だろう。左右から一人ずつ来たのを見れば、残り一人ずつが見張り役の門番として残っている。つまりその者達を引き摺り出す必要がある。
「あー、お前達か。何か知らんがコイツが突然押し掛けてきてな。話を聞きたいと訊ねてくるんだ」
「そんなもの、殺してしまえば良いだろう。どうせ誰にも気付かれないんだ」
「そうだな。それが一番手っ取り早そうだ」
おやおや。何とも物騒な会話をしてらっしゃる事で。
だが、これを逆手に取れば他の門番を呼び寄せる事が出来るな。
「そんなー! 俺を殺すだなんて。ちょっと話そうとしただけで危険な事……!」
「大丈夫だ。一瞬の苦痛に耐えるだけだからな」
そう言い、手に持った槍を構え、俺に向かって突き刺した。それを俺は紙一重で避け、槍を掴んでそのまま腹部に拳を叩き込んだ。
「……ッ!」
「ほらね。だから危険と言ったでしょうに」
「ぐっ……貴様……!」
生憎今は武器を持ち合わせていないが、“NPC”を倒すだけならこのままで十分だな。レベル差もあるし、倒し切れなくても一時的な“気絶状態”にする事くらいは出来る。
「オイ! くっ、貴様……何者だ!?」
「ただの旅人ではないな……!?」
「死にたくなかったら大人しく応えろ!」
「いや、どうせ返答しても殺られるだろ。だから……今からアンタらを死なない程度に倒すからお仲間に助けを求めた方が賢明だぜ?」
「……っ。舐めやがって……!」
「お望み通り、出迎えてやる……!」
少し傲慢な発言をしたが、むしろこれくらいが丁度良い。こう言う者達は見て分かる挑発に乗りやすいからな。このまま領主に気付かれない範囲で暴れるか?
そんな事を考えているうちに他の門番も集まってきた。集まるまで仕掛けて来ないなんてな。見た目と口調の割には臆病らしい。いや、仲間の一人がやられたんだから待機しているのも普通か。
「こりゃ暴れるより、逃げた方が賢明だな!」
「な、テメェ! 待ちやがれ!」
まあそんな性格だったので暴れる必要はなかった。一人をのした事で少なくとも見張り役は全員集まってきたし、このまま逃げてこの家から引き離すのが先決だ。
なのでわざとらしく声を上げ、俺の後を追わせる。これで俺の役目は終了だな。
「ひぃ。逃っげろー!」
「ふざけやがって……!」
「逃がすな! 追えーッ!」
そのまま見張り役達がギリギリ追い付けない速度で逃走。タイミングを見計らい、物陰に隠れる。……さて、“俺達”は大丈夫かな?
「──……。上手くいったみたいですね」
「ああ、その様だな。単純な相手で良かった」
「まあ、フィクションの世界の見張り役って言うのは腕っぷしだけの存在だからな。現実のSPになるには色々な条件が必要だけど、フィクションの世界はそんなもんだ」
俺は俺──分裂によって囮役にした自分を見届け、近くの影からユメ、ソフィア、ミハクと共に領主の屋敷へと侵入する。
今回の作戦はこれ。屋敷内へと入る為に、自分の分身を使って陽動したのだ。“分裂”は俺達ギルドメンバーの特権だからな。
「──さて、俺の役目はこれで本当に終わり。結構簡単な役割だったな。武器を使う必要も無かった」
俺は物陰から本体達が飛び出して屋敷へと侵入するのを見届ける。そして役割を終えた分身はその場から消え去るのだった。




